スズキサトルの日常   作:ふじら

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第2話 モモンという名の鈴木悟

「……誰かしら?あの御人は」

 

姉様が連れていた男性、また面倒事かしら?

法国の人間?あの装備は何?

どうみても魔法詠唱者…でも魔力を感じない。

そんなことあるのかしら。

 

ケラルト・カストディオ。レメディオスの妹。

聖王女についで聖王国の実質的権力者であり政において傑物と評される人物、さらには第五位階魔法の死者復活を行使できる程に神官としての技量があり聖王国の有名人と聞かれれば名があがるうちの1人だろう。

 

「パベルさん。貴方は何か聞いている?」

 

天幕の後ろに隠れていた九色が1人。パベル・バラハにケラルトは確認する。

黒い帽子に黒い服、装備された弓。そして何よりその眼光は凶眼の射手と異名がつく程鋭い。

 

「……なにも聞いていませんが」

 

九色の黒パベルは首を横に振ると、その凶眼で小さくなるレメディオス達の背中を見た。

 

「グスターボは…やめておいた方がよさそうかしら。姉様から直接聞くしかないわね」

 

「でしょう。」

 

二人はレメディオスの普段の行いからグスターボやイサンドロが面倒事を押し付けられているだろうと察した。

それ程までにレメディオスへの普段の行いが顕著なのだ、二人は少しだけ項垂れた。

 

「そういえばパベルさんの娘さんは最近どうなのかしら?聖騎士になるのでしょう?」

 

ふとケラルトはパベルに娘の話を振る。

彼女としては何気ない世間話だったのだが、パベルにとってはそうではないようで……

 

「っ……いやはやその事なのですがネイアは騎士より私に似て弓術の方に才があると見ているのです、しかし何度言っても拒絶される毎日で私はとても辛い、なによりネイアには亜人との戦いで前線に出て欲しくないのです、このまま騎士となり前線に出ては私より先に死ぬのかも知れないのですよ、そんなこと認められますか。いいえ、認められません。それはネイアを思ってのことなのです、今からでも遅くはありませんぜひ聖騎士団に並ぶ弓兵部隊を新設させそちらにネイアを入団させるべきです、そうすればネイ……」

 

「パベルさん?」

 

余りの勢いに圧倒されたケラルトは途中で止めに入る。

 

周囲からパベルが娘を溺愛しているとは聞いていたが流石にこんな一方的になってしまうほどとは思っていなかった。

 

「……申し訳ない!このような…」

 

恥ずかしそうに帽子を深く被り直すパベル。

 

「大丈夫よ、それで……新設部隊ね。これは検討したい所だけど」

 

「おおっ!?」

 

「前線の人員が不足している今は不可能ね」

 

「……そうですか」

 

「申し訳ないけれど力にはなれそうに無いわね。新設部隊を作るにはせめて南部を封じ込めて人員を抽出させるか、亜人種に大打撃を与えて侵攻が治まっている間に既存戦力から出すかしかないもの」

 

「…申し訳ない」

 

「そう落ち込まないでください、黒の貴方らしくありません。この件はカルカ様に報告しておきます、理由はどうであれ九色から出た貴重な意見ですから」

 

「かたじけないケラルト殿」

 

パベルはケラルトに頭を下げた。

 

「そう頭を下げないで。所でパベルさんは今夜の作戦会議に参加されるかしら?」

 

「私は警戒任務がありますので」

 

「そうですか、であればこれからはそちらの都合が良い時に参加してください。」

 

「なにか…あるのですか?」

 

「先程の魔法詠唱者への今後の対策があるでしょうから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが私の部屋だ。前線拠点で仮の宿だが比較的綺麗でマシだ。ここなら体が弱っても病気の恐れはあまりないだろう」

 

前線拠点の団長宿舎につくとレメディオスは扉をあける。

 

そこにはこの世界では比較的豪華であろうベッドと枕、テーブルに椅子が置かれ壁には一振の剣が飾られていた。

 

「どうだ?過ごせそうか?」

 

「え、えーと。自分はここで寝泊まりするんですか?」

 

その発言に一通り部屋を見渡した後、モモンは尋ねる。

 

「そうだが……なにか不満か?」

 

「ベッドが1つしかないんですけど」

 

ベッドが1つ、それは男女二人所か男二人でも問題しかない。

 

基本的に事案でありサラリーマンであった鈴木悟としてもそんな展開を経験したことがない。

営業の為ホテルで一泊するハズが一部屋しか取れておらず1つのベッドを前に男女がそういう雰囲気に流されていくというもの。

それにモモンはあるやり取りを思い出した。

 

ペロロンチーノ「サラリーマンってそういうことないんですか!?普通あるんじゃ…」

ぶくぶく茶釜「ある訳ないだろ、純粋なモモンガさんになんちゅうこと聞いてるんだ愚弟」

 

いや今目の前で起きそうなんですけど!?

