「どうだ?少しは落ち着けたか?」
「ええ、ありがとうございます。……ここは素晴らしい国ですね、自然があって食べ物もあって人もいる。しかもみんな健康そうですし、ほんとうに良い国ですね」
いいよな〜、ほんと感動ものだよ!実物の自然があって!空が見えてる!青くて、白くて!みんな健康そうな顔立ちというか、健康だとこういう顔になるんだって思わされる!
ご飯も美味しかった!ヨーロッパっぽいのかなと思ったら意外と日本人好みの味付けで良いし!
思わず涙が出て、一緒にいてくれたグスターボ?さんに迷惑かけたのが申し訳ないけど。
モモンは生の素晴らしさを実感し心が満たされる。
今まではスモッグがかかりいつまでも暗い空の下、合成食やサプリを摂取して重労働を行ってきたのだ。
そんなディストピア日本を過ごしてきたモモンにとってこの国は理想であり提供された食事は幸福なのだ。
モモンは胸の前に手を合わせながらニコニコと輝かんばかりの笑顔をレメディオスに向けた。
一方レメディオスはというと、
「む、それでは…貴様は………」
亡国のモノなのか?南方か?東方か?
……むずかしいことはわからん。だがこいつは故郷を失ったのだろう。自然もなく、民が貧困、我々が想像もつかない最期なのだろう。妹が言うにはすでに竜王国がそれに近しいらしいが……こいつの母国は一層酷かったらしい。
頭がレメディオスでも彼女は彼女なりに考えていた。
結果として彼女の中でモモンは、モンスターに侵略された国家の難民でその悲劇からショックで記憶喪失になり紆余曲折、この国に流れ着いた男という認識になった。
レメディオスにとって、このローブル聖王国は誇りだ。何よりも代えがたい、素晴らしい国だ。
カルカ・べサーレスの下で敷かれた良い国。
その国を目の前の男は素晴らしい国と言ったのだ、これは過去がどうであれ非常に見込みがある。
今や亜人種の度重なる侵攻で北部に住む国民の殆どは敗戦ムードなのだ。
聖騎士団も皆が亜人種に支配される未来が近いと悟り、士気は低下していく。
この国を素晴らしいと評価し、謎の装備をしている
非常に価値がある。
そしてレメディオスは思いつく。
これはいい案だ。
「よし貴様!我が隊に入れ!」
こいつを勧誘、いや強制入隊させる。
人類国家がそこまで衰退するのは亜人種や異形種によることではあるのは明白だ。
であればローブルの聖騎士たる私が見捨てる訳にはいかん。
遥か遠くの地にて消えた人類国家の遺志をもつ者が目の前にいるのだ。
ここで保護せずして、かの国に無礼だろう。
レメディオスは勝手に想像し勝手に決めつけ、行動に移していく。
一方当人のモモン、亜人種(富裕層)に支配され苦しめられた難民(国民)は笑顔から困惑の表情へと一気に変わっていた。
「え?」
え?わがたい?わがたいっていうのは……どういうこと?
たいっていうのは隊だよな?なんで?俺一般人だけど!?
サラリーマンで軍人の経験ないよッ!?
またまた急展開すぎるだろっ!?
