スズキサトルの日常   作:ふじら

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第8話 歯車は動き出す

 

「へえ、それでおめおめと逃げ帰ってきたのかい?」

 

 粘液の音を立てながら、そう発言したのは藍蛆(ゼルン)の雌。

 

 ここは意図的に創り出された大洞窟。

 

 その奥ではアベリオン丘陵に生息する各亜人種の長が集まっていた。

 

「違う!!!! あれはそこらのニンゲンじゃない!」

 

 そう叫ぶのは洞下人(ケイブン)の族長であり亜人連合の第一次大規模侵攻を率いた司令官でもあった雄だ。

 周囲は沈黙を貫いている。

 それは今回の敗戦の問題を当然と認識し反省している。という訳ではない。

 連合軍が目の前の臆病な司令官のせいで壊滅したという認識によるものだ。

 

 

 皆が洞下人(ケイブン)を睨みつける。

 

「何を言ってるんだ、ニンゲンはニンゲン。強いも何もないだろう」

 余裕の態度で発言したのは山羊人(バフォルク)の族長であり、王。

 バザーだ。

 

「ニンゲンは弱いぞ? 一度触れれば体を欠損し、泣き叫び、地にたおれる。そんな生物にしてやられるとは、落ちたものだな。数百年洞窟に引きこもっているウチに退化したんじゃないか?」

 

 バザーの言葉に大きな笑いが起きる。

 洞下人(ケイブン)は数百年前のある出来事をきっかけに、生息域である地下動脈に閉じこもっていた。

 周りから見ればやっとのことで外に出てきた影の薄い種族がその存在を証明をするかと思われていたのだ。

 それがニンゲン相手に敗走し壊滅。その種族の劣等ぶりを露呈させた。

 

 亜人達は自分の種族を選ばれし種族と認識し、他種族を根本的に下に見ている。

 それがこの笑いを産んだのだ。

 

 されど洞下人(ケイブン)の長はその空気に負けずと声を荒らげる。

 

「違う!! あれはニンゲンの見た目をした化け物だ!! 全身を鎧で着込んでいて中身は見えてない!! なら中身はニンゲンではなく俺達のような亜人の可能性だってある!」

 

 また、笑いが巻き起こる。

 洞下人(ケイブン)は知能が低い種族であることは皆が理解している。

 故に、それを聞いた者からすれば馬鹿が適当な言葉を並べて敗戦責任からみっともなく逃げようとしているようにしか見えないのだ。

 

「はあ?? ならなんで亜人種がニンゲンにつく? あんたの弁論は抜け穴だらけだよ」

 

 藍蛆(ゼルン)はいい加減にしろと言わんばかりの怒りの感情を言葉に乗せる。

 

 洞下人(ケイブン)は俯いた。

 

 どう弁明しようと誰も信じてはくれない。

 

 分かっている。

 知能が低い洞下人(ケイブン)である自分でも。

 

  この意味に。

 

 今回俺は利用されたのだ。

 

 亜人連合はニンゲン狩りを目的とした組織。

 計画性などない。

 もしニンゲン狩りが滞りなく進み、彼らが食料や家畜、奴隷となったならば次に起きるのは部族衝突であるのは明白だ。

 そうなればどの種族が優位か、権威を持つべきかの闘争になる。これを進めるのはニンゲンを狩り終えてからでは遅い。

 既に始まっているのだ、どの種族が治めるのかの政治闘争が。

 

 この静かなる狼煙は全種族共通で無用と判断できる種族を弾劾、駒として捨てることであげられる。

 そこで知能の低い洞下人(ケイブン)

 

 

 

 

 俺達が選ばれた。

 

 

 俺は洞下人(ケイブン)の族長として亜人連合の話を聞いた時即座に教育に注力した。

 俺達の種族はまだ動物の段階に近いのだ。

 意思疎通は出来るが、言語を持たない。

 だが僅かでも知能があるということは、知識を好み、勉学に励む者もいるのだ。

 一部にはニンゲン種の言葉を理解することが可能な者もいる。

 俺もそのうちの1人であった。

 そこで俺は教育機関を用意した。

 機関というのはニンゲンの言葉でそれは大きな組織を指すらしいがそれに反して俺達のはこじんまりとした小さなものだ。

 しかし洞下人(ケイブン)の歴史からすれば大きな一歩である。

 そこではニンゲン語を学ぶのだ、敵を倒すには敵を知ることから始まる。

 数百年前のアンデッドの残した言葉らしい。

 

