リンと契約してから2年が経ちました。
寿命であった筈の1年をゆうに飛び越えて、今も生きています。
途中、寿命と関係なしに危ない橋を渡ったりもしましたが、元気に生きています。
そんなわたしですが、この度、
学校に通うことになりました。
今は領地を離れて学園のある領地へと向かう馬車に乗っています。
何故このような事になったのかと言いますと──
◇
「ルルナ、学園に行きなさい」
事の始まりは3日前のことでした。
リンと昼食を摂っていたら、何の前触れもなく彼女はそう指示しました。
「また、突然ですね。いい加減その癖なんとかなりませんか」
この人が何かする時はいつも突然で、予想が出来ません。
「君も16となる、そろそろ学舎で友と語らい、学ぶ年頃だろう」
「それを言うには1年遅くないですか。ていうか、本当になんなんですか気持ち悪い。貴女そんなキャラじゃないでしょう」
「そろそろ新しい
「ほらそんなことだろうと思いましたよこの物語ジャンキー!」
2年も一緒にいれば、多少なりとも人となりは掴めます。
この人は、刺激に飢えているんです。
彼女曰く『感動』とのことだけどいまいち違いがわかりません。
『感動』に繋がるなら、何でもする。
おそらく今回のこれも、そうなのでしょう。
「いい加減二人だけで物語を回すのも限界だ。やはり舞台は大きい方がいい」
そう言うとリンは一枚の紙をぺらりと見せる。
紙には『ヴェルリウス入学許可証』と書かれていました。
「既に入学許可証は用意してある。学園長とは知り合いだからね。到着は3日後と告げている」
「知ってはいましたけど拒否権ないですよねこれ」
「嫌ならこの前みたいに反抗してもいいぞ。それで叶うのならな」
「ほんっとうにイヤミな人ですね、貴女は……!」
まだまだ、わたしが自由を獲得するには力が足りない。
こうして好き放題されるのは癪ですが、強く拒む理由もありません。
わたしは渋々ながらこれを承諾し、学校に入学することと、なりました。
◇
「正直、編入すること自体はいいんですよ」
馬車に座りながら、わたしは愚痴る。
リンの言っていることは特段変ではありません。
子供が学校に通うのは、普通の事です。
だから、気に食わないのはそれとは別の事。
「ただ、それをいっっっっさい事前報告なしで通達した事は許してませんから」
『おお、怖い怖い。君を怒らせると私はどうなってしまうのだろうね』
馬車の対面側の席で、聴き馴染みのある声が聴こえる。
けれど、そこに座っているのは黒髪の陰湿魔女ではなくて、一羽の鳥でした。
「一生支離滅裂な事を言って家の中を徘徊し続けます」
『……今後は、多少前もって伝えるとしよう』
どうやらわかってくれたみたいです。
今、わたしが話している鳥は、リンの使い魔です。
使い魔とその主人は視覚や聴覚をリンクさせる事が出来、加えて使い魔を介して声を届ける事が出来るそうです。
彼女は屋敷から出ませんが、代わりに使い魔を連れて行かせる事で、わたしの学園生活を覗き見するのでしょう。
まあ、そういう契約なのでそこに文句は言いません。
「そういえばひとつ、聞いておきたい事があるのですが」
『何かな?』
「何故、ヴェルリウスなのでしょうか?」
『他の学校の方が良かったのか?』
「そうじゃなくて、単純にここにした理由が知りたくて」
世界に幾つかある魔導師の教育機関の中でも、ヴェルリウスは特に歴史があるところです。
王国の貴族達がこぞって通う、名門中の名門とされていますが、決してここだけ突出して秀でているという訳でもなく、並ぶ教育機関は幾つかあります。
その中から、何故ここを選んだのかが気になって仕方ありません。
『理由としては二つある。一つは昔馴染みが学園長をしている事だ。他は面倒だが、ここならある程度融通が効く』
少し驚きです。
この人に友人とかいたんだ。
てっきり全方位に嫌われているものとばかり思ってました。
『何か、凄く失礼な事を考えなかったかね?』
「別に、それで、もう一つは何なんですか?」