彼が困惑した表情で戸惑っているとレメディオスは圧をかけて近寄ってくる。
「聞こえなかったのか?我が騎士団に来いと言っている」
「え、えええええ!!???」
扉の前で待機していたケラルトが溜息をついていた。
はぁ……私の出番は?何をしているの姉様。
先の手筈ではレメディオスがモモンと談笑したあと、流れでケラルトを紹介するはずであった。
あーーーーーーー、どうするのよこれ。
姉様は…確かに団長である以上入団させる権限はあるけれどそんな勝手に……。
そうよね、姉様はそういう人よね。
はあ……騎士団ねぇ。
最低でも魔法支援の部隊でしょう。
騎士団で
神官団でどうにか隠匿しておくしか…。
ここは私が手配しておくしかない。
「まずはイサンドロに連絡を…」
そこからあれよあれよと話が進み、宣誓書まで書いてしまったモモン。
今は部屋に戻り椅子に腰をかけると窓の外を見つめている。
本当に全てが急展開で追いつけないモモンは、少しでも気を休めようと心を楽にして、今後の展望も含めた様々なことを考え始める。
宣誓書、書いちゃったよ。
やっぱりこの世界は日本語と違ってて文字がさっぱりだった。
結果、文字がわからなくて困っていた俺をイサンドロ?さんが対応してくれたけど、あの人からは「ご愁傷さまです」とだけ耳打ちされたし……。
なにこの状況。俺兵士になるとしても
一応団長さんにそこは言ってみたんだが、
「お前ならできる!!男だろう!やってみせろ!」
とだけ返されて……。
ホント俺もそろそろ堂々としなきゃ、いつか身を滅ぼしそうだ。
少し切り替えていかないと……。
取り敢えず騎士としてやっていけるならこの世界で変な目にあうことはないだろうから良いけど。
いや既に変な目にあってはいるんだよなぁ。
できればここで雇用されるよりもっと自由に旅人みたいなことをしたいんだけど……でもまずは安定した職の方が優先か。
給料も結構貰えそうだしな、それを貯めていつか旅に出ようそうしよう。
「でも騎士かぁ、騎士。今までのロールプレイとは一味違うなぁ」
そんなの俺に似合うのかな。
モモンは不安になる、如何せん武道はもちろん習っていないし、運動も得意な方ではなかった。
それは元よりディストピア日本には運動ができる環境が用意されていなかったのが理由の一つでもあったのだが。
騎士っていったら…
モモンはふと純白の騎士、たっち・みーの姿が思い浮かべた。
自分がユグドラシルを続けるきっかけになった人物。
自分が心の底から尊敬し、憧れていた人物。
ナインズ・オウン・ゴールのリーダー。
「誰かが困っていたら!助けるのは、当たり前!!」
真似事でも……いいよな。
モモンは少し苦しい感情を抱いていた。
今からやろうとしているのは本来の自分ではない。
ユグドラシルでは魔王としてロールプレイをしていたが、ここは現実だ。
敵の強さも分からないし、見誤ったり、凡ミスをすれば自分は死ぬ。
それがこの先、ロールプレイという虚栄心を元に作り出した虚構でやっていけるのか。
モモンは悩んだ。
しかし彼は決心することにした。
彼には前の世界に悔いがない、今から始まるのは一からの人生なのだ。
モモンは決める、これからは最大限楽しむと。
1人でも十分楽しめる、それが人生だと。
今からプレイする新しいゲームだと。
よし!!やろう!!!俺はこの世界でやっていくんだ!!
モモンは今日この日、ユグドラシルプレイヤーの魔王モモンガから1人の人間。鈴木悟としてこの世界を謳歌することを決めた。
聖騎士って装備とかどうするんだ?
やっぱり配られるのかな?
……でも強いのは望めないよな普通は最低でも聖遺物級が欲しいんだけど。
モモンは周りの騎士達をよく観察していた。
特にレメディオスは団長という身分でありながら推定レベル20後半から30前後。
そう予想している。
一般的な騎士は高くても20に満たないぐらいで基本的に2~7位。ユグドラシル基準で考えると大分イージーである。
そうなると、俺は
うーん。けどまだこの世界の魔法がどれくらいのものか分からないしなぁ。
騎士達でああなると実はこの世界、魔法あんまり流行ってないんじゃないか?
モンスターを撃退したりダンジョンを攻略するとなると1番大切なのがこの戦士系、前衛職だ。
それが推測する限り全員低レベルなのだ。
その上装備も貧弱で武器や防具はもちろん、戦闘で肝となる指輪も皆嵌めていない。
大体前衛職は魔法を覚えられない分、耐性やスキル発動を指輪で補っている。それがないのだ。
そうともなれば
まあ!配給されたらそれを装備すればいい!
