スズキサトルの日常   作:ふじら

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第4話 初同衾(どうきん)!何も起きない筈もなく?

 

それからモモンは夜になるまで時間を持て余していた。

 

モモンは未だ抜けぬ社畜性から新兵(平社員)としてやるべきだろう、お茶出しなどの雑務で使い潰される事を覚悟…ではなく求めていた。

本人は無意識なのがディストピア日本の過酷さを物語っていた。

 

やることがない。

歓迎会は明日の夜に行われるし、訓練も明日の昼から始まる。

 

レメディオスはレメディオスで、二人で談笑している途中にモモンの赤マントを見つめだしては急に立ち上がり

 

「そうだっ!!良い事を思いついたぞ!!」

 

自信満々に部屋から出ていき走り去っていった。

 

そしてそこから1時間以上たっているのだが彼女は未だに帰ってこない。

 

 

 

はぁ、なにしようか。

暇だなぁ……意外と騎士も初日はすることないんだなぁ。

ふと今の時間が気になり腕時計を見る。

アインズ・ウール・ゴウンのメンバーの1人にして、人気声優のぶくぶく茶釜がくれたものだ。

 

15時30分か、これってこの世界と連動してるのか?

うーん、後で団長さんに時刻聞いて設定合わせるか。

 

モモンは腕時計を触る、これは異世界に転移した彼にとってユグドラシルとアインズ・ウール・ゴウンを思い出させる唯一の道具(アイテム)であり手元にある遺産、形見なのだ。

 

茶釜さん、ありがとうございます。

俺はこの世界で暮らしていく事を決めました。

でも皆さんと暮らした世界を捨てる気はありません。

だって、茶釜さんがこうやって傍にいます。

俺はいつだって綺麗で可愛らしいその声が聴けるんです。

 

誰1人ログインすることのなくなったユグドラシル。

モモンガは皆の帰るナザリックを守る為、資金集めに奔走していた。

ギルドの維持に必要な金貨は到底一人で集められるようなものではない。

それをモモンガは茶釜時計のアラームを用いてデイリークエスト、何度目か分からない同じ内容の復刻イベント。ヘルヘイム内で発生する1時間限定のゲリライベント。それらを最効率で金策を行っていた。

 

確かにぶくぶく茶釜はユグドラシルに顔を出さなくなり、自然と引退となっていた。

だがモモンの中では腕時計のお陰でぶくぶく茶釜に感謝の念が堪えなかった。

これは精神的に不安定が故の事象に他ならない。

一人残されたモモンガはもはや現実(リアル)に居場所がなければユグドラシルにも居場所はない。

モモンガもそれを常日頃自覚していた。

これが続けば精神は負の連鎖を生み続けモモンガがユグドラシルを引退することも可能性としてあった。

そこで彼は逃げ道としてこの腕時計に頼ったのだ。

 

ギルメンは皆引退した。残ってくれたメンバーもいるがログインなんてほぼしていない、実質ユグドラシルをやめていた。

ナザリック地下大墳墓は静寂に包まれ、

栄華を誇ったアインズ・ウール・ゴウンはギルドとして死んでいた。

モモンガの問いかけや悩みに答える者はいない。

そんな中唯一、ナザリックに生気を吹き込む声がある。

それがぶくぶく茶釜の声だった。

モモンガは彼女に本当に感謝している。

もしそれなければ…自分は人生で唯一与えられた生きがいと責任を放棄し……現実(リアル)でコトを初めていたかもしれない。

 

モモンは腕時計を撫でる。

愛でるように、優しく撫で続けた。

これは大切なモノを大切にせんとする行為。

 

 

 

 

一体何分経っただろう…。

 

一瞬だった気がするが、とても長い時間を過ごしたような気もする。

 

モモンは時計の時刻を見た。

 

16:59

 

え、俺めっちゃ暇つぶしてる…。

 

まさかの90分コースである。

90分間、茶釜の腕時計を愛撫し続けたモモン。

 

「うわー、俺こんな精神削ってたのか。気づかないもんだな……」

 

彼は天井に顔を向けて脱力した。

自然と両手はぶらんと垂れ下がる。

 

「……」

 

17:00

 

そろそろ茶釜時計が「モモンガお兄ちゃん!17時だよ!」とお知らせしてくれる時間だ。

 

モモンはその声が響くのを待っていた。

 

あれ?いつもなら鳴るんだけど、おかしいな。

 

一向に再生されない茶釜ボイスに、モモンは故障か!?と大焦りして腕時計に目をやった。

 

 

「あっ……私達…ほんとに一線越えちゃったんだね」

 

「…え゛え゛?」

 

聞いた事のないボイスに思わずモモンは声を出して驚いた。

 

なにこれ!?

