Imperial Cavalry   作:クマぴょん

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【第四話 アルデンヌを越えて】

 ——ポーランドに侵攻すると、ドイツ軍は考え始めた。今後東欧に入る前に西欧戦線を解決し、第一次大戦の二面作戦で苦境に陥った経験を繰り返してはならない。ポーランドの侵攻作戦の成功により、ドイツ軍は「電撃戦」に対する自信を一層深めることとなった。ドイツ軍の次なる目標は、西のフランスであった。

 刻は一九四〇年五月。数ヶ月に及ぶ論争と計画の末、ドイツ軍はついに大挙して西への進撃を開始した。

 ホフマン、ベッカー、ブリュージュが地図を見ながら、これからどうするかの選定を行っていた。まずはホフマンがマジノ線を指差して言う。

「——マジノ線。フランスがわが軍に備え、両国の国境沿いに一二年を費やして築いた超大型要塞。」

「そこの防衛線は異常なまでに硬い。正面突破はほぼ不可能だ。我々は泥沼にはまり、身動きが取れなくなる。自慢の機動性の優位も失われるのも解っているはずだ。」

ブリュージュは顔をしかめた。マジノ線のせいで迂回が決まったようなものだ。ベッカーが続く。

「大隊長、ここは迂回するしかないでしょう。低地諸国を占領し、そこからフランスに攻め込む。」

ベッカーの言う通りだ。それしか迂回路の選択肢は残されてない。

「マジノ線の目的はわが軍の侵攻ルートを制限し、我々の進撃時間を引き延ばすことです。さらにフランス精鋭部隊が集結している情報もありました。」

「また、低地諸国からの越境を余儀なくされ、大規模作戦に不向きなアルデンヌの森でフランス精鋭部隊の相手させられる。」

「相手の包囲網が完成したら我々は森を出ずに殲滅されるでしょう。」

ホフマンが立て続けに言った。あれもダメ、これもダメ。もはやチェックメイトと言ってもいいぐらいにだった。そこで切り出したのはブリュージュだった。

「突破口がなければ、自分で作り出す。ほらここを見ろ。アルデンヌとマジノ線には丘陵がある。そこの谷間を沿っていけばいい。指令書が言った通りだな。」

ブリュージュは指令書を広げてホフマン、ベッカーの両名に見せた。

 指令書を簡単にまとめると、

——五月九日に北にいる別働隊がオランダ、ベルギーの各要塞に陽動をかける。

——敵軍が陽動作戦に気を取られている最中に全力でアルデンヌを越えて、スダンの街を確保せよ。

というものだった。ベッカーが不思議そうに首をかしげる。

「ま、待ってください。アルデンヌの森はマジノ線に隣接しているのでは?そこから敵軍の砲撃をかわしながらでは・・・。」

ベッカーの言う通りだ。だがリスクは冒さねばならない。相手が予測する速度を上回り、敵の反応が間に合わないうちに森を通過する。このルートで進撃すれば、我々は電撃の勢いでマース川に突撃ができる。一歩先の敵の領内で陣地を固め、敵の援軍に対応することが出来る。目標を達成すれば時間に余裕が出来、フランス線を優位に運べるだろうとブリュージュは両名に説明した。

「わかっています。しかし——」「ですが——」

ホフマン、ベッカー両名は言葉が詰まる。

「空軍が全力で支援してくれる。この戦いは我々が西欧に入る足がかりとなる。決して負けるわけにはいかない。」

ブリュージュは空軍という激励を放つが両名は危険すぎる賭けではないかと言う。そこでブリュージュはポーランド線を思い返した。

「我々はわずか数週間でポーランドを終わらせた。ドイツの機動力は世界一だという何よりの証拠だ。今回も我々は不可能を可能にして、奇跡を産み出すのだ。」

そしてブリュージュは最後に、

「我々には出来ると信じている。」

彼の激励で第一三戦車大隊「皇后竜騎兵」を含むA軍集団はアルデンヌの森に挑むこととなった。

 

