いざ掴めナンバーワン!   作:抹茶螺旋

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抹茶螺旋と申します。八割の趣味と二割の癖を込めて書きました。



誰が為の明日 前編

 

 

 今日、わたしは家を追い出されました。

 或いは、昨日からだったからかもしれません。

 現在は質素な馬車の中で揺れています。

 

 わたしの名前はルルナ=ハイライン。

 公爵貴族ハイライン家の長女です。

 長女ですが立場は良くありません。

 何故かというと、わたしには魔力が無いからです。

 変に思われるかもしれませんが、この世界において貴族の格とは魔力の量で決まります。

 ですので、親曰く魔力が無いわたしは出来損ない以下のゴミなのだそうです。

 正直そんなに言わなくても良いじゃ無いかと思います。

 こんな無能が一族だと知られたら恥とのことで、今までは使用人として生きてきました。

 実を言うとハイラインの名を名乗る事も許されていないので、長女ですらありません。

 両親からはいないモノ、妹からは程のいいサンドバッグ、同僚の筈の使用人達からはやたらと虐めてくる。

 地獄みたいな日々ですが、それも今日で終わりとなりました。

 

 いつも通りボロボロになりながら、雨漏れの酷い屋敷の中で眠っていたら。

 次に目を覚ますと馬車の中にいました。

 何事? なんで馬車? 何処へ向かってるの? 

 疑問符を頭上に二つも三つも浮かべていますと、ポケットに一枚の手紙が入っていました。

 この手紙の内容は中々酷いものでした。

 

『無能なルルナ。長いこと血が繋がっているというだけでおまえを生かしておいてやったが、おまえのその厚かましい顔を見るのも限界である。よっておまえを我が一族から追放する事にした。しかし、ただ追放するだけでは溜飲が治らぬという我が最愛の娘の申し入れもあり、貴様への処罰をより重い物とした。おまえが向かっているのは北部僻地ミルカサリック領である。おまえはそこの領主であるアデラレルバイト卿の召使となった。精々一生こき使われるがいい』

 

 わたしが手紙を最後まで読み終えると、手紙は火種も無いのに真ん中から燃え始め、手紙は灰となって消えました。

 四十代のおっさんが書いたとは思えない幼稚な文章です。

 溜飲は下がるものでしょうに。

 どうやらわたしの元親族の皆さんはわたしに苦しんでほしいようですが、元々死ぬ寸前みたいな生活をしてきたのだから、今更そんなみたいな感じです。

 それはそれとしておもくそ馬鹿にされて腹立たしいですが。

 あの家から脱出することが出来たので、全部ヨシとします。

 1日3時間しか眠れないあんな場所からはおさらばです。

 出向先がどんな場所かは知りませんが、ビビっていても仕方ないので、今は取り敢えず寝る事にします。

 こうしてわたしは馬車が止まるまで6時間、ぐっすり眠りました。

 

 ◇

 

 馬車が止まり、半ば強制的に降ろされると、そこは深い森の中でした。

 明らか道半ばという感じでしたが、御者の人曰く、

「ここから先は碌に道も整備されてないから馬車での移動は無理」

 とのことで、どうやら徒歩で行くしかないみたいです。

 仕方がないので御者に行き方を聞いて、残りは自分の足で行く事にしました。

 森は陽の光を隠して若干薄暗くて怖いですが、かといって今更戻る訳にも行きません。

 そうして歩く事2時間半程度、遭難の2文字が脳裏に浮かび始めた頃、ようやく森を出て目的地に辿り着きました。

 

 森を抜けると、そこには屋敷がありました。

 一般的に見てそれは間違いなく豪邸なのですが、壁には蔦が伸びていて、長いこと放置されているようにも見えました。

 御者の言葉に誤りがないのでしたら、ここが件のアデラレルバイト卿の屋敷ということになります。

 家には住む人の人間性が表れると言いますが、これを見る限り、中々大変な方である可能性が高そうです。

 屋敷に入る前から不穏な空気が漂っていて不安しかありませんが、この場で立ち往生していてはそれこそ得るものなし。

 活路は自分の前にしかないのです。

 わたしは扉の前に立ち、その扉を叩きました。

 

「ごめんくださーい!」

 

 声を張り上げて自身の存在を伝えますが、返事は返って来ません。

 歓迎されないことは想定していましたが、まさか門前払いとは露にも。

 そうショックを受けていると、あることに気づきました。

 

「……開いてる?」

 

 扉には鍵もなく、開いていました。

 

「こわっ」

 

 通常、貴族の屋敷が鍵も無く開いているなどというのは信じられるものではありません。

 貴族の使用人をやらされていたので、この非常識さがはっきりとわかってしまいます。

 本当にここが貴族の屋敷なのか怪しくなってきましたが、それでも、物怖じするわけにはいきません。

 再度、覚悟を決めて、わたしは屋敷の扉を開けました。

 

 ◇

 

 屋敷の中は、実に奇妙なものでした。

 扉を開けた時、最初に見たのは本。

 山のように積まれた本でした。

 入った先はエントランスホールなのですが、そのホールの中を所狭しと本が積み上げられています。

 積まれた本の高さはわたしの身長を優に超え、天井に届かんばかりの本の山がいくつも点在していて、それらは本を使ったその手のオブジェなのではないかと錯覚してしまいそうでした。

 そうして呆気に取られて気づくのが遅れたのですが、よくよく見れば、この屋敷の中は本以外にもおかしな事になっていました。

 まず灯りが灯っていません。

 夜遅く、就寝時間であるなら普通かもしれませんが、今はまだそんな時間ではありません。

 それに、家主が不在の場合でも使用人が屋敷の管理をします。

 この時自分の頭の中で、ひとつの憶測が浮かび上がります。

 

 ──もしかして、この屋敷には使用人がいないのでは? 