『もう一つの理由としては、良い役者が揃っていたから、というのがある。今のヴェルリウスに在学している生徒達は中々に粒揃いでな』
「粒揃い、ですか」
『王国の第一王子に公爵令嬢、名門魔導師の秘蔵っ子。突然変異の天才。他にも面白い役者が多く、暇つぶしに丁度良い』
確かに、これが物語なら主役になりそうな肩書きの方が一杯です。
まあ、現実的に見れば王族に貴族とか関わりたくないですが、遠くで観る分には面白そうではあります。
『望むべくは君が彼等彼女らと親交を持つか敵対でもしてくれれば面白いのだが……』
「いやあ無理でしょ。わたし2回生ですよ。この時期の転入生が出来上がった関係に割って入るとかしんどくて死にますて」
『……なら、偶然というものを期待しておくとしよう』
リンは少し残念そうな声で、そう言った。
やけに聞き分けがいいな。
いつもなら、絶対話しかけろとか圧をかけそうなものなのに。
『さて、別の用事がある故、接続を切るぞ』
「あ、はい」
『精々、これからの学園生活を期待しているといい』
そう言い残すと、ブツンと魔力の接続が切れて、鳥の様子が変わる。
キョロキョロと周りを見る、普通の鳥の仕草だ。
わたしが窓を開けると、鳥は外へと飛んでいった。
しかし、学生生活かー。
リンの屋敷に来る前もだったけど、新生活というものはやはりソワソワします。
期待であったり不安であったり。
そういうドキドキで胸が一杯。
はっきり言って、ちょっと楽しみです。
◇
「おお、これが学園都市……」
馬車で移動する事2日間。
遂に到着しました目的地『ドゥアンテ』。
今は馬車から降りて、街中を見ています。
「おお、これが人だかり……」
市場はすごい数の人だかりです。
石畳が敷かれた通りに、左右で様々な露店が開いています。
生まれ育って十何年、こんなに人が同じところに集まっているのを見るのは初めてです。
正直ワクワクドキドキしています。
現在、わたしが市場を歩いているのには理由があり、事前に必要な教材があるとのことなので、市場を回って集めています。
「これお願いします」
「はいよ、2600トゥレラね」
売店のおっちゃんに通貨を渡して、教材を受け取ります。
ドゥアンテはヴェルリウスを中心とした経済圏を築いており、学業で必要になる物を買い揃える書店や文房具屋は勿論のこと、休みの日に降りてきた生徒狙いの飲食店もあります。
商人達の交易路でもあるので、目新しい物が沢山です。
「安いよ安いよー! 今なら飛竜の骨で出来た魔導具を格安価格で御販売だー!」
「出来立てのコロッケは如何ですかー!」
喧騒の中でも、呼び込みの声がよく聞こえます。
賑やかなのは好きです。
活気に溢れていて、元気を貰えるような気がして、
今日初めて来たばかりではありますが、現時点でわたしはこの都市が結構好きになってきています。
これから2年ほど、この都市で暮らせると思うと、胸が高鳴り小躍りしてしまいそうなくらいには嬉しいです。
◇
教材を買い揃えて、向かいますはこれから世話になる学舎『ヴェルリウス』。
編入生なので、編入手続きをしなくてはなりません。
今回はそのためにやって来ました。
本日は普通に平日なので、生徒たちが普通に校内を行き交っています。
入学前にあまり悪目立ちはしたくないので、コソコソと目立たないように歩きます。
「そこのあなた! コソコソと何をしているのかしら!」
普通に声を掛けられました。
おそるおそる、そちらの方を見ますと、ひとりの女子生徒が立っていました。
まず最初に目に入ったのは、後ろで一本に纏めた
瑠璃のような真っ青な髪のポニーテールでした。
「見た感じ、うちの生徒ではないようだけれど!」
髪色とは対照的に紅玉みたいに明るい紅の眼をガッと開き、キリッとした目付きでわたしを見ています。
背格好はわたしと同じく平均的、体格に関してはわたしよりやや育っているようにも見えます。
腕には腕章を付けており、他の生徒とは明らかに雰囲気が違いました。
「もしかして──」
怪訝そうな表情で、青髪の女性は此方を見る。
もしかして、怪しまれてます?