 今では広く浅くだが軍務に付く同胞達は簡単なニンゲン語を理解している。

 中にはニンゲンの文化に関心を持つ、所謂厄介者が現れたが。

 

 俺は必死に種族の為に尽くした。

 

 しかし育て上げた同胞達はあの地にて倒れた。

 

 あの漆黒の騎士が全てを潰した。

 

 まるで遊びのようだった。

 

 戦争を感じさせなかった。

 

 

 

 俺達は保有していないが、他種族が使う武技とやら。

 

 それをいとも容易く放っていた。

 

 話では武技は精神力を使用するため連発は難しいと聞いていた。

 

 それがなんだ。

 片手で魔法のような漆黒の矢? 玉? を放ち我が同胞を消し炭にしていった。

 

 

 教育など……数百年積み重ねてこそのものだな。

 

 今になってそれに胡座をかこうなどと……都合のいい話だったのかもしれないな。

 

 

 散っていった同胞よ、残された者達よ。

 

 このような指導者で、本当にすまない。

 

 

 

 

 

 一頻り笑いものにされる洞下人(ケイブン)。

 彼を生贄に亜人連合内の

 未来を見据えた闘争が始まっている。

 

 

 

 

「そういえば馬人(ホールナー)の連中はどうした?  長すらまだ来てないとは責任問題だぞ」

 

 獣身四足獣(ゾーオスティア)の長、ヴィジャーが腕を組み周りを見渡す。

 

「あいつらは……その、なんだ」

 

「伝言でも預かってるのかい?」

 

「……ッ……亜人連合から離脱すると」

 

「アァッ!?」

 

 一同は驚きの声をあげた。

 今回の第一次大規模侵攻にて、最も勇ましく積極的であった種族。それが馬人(ホールナー)であったからだ。

 その勇ましさは、これから行われる予定であった侵攻計画全てに参加すると豪語していた程だ。

 そんな彼らが直接言葉もなく伝言で離脱するとは拍子抜けである。

 

「要はあれだけ風を吹かしていても、結局は雌だったという事だ」

 

 ヴィジャーのいう雌とは、馬人(ホールナー)の長であるシャシルのことを指す。

 彼女は長年統治していた族長の娘であり、今回の亜人連合結成と同時に代替わりで族長になった雌だ。

 その性格は寡黙ながらも、口は豪胆で、意外と気前のいい存在であった。

 そんな彼女がこのような行いに出たのだ。

 亜人達は唸る。

 

「馬人(ホールナー)の部族長は代わらねえのか」

 

 バザーがそう言うと魔現人(マーギロス)の長、ナスレネが口を開いた。

 

「アレを代えるとなると少なくとも内乱にはなるだろうねぇ。あの年頃の小娘には丁度いい刺激になるよ」

 

「族長の娘が聞いて呆れる」

 

「内政干渉はよしなよ?」

 

「わかってる」

 

 

 

 

 

 馬人(ホールナー)にも申し訳ない。

 本来であれば、俺達洞下人(ケイブン)のみで戦に出向き、水精霊大鬼(ヴァ・ウン)監視下のもとで見せしめにされる予定だった。

 それが俺達を気遣い、今回参陣してくれたのだ。

 よく馬人(ホールナー)は義理堅く、奉仕の精神が強いと言うが本当だった。

 雑多な俺達を見捨てず最後まで戦ってくれていた。

 あの族長の娘には……本当に頭が上がらない。

 

 

「これは……厄介な問題だ」

 蛇王(ナーガラージャ)の長であるロケシュが発言する。

 ロケシュは現在の亜人連合を纏めあげる存在であり、何かとヘイトを買いやすい立場ながらもカリスマ性と知略でその地位を維持している。

 そして先日まで馬人(ホールナー)のシャシルと水面下でその座を争っていた。

 

