Imperial Cavalry   作:クマぴょん

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【第一話 老騎兵】

 一九三九年九月。ポーランド侵攻によって始まった世界大戦は瞬く間に火の手が広がった。空を切り裂く航空機。地面を揺らす戦車。轟き叫ぶ兵士たち。一国の野望によってポーランドやフランスなどの大地がかの国に落ちた。だが、かの国に持久力はなかった。ソビエト連邦に侵攻していた際は絶頂期に達しており、日に日に衰退していった。東部戦線ではクルクス戦車戦を最後に。西部戦線ではバルジの戦いを最後にかの国の戦車戦は終わりを告げる。今日はかの国の戦車部隊の話。

 

 時は戻って一九三九年八月——。開戦前の狼煙が上がる直前のドイツ。かの国は複雑な政治闘争によって建国したという成り立ちを持つ。そんな国が戦争をするというのだ。そんな戦争に十代の若者も参加する。普通は些細なことだが、それでも戦場に立たせるのは気が引けるというもの。これからの頭痛のタネに悩まされる彼こそこれから少年少女たちを導く第一三戦車大隊「皇后竜騎兵(こうごうりゅうきへい)」の大隊長、ゲオルク・フォン・ブリュージュ。階級は中佐だが、先の大戦に騎兵で参加していたことから「ブリュージュの老騎兵」という悪態に匹敵するほど呼ばれている。ただ、そんなことでは貴族領主は怯まず。彼は好きなように呼ばせている。問題はそれではない。彼の本来の頭痛のタネは、とある部下が優秀すぎて彼が霞んで見え、グデーリアン長官とその部下の板挟みにあっている。

「参ったなぁ・・・」

彼の口癖が彼を包む。だが口癖では彼を庇い切れない。そうすると——。

コンコン。扉を叩く音が彼の耳に届いた。恐らく”彼女”だろう。彼の秘書官を通されているのなら帰らせるわけにもいかない。通すしかないだろう。

「入っていいぞ。」

「失礼します。」

”彼女”が噂の優秀な部下、ステファニー・ウィンターだ。少女とは思わせないクールで冷酷な姿だ。ただ上官である彼は悟られないようにふるまった。

「君がステファニー・ウィンター少尉だね?」

そう言われたがステファニーは押し黙ってしまう。

「少尉?」

「い、いえ何でもありません。」

不審だな・・・。命令に忠実かと思ったが、なんかソワソワしている。

「素直に申せ。ここでも無礼講だ。」

「で、では・・・上官がみすぼらしく、兵士たちは戦闘前なのに疲弊している。大隊として機能していないものかと・・・我ら一団はそう思いました。」

 ——なるほどね。そういう感じか。まぁ、他の戦車大隊よりも戦車はあんまり配備されてない。具体的に言えばⅢ号戦車の配備は滞っており、大隊長用のⅢ号戦車しかない。第一三戦車大隊のほとんどが、Ⅱ号戦車かLT-35、LT-38の軽戦車しかいない。主力がこれでは・・・とは思ったが、戦いが無かっただけ良かったとも言えた。

 また兵士たちが疲弊しているのは我らが越境越えの尖兵で、指令書から読み取れる限りずっと演習してきた。オーストリアやズデーテンも無視してひたすら酷な演習で兵士たちを叩き上げた。演習によって一端の兵士になったとは言え、戦争になったらわからない。この子たちもだ。

「言いたいことは分かった。たが・・・ここでは指令書と命令がすべてだ。」

「・・・はいっ!」

一瞬の間があったがなんとか返事をもらえた。

「じゃあ、ここの部隊の習わしがある。」

「・・・失礼ですが無駄では?」

「まぁそう言うなって。ちょっとこっちにこい。」

ブリュージュはステファニーを手招いた。ステファニーは困惑しつつもブリュージュのデスク前に立った。ブリュージュのデスクには、先の演習の結果や戦略性のある地図が広がっている。

 先の演習ではブリュージュ率いる戦車小隊が伏兵を看破したものの、直後の戦車と砲兵の波状攻撃で負けてしまった。演習後にブリュージュが精査したが結論が出ないまま終わってしまった。そこで目の前にいる新人戦車兵、ステファニーの知恵が欲しかった。ブリュージュは説明を始める。

「最初は道なりに進んだが、伏兵がいる可能性があった茂みに榴弾を叩き込んだら装甲車が出てきて叩き潰した。周囲を警戒して前進した。だが、長官は伏兵を看破するだろうと解りきっていた。砲兵と戦車による波状攻撃で我々は撤退せざるを得ない状況になった・・・。ここまでで何か読めるか?」