モモンは脳内の姉弟に叫ぶ、正直後者のスライムには解決策を聞きたいところだ。

 

そしてそんなバードマンが期待するムフフな展開は……

 

「??なんだそんなことか。それならばお前が寝るといい。私は床で寝る」

 

起きなかった。

 

いやそれはそれでおかしいだろ!!なんで俺がベッドで優雅に寝て、本来の持ち主の団長さんが床で寝るんだ!しかも薄い布1枚だぞ床!痛いだろ!!

 

「そ、それは団長さんに申し訳ないです!団長さんこそベッドで寝てください!」

 

モモンはレメディオスを説得しようとするがレメディオスもレメディオスで譲るわけには行かなかった。

なんてったってカルマ値200。

 

「お前は私が保護しているんだ、言うことを聞け。お前を床に寝させて体を悪くさせたらどうする?それと私は大丈夫だ、普段の野営で慣れているからな。座りながら寝る事など容易いぞ、凄いだろう」

 

「いやいやいや、どうか団長さんが…それに女性のベッドに男が寝るとか普通ありえないのでは……」

 

「??なんだそんなことを気にしているのか気にするな。私は気にしないからな。そういうのはケラルト相手にするといい」

 

レメディオスは慣れた手つきでベッドメイクをし始める。

 

「ええ!?どんだけお人好しなんですか!?」

 

「むぅ……細かいな貴様は」

 

「細かいとかじゃないですよ!これは……その…倫理的な話で」

 

モモンはタジタジになり、顔を真っ赤に染めてレメディオスに訴えた。

するとレメディオスは何か思いついたのかベッドメイクを途中でやめてモモンに向き直る。

 

「分かった!お前は私にベッドで寝て欲しい!そうだな?」

 

「はいそうです」

 

「そして私はお前にベッドで寝て欲しい!つまりだ!」

 

「……?」

 

「二人で寝ればいいだろう!」

 

「はい!?」

 

「これで解決だ!いいな!?解決したことを後から色々言われても私は知らないからな、もう何も言うなよ!」

 

ベッドメイクを再開するレメディオス。

 

「……」

 

なに、男女が同じベッドで寝るのってこんな流れ作業みたく決まるんですか?え?ムードとかあるんじゃないんですか!!俺初めてなんですよ!!こういうの!!!

 

ウルベルト「くたばれギルマス」

 

たっち「不同意ではないので大丈夫……いえモモンガさんが同意していないのなら不同意になる……これは」

 

ペロロン「GoGo!いけいけ行くんだギルマス!今夜は麻痺でくっ殺展開を作りましょう!」

 

タブラ「そういえばギルマスはアンデッドキャラのはずですけど今は人ですしモノがついているんですか?」

 

 

……ダメだ俺の問いにマトモに答えてくれるのがたっちさんしかいない。

 

ああ、すいませんたっちさん。

さっきは一時の感情で当たってしまって……。

 

「では私はもう行く、ケラルトに事情を説明せねば怒られるからな」

 

レメディオスはベッドメイクを終えると部屋を出ていこうとした、それに対しモモンは待ったをかける。

 

「?なにかあったか?」

 

「……自分は…この後どうすれば良いですか?」

 

モモンとしては部屋で何をしてればいいのか分からないので不安で仕方なかった。

 

本とかないしな…それにこの世界の文字が日本語なのかも怪しいし。というか女性の部屋を物色するのも大概だもんな。

なにかやれる事があればいいんだけど。

 

「この後は食事が来るはずだ、それを食べるといい。何事も腹を満たさねばならんからな」

 

……いまなんて言った?

食事……?食事ですか?食事ってご飯を食べるってことですよね!?

 

モモンは一気にテンションがぶち上がる。ディストピア生活を強要されてきた彼にとってマトモなご飯というのは何よりも欲していたものだったのだ。

目覚めたら異世界にいて、変わった聖騎士の団長に連れてこられ、女性の部屋で過ごすことになり、挙句の果てには仲睦まじくベッド・イン展開が確定している。

その展開に精神的負荷が大きかったモモン。

そんな彼の中で最も幸福たる行為、食事が待ち受けているのだ、この世界は緑もあるし人がみんな健康そうな顔立ちをしている。その事から元の世界よりも充実したご飯で天然物が使われていることは明白。

 

 

 

モモンは感情が最高潮に高まった。

 

「あり!がとう!ござい!ます!!!!!」

 

モモンは無意識で文節を無理やり作りポーズを決め込んでいく。

 

「どうした、急に笑顔になって……感情の起伏が激しいやつだな」

 