それまでは少しの間でも危険性を排除する為に俺は俺で装備を用意するか!
もし魔法が必要になっても
今世を謳歌すると決めた鈴木悟は、普段なら注意深く考えるところを考えず楽観的に物事を進めることにした。
そう悩みを吹っ飛ばして気楽に事を構え始めたモモン。
よし!今から頑張るぞ!!目指せたっち・みー!
椅子から腰を上げ、天に拳を掲げる。
その時、部屋の扉がノックされた。
この瞬間から始まる俺の騎士道!そんな感情の境地にいたモモンは突然のノックにビビり散らかした。
うぇ!危ない危ない!誰かに変なところ見られる所だったよ!
モモンは相手が入室してくるのを立って待っているが、その人が入ってくる素振りはない。
あ、俺が返答しなきゃダメなのか?
俺今平社員も平社員だからさ、全員上司だしこういうのは俺に構わずノックしながら入ってくるものだと思ってたぞ…!
「どうぞ」
内心慌ただしくどう返せばいいか悩んで絞り出した3文字、それをハッキリと扉の向こう側にいる人物へ送った。
「失礼致します」
扉を開き、入室してきたのは美しく麗らかな神官ケラルト・カストディオであった。
モモンは呆気にとられる、ケラルトのあまりの美貌に童貞丸出しのモモンは傍から見たらみっともない顔をしているだろう。
確かに先程までやんやと騒がしくしていたレメディオスはかなりの美人であった。
しかし目の前の女性は、そんなレメディオスと瓜二つながらも明らかに系統が違うのだ。
醸し出すオーラ、雰囲気が違う。
確かにこの拠点に到着してすぐ、レメディオスを通じて顔は知っていた。
しかしその時はその時、モモンは名前を覚えるのと同時に流し目、少し遠目でみていたのでそこまでマジマジと見ていなかったのだ。
その為改めて顔を合わせるとなるとあまりの美しさに圧倒され、モモンは言葉を失っていた。
ペロロン「さっきのはくっ殺脳筋の美人でしたけど、こっちは文学系で束縛強そうな美人さんですね。ルート間違えると刺されますよこれ」
ぶくぶく茶釜「お前は現実の人までそれに例えんのか」
脳内ペロロンからの忠告がモモンの頭に響く。
いやいや、ルート云々の前に俺がこんな美人とそんな事になるわけない!!だから刺される心配なんて無いですよペロロンさん!
「あら?どうかされまして?」
「い、いえ。そのお綺麗だなと思いまして…」
「ふふっ、冗談を。意外と見た目に寄らず積極的ですのね」
「あ、すいません!そういう意図はなかったんです!」
「大丈夫ですよ、貴方の性格はお姉様レメディオス・カストディオから聞いています」
「私はレメディオス・カストディオの妹のケラルト・カストディオです。以後お見知りおきを」
うわぁ、気品が凄ぃいい!
これは誰がなんと言おうと良いとこのお嬢様だよ!
なにその、振る舞い!所作?一つ一つゆっくり丁寧で……口調も何だか落ち着くし…これが淑女?なのか?
ギルドに女性は三人いたけど系統が違いすぎr
「モモンガお兄ちゃん?それ以上はやめようか?」
「やっちゃう?やっちゃう?今なら出せるよ私の全力」
「はぁーーまるで私達が淑女じゃないみたいな!お茶会もしてたし実質淑女でしょ私達!」
やめよう。ごめんなさい、俺が悪かったです。
そうですよね、そういう風に比べたりしちゃダメですよね。
それぞれの良さがあるというか。みんな違ってみんな良いというか。
「それ私達が淑女ではないってことを確定事項にしてるよね?」
……もう何も考えないでおこう。
「……本題に入っても?」
「あっ……すいません!お願いします!」
やばいバレた。見惚れてたのがバレた……。
そうだよな、俺ケラルトさんの自己紹介から何も返してないもん。どう考えても気持ち悪い男だよ俺!最悪だぁ!印象最悪だぁ!!