「厄介って相手はただのニンゲンでしょ?」

 

「ただのニンゲンが四千の兵と大鬼を壊滅できるか?」

 

「だけどそれは戦術に不備が……」

 

 俺のミスであると譲らない藍蛆(ゼルン)の雌にロケシュは異を唱える。

 

「戦術というが今回の作戦は計画通りだった。もし敗戦責任があるとしたならこの作戦に合意した皆の責任になるが?」

 

「「……」」

 

 ロケシュの洞下人(ケイブン)の肩を持つような発言に周囲は勘づく。

 これは建前だ。

 まるで穏健で俯瞰した見方の出来る逸材に捉えられるがそうではない。

 ロケシュはまだ洞下人(ケイブン)という数だけはいる手駒を手放したくないのだ。

 彼らからすれば洞下人(ケイブン)は持っておきたい消耗戦力。

 

 

 それを察した俺は、俯いていた顔を上げる。

「馬鹿言え!! これは六大魔神の再来だ!! ニンゲン共に無条件で肩を貸し、我々亜人種やドラゴン共を迫害し絶滅の危機に追いやった魔神の再来! そうに違いない!」

 

 全ての長達が俺を冷めた目で見ており、空気は最悪だ。

 

 どれだけ声を荒らげても俺を見る態度は変わらない。

 

 もうこの組織はやっていけない。

 

 俺は種族の安寧の為にも勝てぬ攻め戦には無闇に参加しないことを決意した。

 

「馬人(ホールナー)の判断は正しい! 目的が達成できず苦しいが、俺達も……離脱させてもらう!」

 

 俺は席を立ち、洞窟を出る。

 

「洞下人(ケイブン)も力をつけていたと見込んでいたのだがなぁ??」

 

 立ち去る俺にも聞こえる大きな声で煽る翼亜人(プテローポス)。

 

 これも単に俺達洞下人(ケイブン)を消耗品として使いたいだけだ。

 

 

 彼は洞窟を出ていった。

 

 

 

 彼が去った後、それまであった洞下人(ケイブン)を擁護する場の流れは瞬時に消えた。

 洞下人(ケイブン)が参加したところで雑兵になる程度でそこまで戦力にはならない。

 皆の共通認識がそうさせたのだ、もう彼らの頭には洞下人(ケイブン)のことなど残っていない。

 

 

 

「馬人(ホールナー)も所詮は馬ということか。ニンゲンに飼い慣らされている種族の近縁だ、当たり前か」

 

「とはいえ流石に時期尚早だ。アイツにしては判断が早すぎる、まずはその漆黒の鎧について探ろう。誰か接触した者はいないのか?」

 

「直接戦ったヤツはみんな死んでる」

 

「そういえば1人洞下人(ケイブン)の雌がその化け物から見逃してもらったと」

 

「あ?? なんでだ、雌だから情けをかけたのか?」

 

「さあ?」

 

「そいつぁ、アイツの教育を受けたヤツか?」

 

「さあ?」

 

「チッ、話が進みそうなところで族長がご不在になるたぁな?」

 

「そういえばバザーはどうなの? 今回の件」

 

「ああ? どうもねえ、俺達は変わらん。ニンゲン共の都市を奪わずして発展はねえ」

 

「漆黒の鎧は?」

 

「俺がやる」

 

「勇敢なことね」

 

 

「あー、いや。あれなら探れるか?」

 バザーの適当な言葉にナスレネが反応する。

「なんだい? 何か思い当たるものでもあるのかい」

 

「ふん。おい、あれを持ってこい」

 バザーは控えていた部下に命令しあるモノを持ってこさせた。

 

 

「それは?」

 

 亜人達が興味深そうに注目する。特にロケシュは一段と目を光らせている。

 

「これはニンゲン化の指輪だ」

 

「なんだと!?」

「そんなものが」

「神話にしか存在しない代物じゃねえか!」

 

 皆が驚きの声を上げる。

 

「ああ。かつての大魔神騒動があって以降、俺達が拉致した奴隷のドワーフ共に百年かけて作らせたブツだ。魔化だけでなくルーン? だとかも混ぜてる、応用は多少利くだろうよ」