 

 人を出迎える為のエントランスホールがこのような有様であるあたり、それは確信に近かったです。

 

「……すいませーん、どなたかいらっしゃいませんでしょうかー」

 

 声を出してみても、返事はありませんでした。

 この時点でわたしの中にあるアデラレルバイト卿に対する不信感は三割ほど増していました。

 

「ハイライン公爵の命で来た者ですがー」

 

 依然として屋敷は静まりかえり、誰からの返事もありません。

 

「……仕方ない」

 

 待っていても誰も来る気配がなさそうなので、エントランスを抜けて屋敷の中を探索することにしました。

 

 屋敷の中は悲しきことにエントランスと同じで埃と本でいっぱいの汚屋敷でした。

 廊下を歩いても、キッチンを見ても、客室に行っても、あるのは本ばかり。

 所狭しと本が置かれ、どこか閉塞感すら感じられるほど、本がいっぱいです。

 一体この屋敷に何冊の本が置いてあるのか、屋敷を全て見たわけではない現時点でも、何百冊という数の本が廊下に置かれています。

 これが全てアデラレルバイト卿の所有物だとすれば、子爵は余程の読書家か蒐集家なのでしょう。

 それと、大変な面倒くさがりである可能性も。

 

 屋敷の中を散策して少しの時間が経ち、ようやく家主の部屋らしきものを発見しました。

 何故ここを家主の部屋だと判断したかと言いますと、どこもかしこも埃だらけのこの屋敷の中で、ここだけ埃の少ない場所がありまして、それがこの部屋なわけです。

 

「失礼します」

 

 わたしはドアを開けた。

 ここまで来て、もはや躊躇うことなど何もないのです。

 

 かくして突入しました部屋の中はといえば、想定通り、想像以上のものでした。

 想定通り部屋いっぱいに本が積み上げられていましたが、想像以上に本が山盛りです。

 具体的にはありすぎて足の置き場が無い程度には本で埋め尽くされていました。

 わたしが本の山を通り越して海とすら表現できそうな部屋に圧倒されていると、山積みになった本の奥で、人の声がしました。

 

「ご機嫌よう。ルルナ=ハイライン」

 

「……え?」

 

 心臓を掴まれたような感覚がして、思わず呆けた声が出てしまう。

 

「どうして……わたしの名前を……」

 

 ここに来るまで、一度も名前を名乗ってはいない。

 

「手紙を戴いていてね。ここに一人、女の子が来ると」

 

 綺麗で、無機質な声が耳に入ってきます。

 綺麗だと感じたのはその声が澱みのない澄んだものを感じたから、無機質だと思ったのは、その声に一切の優しさを感じなかったから。

 

「挨拶が遅れた、改めて自己紹介をしようか」 

 

 ばたん、と本が倒れる音と共に、部屋の奥から誰かが立ち上がります。

 そして歩き出そうとすると、

 バサバサッ。

 という本が何冊か倒れる音がしました。

 足の置き場もないほど本に埋め尽くされているのだから、少しでも歩けば本にぶつかるというのは、当然のことでした。

 逆に、今までどうやってこの空間で生活しているのでしょうか。

 不思議でなりません。

 

「……足元が本だらけで邪魔だな。いい加減、片付けるか」

 

 声の主がそう言うと、

 

 本が自ら浮かび上がりました。

 

「え!?」

 

 誰に持ち上げられるでもなく、床に置かれた本達がふわふわと浮き始めるのを見て、思わず驚愕の声を上げてしまいます。

 

「ルルナ君、ドアを開けてほしいな」

 

「え、あ、はい」

 

 困惑しながらも、頼まれたのでその言葉に従って後ろにあるドアを開けました。

 

 すると、本達は一斉に部屋の外へと向かって飛び出して行きました。

 

「わっ!?」

 

 何百冊という数の本が、すごい勢いで部屋の外へと飛んで行きます。

 本が自主的に飛んで移動するその光景は、圧巻にして幻想的でした。

 数秒後、本達の移動が収まり、部屋の中は入った時と比べて明らかに広々としており、そして部屋の中心には、一人の女性が立っていました。

 

「あ……」

 

 長く滑らかな真っ黒い髪に、漆黒の眼。なんだか見透かされているように感じられるタレた目つき。

 そのシルエットは全体的に細長く、成長を終えた大人という出で立ち。

 一切の飾りがない真っ黒な長衣。

 その身体に起伏はなく、頭から足まで真っ黒に覆われた彼女は、さながら現実に描かれた一本の黒線のよう。

 色気一つ感じさせない格好に身体つきだというのに、何故だか眼が離せない。

 彼女からは理解できない何かがあり、その不可解さが、わたしの心を強く惹きつけてやまない。

 主観的にこれを表現するのなら、彼女は神秘的でした。

 

「私の名前はメルシュタリン=アデラレルバイト。このミルカサリック領に住まう子爵であり」

 

 目の前に立つ女性──メルシュタリンさまは、一息、間を置いて言葉を続けました。

 

「『魔女』だ」

 

 




【ルルナ=ハイライン】
捨てられた少女。歳の割にはそこそこ頭が良く。中途半端に頭がいいせいで楽しくない人生を生きている。
髪は白髪。
【メルシュタリン=アデラレルバイト】
辺境の地ミルカサリックに住まう『魔女』
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