FALBRIGHT・ONLINE ーフルブライト・オンラインー 作:ひーどらん
――《職業:ハンター》――
敏捷と技量に優れ、血肉に飢えた獣を狩る者。
その身にも獣の因子を宿し、敵から抉り取った血を己へと取り込む。
“生存”に特化した、危うくも強靭な職業。
アッシュ――いや、灰宮燼太郎は、ゆっくりと瞼を開いた。
目の前には古びた大鏡。
鏡越しに映った自分の姿を、しばし言葉もなく見つめる。
深い濃紺のコート。
影を落とす三角帽子(トライコーン)。
背中には素朴な弓。
そして右手に握られたのは、鉈のような形状をしたチョッパーナイフ。
「……殺意、強すぎるだろ」
ファンタジーというより“血生臭い狩猟具”だ。
初心者向けに騎士系を選んでもよかったが、アッシュは首を振った。
死にゲーは生き残ってなんぼ。
ヒット&アウェイできて、序盤から自己回復手段があるなら――ハンター一択だ。
それに、騎士系なんてレビュー記事が溢れて埋もれる未来が見えている。
攻略ライターとしては、多少クセがあった方が記事の価値も上がる。
「さて、動作は……」
アッシュが鏡の前で腕を軽く振った、そのときだった。
鏡面がふいに波紋のように揺れ、
闇の奥から“彼女”が浮かび上がる。
白い長髪を揺らし、質素な修道服に身を包んだ女。
祈るように両手を胸の前で組み、静かに語り始めた。
「旅人様……どうか、聖杯を見つけてください。
悪意ある者に砕かれた聖杯は、欠片となって大地へと散りました――」
「長い…」
アッシュの感想は、それだけだった。
しかもスキップ不可。
暇なので、修道女から目を逸らし、周囲を観察することにした。
薄暗くひんやりとした遺跡。
空の棺がいくつも転がる広間。
その中に、ログインしたばかりのプレイヤーが三々五々と立っていた。
朝の7時。
ベータテスト初日とはいえ、なかなかの人口密度だ。
「よし、まずは検証からだ」
アッシュは軽く息を吐き、
これから始まる“死にゲー巡礼”に向けて、足を踏み出した。
アッシュは薄暗い遺跡を歩きながら、
片手間にさきほどのチュートリアル内容を脳内で再生していた。
移動。
攻撃。
回避。
フルダイブとはいえ、基本挙動は今までのVRアクションと大差ない。
問題は――戦闘で一番重要な仕様だ。
「……ターゲットロック、あるかどうか」
エイムアシストの有無で、アクションゲームの快適度は天地ほど変わる。
フルダイブといっても、敵を常に目で追い続けるのは不可能だ。
距離調整や方向転換に気を取られれば、死にゲーでは即死亡コンボが待っている。
アッシュは軽く手首を振り、視界の端でメニューを開く。
その瞬間――
視界が“吸い付く”ように一点へ固定された。
ターゲットロックだ。
「……よし」
捉えた敵を“アンカー”として視座が中心に固定される。
距離が一定範囲なら、相手が左右へ跳ねようが後ろへ回り込もうが、
視界の軸はぶれない。
フルダイブ特有の“頭の向きと視界の向きのズレ”をほぼ感じさせない仕組み。
これならヒット&アウェイがしっかり成立する。
しかも、アッシュは試してすぐ気づいた。
ロック状態でも、自分の身体操作は阻害されない。
視点だけが追従し、身体は自由に動ける。
つまり――
「矩形回避も、サイドステップも……全部使えるってわけだ」
死にゲープレイヤーとしては、喉から手が出るほど欲しい仕様。
ロックオンしながら横ステップで間合い管理、
背後へ回り込んでのカウンターも可能。
「ベータのくせに……やるじゃないか」
アッシュは自分の口元がわずかに吊り上がるのを感じた。
ここから先に待つのが、
死にゲー特有の“初見殺し”か、
あるいは“反射神経の問答”か――
そのどちらにせよ、
このターゲットロックが生存率を大きく左右することだけは確かだった。