「それでは……まずこの度の件心中お察し致しますわ」
「え?……ああ入団のことですね」
「はい。急な事でしたので戸惑いも大きかったでしょう、それにお姉様のことです。あまり説明等もなかったと思います」
「いえいえ、構いません。私としては流浪の自分に居場所を下さっただけでも感謝したいです」
「そう感じて下さると幸いです。……では単刀直入に聞きます。貴方は何者ですか?」
「はい?」
「何も隠さなくて大丈夫ですよ、私は貴方に危害を加えるつもりはありません。というより、危害を与えられないと言った方が納得できますでしょうか?」
「あなたはこの国で高位の神官ではないのですか?そんな貴女がなぜ俺如きをそこまで高く評価しているのか。理解し難いですね」
「理解し難い……そうですね。私からすればその様な装備を身にまとった貴方の存在自体が信じ難い、理解し難いのですけど。そこは良しとしましょう」
「では、はい か いいえで答えて頂きたいのですが宜しいでしょうか?もちろん答えられない覚えていない内容は沈黙で構いませんわ」
ケラルトの提案にモモンは、拒否する理由がない 逆に拒否をすれば何かしら疑われてしまうだろうと判断しその提案を呑んだ。
こうして始められた問答…だったのだが。
「貴方は
「はい」
「その装備は誰かから頂いたモノですか?」
「…いいえ」
「ではその装備は貴方のモノですか?」
「はい」
「…
「はい」
「……そうですか。では魔力系の魔法が使えますか?」
「はい」
「…意外と素直ですのね」
「?……特に何も無かったので…普通の質問というか……」
「…そうですか。それなら構いません、もう終わりましょう。これ以上伺ってもこちらとしても特段必要な情報はありません」
なんだ?急に切り上げて、俺としてはまだ全然聞かれても良かったんだが。
まだ始まってほんの少しじゃないか。
はぁあああああー!!?
なにこの人!?イカれてるの!?いやお姉様が連れてきたのだからイカれてるだろうと思ったけど!!?
ふっかけて第六位階魔法を尋ねたら普通に返してくるし!!?
なに!?普通の質問って!?
しかも、その装備は自分のモノ!?見るからに国宝級じゃない!!それを自分のモノって!もう訳が分からないわよ!!!
「……他にも確認したい事があるのだけれど宜しくて?特に身構えなくても良いですよ、単なる今後の話ですので」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
「貴方は、
「ああ、やっぱりそう思いますよね」
「申し訳ありません、お姉様が半ば強制的に入団させたのにも関わらずそのような事を」
「いえいえ謝らないで下さい。自分は安定した職を貰えた事が嬉しいですし……それで、技量ですか。その件についてはご安心下さい。こちらも案がありますので」
「案?」
使ったのは取得したその日以来だけど、いけるか?
モモンは
すると漆黒の鎧に漆黒の兜、赤いマントに二振りの大剣を背負う戦士の姿にモモンは変化する。
お、できた。結構念じるだけで出来るものなんだな。
あとは着てた装備も
「色は黒いけどどうだろう、中々いいんじゃないか??」
まるで女の子のように体をくねらせたり、ほんの少しだけ軽くジャンプするモモン。
「モモン・ザ・ダークウォリアー……ふふ、中々に良い響きだっ!」
モモンはケラルトに聞こえない程度の声量でつぶやき愉悦に浸る
え?今何した?
淑女ケラルトここに在らず。
普段なら心の内でもお淑やかな口調な彼女も目の前で神の所業を見させられてはキャラ崩壊せざるを得なかった。
「え、えーっと……その格好は?」
「?…戦士化ですよ。これで
……いやいやいやいやいや。
淑女ケラルトここに在らず。
「さっ、先程まで着ていられた装備はっ!?」
「?……
どうして!?何っ!?そんな魔法があるの!?
