風が吹いた。
看板が軋む。
誰もいない通りに、音だけが残った。
「ここは、静かだな。昔と大違いだ」
椅子にもたれかかりながら、天井を見つめ、ゆっくりと。
「仕方ないですよ。もうここには、何にもないんですから」
店主は外へ目をやった。
「この先の、ファンタジアが目的で?」
「あぁ」
店の商品に目をやった。狭い店だが、品揃えは悪く無い。必要なものを購入し、外へ足を向けようとした時に声が耳を掠める。
「どうか、お気をつけて」
――気をつける、か。
心の中で、小さく繰り返す。
そんなことは、分かっている。
あの頃は、気をつける以前の問題だった。近づくだけで、身体が軋んだ。魔力が乱れ、まともに立っていることすら難しかった。入口に辿り着くことすら、何度も諦めた場所。
それが今は――
足は止まらない。
「……戻ってきた、か」
誰に向けたわけでもなく、そう呟く。
あの時は、近づくことすらできなかった。だが時間が経ち、あの一帯の歪みは薄れている。
今なら、奥へ進める。
――ようやく、ここまで来られるようになった。
目を細め、通りの先を見る。その奥にある、迷宮街。
そして、その先。
かつて、すべてを置いてきた場所。
来なければならなかった。
あのままにしておけるものではない。終わらせるために。
……弔うために。
一歩、踏み出す。
▪️▪️
20層
ボスがいる、扉の前で大きく息を吸い体内と体外の空気を入れ替え、意識を集中させる。
仲間を弔い、そして、多くの人への償いを込め戦う
一歩中へ踏み入れると、端が見えないほどに広がった草原の上、満点の星が広がっている。
一角の獣。
ユニコーンが、部屋の中空を見上げ、佇んでいた。
ドン
「ぁえ」
一拍
認識する間もなく、放たれた一撃。で左腕の肘から先が引きちぎれ、鮮血が吹き出、灼熱の痛みが走る。
それを無視して、顔を上げる。
もう一度くる。
ドン
右に跳び、元いた場所に剣を振る。剣は弾かれ、体勢が崩れる。
回避も防御もできない、一瞬が生まれる。
ユニコーンは、頭を振るい、紙を破くような、軽い音が響く。
左足の膝から下が切り落とされ、跪く。
急所は外せた。
後ろに飛び退いた様子から、また突進がくるはず。剣のグリップと手を魔法で固定し、一太刀入れることだけを考える。
ドン
地面を蹴った音が後から響く
外しはしない
下から上に頭部を目掛け振り上げた
▪️▪️
レンガ積みの建物が最初に目に入ってきた。
なんだか、周りが騒がしい。死後の世界は、現実とあまり変わらないのか?
五感の確認を済ませ疑問が生じた。
匂い、音、感触、感覚、全てが今までと同じだ。なぜか、体は子供になっているが、それ以外に以前と変化はない。どうにも違和感がある。ここは本当に死後の世界なのか?なんだか、全てに既視感があるような気さえする。
一つ思いついてしまった。あまりに非現実的で妄想のようなことを。
駆け出していた、思いついた時には既に。あり得ないと思いながらも、期待を膨らませ、音の方へ走る。
風が吹いた
多くのものが揺れる
だが、人が溢れ、その音は聞こえない
どうやら俺は、過去に来てしまったらしい