幕間「静かすぎる場所」
夜。
――化猫の宿の外。
虫の音が、静かに響く。
月明かりの下。
一人、外に立つヨゾラ。
「……」
空を見上げる。
星が、やけに綺麗だった。
「やっぱり、ここにいたのね」
後ろから優しい声。
振り向く。
そこにいるのは――
ミラジェーン・ストラウス
「……ミラか」
ヨゾラが軽く頷く。
「眠れないの?」
「……まあな」
「ふふ、私も」
隣に並ぶ。
少しの沈黙。
風が、ゆっくり流れる。
「……どう思う?」
ヨゾラが呟く。
「ここ」
ミラジェーンは、少しだけ目を細める。
「そうね」
軽く息を吐く。
「違和感、あるわね」
「……やっぱりか」
ヨゾラが頷く。
「何が変だと思う?」
ミラジェーンが聞く。
ヨゾラは、少しだけ考えてから――
「……気配が少ない」
「ええ」
ミラジェーンも同意する。
「人はいるのに、“生活の音”が薄いの」
「……」
「料理の音、足音、気配」
指折り数える。
「全部、少しずつズレてる」
「……俺も同じこと感じてた」
ヨゾラが言う。
「まるで――」
少しだけ間。
「“形だけ”みたいだ」
その言葉に。
ミラジェーンは、わずかに目を細める。
「鋭いわね」
「……経験だ」
「そう」
少しだけ優しく笑う。
「それとね」
ミラジェーンが続ける。
「ウェンディ」
ヨゾラの目が動く。
「……ああ」
「気づいてるでしょ?」
「……浮いてる」
「ええ」
頷く。
「このギルドの中で、一番“現実にいる”感じがする」
「……」
ヨゾラは黙る。
その言葉は、妙にしっくりきた。
「他の人たちは?」
「……ぼやけてる」
「そう」
ミラジェーンが小さく頷く。
「まるで――」
少しだけ言葉を選ぶ。
「記憶みたい」
静寂。
風が止まる。
「……記憶」
ヨゾラが呟く。
その瞬間。
頭の奥に、何かが引っかかる。
「……っ」
「ヨゾラ?」
ミラジェーンが顔を覗き込む。
「……いや」
軽く頭を振る。
「なんでもない」
「……そう?」
少し心配そうに見る。
「無理しないでね」
「……ああ」
短く返す。
少しの沈黙。
「でも」
ミラジェーンが言う。
「悪い感じはしないのよね」
「……ああ」
ヨゾラも頷く。
「敵意はない」
「ええ」
「むしろ――」
少しだけ空を見る。
「優しい」
「……そうね」
ミラジェーンも同じように空を見上げる。
「優しすぎるくらい」
その言葉。
どこか、寂しさを含んでいた。
「……どうする」
ヨゾラが聞く。
「明日、出るか?」
ミラジェーンは少し考える。
そして――
「いいえ」
首を横に振る。
「もう少しだけ、いましょう」
「……理由は?」
「確かめたいの」
優しく言う。
「この違和感の正体」
「……」
ヨゾラは、少しだけ目を細める。
そして――
「……わかった」
頷く。
「付き合う」
「ありがとう」
ミラジェーンが微笑む。
その時。
風が吹く。
どこか遠くから――
かすかな声。
「……」
ヨゾラが振り向く。
「今、何か――」
「聞こえた?」
ミラジェーンも同じ方向を見る。
でも――
そこには何もない。
静寂だけ。
「……気のせいか」
ヨゾラが呟く。
「……かもしれないわね」
ミラジェーンも言う。
でも――
二人とも、確信していた。
ここには、何かがある。
優しくて。
どこか、切ない“何か”が。
星が、静かに瞬いていた。
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ルーシィ
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