ペロロンさん!貴方のお姉さんエロゲボイスみたいなの追加してますよ!!なんですかこれ!?

 

「モモンガお兄ちゃん……責任、取ってよね?」

 

腕時計から続けられる意味深な言葉に思わず彼は返してしまう。

 

「え、えーと…今は……その…仕事もあるので」

 

「…甲斐性なし」

 

もはや狙っていたとしか思えないセリフの返しにモモンは撃沈する、しかしそれと同時に彼の中で希望も芽生えた。

 

なにこれ!?通話してるのこれ!?そうとしか思えないぐらいスムーズだったよ今!

 

モモンはもしかすると腕時計を介してぶくぶく茶釜と通話できているのかもしれない、そんな淡い希望をもったのだ。

 

モモンは息を呑み、意を決して話しかけた。

 

「あ、あの茶釜さん!お、おれですね、いm「裏設定完了だよ!これからたっくさん遊ぼうね!」……ぅ…」

 

だがその途中で茶釜に遮られることで、やはりこれは通話ではない。録音ボイスなのだとモモンは悲しい現実を突きつけられた。

 

 

「はぁ……」

 

深い溜息が出る。

 

「そうだよな、来てるわけないもんな……茶釜さんが」

 

普段なら隠しボイスに喜んでいた筈のモモン、今回ばかりは落ち込んでいた。

 

 

 

 

 

 

モモンが再度天井を見上げて十数分、

 

バタンッ!

 

扉を乱暴に開けて入ってくる人物がいた。

 

「おいモモン!夜ご飯だぞっ!一緒に食べるぞ!来い!」

 

勿論レメディオスだ。

 

「はい、行きましょう」

 

先程まで茶釜の件で落ち込んでいたモモンも流石に上司となったレメディオスを前に引きずっている場合ではないので、瞬時に気持ちを切り替えてレメディオスの言葉に従う。

 

レメディオスは僅かにモモンの落ち込んだ感情を声色から悟ったのか、そういえばと言いながらモモンに喜びそうなある事を伝える。

 

「今日は兎肉だぞぉ!喜べ!」

 

「うお!肉ですか!?嬉しいです!」

 

モモンはお肉が食べられることを知り先程までの気持ちが嘘のように晴れていく。

やはりこれはモモンが現実(リアル)でまともな食事をとれていなかったことが大きく、彼の中では普通の食事をすることが何よりも幸福である。

 

こうして先の茶釜激萎え事件はほんの少しだけモモンの記憶から離れていった。

 

 

 

 

 

レメディオスの後に続き…着いたのは拠点から少し外れた草原だった。

既に陽は落ちて暗くなり始めており、空は雲ひとつ無い。

そのためか星もその輝きを見せていた。

 

芝生の上には簡素な椅子とテーブルが置かれており、テーブルの上には食事が並べられている。

 

ギルメンの1人、ブループラネットが求めていた光景にモモンは感動する。

 

ああ、ブループラネットさん……貴方が夢見ていた景色が…ここにありますよ。

 

自然は……いいですね…。

 

モモンは(そら)を見て、無意識に1粒の涙を零した。

 

 

 

一方レメディオスは定期的に棒立ちになり自分の世界に入るモモンに慣れてきており、今回もモモンが意識を取り戻すまで待ち、戻ってきたと感じたタイミングで話を再開し始める。

 

「今日はここで食べるぞ!早く座るといい」

 

モモンは目の前の用意された食事の場に驚きつつも、レメディオスに従い椅子に腰をかける。

 

そしてテーブルに置かれた晩御飯……それにモモンは驚愕する。

 

これが、これが兎……兎肉?栗鼠(リス)じゃないのか?

いや栗鼠(リス)にしては大きいよな……耳も長いし。

なにこれ?