それで見るからに国宝級一歩手前の武器と防具を
そんなのがあったら鍛冶師なんて必要ないじゃない!
経済が一瞬で破綻するわよ!
それに
こんなの使えば補給ガン無視で大陸統一できちゃうわよ!!?
ほんっっっと!何を見せられてるのよ!!
「……そうですか。素晴らしい魔法ですね、特にその……
「え?第七位階程度でしょ」
いやいやいやいやいや、程度!?て・い・ど!?
少しは加減してください!急な展開についていけません!!!
第七位階は人外の領域よ!?彼は人間じゃないって言うの!?
あーーー、どうしょう。
あーー
あー
お姉様……
ほんっっっと!とんでもないのを拾ってきてくれたわね!
モモンの魅せプに対し呆気にとられていたケラルトは頭を抱えており、しばらくだんまりを決め込むと途中で話を切り上げ退室することを決めた。
もうこれ以上は耐えられそうにない。
それがケラルトのこころの叫びであった。
しかし、突如モモンとの会話中に黙ってしまい失態を晒してしまったケラルトは彼に不審がられないように、悪印象を残さないようにと退室間際に言葉を残した。
「申し訳ありません、今日は少々体調が優れないようで。また後日お話しましょう。そう、貴方が良かったらお茶会でも招待しましょうか」
「お茶会ですか?…ありがとうございます!是非お願い致します!お身体大事にしてください! 」
「ええ、ありがとうございます」
モモンは彼女より先回りして扉を開け、彼女を見送った。
そして退室したケラルトは閉めた扉の前でへたり込んだ。
周りは誰もいない。彼女から発せられる音だけが廊下に響く。
「ふぅぅー!!ふぅっー!なにぃ……なにぃあれぇえ」
ケラルトは頭がパンクし訳が分からなくなっていた、
彼女の前で魅せられたのは第七位階魔法。
これは人間が到達していない領域の魔法である、
その手前である第六位階はバハルス帝国に仕えるフールーダという男が修得しているがそれも一部だ。戦闘に使えそうな魔法もあれば、使えない魔法もある。
そんな中、彼は第七位階魔法を程度呼びし、明らかに戦闘に用いる魔法ではない
そして
これは、彼が更に上の魔法、より多くの魔法や伝説にも残る道具を保有している理由に十分なり得る。
というかそうとしか考えられない。
それはそれは賢く、
それはそれは頭が回る
淑女ケラルトはもう限界であった。
「もう
廊下の天井を見上げて放心状態の淑女(仮)がそこにはあった。
一方モモンはというと……
うわぁああ!!!やっちまったぁあ!!!
無言で内心発狂していた。
先程まで冷静にこの世界を分析し、周辺の騎士が低レベルであることから魔法はそこまで発展していない。だから気をつけなければならないと思っていた矢先の行動であった。
あーーー!!なんで忘れてたんだよ俺!!さっきまで対策色々と考えてたじゃん!!