 

「ほう? それを容易に御披露目するとは、よっぽど技術を蓄えているようだなバザー」

 

「ロケシュ、勘違いすんな。これは偶然の産物だ、製造したは良いが俺達はさらさら使う気はない。ニンゲンになるなんて罰にも程があるぜ、想像しただけで震えちまう」

 

「それで……なに? その指輪を例の洞下人(ケイブン)にでも使わせるってこと? それで何をするのよ」

 

「情報を持ち帰らせるのが目的だ、ほらお前が前に話してただろ。大魔神が布教させたドウワ」

 

 バザーに言われ、ナスレネは思い出す。

 

「ああ、ツルノンガエシね」

 

「そうだ。ニンゲンは情をかけやすいからな、その洞下人(ケイブン)をどーも助けられましたあの時の亜人ですと言って向かわせろ。そんで音沙汰なく殺されたとなればそいつはニンゲンじゃねえと分かる。そうなれば俺達で袋叩きに向かうぞ」

 

「てことは、アイツが離脱を表明した今。その雌をこちらに出向させるのは無理だ、拉致るってことでいいよな?」

 

 バザーが目をやると一同が頷く。

 

「で? バザー、それでニンゲンであればあんた一人でやれるの?」

 

「当たり前だ、少し強いだけのニンゲンなら何度も相手してきた。あの国最強の戦士や弓使い、女兵士であの程度、難はねえ」

 

 カラカラと意気揚々と笑うバザー。

 

「なら次は山羊人(バフォルク)が先陣を切るということでいいな?」

 

 ロケシュはバザーに確認する。

 今回のニンゲン化の指輪という貴重な道具(アイテム)を用いるリスクのある作戦、そして次に行う大規模侵攻で二度目の大敗を重ねてしまっては組織として非常に大きな痛手となる。

 そこで今回の責任をバザーに押し付けるという算段だ。

 大敗したとしてバザーが殺されるか、失脚するかのどちらかだ。ロケシュとしてはどっちに転んでも良い。

 

 一方のバザーもロケシュの考えを理解していた。

 しかしバザーは勿論負ける気などなく、全てが上手くいくと睨んでいる。

 策謀を真っ向から受け入れる、それが豪王バザーだ。

 

「他は?」

 

 亜人連合というからには規則として二種族以上での作戦を前提としている。

 そこでバザーは周囲の長達に尋ねる。

 

「アタシは……いえ、行くとしましょう。私達魔現人(マーギロス)が務めるわ」

 

 ここで声を上げたのはナスレネだった。

 

「おお? 啖呵切ったな」

 

 バザーの案に乗るということは失敗が許されないのだ。

 失敗すればバザーと共に失脚への道が待っている。

 しかしナスレネは、この場の誰よりも例の黒騎士に興味を持っている。

 もしその黒騎士が洞下人(ケイブン)の言っていたように亜人であったら?

 となれば何としてでも接点を作り、彼の遺伝子を娘に受け継がせたいのだ。

 彼女は黒騎士と行為し、より強い種族を誕生させるべきだと睨んでいた。

 

「じゃあお前らに任せる、ヘマすんじゃねーぞ」

 

 翼人(プテローポス)が言う。

 彼の言葉は訳すと、ヘマして2匹共々地に落ちてこいという意味だ。

 

「そういやトブの蜥蜴人(リザードマン)にはまだ話をつけれねえのか」

 

「ダメだ。あいつらは外の事なんぞ興味すら持ってねえ」

 

「エルフは?」

 

「まだニンゲンとヤりあってるよ、そろそろ首都が間近らしい」

 

「ニンゲンの?」

 

「馬鹿言えエルフのだよ、敗戦まっしぐらだ」

 

「所詮は劣等種ね。」

 

「エルフは元から文化人気取りの日和見連中だからな」

 

「滅ぶべくして滅ぶ種族と言ったところか」

 

 