勘違いされてはまずい、早く弁明しなくては……
「ああ、あの、わたし怪しいものでは……」
「編入生かしら!!」
「そうです!!」
よかった、話のわかる人だった。
「編入手続きは向こうの教員棟よ! 詳しい話は向こうで聞くといいわ!」
「ああどうも、ありがとうございます」
「気にする事はないわ!」
感謝を述べ、軽く会釈してわたしはその場を後にしました。
親切な方もいらっしゃるものです。
やはりうちの元家族がドブのカスなだけで、本来ならこんな感じで高潔な方なのでしょうか。
でも、それはそれとして、
滅茶苦茶に
◇
辿り着きました教員棟。
中はそれぞれの教員の個室に繋がる扉に囲まれていて、学園内ともまた別の雰囲気を感じます。
扉の前にはそれぞれの部屋の持ち主の名札が飾られております。
わたしが探しているのは『ミリアエッタ』という先生のいる部屋です。
「ええと、ミリアエッタ、ミリアエッタ……あった」
探すとすぐに見つかりました。
コンコン、とノックすると、
「どうぞ、お入りください」
という声が部屋の方から聞こえました。
「失礼します」
一声入れながら、わたしは部屋の中に入りました。
「ようこそ、お待ちしていましたよ。アデラレルバイトさん」
出迎えたのは妙齢の女性、確か名前はミリアエッタさんでしたっけ。
ややふんわりした雰囲気の人です。
ちなみに、アデラレルバイトというのはわたしの仮の家名です。
ハイラインは名乗れませんし、家名なしだと示しがつかないだろうと、リンがくれました。
貴族の家名ってそんなにポンと貰ってよいものなのでしょうか。
「細かい話は伝わっているので抜きにします。はい、こちらが貴女の学生証です」
そう言ってミリアエッタ先生が取り出したのは一枚のカード。
ヴェルリウスの名前と、学生番号、そしてわたしの名前が刻まれている。
「これがある限りは、貴女は我が校の生徒です」
「おお、ありがとうございます!」
思わず頭を下げて感謝を伝える。
「それと、これも渡しておきます」
そういうと、彼女はもう一つあるものを取り出しました。
「何でしょうかこれ? 指輪ですか?」
ミリアエッタ先生が見せたのは一つの指輪でした。
指輪に何か書かれていること以外、特に目立った特徴もない鉄製の指輪です。
「こちらの指輪は……詳しく説明すると長くなるので、簡潔に言えば貴女の成績を可視化させたものです」
おお、そんなものもあるんだ。
成績に応じて景品があるというのはやる気に繋がりますし、そういう施策なのでしょうか。
「本来指輪は、小テストや学期末試験の結果で貰えるのですが、貴女は特待生ですので、期待値も込めて渡しておきます」
ん、ちょっと待って、
今知らない単語が出た。
「あの、特待生って何ですか?」
「おや、親御さんから聞かされていないのですか?」
「ああいえ、全く……」
そう言うこと、あの人は全くもって話さないから聞けてないですね。
「ふうむ。ざっくりと言えば、学園側が眼をかけている生徒とでもいいましょうか、能力はありますが、市民の出である為学費を払えないという生徒の為に、学費等を免除させる制度が特待生制度です」
「なるほど、そうなんですね」
知らなかった。
普段は金遣いが荒いのに、こんなところでケチらないでほしいのですが。
「詳しいことは、こちらに書いてあります」
ミリアエッタ先生は厚めのパンフレットを取り出して、わたしに手渡した。
「以上で編入手続きは終わりですが、最後に一つだけ、アデラレルバイトさん」
「あ、はい。なんでしょうか」
「学園に通う時は必ず指輪を持っていくこと。貴重品ですので。よろしいですね」
「わかりました」
「絶対ですからね」
妙に圧のある念押しを聞いて、わたしは教員棟を後にした。
そうして、わたしは晴れてこの学園の生徒と相成りました。
このあと、学生寮に着いて自室を手に入れたのですが、自室の内装についてはまた後で。
自室に着くとなんだか疲れがドッと出てしまい。
その後は体を洗ってからすぐに寝てしまいました。
この時、寝る前にパンフレットを読まなかったことを。
翌日のわたしは死ぬ程後悔することになりました。
【魔導教育機関ヴェルリウス】
王国にて設立された初めてにして最高峰の魔導師教育機関。
学園長は「エルライン・クレイテュード」
教育方針は『唯一無二を創る』
【魔導師】
魔法を使う者達のこと。魔女とは明確に意味が異なる。