これはユグドラシルに十数年慣れてきた古参プレイヤー故の失念であった。
第7位階などユグドラシルではある程度時間をかければ獲得出来る。
そしてレベル100近くともなれば殆どの魔法に上位互換がある為、第7位階は高レベルプレイヤーからすれば雑魚魔法なのだ。PvPはもちろんダンジョン攻略でもあまり使わない。
今回の件はそんな彼の中に刻まれたPKプレイヤーとしての経験が失敗を招くという哀しい結果となった。
む?なんだあれは。
何か要件を終えたらしきレメディオスはモモンのいる自室の前に向かっていた。
するとそこには、扉の前で座っていた品のない妹がいた。
「ケラルト!どうした!!?」
中腰になり妹の様子を窺うレメディオス。
「
いつもは淑女然としており清楚なケラルト、それが床にへたれ込み頭を抱え、目の焦点もあってなければ、呂律が回っていないのだ。
レメディオスはこれを異常事態だと察知して、ケラルトの意識を取り戻させようと名前を呼んだ。
「ケラルト!!しっかりしろ!」
「……っ!はっ!!なに!また問題!?」
レメディオスの声になんとか意識を戻したケラルト。
「どうしたんだケラルト、具合が悪そうだぞ」
心配そうにケラルトの顔を覗き込むレメディオス。
「あ、ああ……姉様。姉様ね。」
しかし、そんなレメディオスと反対にケラルトは姉に向かって塩対応であった。
この問題が山積みの聖王国に、とんでもない爆弾を持ち込んできたのだ。
彼女としては実の姉に冷たい対応をしても可笑しくは無い。
だがケラルトもそれなりに優しい人間だ、だからと言って姉を少しでも軽蔑する訳にもいかない。
レメディオスの顔を見ながら深呼吸をして、心を落ち着かせ……
「そうだぞケラルト、お前の誇れる姉だぞ!」
ることはやはり難しい。
姉の返答にケラルトは胸中で何か吹っ切れたような感覚に襲われた。
「……そうね」
「ぬ?」
悩めるケラルトに素っ頓狂な返事をするレメディオス。
それに対してケラルトは思わず大きな溜息をしてしまう。
「……取り敢えず後は…いいえ。暫くは彼の面倒を姉様にお任せします。しっかりと監視下にいれておくこと、いいわね」
「分かったっ!!!見ておく!」
「拾ってきた子犬じゃないんだから……いえ、もう子犬みたく大人しく飼われてはくれないかしら」
そっちの方が安心できるわ……はぁ…。
某所
「失礼しますっ、へっくしゅん!」
「あらどうしたのクライム、風邪かしら?」
「申し訳ありませんラナー様」
レメディオスはケラルトに代わり自室に入る。
扉を開けると目の前には漆黒の騎士?戦士?が立っていた。
普通であれば
明らかに雰囲気が違って見える上に身長も何故か高くなっているのだ。
普通は別人と判断する、普通は。
レメディオスは普通ではない。
「なんだ?その格好は?いつ用意した?」
風貌が全く違うにも関わらずレメディオスは彼をモモンとして見抜き自然体で接した。
「えーと、一応ここで騎士をやるならそれっぽい服装がいいかなと」
照れくさそうに兜の上から頬を指先でカリカリとさせるモモン。
「……いやそれは分かるが、どこからそんなもの……」
モモンの変化に見抜いたとはいえ流石にそこは気になるレメディオス。
「にしても…良い鎧だ。剣も単純な攻撃力であればそこらの武器より良さそうだ。これは何処で手に入れた?」
「……故郷で。昔居た国で使っていたものですよ」
「なるほどな」
嘘である。いや
モモンは先程の失態をどうにか覆そうと考え、その言葉を絞り出した。
ケラルトには面と向かってバレているので、ボロが出るのは明白だが今のモモンにはそんな事を考えている余裕はない。
一方、モモンの発言にレメディオスの中のモモン=亜人種に支配された亡国の難民説は一層加速していた。
「そうだ、お前が聖騎士になったという事でな!色々用意していることがある!」
レメディオスは自慢げにその豊かな胸を張り、それと同時にフンスッと鼻息を鳴らしていた。
「まずは歓迎会だ!!グスターボとイサンドロが許可してくれたからな!お前の入団を祝おう!!」
レメディオスは日程表が書かれた羊皮紙をモモンに見せつける。
「え、歓迎会!?良いんですか!?俺なんかの為に!?」