 そしてそろそろ解散となる頃合い、皆が洞窟を出始める。

 皆が去るのを見送り、ナスレネと作戦を考えるべく彼女と共に最後までその場に残っていたバザー。

 ナスレネが近づく。

「じゃあ始めようかい、あんたのところは」

 

 ゾクッ

 突如バザーの体毛が震え上がった。

 

「……バザー? どうかしたのかい?」

 

「いや、なんでもねえよ」

 

 

 なんだ今のは、

 

 なんで俺は震えているんだ

 

 汗が止まらねえ

 

「バザー?」

 

 ナスレネはこれから共に戦う(利用する)相手(道具)に気遣う。

 彼女の目を見たバザーは無理やり作った顔でガンを飛ばす。

 

「なんでもねえつってんだろ!」

 

「「……」」

 

 ナスレネは彼を見て不思議に思う。

 

 この雄。

 

 何かに怯えている。

 

 

 

 俺は何を感じ取っている。

 何を以て感じ取っている?

 

 

 足が震える、体が締め付けられている。

 

 なんの恐怖だ、なんの畏怖だ。

 

 

 圧倒的強者

 

 

 そんなものが実在するのか?

 

 頭が……割れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「亜人達は近年、連合軍を組織して我が国へ攻勢をしかけているのよ」

 

 数刻前の亜人との激戦を終えて、王都へと向かう馬車の中でモモンとケラルトは隣合って話し込んでいた。

 

「そうなんですね。やはり以前ペシュリアンさん達から聞いた通りです、ではどうして普段は仲の悪い亜人達が纏まれたんですか?」

 

「そうね、まず彼らは文明の発展というものが遅いの」

 

 ケラルトは外を見る。

 映るのは大自然と遠くに見える村村、そして整備された街道。

 

「発展……」

 

 彼女が見る景色をモモンは追う。

 

「彼らが強者だからか、はたまた私達が弱すぎるのか。私達人間と亜人では文明の差に大きな開きが出ているわ」

 

「亜人は統率されることを基本好まない、だから基本的に国家なんて大層ものは形成されないの。そうなるとどうなる? 飢饉が起きたら? 災害に見舞われたら?」

 

 モモンは悩むが良い答えが思い浮かばない。

 

 うーん。自分で働き出す? いや違うか、国家がないそして食べ物も簡単に手に入らない、災害が起きても補助がない。

 前の世界で経験してきたけどそれは違うもんな。

 なんだろう?

 

 モモンは頭を捻らせるがどうもしっくり来ない。

 

 それを見兼ねた彼女は答え合わせをする。

 

「自分達の生活が不安定となれば、することは1つ」

 

「略奪よ」

 

 モモンはその言葉を聞いてハッとした。

 

 

 

 

 

 

 それはナザリック地下大墳墓でやまいこさんとヘロヘロさんに見られながら死獣天朱雀さんと将棋をしていた時。

 

 ヘロヘロさんが口を開いた。

 

「モモンガさん、そう言えばそっちは大丈夫ですか? 最近、暴動が激しくなってきたんですけど、その影響でウチの会社巻き込まれまして……PCとメモリーが粗方破壊されて一部はパクられて散々ですよ」

 

「ええ!? 大変じゃないですか! 社内情報入ってますよねそれ!」

 

「はい。上の方で強制的に内部データ消去を測ろうとしてるんですが受け付けないらしくて……もうてんやわんやですよ」

 

「それ……ヘロヘロさんは事後処理とか……」

 

「あー、それは助かりましたよ。自分は被害受けた部署が全然違うので……ほんと隣の部屋だったのでこっちまで来られたらアイツらを酸で溶かしちゃうとこでした。」

 

「リアルでもスライムやってるんですか? ヘロヘロさん」

 

 モモンガはツッコミながら、ヘロヘロがこれ以上体を壊さなくてすんだことに安堵する。そして死獣天朱雀が駒を動かし、自分の番に。

 

「うわー、大変だね。最近うちの学校でも危険だからって色々登下校に規制かかってさー、距離的に来れない子も増えて……もーボク心配でーー!」

 

 やまいこはため息をつきながら、俺の両肩に手を回し寄りかかる。

 モモンガは駒を動かし、自分の番を終える。

 