「アルデンヌは越えられない」

そう言われていた。少なくとも、士官学校ではそう教えられた。深い森。狭隘な道。装甲部隊の行動には適さない地形。理論上、戦車は機動力を失い、各個に分断される。

——だから、進まない。それが結論だった。

 だが今、ステファニー・ウィンターはその中にいる。Ⅲ号戦車E型の狭い車内。低いエンジン音が、一定の振動として全身に伝わってくる。視界は限られている。照準器の先に見えるのは、折り重なる木々と、細い泥道だけ。

「・・・本当に通るのか、これ?」

エリアスの声が、わずかに緊張を含む。

「通る。」

ステファニーは短く答えた。

「通らせる。」

理屈ではない。すでに、動いている。それだけが現実だった。車体がわずかに揺れる。履帯がぬかるんだ地面を噛み、重い鉄の塊がゆっくりと前へ進む。

Ⅲ号戦車E型。主力戦車。安定した火力と装甲。

だがこの森では、その重量がわずかに足枷になる。前進はできる。だが——遅い。視界の先、木々の合間をすり抜けるようにして、軽い影が走る。Ⅱ号戦車。さらにその奥には、LT-38の姿も見える。小さく、速く、迷いがない。枝を避け、地形を読むように進んでいく。

——騎兵。その言葉が、自然と浮かぶ。先頭にいるのは、ブリュージュ隊だ。姿ははっきり見えない。だが、分かる。あの動きは、あの男のものだ。

「・・・速いな。」

シュミットが呟く。

「軽いからな。」

リサが短く答える。

「いや、それだけじゃない。」

ステファニーは視線を前に固定したまま言った。

「迷いがない。」

進むべき道を、最初から知っているような動き。地図ではない。経験でもない。

——感覚。

「ついていくぞ。」

静かに命じる。

「距離を保て。離れるな。」

「了解。」

サンドラが応答し、無線に短く指示を流す。

Ⅲ号戦車隊が、ゆっくりと隊列を維持しながら進む。重く、確実に。その前を、軽戦車群が切り開く。枝を折り、道を作り、森を“通れる場所”へと変えていく。

「教本にはなかったな。」

エリアスが小さく笑う。

「当然だ。」

ステファニーは言う。

「理論では、ここは進めない。だから進む。」

その言葉に、誰も反論しなかった。履帯が回る。エンジンが唸る。森は、確かにそこにある。

だが——それでも部隊は、止まらない。前へ。ただ前へ。

——騎兵は、止まらない。そして今、その思想は、森すらも、越えようとしていた。

 