 

 

そこには、栗鼠のような兎のようなどっちともつかない動物。バーニアが調理された状態で並べられていた。

 

「どうだ、美味しそうだろう」

 

「ええ、とても」

 

モモンは内心ビビりながらも匂いを嗅ぐ。

鼻の奥に感じるスパイシーな香りと、獣臭さのないその食材に瞬時に心を奪われるモモン。

 

「……美味しそう…団長さん!!早く食べましょう!!!冷めてしまってはいけないですよ!」

 

先程まで恐る恐ると言った感じで静かだった彼は急に大きい声を出すと食事を急かし始める。

 

それに対してレメディオスは腕組をしてニコニコと笑っていた。

 

「ああ、食べよう!……とその前に」

 

彼女は用意していたボトルを1本取り出す。

 

「それは……お酒ですか?」

 

 

モモンは昔、富裕層の来賓が会社の社長に似たようなボトルをプレゼントしていた記憶からそれをお酒と理解した。

 

ディストピア日本では高価であったお酒。

庶民が呑めるのは安価で、もはやアルコールが入ってるだけの水のような何かであった。製品によって違う色と味もあるがそれは着色料を含めただけで味は変わらず、そう感じるのはプラシーボ効果である。

上級国民と呼ばれる人達がビールを飲んでいたり、さらに上の富裕層になるとワイン?なる酒を飲んでいることはモモンも知識としてある。

昔は知らなかったのだがこれはウルベルト・アレイン・オードルから教えてもらった知識だ。

これを知った時は流石のモモンガも顔をしかめ、格差社会に苛立ちを覚えた。

 

 

 

 

モモンの問いにレメディオスは答える。

 

「そうだ、これは南部のある葡萄畑が出しているワインだ。カルカ様に無礼を働く南部だが、こればかりは美味しくてな。記念日の時は何かとグスターボに用意して貰っている」

 

「へえ、そうなんですか。……ん?記念日?今日はなにか聖王国で祝事でもあるんですか?」

 

「ぬ……何を言っている。祝事なら目の間にあるだろう!」

 

何を言っていると言われても、何を言っているのか分からないモモン。

レメディオスの意図に彼は気づかない。

 

痺れを切らしたレメディオスは、自分の口からその記念日とは何か彼に説明する。

 

「モモン!今日は!お前と私が初めて出逢った記念日だ!」

 

彼女はワインを開けるとモモンのグラスに注いだ。

 

 

 

ああ、そうか。

この人には……気付かされてばかりだな。

まだ1日も経ってないのに。

 

モモンは社会的にも精神的にもドン底に居続けた。

その為少し考えれば分かる普通のことすら瞬時に理解できない脳になっている。

 

この人……良い人だな。

 

モモンはレメディオスの事を再評価する。

こちらに転移してから今に至るまで、彼女は思い立ったが吉日。猪突猛進に物事を進め、部下に仕事を投げていた。

最初こそ自然と暑苦しい熱血パワハラ上司の影を重ねていたが、今はそうではない。

あのように個人を尊重せず周りを見ていないワガママな上司と彼女は違う。

気質が似ているというだけで今日を思い返せば、状況判断は的確に行い、気遣いもしていた。

基本的にはモモンのために動いた1日を彼女は過ごしていたのだ。

モモンは申し訳なくなった、自分の中で嫌いな人間と彼女を照らし合わせてしまった。

 

これは人生でそういった人間としか接してなかったのだから仕方のないことではあるのだが、モモンはそれでもレメディオスに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 

「どうした?ワインを飲むのは怖いか?それとも初めてか?大丈夫だこれは優しい味だぞ」

 

レメディオスは内心気落ちしているモモンの感情を汲み取り、言葉をかける。

 

「ええ、初めてなもので」

 

ここでのモモンの返答はワインを飲むのが初めてという意味だけではない。

この様な人間に出会ったのが初めてという意味も込められていた。

 

「なら良かったな!初めてのワインがコレとは私も羨ましいぞ!人生における初めては何事も大切だ!」

 

レメディオスはモモンに初めての経験を与える喜びに浸りつつ、自分のグラスにワインをなみなみ注ぐ。

 

「では、乾杯しよう!」

 

レメディオスは音頭を取る。

 

「モモンと私の出逢いに!新しい聖騎士の誕生にっ!」

 

「「乾杯!!」」

 

2人は満点の星空と豊かな草原に囲まれて乾杯した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あーー痛い。

これ二日酔いだ……いたい。

体も痛い……これ訓練……やれるのかな。

 

彼は朝から項垂れていた。

昨晩は一頻り飲み明かしたのだ。

 

 

ワインで乾杯して……兎肉……ちがうバーニアのお肉を食べて。

 

そこから…そこから……ワインは何本……

 

 

モモンは空けたワインの本数を数えようと布団の中で手を動かした。

 

 

 

ふにゅ

 

 

 

そんな感触が手に残った。

 

 

??……なんだ、なんか俺のベッドにいる?動物?