「あ、モモンガくんそれやばくない?」

 

 やまいこが声をあげる。

 

「はい王手です」

 

「え!? ええ!? あ、あーー、見落としてた。」

 

「ドンマイですモモンガさん」

 

「どんま〜〜い……だよ!」

 

 

「先程の話ですがうちの一部の学生もそれに参加してますよ、最近は授業にすら来てませんので勿論単位はあげませんが。」

 

「なにーー! シバいちゃいなよ!! そんな生徒!」

 

「残念ながら手を出すとこちらが危ういので、しっかりと社会的制裁をあの子達には下します」

 

「天朱雀さんのところにもいるんですね〜結構いいとこの大学生なのに」

 

「それは何が目的なんです?」

 

「モモンガくんニュース見て無さすぎじゃない? 去年ほら東北の方で地震があったんだけど、それと台風が重なって食糧が不足してるの。国も備蓄を放出する気がないらしくて……」

 

「知らなかった……台風が来たのは知ってますけど」

 

「まあうちの生徒の運動参加はそれよりも前からですけどね、良いようにそれを利用してる側面がありますから何が正しいかは情報を集めてモモンガさん御自身が判断された方が良いかと」

 

 

 

 

 あー……なるほど。そういうことか。

 俺はあまりニュースを見てなかったけど実際俺の国でもそれが起きてたんだ。

 

「相手から食糧や生活品。労働力、武器、建物を奪うの。これは亜人だけでなく人間も同じよ。実際に東の果てにあるとされる人類国家もそれを行っていたらしいわ。古い文献と言伝だけで信用は薄いけれど」

 

 ある意味、それは自然の摂理なのかな?

 他者から全てを奪い、自分が幸せを獲る。

 野蛮だけど……なんだか否定もし切れない。

 それと東の果てにある国って……極東ってやつかな? よく天朱雀さんとかタブラさんが話す時に、東アジアを極東って言い表してたもんな。

 

「確かに文明レベルが低いとそっちのほうが効率良さそうですね」

 

 文明がそこまで発展せず基盤となる仕組みが存在しないと、他者から簒奪する方が容易なのは俺でもわかる。

 

 それを聞いたケラルトは興味深そうにしながらこちらを見る。

 

「へえれべるってそういう風に言い表すものなのね」

 

「あ、すいません」

 

 レベルは通じないんだった……相手に分からない俺たちの世界の言葉を口に出しちゃうの直さなきゃなぁ。

 

「いいのよ。私も勉強になるから」

 

「勉強ですか?」

 

 勉強? ……どういうことだ、俺達の言葉を知ってなにが勉強になるんだ?

 

「貴方がどんな場所から来たかは知らないけれど、未知のことが知れるのは大きいわ。情報は大切だもの」

 

 確かにその通りだ。情報はなによりも重要でそこから自分の行動を決めていく。

 彼女のような綿密な準備を行い、尚且つ慎重な性格であれば当然行うのがこの情報収集だろう。

 

 ほんと俺もユグドラシルなら普通にやってたんだけどなぁ。

 やらかしてるなぁ……俺。これを知られたらぷにっと萌えさんに何回怒られるんだろ。

 

「それと貴方意外と顔に出てるわよ、情報をうっかり漏らしてしまった。みたいなの」

 

 うわまたやらかしてる俺〜!! こんなことになるんだったら、もう人間じゃなくてアンデッドのままの方が良かったよ! 骸骨の方が表情変わらないしさ!!

 

「貴方は何でも正直に受け答えしそうで嘘をつけない人柄に見えるけど、他人に無闇に情報を与えてはいけないという教育でもされてきたのかしらね」

 

 け、ケラルトさん俺の心というか記憶読んでる!?

 すごい言い当てて来るんだけど!? 怖!!

 

「いいのよ、無理に素性を話さなくても。逆に私が知ってしまうと危険性があるかもしれないし、しばらく平和に過ごしたいなら何も存ぜぬで貫きなさい。一応王都に戻ったら私の方で貴方の身分は作っておくから」

 

「え? 身分っていうのは……??」

 

 身分? 何故に? 俺は騎士階級? とかになるんじゃないのか? 天朱雀さんから歴史系の話を聞かされた時、庶民はそんな感じだと聞いたぞ?