 森が途切れた。視界が一気に開ける。木々の壁が消え、その先に広がっていたのは——平地。そして。

「・・・敵だ。」

シュミットの声が低く落ちる。

道路沿いに築かれた陣地。

土嚢、対戦車砲、機関銃座。

完全な防御配置だった。——待ち構えている。次の瞬間。閃光が切り裂く。

「来るぞ!」

砲撃や爆発が先頭の地面を抉り、土煙が一気に広がる。

「対戦車砲、複数!」

サンドラの声が無線に重なる。

だが——

「止まるな!」

別の声が割り込んだ。ブリュージュだ。視界の先、Ⅱ号戦車隊がすでに加速している。軽い車体が、煙の中へ突っ込んでいく。

「突撃か・・・!」

エリアスが歯を食いしばる。

「違う。」

ステファニーは即座に言う。

「崩しに行っている。」

その言葉の通りだった。Ⅱ号戦車は一直線には進まない。左右に散開し、敵の射線を分散させる。LT-38がその隙間を縫い、さらに奥へ。敵の火力が分散する。だが——

「被弾!」

一両が火を噴いた。そのまま速度を落とし、停止する。もう一両。履帯が吹き飛び、車体が横に傾く。

「くそっ!」

シュミットが声を漏らす。それでも——止まらない。残った車両は、そのまま前進を続ける。まるで、最初からそうなると分かっていたかのように。

「・・・」

ステファニーは、目を逸らさなかった。——あれが、代償。それでも進む。

「前進する。」

静かに言う。

「ブリュージュ隊に続け!」

「了解!」

エリアスがスロットルを踏み込む。

Ⅲ号戦車E型が、重い唸りとともに前へ出る。

「砲、準備!」

「装填完了!」

「正面陣地——撃て!」

発射した後の轟音が鳴り響く。砲弾が土嚢を吹き飛ばし、陣地の一角を崩す。

「次弾、右!」

再装填、即発射。敵の火力がわずかに鈍る。

「そのまま押し込む!」

Ⅲ号戦車隊が前進する。装甲で受け、火力で叩く。先ほどとは逆だ。軽戦車が崩し、主力が押し潰す。

「いいぞ・・・!通る!」

シュミットの声に、わずかな高揚が混じる。だが——

「油断するな。」

ステファニーは即座に言う。

「まだ崩れきっていない。」

その瞬間。右手から閃光が飛び交う。

「右から!」

着弾し衝撃が車体を叩く。

「被弾!」

「耐えた!」

「撃ち返せ!」

必死に抵抗する。煙の中で、敵の火点が一つ沈黙する。

「前進を維持!」

「止まるな!」

言葉が重なる。それはもう、命令ではなかった。反射だった。戦い方として、体に染み込んでいる。やがて、敵の射撃が、明らかに乱れ始める。一つ、また一つと火点が消えていく。そして——沈黙。煙の中、動く影は少ない。道路は、開かれていた。

「突破したな。」

シュミットが呟く。ステファニーは、前方を見続けていた。その先。炎上したⅡ号戦車。横転したLT-38。そして——まだ動いている車両。

 ブリュージュ隊は損害を出しながらも、確実に前へ進んでいる。——止まらない。その背中を、もう一度見る。

「・・・行くぞ。」

静かに言う。

「まだ終わりじゃない。」

Ⅲ号戦車が再び動き出す。その後ろから。確実に、続いていく。

 