 

 

モモンは二日酔いで激しい頭痛に襲われながらも頭をフル回転させ、ある事を思い出す。

 

 

 

いや違う!!そうだ!思い出した!!ここ俺の部屋じゃない!

 

 

そうだよ!!昨日したじゃんその話!!

 

 

まさか、まさかこれ……

 

彼は顔が真っ赤に染まっていく、自分の手が今何に触れたのか理解したのだ。

 

彼は手に残った感触を思い出しつつ、布団の中を覗き込む。

 

するとそこには、

 

 

「……どうしたぁ〜…モモン。お前は…朝……早いなぁ〜〜……むぅ」

 

キャミソール姿のレメディオスがそこにはあった。

 

「……どうしたぁ…まだ寒いぞぉ……もう少し被ろう」

 

モモンは上目遣いのレメディオスにしばらく沈黙し、

 

 

 

「…………キャッーーーーー!!!!????」

 

非常に情けない男の悲鳴が部屋中に響き渡らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

お持ち帰り(嘘)事件は終え、今モモンは漆黒の鎧を装備して椅子に腰掛けていた。

レメディオスが備え付けの更衣室で着替えているので、彼女の支度が終わるまで待っているのだ。

 

07:10

 

レメディオスは支度を終えて出てきた。

いつも通りの聖騎士然とした服装なのだが、それは朝から厚かましさを感じさせる。

 

そこからしばらくレメディオスとモモンは頭痛に悩まされながらも水を飲み、今日の日程や聖騎士団の勤務体制について教えて貰うことにした。

 

 

 

 

 

 

時折レメディオスのディオスに触れた右手に意識を集中させ、感触を思い出していたのは内緒だ。

 

 

 

 

 

07:20

 

団長さんが言うには聖騎士団を含めて聖王国政府の管理下にある仕事は08:30から始まるらしい。

それまで約1時間しかないが……団長さんは大丈夫なのだろうか?それに朝食はいつ摂るのだろうか。団長さんは食堂?配給所?にいく素振りはみせないし。

 

「団長さん、お化粧とかあるなら自分に構わずして貰って構いませんよ」

 

男の俺は髪の毛をセットしたりで済むが、レメディオスは女性だ。

当たり前に化粧ぐらいするだろうとモモンは思っていた。

 

「??……化粧?そんなものはしないぞ。戦地でそんなのをしてる暇はないならな」

 

これが騎士としてなのか、はたまたレメディオスが興味ないだけのか、それはどっちなのだろうか。

そう疑問が浮かんだモモン。

 

そんな時、モモンガの身体周りから音が発せられる。

 

 

07:21

 

「あんっ♡ダメだぞ♡そんな、朝から♡」

 

 

 

「……」

 

「……」

 

二人の間に沈黙が訪れる。

 

「なんだ、そのモモン。お前はなにか……そういう趣味があるのか?」

 

モモンの体から急に発せられたその幼女ボイスに流石のレメディオスも引いていた。

 

「ありませんっ!!!」

 

「ぁんっ!モモンッ……ガ…!はげしっ…♡」

 

モモンは必死に止めようと時計を弄るが何処を押しても喘ぎ声は止まらない。

 

ユグドラシルの性質上こういった道具(アイテム)にはちゃんと制御機能を用意しなければならない、そのためどこかしらギミックがあるはずなのだ。

 

冷めた目で見てくるレメディオスを前にモモンは大慌て。

 

「止まらない!!止まらないぞ!!?」

 

その時モモンの脳内に蘇る、ある記憶。

 

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓にて、

 

「どうしてそう貴方は問題ばっかり!ナザリックにまた1パーティ侵入して来たんですよ!?こんなに頻繁にされては」

 

「えーー、ギルマスぅ〜優しくないなぁ!ナザリックは悪の城なんだから攻め込まれなきゃ意味ないじゃん!」

 

「頻度の話です!!」

 

皆がログアウトした後の円卓の間で、まだ残っていた るし★ふぁーと二人でやんやと言い争っていた。

るし★ふぁーはギルメン41人のうち38人がいないタイミングで一般通過プレイヤーを罠にかけて遊んでいた。

結果として罠に嵌められたプレイヤーが7人の味方を引き連れてナザリックに侵入。

それを戦力不在の中、ぶくぶく茶釜、るし★ふぁー、モモンガの3人で迎撃したのだ。

 

