FALBRIGHT・ONLINE ーフルブライト・オンラインー   作:ひーどらん

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02話 チュートリアルの時間だ

――《職業:ハンター》――

敏捷と技量に優れ、血肉に飢えた獣を狩る者。

その身にも獣の因子を宿し、敵から抉り取った血を己へと取り込む。

“生存”に特化した、危うくも強靭な職業。

 

アッシュ――いや、灰宮燼太郎は、ゆっくりと瞼を開いた。

目の前には古びた大鏡。

鏡越しに映った自分の姿を、しばし言葉もなく見つめる。

深い濃紺のコート。

影を落とす三角帽子(トライコーン)。

背中には素朴な弓。

そして右手に握られたのは、鉈のような形状をしたチョッパーナイフ。

「……殺意、強すぎるだろ」

ファンタジーというより“血生臭い狩猟具”だ。

初心者向けに騎士系を選んでもよかったが、アッシュは首を振った。

死にゲーは生き残ってなんぼ。

ヒット&アウェイできて、序盤から自己回復手段があるなら――ハンター一択だ。

それに、騎士系なんてレビュー記事が溢れて埋もれる未来が見えている。

攻略ライターとしては、多少クセがあった方が記事の価値も上がる。

「さて、動作は……」

アッシュが鏡の前で腕を軽く振った、そのときだった。

鏡面がふいに波紋のように揺れ、

闇の奥から“彼女”が浮かび上がる。

白い長髪を揺らし、質素な修道服に身を包んだ女。

祈るように両手を胸の前で組み、静かに語り始めた。

「旅人様……どうか、聖杯を見つけてください。

悪意ある者に砕かれた聖杯は、欠片となって大地へと散りました――」

「長い…」

アッシュの感想は、それだけだった。

しかもスキップ不可。

暇なので、修道女から目を逸らし、周囲を観察することにした。

薄暗くひんやりとした遺跡。

空の棺がいくつも転がる広間。

その中に、ログインしたばかりのプレイヤーが三々五々と立っていた。

朝の7時。

ベータテスト初日とはいえ、なかなかの人口密度だ。

「よし、まずは検証からだ」

アッシュは軽く息を吐き、

これから始まる“死にゲー巡礼”に向けて、足を踏み出した。

 

アッシュは薄暗い遺跡を歩きながら、

片手間にさきほどのチュートリアル内容を脳内で再生していた。

移動。

攻撃。

回避。

フルダイブとはいえ、基本挙動は今までのVRアクションと大差ない。

問題は――戦闘で一番重要な仕様だ。

「……ターゲットロック、あるかどうか」

エイムアシストの有無で、アクションゲームの快適度は天地ほど変わる。

フルダイブといっても、敵を常に目で追い続けるのは不可能だ。

距離調整や方向転換に気を取られれば、死にゲーでは即死亡コンボが待っている。

アッシュは軽く手首を振り、視界の端でメニューを開く。

その瞬間――

視界が“吸い付く”ように一点へ固定された。

ターゲットロックだ。

「……よし」

捉えた敵を“アンカー”として視座が中心に固定される。

距離が一定範囲なら、相手が左右へ跳ねようが後ろへ回り込もうが、

視界の軸はぶれない。

フルダイブ特有の“頭の向きと視界の向きのズレ”をほぼ感じさせない仕組み。

これならヒット&アウェイがしっかり成立する。

しかも、アッシュは試してすぐ気づいた。

ロック状態でも、自分の身体操作は阻害されない。

視点だけが追従し、身体は自由に動ける。

つまり――

「矩形回避も、サイドステップも……全部使えるってわけだ」

死にゲープレイヤーとしては、喉から手が出るほど欲しい仕様。

ロックオンしながら横ステップで間合い管理、

背後へ回り込んでのカウンターも可能。

「ベータのくせに……やるじゃないか」

アッシュは自分の口元がわずかに吊り上がるのを感じた。

ここから先に待つのが、

死にゲー特有の“初見殺し”か、

あるいは“反射神経の問答”か――

そのどちらにせよ、

このターゲットロックが生存率を大きく左右することだけは確かだった。

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