 変わり種だと貴族とか。貴族と騎士は表裏一体みたいな話も聞いたからなぁ。

 だとすれば貴族? 貴族と騎士を兼用は違和感ないけど……いやいやいや貴族とかどうしてそんな急に大それた話になるんだ? そんな訳

 

「存在しない貴族を適当につくって、貴方に当てるわ」

 

 あった!?? えええー!??

 

「はい??? 貴族!?」

 

「だって貴方の道具(アイテム)が外で万一にでも見られたら終わりよ?」

 

 たっ……たしかに……まだ貴族の身分であればある程度レアリティの高い道具(アイテム)を持っていても理由は後から着いて来る。

 

 うん? 道具(アイテム)?

 

「あ、そういえば! グスターボさんに任せたきりだった!」

 

 あちゃーーー!!! あの後回収するの忘れてたよ!!

 

「……はあ。ちゃんと管理しなさいよ、軍管内ならどうにでもなるけれど外でそんなことされたら溜まったものじゃないから」

 

「すっ……すいません。今後は気をつけます」

 

「貴方は意外と抜けてるわよね、元からそういう性格?」

 

「どうなんでしょう……」

 

 ぷにっと萌えさんは、昔から情報戦を重要視していてギルマスの俺は彼の講義をみっちりと叩き込まれていた。

 相手には最低限の情報を与えさせ、それ以上の情報を与えず踏み込ませない。最低限というのも偽装を徹底した上での内容だ。

 

 ユグドラシルが終わる時まで、その意識を切らしたことは無かった。

 でも何故かケラルトさんには勝手に口が開いてしまう。

 これはここがユグドラシルとほぼ無関係の世界だというのが関係しているだろう、今はこの世界の人間として生きようとしているがその前はリアルとゲームの区別もつかなくなっていた。

 それ所か俺にとってはゲームがリアルだった。

 この世界は違う、皆が普通に生きている。

 俺にとってのリアルがリアルになった。

 それだけのことだが、今まで感じたことの無い安心感があるんだ。気が張らない、少しのストレスも感じることもない。

 ましてや孤独感もない。

 人が傍にいる。

 

 鈴木悟は一層、人生観を改変していく。

 この世界に転移し、愛したギルドを大切にしつつも自分も大切にする。

 現実から逃避することはせず、現実を受け止める。

 普通のことだが、彼にとっては大きな変化だ。

 

 

 

 話を終えた2人は外を眺めながらゆったりと王都到着を待っていた。

  「王都まであと2時間、少しは寝てもいいのよ?」

 

 ケラルトは朝早く起き、亜人達と戦ったモモンを気遣う。

 彼女から見ても彼は元気そうで汗ひとつ流しているような素振りがないが、立場もあって彼にはしっかりと休息して欲しいのだ。

 

「そちらこそですよ。ケラルトさん、寝不足なんでしょう?」

 

「あら? そう見える?」

 

 一見分からないが、目をこらすと隈を化粧で隠しているのが分かる。

 

 あんまり女性のメイクを観察するもんじゃないとは思うけど……これぐらいはいいよな。

 

「顔はお綺麗なので見ては分かりませんよ、でもここ数日過ごしてケラルトさんが多忙なのは何となく分かってますから。」

 

 モモンはまっすぐ彼女を見据える。

 

「……そう。」

 

「それに俺はケラルトさんみたく頑張ってる人には報われて欲しいんです。このまま体が悲鳴をあげて、体調が悪化するとかは勘弁して欲しいんです」

 

 ヘロヘロさんのような人を増やしたくないんです。

 ヘロヘロさん、これでいいですよね。

 

「優しいのね、でも私にはやらなきゃならないことがあるの。それが終わるまで辛抱しないと」

 

 ケラルトはそう言いながらモモンの目を見るが……。

 

「……」

 

 彼の真っ直ぐな瞳に根負けし、仕方ないと思いながら彼の肩に頭を寄せた。

 

「でも今日は少しだけ休ませてもらおうかしら」

 