ディストピア日本でブラック労働をしていたモモンにとって歓迎会というのは社長の息子や富裕層から流れてくる責任者や顧問、取締にのみ許されるイベントという認識だった。
その為自ずと彼の口からはネガティブ発言が出てしまった。
俺なんか……それを聞いたレメディオスは直ぐさま反応した。
「?なんかとかいうな。お前は既に立派な聖騎士だ!自身を卑下することは許さんぞ?」
なんてったってカルマ値200。
レメディオスは当然だ!お前は誇りだ!!と喝を入れていく。
そう返されたモモンは自身のネガティブ思考、会社や社会で植え付けられた価値観に気づき、レメディオスに対して自然と感謝の心が湧いた。
「すいません、お気遣いありがとうございます」
モモンとしては自分を気遣ってくれたのだろうと思いそう感謝するが……実際はレメディオスは何も考えていない。今のは無意識から出た言葉だからだ。
それは当たり前のこと。
彼女にとって目の前の人間が自分を卑下して自信や生気を失う事など認めてはいけないし、自分がそう行動して相手を元気づけ助けるのは当たり前なのだ。
「分かれば良い、それともう1つ!」
レメディオスは右手を前に出すと人差し指をピンと立ててモモンに近づく。
「お前には新兵として暫く訓練をしてもらう事にした!」
「訓練…ですか?」
訓練、軍事訓練……とても堅苦しそうな、厳しそうな言葉だ。モモンは少し不安になるがその感情を汲み取ったレメディオスが優しい言葉で再度説明し始める。
「そう怯えるな、訓練といっても過酷な内容では無い、単に剣術の錬成だ」
「おお、それなら良いですね。燃えてきます」
レメディオスの説明した内容にモモンは一気に気分を上げた。
モモンは挑戦や実験など未知のものに対する欲は人一倍持っている。その為、道中でレメディオスから聞いていた武技について非常に興味があったのだ。
レベル100の自分が覚えられるのか?
はたまた異世界に来たのだから武技やスキルの修得上限がなくなっているのではないか?
未知への探究心を擽る内容にモモンは喜んでいた。
レメディオスは兜越しでもモモンが目をキラキラさせているのを声の明るさから察し、それを受けてレメディオス自身も嬉しくなる。
「そうだろうそうだろう。既に教官も手配した!技量も高くとても信頼できる男だ」
レメディオスはその男をイメージしてか剣?を振る動きをしてみせる。
「団長さんがそう言うってことはよっぽどお強いんですね、その方は」
ユグドラシル基準で考えると低レベルなこの世界だがモモンの中ではしっかりレメディオスがこの世界の強者である事は聖騎士団の団長であることや妹のケラルトが高位の神官である事から察している。
その為、そんな彼女が技量よしと認める人物。
確実にこの世界では強者だろう。
「ああ、そうだ。そいつはこの聖騎士団の中でも私の次に強いからな。」
やはり…とモモンは内心考える。
団長さんが最高でもLv30前後とすると……Lv20後半になるのか?Lv1個分の差分が分からないから不明瞭だなぁ。
これはちゃんと情報を集めなきゃ……。
「ほう、それはありがたいです」
素直に感謝の言葉を並べるモモンに気分が良くなるレメディオス。
「なになに、礼など要らん。これは私やこの国の未来の為でもあるからな、お前には期待しているぞ?」
期待している。
そう言われるのは何年ぶりだろうか。
学校でも、社会でも……現実で言われたことなんてない。
ユグドラシルでは言われたことはあるが、それはゲームの中。ゲームと
思い出しながらも彼はその事を実感していた。
「ありがとうございます、であれば一応…教官殿のお名前を伺っても良いですか?そちらの方が多少はスムーズに事を動かせると思いますので」
これから指導係としてついてくれる上司だ。
名前を先に知っておかねば事故が起きる。
モモンは社会人経験を活かして相手の名を尋ねる。
「そうだな!ならば名を教えておこう、そいつの名は」
「ペシュリアンだ!」
今回、できるだけルビを振ってみました。
見やすかったら良かったです。
あと誤字脱字の報告ありがとうございます、文書を作るのが慣れていないもので本当に助かっています。
お優しい心遣い、身に染みます。
ご感想もぜひぜひお願いします