幕間「呼び方の距離」
夕方のギルド。
騒ぎ疲れたのか、珍しく少しだけ静かだった。
あたしはカウンター席でジュースを飲みながら、ふと横を見る。
「……ねえ、ヨゾラ」
「はい、ルーシィ」
即答。
でも――
「それよ」
「?」
ヨゾラが首をかしげる。
あたしはじっと睨む。
「“はい”とか、“です”とか、“ます”とか」
「……問題がありますか?」
「ありまくりよ」
はっきり言い切る。
ヨゾラは少しだけ困った顔をした。
「しかし、護衛としては適切な――」
「ここギルドだから」
「……」
「主従関係とかいらないの。仲間でしょ?」
その言葉に、ヨゾラの瞳がわずかに揺れる。
「……仲間」
小さく繰り返す。
あたしは少しだけ身を乗り出す。
「そう。だから敬語禁止」
「……難しいな」
「努力じゃなくてやるの!」
「……やる」
ちょっとだけ間があってからの返答。
あたしは思わず笑う。
「ぎこちないわね」
「仕方ないだろ」
その一言に、あたしは一瞬固まった。
「……今の」
「ん?」
「今のいいじゃない」
「……そうか?」
「うん。全然そっちの方がいい」
ヨゾラは少しだけ視線を逸らす。
珍しい。
「……慣れないな」
「そのうち慣れるわよ」
あたしは肩をすくめる。
「っていうかさ」
「ん?」
「ずっと思ってたんだけど」
ヨゾラを見る。
銀髪が夕日に染まって、少しだけ柔らかく見える。
「なんであたしのこと、そこまで守るの?」
ヨゾラは少しだけ黙った。
いつもなら即答するのに。
「……約束、だから」
「約束?」
「……たぶん」
「たぶん!?」
あたしは思わずツッコむ。
「記憶ないのに!?」
「でも、残ってる」
ヨゾラは自分の胸に手を当てる。
「ここに、“守れ”っていう感覚が」
その言葉に、あたしは少しだけ黙る。
「……誰との約束よ」
「わからない」
「ほんと謎ね、あんた」
「よく言われる」
ちょっとだけ笑うヨゾラ。
……その顔、初めてちゃんと見たかも。
「……でもさ」
あたしは視線を逸らしながら言う。
「もう“命令”じゃないからね」
「ん?」
「守るのも、ついてくるのも」
少しだけ間を置く。
「……あんたの自由だから」
ヨゾラは、じっとあたしを見た。
その瞳が、ほんの少しだけ優しくなる。
「……じゃあ、選ぶ」
「なにを?」
「お前を守る」
ドクン、と胸が鳴った。
「……なにそれ」
「ダメか?」
「ダメじゃないけど……」
あたしは顔を逸らす。
ちょっと熱い。
「……ズルい言い方するわね」
「そうか?」
「そうよ」
少しの沈黙。
でも、嫌じゃない。
むしろ――心地いい。
「……ルーシィ」
「なに?」
「これでいいか?」
「え?」
「呼び方とか、話し方とか」
あたしは、少しだけ笑う。
「……うん」
そして、まっすぐ答えた。
「それでいい」
ヨゾラも、小さく頷く。
夕日が沈んでいく。
ギルドの喧騒が、また少しずつ戻ってくる。
でも――
あたし達の距離は、確実に変わっていた。
主従じゃない。
護衛でもない。
「仲間、ね」
小さく呟く。
その言葉が、少しだけ嬉しかった。
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