流石のレメディオスも突如行われたモモンの奇行に少し困惑した。

 

「いいえ!なんでもありますぇっん!」

 

本人はかっこいいと思っているのかビシッ!と言わんばかりの敬礼を決め込むモモン。

 

 

今の喋り方…おかしくないか?なんだすぇっん!って。

あのレメディオスも少々困惑、モモンの圧に負けていた。

 

「まぁいい。たんと食べるんだぞ」

 

普通であれば冷めた目で見たり、素っ気ない態度を取ってしまうだろうモモンの行為。

だがレメディオスはなんてったってカルマ値200。

普通に(こいつが元気そうなら良いか!!)と思いつつ優しく言葉をかけた。

 

「はいっ!団長っ!さんっ!」

 

「では行ってくる」

 

「行ってらっしゃいませぇんっ!団長すぁっん!」

 

この時モモンは本当に無意識であり、羞恥心などと言った感情はいつの間にか捨て去っていた。

この時までのモモンは無敵であった。

 

そうこの時まで。

 

 

問題はレメディオスが扉を閉めて退出していった直後に起こる。

 

おお!父上!素晴らしい動きです!!この〜〜〜!感銘を受けました!!

 

モモンには謎の言葉が脳内に響き渡ったのだ。

 

誰かは分からない、誰かは分からないが……

 

その言葉のせいかお陰か、モモンは我を取り戻してしまった。

 

ああ!!!恥ずかしぃいい!!やめて!!忘れて!!!忘れさせて!!キャー!!!なにやってる!!おれぇえ!!!

いやぁぁぁあああ!!

 

結果、羞恥心が爆発した男が女性のベッドの上で無我夢中で転がることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

モモンがベッドの上で転げ回っている一方、レメディオスは扉の前で立ち止まっていた。

 

「…なんだあの身振り手振りは」

 

モモンがあまりの喜びに発露した厨二病。

その光景を思い出しながらレメディオスは顔をしかめていた。

 

 

これには流石のレメディオスもモモンの動きに、引く

 

「かっこいいな真似してみるか」

 

ことは勿論ない。

 

そこから1週間レメディオスはケラルトやカルカと会話する度にオーバーアクションをしていたというのはまた別の話……

 

「姉様さっきの殿方は?」

 

「ああ!拾ってっ!きた!んだ!」

 

ではなかった。

レメディオスは先程モモンが行っていた動きを武技の如く繰り出していた。

 

「……姉様?」

 

「拾って?……なにをしてるんだ一体」

 

ケラルトとパベルはレメディオスの奇行を一旦無視し、魔法詠唱者について問いただすことを優先する。

 

「記憶喪失!らしくて!な!さっきの!巡回警備で!外れの!丘に!寝転んで!いたんだ!あまりの!不審者!ぶり!だから!な!しばらく!は!目の届く!所に!いさせた!方が!いいだろう!」

 

自信げに次々と繰り出さられる奇妙なポーズ。

 

「そうか、あの丘か。八本指……ではなさそうだが」

 

パベルは丘について理解していた。

モモンがいた丘は一部では有名な場所である。

基本的には観光スポットとしてその丘から見える絶景と花畑が人気で亜人種達が今よりも遥かに聖王国へ進出していない時期は子供達の遊び場になっていたのだが一方で、犯罪組織八本指が女児を攫う恰好の場所となっていたのだ。

その事から聖王国からはリ・エスティーゼ王国に抗議文を送っているのだが途中で貴族や第一王子に毎度揉み消され国王のもとにはその抗議文は届いていない。

 

そのためケラルトを始めとする聖王国政府の人間にとってそこは問題の丘として認識されているのだ。

 

「そうね、振る舞いが普通の人でしたから」

 

教養の高い彼女はその人の振る舞い次第で身分を大体把握できる。つまりケラルトはモモンを一瞬にして一般人と見抜いていたのだ。

 

 

「そう!だろう!な!裏社会!の!人間にして!は!良い目!を!していた!普通!の!人間!では!ある!だろう!」

 

「そう、ではあの服装は?尋常じゃない数と質のマジックアイテムだらけで頭が痛くなるのだけど」

 

ケラルトが見たのは、おびただしい数のマジックアイテム。手には見るからに国宝級であろう指輪が沢山はめられていた。

漆黒のローブも国宝級かそれ以上か、もしかすると世界最高峰の逸品なのかもしれないと思うほどに彼の装備は異常だ。

 

「さあな!私も!知らん!私が!聞きたい!」

 

ポーズにアレンジを加え始めたレメディオス。

 

「それなら聞いてきてくれる?その装備とマジックアイテムについて」

 