——アルデンヌを抜けたスダンの街。

 最初に、それは“違和感”として現れた。煙の向こう。崩れた陣地のさらに奥。動かないはずの影が、ゆっくりと動いた。

「なんだ、あれは?」

シュミットの声が、わずかに掠れる。次の瞬間。そいつから砲撃してきた。直後に一両のⅡ号戦車が、ほぼ同時に炎に包まれた。

「直撃!」

「何が撃った!?」

煙が流れる。その奥から、姿を現す。巨大な車体。厚い装甲。低く、重いシルエット。

「重戦車か。」

ステファニーが低く言う。だが、それだけでは足りない。

「B1……いや、B1bis!」

誰かが呟く。それは、明らかに異質だった。対戦車砲を浴びても、止まらない。機関銃弾は弾かれ、砲撃すら弾く。

『撃て!』

ブリュージュの無線。短く、低い声。複数の戦車が一斉に砲撃する。そいつに対して着弾し爆炎が包まれる。だが——

「効いていない。」

煙の中から、再び砲塔が動く。次の砲撃。また一両、吹き飛ぶ。

「くそっ!」

エリアスが歯を食いしばる。

「側面を取る!」

ステファニーが即座に言う。

「機動で崩す!」

Ⅲ号戦車が旋回し、回り込もうとする。だが。地形が、それを許さない。森を抜けたばかりの地面はぬかるみ、道路は狭く、回り込む余地が少ない。

「遅い!」

「回りきれない!」

その間にも、B1bisは前進を続ける。まるで、こちらを無視するかのように。

「・・・」

ブリュージュは、無言でそれを見ていた。

動かない。

命令も出さない。

ただ——見ている。再び奴が砲撃する。また一両、炎上。その光が、彼の顔を照らす。

『閣下!』

誰かが呼ぶ。だが返事はない。——計算している。

いや。——違う。測っている。

『足りん。』

ようやく口を開いた。低く、重く。

『火力が足りん。』

それはB1を褒める言葉だった。

『正面は抜けん。側面も、この地形では難しい。』

ステファニーが息を呑む。あの男が。“できない”と判断している。

『撤退しますか?』

誰かが言う。長くはない沈黙。だが、十分だった。

『退かん。』

ブリュージュは言った。

『止まれば、終わる。』

だが、次の言葉は、これまでと違った。

『だが・・・』

わずかに、間があった。ほんのわずか。それでも。確かに、あった。

『これは、我々の戦いではない。呼べ!空軍を呼べ!』

サンドラが即座に無線機に手を伸ばす。

『航空支援、要請します!』

その声が、戦場に広がる。B1bisは、まだ動いている。止まらない。だが——それを止める方法は、別にある。ブリュージュは、視線を外さなかった。その巨大な敵を、最後まで見据えたまま。

 

——数分後のこと。

「——航空支援、接近中!」

サンドラの声が一段強くなる。

「識別信号確認、スツーカ隊だ!」

その瞬間。空から、音が降りてきた。低く、唸るようなエンジン音。次の瞬間——甲高い、引き裂くような音。

「・・・ッ!」

シュミットが顔を上げる。

「あれは・・・来た!」

無線が一斉にざわめく。

『全車、空に注意!』

『来るぞ、味方だ!』

『対空射撃は不要、識別確認済み!』

空を裂くように、急降下してくる影。

Ju 87 Stuka。サイレンの叫びが、戦場を支配する。

「すげぇ・・・。」

エリアスが呟く。

「見とれるな、目標確認!」

ステファニーが即座に制す。

「敵重戦車、依然稼働中!」

煙の向こう。B1bisはまだ動いている。砲塔が、ゆっくりとこちらを向く。

「まだ撃つ気だ!」

『各車、散開しろ!巻き込まれるぞ!』

無線が飛ぶ。

「右に振れ!」

「了解!」

三号戦車が泥を蹴り、わずかに位置を変える。

その瞬間、スツーカが降下。一機。二機。黒い翼が連続にして現れた。

「来るぞ!」

爆弾が投下された。

「伏せろォ!」

地上に刺された轟音が鳴り響く。地面が跳ねる。車体が大きく揺れる。

「衝撃!」

「持ちこたえろ!」

爆炎が、すべてを覆う。無線が一瞬、途切れる。ノイズだけが残る。

「・・・サンドラ、通信は!」

「現在復旧中、待って!」

数秒。長い沈黙。やがて——煙が流れる。

「見えるか?」

ステファニーが低く言う。

「確認中・・・。」

シュミットが照準器を覗く。

「動かない。・・・止まってる!」

サンドラが叫ぶ。

「敵重戦車、反応なし!」

『こちら第2小隊、視認!完全停止だ!』

『B1bis、沈黙!』

無線が一気に活気づく。

「撃破確認。」

ステファニーが静かに言う。その言葉で、緊張がほどける。

「はぁ・・・助かった。」

エリアスが深く息を吐く。

「正直、どうなるかと。」

リサも肩の力を抜く。シュミットが苦笑する。

「三号でも抜ける気しなかったぞ、あれ。」

「時間がかかる。」

ステファニーが短く答える。

「その間にやられる。」

無線の向こうでも、安堵の声が混じる。

『助かったな。』

『あれは無理だ。』

『航空隊に感謝だ。』

そのとき——

「——浮かれるな。」

低い声が割り込む。一瞬で、空気が締まる。ブリュージュだ。

「今のは、我々の勝利ではない。」

無線越しでも分かる。全員が黙る。

「我々だけでは、止められなかった。」

誰も反論しない。

「だが——だから止まる理由にはならん。」

その言葉が、重く落ちる。

「戦場は変わる。」

『・・・』

「通用しない相手は、必ず現れる。」

ステファニーは無線機に手を置いたまま、聞いている。

「そのときに考えろ。使えるものは、すべて使え。」

空を見上げるとスツーカが去っていく。

「地上だけが戦場ではない。」

皆が沈黙する。やがて——ステファニーが応答する。

「了解。」

短く、確かに。無線の向こうで、他の車両も続く。

『了解。』

『了解だ。』

ブリュージュが最後に言う。

「前進する。」

それだけだった。エリアスが頷く。

「行くぞ。」

履帯が回る。三号戦車が動き出す。撃破されたB1bisの横を通り過ぎながら。シュミットが小さく呟く。

「化け物だったな。」

「違う。」

ステファニーが静かに言う。

「敵だ。だが倒せる。」

戦車は前へ進む。止まらずに。

 