ぶくぶく茶釜が前を張り、るし★ふぁーがゴーレム達で援護、モモンガが魔法攻撃をすることで何とかギリギリ二階層で止めさせたのだ。

モモンガはAoGの問題児相手に頭を悩ませていた。

 

するとそこに装備を解除したぶくぶく茶釜が戻ってくる。

 

そしてモモンガの目が合うなり茶釜はあるものを取り出した。

 

「モモンガさん、これ受け取って!」

 

「?……これは腕時計ですか?」

 

「うん、私の声が録音されてるからさ!これでいつでも一緒でしょー?」

 

「ふふ、ありがとうございます茶釜さん」

 

いつもなら「えー!俺にはないんですか!?」と喚くハズの るし★ふぁー だが何故かこの時は静かだった。

 

モモンは察した。

 

ぶくぶく茶釜とるし★ふぁーは共犯だったのだ。

 

 

 

「るし★ふぁーぁあああ!!!??おまえかぁああ!!!」

 

「しっー♡声が大きいぞ♡」

 

 

レメディオスはモモンの叫びに対して反射的に両耳を塞いだ。

 

 

 

 

 

あん だめだぞ そんなあさから!

 

あん モモン はげしい

 

とまらない!とまらないぞ!

 

ぁあああ!ぁあああ!

 

しっー こえがおおきいぞ

 

 

 

 

「え?」

 

グスターボは日課の如く朝食を届けるついでにレメディオス達を起こしに来ていた。

 

部屋の中から聞こえるのは男女の声。

 

中にいるのはモモンと団長。

 

2人が同じ部屋で寝泊まりするということはケラルトから聞いていた。

 

風紀的、規律的にどうかと彼自身は思っていたがあの団長が既に決めたことを覆すことは不可能。

彼は経験則からそう判断していた。

 

そのためグスターボは最大限できることをしようと、昨夜補給所で簡易ベッドを手配しレメディオスの部屋の前に置いた。

 

部屋に入ろうとすれば明らかに分かる位置に置いてあるため、知能が妹に吸われた団長であっても理解できるであろうと彼は踏んでいた。

 

 

しかし現実は違う。

 

 

簡易ベッドは昨夜立てかけたまま放置されているのだ。

 

 

 

 

 

これにグスターボは顔が真っ青になり、

額からは汗が滝のように流れ始める。

 

 

 

 

 

使われていない簡易ベッド、

 

 

 

 

男女同部屋

 

 

 

 

朝から聞こえてくる男女の卑しい言葉

 

 

 

 

 

そこから導き出させられる答えは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの団長に……

 

 

 

 

 

 

 

 

あのレメディオス・カストディオに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春が来た……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケラルト様ッ!!?」

 

息を切らしながらケラルトのいる執務室に入ってくるグスターボ。

普段なら礼式を重んじノックしてから許可を得て入室する彼、それが許可もなくドタドタと足音を立てて入ってくるのだ。

 

「……朝からどうしたの?まだ鐘が鳴ってないわよ」

 

「団長がっ!レメディオス団長がっ!?」

 

「どうしたの、モモンと何かあった?まず水を飲みなさい」

 

姉の名前が朝から上がるのなら一緒にいるモモンに関することだろう、ケラルトはそう考え内心身構える。

そしてグスターボに水の入ったコップを渡した。

 

「さ、流石はケラルト様……ありがとうございます……ふぅ……ふぅ」

 

グスターボはゴクゴクと音を鳴らせて水を一気に飲む。

彼の荒い息遣いは徐々に落ち着きを取り戻していき、それを見計らったケラルトは再びグスターボに聞き直す。

 

「それで?お姉様がモモンとなにかしたの?」

 

ケラルトはある程度覚悟ができていた。

あんだけのことをされた一日だ。

一晩寝て耐性もついたのか彼女は今非常に冷静だ。

 

 

 

 

 

一夜明けて万全の状態のケラルト。

 

 

 

今回は淑女ケラルトのキャラ崩壊はない。

 

 

 

出来る女に2度目の失敗はないのだ。

 

 

 

 

 

だがそれはアフタヌーンティーを朝から飲む以上に衝撃のニュース。

 

またもやケラルトは淑女をやめた。

 

 

 

 

 

 

 