ケラルトとしては先に交流をしている姉にモモンから情報を引き出して欲しいのだ。

ここで自分が行けば身構えられる、そうすれば彼の中で情報整理が始まり、嘘と真実が入り交じった信憑性の低い情報しか引き出すことができない。

特にケラルトは既にモモンが今後の聖王国、周辺国に大きな影響力をもたらすことを予想していた。

その為出来るだけ聖王国が対処行動に移れるだけの材料が欲しいのだ。

ケラルトはその頭脳と黒い腹(周りが言ってるだけ)をフル活用し話を進めていく。

 

「私が!か!?私!は!マジッ!ク!アイ!テム!に!ついて!よく!知らない!ぞ!!」

 

もはやどうやっているのか分からないポーズを繰り出してくるレメディオス。

 

姉様そんな体柔らかかったかしら。

 

はあ……なんで私ばっかりこう気を引き締めなきゃならないの。

 

先の瞬間まで色々考えていたケラルト……

 

「……そう。なら私が聞いてくるわね、彼は今どこにいるのかしら?」

 

せっかく考えていたことを捨てて自暴自棄になり始めた。

どれだけ考えても目から入ってくる情報の方が頭を支配するのだ、ケラルトはもう耐え切れそうにないかも。無視できそうにないかも。

 

彼女は頭痛に苦しみ始めた。

 

 

 

 

いたい……いたい。もう問題は山積みなのにどうしてこう…さらに問題が降ってくるのよ。

 

「私!の!部屋!だ!!しかし!今は!食事!を!!とら!せ!て!いる!」

 

「それなら時間を置いてから行った方が良さそうね、食事の手配を任せたのは誰?」

 

姉様のことよ、副団長のどちらかに任せているのでしょう?

 

と予想し尋ねた。

 

「グ!ス!ター!ボ!だ!!」

 

やっぱり。

 

「…………それなら彼に聞いてタイミングを伺いましょう。」

 

「そう!か!!」

 

さて、あの魔法詠唱者の処遇はこれから私がどれだけ情報を引き出せるかで決まるわね。

法国や南方。もしかすると別大陸かもしれない。

骨が折れるわね……。

 

ケラルトは頭を悩ませ額に手を当てる。

 

そして横で半ば空気になっていたパベル(最初の段階で意図的に気配を消して関わらないようにしていたパベル)にケラルトは質問を投げかけた。その質問とはなにか。

 

「……パベルさん?」

 

「はい」

 

「これは呪いか何かかしら?」

 

さっきから目の前で変な動きをしている姉についてである。

突っ込まざるを得ない。もう耐えられない

これは呪いかもしれないと思えるほどにずっとポーズを決め込んでくるのだ。

ケラルトとしては悩むほどではない悩みの種ができたのだからパベルに逃げ道を求めるのは極自然な流れであった。

 

「…ある意味そうかと」

 

パベルもパベルで、今更ながら悩むほどのことでは無いが目の前でこのようなことをされると嫌でも問題視せざるを得ない、ある意味頭がレメディオスなのはレメディオスである以上仕方の無いこと。これはそういう永遠の呪いなのだろうと結論づけパベル・バラハは適当に返答する。

 

ケラルトはパベルの返答を聞くと目を細め、

 

「…はぁ」

 

深いため息をついたのだった。

 

 

 

 

 

レメディオスとケラルトは話を終えた後、二人でグスターボに食事の確認をしに補給所へ向かったが居なかった為、補給担当の騎士に居場所を尋ねる。

するとグスターボはモモンに食事を提供し、そのままその場で監視の意味も兼ねて同席しているとのこと。

 

二人が部屋に向かうと丁度モモンが食べ終えた食器をお盆に載せて部屋から出るグスターボが目に入った。

そしてそのまま入れ替わる形でまずはレメディオスが入室し、ケラルトは部屋前で待機、グスターボに状態を聞いていた。

 

 

「どう?彼は?なにか気になることはあった?」

 

「いえ特にはありませんが……」

 

「?…なにかしら何でも良いわよ。細かいことでも」

 

「彼は、泣いておりました。ひと口ひと口、口へ運ぶ度に美味しいと言いながら涙を浮かべていました」

 

「そう、それは重要なことね。ありがとう、話してくれて」

 

「いえ。構いませんが……これが重要なのですか?」

 

「ええ。とてもね」

 

食事をして泣いていた?

メニューを見ても至って普通のはずよ、なのに?

 

グスターボが出したのは聖王国では一般的、それどころか軍用なので少し雑に調理されている。

 

それが、それを食べて泣いている?

食事をして泣くなんて……貧困層か何か?

服装をみるに法国のような大国に住んでいたと見れるのに…マトモに食事ができない身分だったの?その格好で?

 

彼女の中では謎が謎を呼び混乱が広がっていた。

 

 

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