——スダンの街にて。

 森を抜けた先で、部隊は一時停止した。生き残った面々で即席の野営地を作った。戦車は間隔を空けて並べられ、整備兵が無言で動き回っている。履帯の泥を落とし、損傷箇所を確認し、使えるものだけを残していく。空気は重かった。勝利の余韻はない。

ただ——生き残ったという事実だけがあった。ステファニーは、Ⅲ号戦車の側面にもたれながら周囲を見ていた。残っている車両は、明らかに少ない。欠けた隊列。空いた間隔が、それを物語っている。

「減ったな。」

シュミットが小さく呟く。エリアスが苦く笑う。

「減った、で済めばいいけどな。」

リサは何も言わない。ただ砲身を見つめている。サンドラが無線機を軽く叩く。

「雑音が多い。回線も混んでる。」

それぞれが、それぞれに疲れていた。そのとき——

「もう、やってられない!」

ぽつりと、誰かが言った。一人ではない。別の場所でも、同じような声が上がる。

「次は何だよ・・・。」

「重戦車の次はなんだ?」

「こっちは何両残ってると思ってる。」

抑えていたものが、少しずつ漏れ出す。それは恐怖ではない。——疲労だ。

連続した戦闘。

止まらない前進。

そして、減っていく仲間。

ステファニーは、それを止めなかった。止められるものではないと分かっていたからだ。ただ、聞いていた。その現実を。そのとき、サンドラが無線に反応する。

「あ、新しい情報・・・。」

全員の視線が集まる。

「今回暴れまわっている敵指揮官——シャルル・ド・ゴール。」

その名が、空気を変えた。誰も軽くは受け取らない。

「機甲部隊か・・・。」

ステファニーが低く言う。

「その可能性が高い。」

つまり——次もまた、装甲戦。しかも、指揮官付き。

「冗談だろ!」

シュミットが笑う。だが、その笑いは乾いていた。

 そのとき、重厚な足音が聞こえる。全員が振り向いた。全員の視線が行き着く先にゲオルク・フォン・ブリュージュが立っていた。疲労しているはずなのに疲労は隠している。それでも——立っているだけで、空気が締まる。

「聞いたな?」

短く言う。誰も答えない。必要がないからだ。

「敵は機甲部隊を出してくる上に正面から来る。」

その言葉に、わずかなざわめき。

「・・・また、か。」

誰かが呟く。ブリュージュは否定しない。

「だからこそだ。我々が行く。」

その一言で、空気が変わる。ステファニーが顔を上げる。

「閣下!」

「ウィンター隊は後方に回れ。損耗が大きい。」

視線が、車両へ向けられる。誰も反論できない。

「だが——」

ステファニーが言いかける。

「命令だ。」

強くはない命令だ。だが、”ここでは”絶対だった。ステファニーは、ゆっくりと息を吐いた。

「了解。」

と答えたその瞬間——ブリュージュはすでに動いており、Ⅱ号戦車の方へ向かっていた。

シュミットが小さく言う。

「また、あの人が行くのか。」

エリアスが低く答える。

「行くんだろうな。」

リサが目を細める。サンドラが無線を握る。ステファニーは、何も言わなかった。ただ、その背中を見ていた。追いかけることはできる。だが——今回は違う。命じられている。そして、それを理解している。

「・・・後方で待機する。」

静かに言う。それは命令の復唱ではない。選択だった。歴戦のブリュージュ隊が動き出す。軽戦車が、再び前へ。その後ろ姿が、徐々に小さくなっていく。誰も、声をかけなかった。ただ——見送る。それしかできなかった。

 

 

 

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