「前進する際の配置は?」

「単縦陣だ。」

「それでは側面が無防備です。最低でも複縦陣にすべきです。」

「・・・誰に教わった?」

「士官学校で。」

ステファニーのきりっとした顔でブリュージュを見つめる。やれやれ・・・私は彼女の御守りではないのだが・・・。

 ステファニーがそう答えたが、ステファニーは納得がいかなかった。目の前にいる上官は戦闘教義やら戦車がなんたるかを学んでいない。ステファニーが思うに、我々が配属される先はグデーリアン長官が率いる戦車連隊と見ていたが・・・。まさかⅢ号戦車の配備が進んでいない戦車大隊に放り込まれるとは思ってない。ここは単なる戦車大隊ではない。懲罰大隊だ。そうステファニーは思った。

「・・・なるほど、君の戦術眼は素晴らしいものだ。報酬に私のⅢ号戦車を持っていっていい。」

「今・・・なんと?」

「聞こえなかったか?あのⅢ号戦車は君のモノだ。この指令書を持っていけ。整備は大隊長お墨付きの整備兵を備え付ける。戻っていいぞ。」

「仰せのままに。」

ステファニーが部屋から出て行こうとすると・・・。

「あぁ、そうだ。戦場になったら君の持つ戦術眼だけでは足りん。鍛錬を強く進めるよ。」

ステファニーは彼の部屋から出て、そのまま外に出るとステファニーが連れて来た少年兵少女兵がいた。皆、ブリュージュの老騎兵に怯えていて、口々に彼には逆らうなと言っている。でもステファニーは違った。彼らから見るブリュージュは古典派の老騎兵で暴君という話も聞いていたが、ステファニーから見たブリュージュは単なる暴君ではなかった。戦闘教義や戦車というものがわかっていないと思っていた。だが筋はちゃんと通すし、グデーリアン長官の伏兵戦術を看破するぐらい戦術眼はある。そんなブリュージュはただの暴君ではない。老騎兵という名に相応しい経験がこの戦車大隊を率いているのだろう。ステファニーは少年少女の群れをかき分けて、卒業同期のノア・シュミットを探した。

 シュミットはステファニーたちが乗ってきたLT-38に乗車していた。ステファニーはシュミットに声かけた。

「シュミット、降りてくれる。」

「あいよ~」

シュミットの気の抜いた返事に少しばかりうんざりするステファニー。

「軍人なんだからもっとしっかりしなさい。」

「戦争が始まればその気になれるよ。ここは他の隊と違った雰囲気だし、仲良くなりそうにもないじゃんか。」

シュミットの言葉にむすっとするステファニー。ベラベラと喋るシュミットにステファニーは目線を送るが気づかないシュミット。深いため息をついてシュミットを連れていく。

「そういやあの大隊長とは会ったか?あれ、色んな意味でやばくないか?」

「そう?私にはそうは見えないけど・・・シュミットたちはそう見えるのか?」

シュミットはステファニーの進路を遮って言う。

「そりゃあそうだろう。老騎兵という悪い異名を持つ佐官がここの大隊長とは思ってないよ。あぁ・・・俺たちの運も尽きたんじゃないか、って思うよ。」

「シュミットからはそう見えるのね。」

ステファニーの含みのある言葉に疑問を抱くシュミット。

「お前はそう思ってないみたいだな。」

「ええ、グデーリアン長官の伏兵を看破するぐらい鋭い人間だと思う。」

「たまたまじゃないのか?」

「そうだとしたらこれからが困る。」

進路を遮っているシュミットをどかして歩き始めるステファニー。それを追うシュミットだった。

 歩いて数分。元大隊長の戦車であるⅢ号戦車E型が佇んでいた。ステファニーがⅢ号戦車の装甲に触れる。

「これがⅢ号戦車・・・。」

頼もしい装甲であったが、ステファニーは不安を抱えていた。この頃のⅢ号戦車は改良に追われていて、主力戦車とは程遠い戦車であった。耐えられるか?耐えられないのか?わからない。でも期待するしか今はない。

「少尉、次からはそれで戦え。」

ステファニーの背後から大隊長のブリュージュの声がした。ステファニーとシュミットは慌てて振り返りブリュージュに対して敬礼した。ブリュージュは敬礼を解かせた。

「俺に対して敬礼はいらん。所詮仲人だからな。」

「・・・はい。」「はいっ!」

ステファニーが落ち着いて返事するものの、それをかき消すようにシュミットの返事がつんざく。

「いい返事だ。だが気張り過ぎて死ぬなよ。指令書には目に通せよ。じゃあな。」

「「はいっ!」」

ブリュージュが葉巻を片手に去っていった。シュミットはステファニーに問う。

「なぁ・・・本当にやれると思うか?」

シュミットの問いにステファニーはブリュージュの言葉に落胆しつつも答えた。

「やるしかないでしょ。」

「・・・だよなぁ。このⅢ号戦車に何が出来るんだろうな。」

Ⅲ号戦車の前に二人は佇むしかなかった。

 

 夜の静けさ。遠くの砲撃音。空を切り裂くエンジン音。間もなく開戦の狼煙が上がる。それまでにステファニーたちは生き残れるのか?そして魔の戦争はどこまで彼女たちを引きずるのか?

 

 

 

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