 それから彼女はしばらく男性に肩を借りて寝るという初めての出来事に緊張して眠れていなかったが、自然といつの間にか眠っていた。

 

 

 

 

 

 

 ヘロヘロ「……モモンガさんそれはいいですけど、だからといって自分を踏み台に美女とイチャつくのは許しませんからね!!!」

 

 ペロロン「俺の方がモフモフしてて寝心地いいですよ!! しかも翼をブランケット代わりにも……! モモンガさんなんて骨のくせに! あっもう骨じゃなかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 離れた地

 

「占星千里からの報告は真か?」

 この大陸で最も巨大な神殿の中、高位の神官達が会議を開いていた。

 人類国家最大であるスレイン法国である。

 

「はい。実に四千の亜人種を1人の黒騎士が蹂躙したと」

 

「これは良き情報だ、圧倒的な力を持つ人間の出現は人類の明日に光をもたらす」

 

「しかし場所が……ローブル聖王国」

 

「彼の国は四大神信仰を続けており、我が国とは溝が深まるばかり」

 

「その人物は、聖王国の騎士なのか?」

 

「それは現在調査を始めた所でして不明です」

 

「調査ですか、それは水明ですか? それとも風花を?」

 

「後者ですな、潜入任務を主とする風花でなければあの国への干渉は難しい」

 

「情報戦の水明聖典では分が悪いのだろう」

 

「ケラルト・カストディオでしたかな?」

 

「はい。彼女はローブル聖王国の神官団長であり、聖王女の忠臣。それ故に防諜への対策が厳重に敷かれております」

 

「特に中央政府の情報は第四位階魔法と数多の位階魔法を組み合わせて全て秘匿されております」

 

「更には個としては左程力を発揮しない微力なタレントを集め強固な防諜力を築いているのでしょう?」

 

「相も変わらずの凄まじい徹底ですな」

 

「仮想敵国の要人ではあるがその様な逸材はこちらに欲しいものだ」

 

「基本的に我々が聖王国の情報を手に入れるには聖王国南部の貴族や有力者を介すしかありません」

 

「確かに、であれば風花が賢明ですな」

 

「その黒騎士が我々人類にとって益となる存在であれば良いのですが……」

 

「黒騎士については厳重警戒しつつ、勧誘の手筈を整えましょう。予算案も通します。」

 

「「「異議なし」」」

 

 

「それでは次の議題に進みます……」

 

「リ・エスティーゼ王国における麻薬流出に関しますは……」

 

 

 

 

「モモン、どうだ初めての馬車は?」

 

 馬車から降りるとレメディオスが待っていた。

 

「非常に新鮮で貴重な経験でしたよ」

 

「それは良かった」

 

 彼の人生初馬車が良いものとなれたことに、ふふんと胸を張るレメディオス。

 そこにモモンの後ろからケラルトが降りてくる。

 

「あらお姉様」

 

「おおケラルト、うん?」

 

 彼女をみてレメディオスは異変に気づく。

 

「なにかしら?」

 

「だいぶ優しい顔になったな」

 

「なによ」

 

「まあゆっくり休めたようで安心した! 何したかは知らんがよくやったぞモモン!」

 

「はい……!!」

 

 そこからモモンはレメディオスに先導されながらケラルト、従者、護衛と共に王都の街を歩いていた。

 

「これが首都……」

 

「ああそうだ、ここが我がローブル聖王国の首都! ホバンスだ!」

 

 周りを見渡すと多くの商人とそれに立ち寄る主婦、走り回る子供達がいる。

 そして、ふと正面を向くと巨城が見えた。

 

「見えたかモモン! あそこにあるのが我らが聖王女! カルカ様がおられる王城だ!」

 

 そう叫ぶと、モモンが遠目からじっくりと見るまもなくレメディオスはモモンの手を取り走り出した。




大変お待たせ致しました!
最近は諸事情により忙しく疲れており、中々書けませんでしたがやっとのことで筆を進めることが出来ました!
文章のほうも出来るだけ表現を増やし以前より見やすいのではないかと思います!
ご感想を頂けますと励みになりますのでぜひ!
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