「……夜の……営みをっ!!朝から!!」

 

 

 

 

ケラルトに向かってグスターボの口から矢が飛んでいくのが見える。

カリンシャにあるバリスタなんぞ比にならない威力の矢だ。

彼女は静止し、目のハイライトが消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

カルカ・べサーレス、

 

レメディオス・カストディオ、

 

そしてケラルト・カストディオ。

 

カストディオ姉妹は小さい頃から秀でた才能が有名で、聖王女になる前のカルカとは幼馴染のような関係である。

 

それは時が経ちカルカが聖王の座に着いても変わらずであった。

 

レメディオスはその強さから亜人との戦いの第一線に立ち、

ケラルトはその頭脳で政治と軍略を敷き、

カルカはその美貌と性格で国民を纏める。

 

まさに理想的な王権である。

 

しかしこの三人には…ある噂があった。

 

それは同性愛者(レズビアン)だという噂だ。

 

奇しくもこの三人は色恋沙汰の話が一切ないのである。

 

しかも常に三人一緒にいることも相まって一部では三人揃って同性愛者(レズビアン)であると噂が加速し続けていた。

 

だが実態は違う。

三人は全員異性愛者であり、方や脳筋、方や腹黒、方や玉座でそもそも出会いなんてものがないのだ。

彼女らにとって同年代の異性ですら会うことは難しい。

職務上の報告位でしか顔を合わせることはなく、職務で会うにしても相手は歳を重ねた階級の高い騎士で妻子持ち。

パーティーで会うのは欲望と魂胆が透けて見える貴族。

それぐらいだ。

 

 

 

それにケラルトは意外と結婚願望が強い。

 

 

 

それこそ三人は幼い頃、よく騎士とお姫様が恋に落ちる御伽噺を読んでいた。

その時からレメディオスは「なにがいいのか、わからない」と言ってはいたが、一方で「だがこの男がかっこいいのはわかる、わたしもそんな人になりたい」とも言っていた。

あの姉にもそんな感性があるとは今思うと驚きだ。

 

 

レメディオスはさておいて、ケラルトとカルカは結婚がしたくてしたくて堪らない。

 

もう20半ばで処女。

 

この世界では笑い物である。

 

このままでは誰も受け取り手がいなかった面倒な女の烙印を押されて墓場に入るのは目に見えている。

 

それはこの世界において女としての敗北を意味している。

 

しかしケラルトは神官団長の任を受けたその日から全てを受け入れた。

 

ケラルトはその愛国心と忠誠心から、自分がどうなろうと知ったことでは無い。滅私奉公の精神でこの国を、ローブルを護る。

 

そう決めたのだ。

 

だが一方でケラルトは身勝手にも、

この気持ちはレメディオスとカルカも同じだと思い込んでおり、我々は生涯未婚同盟だ!という妄想(逃げ)に取り憑かれている。

 

 

それ故に今回の件は、どんな問題よりも大問題。

 

カルカであればまだ分かるだろう。相手を作らねばならない身分であるからだ。

しかし今回は姉だ。

あの姉だ。

レメディオスは脳筋で、知能を全てケラルトに吸われたと言われる程である。剣が恋人で色恋には全く興味を持たない。

 

そんな姉が、まさか昨日拾ってきたドコの馬の骨か分からない。化け物魔法詠唱者(マジックキャスター)兼騎士見習いと寝たという。

 

またもやケラルトは耐えられそうにない。

 

一晩かけて落ち着きを取り戻したのにも関わらず、彼女はどんどんと顔を真っ赤にしていき、奥歯はギリギリと鳴っている。

その顔は恨んでいるのか羨ましいのか。

どっちとも捉えれる表情であった、だが次第にそれは人間の表情を凌駕していき、

 

「……オ姉様ノォ!裏切リ者ォォォオオ!!!!」

 

顔を東方に伝わる亜人(般若)にしたケラルトがそこには居た。

 

 




どうでしたでしょうか。
詰め込みたいエピソードがありすぎて内容が渋滞していますが面白かったら幸いです。
ご感想も励みになりますので良かったらお願いします!
感想を頂けるとエタる可能性が少しずつ減っていきますので……。

誤字脱字の修正については本当に助かっています。
素人文章ですので今回の話も今後の話も読んでてあれ?これあってる?ここのやり取り無くない?飛ばしてない?違和感すごい。
みたいな箇所が出てくると思いますのでその時は何卒よろしくお願いします。
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