FALBRIGHT・ONLINE ーフルブライト・オンラインー   作:ひーどらん

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03話 狩りをご照覧あれ

豚巨人の体力ゲージが、半分を割った。

先ほどのクリティカルが、決定的な致命傷になったのだ。

通常攻撃なら一割削れれば上出来。

だが、≪紫電≫を“正しいタイミング”で叩き込めば――

それだけで戦況をひっくり返せる火力がある。

「……この紫電ってスキル、絶対修正されるだろうな」

あまりの手応えに、アッシュは思わず苦笑する。

序盤スキルで確定クリティカルを量産できるなど、バランスブレイカーの匂いしかしない。

だが、彼はためらわない。

情報の鮮度は価値。

攻略屋は一秒の遅れが“敗北”に直結する。

その信念が、アッシュの足を止めない。

豚巨人は、怒り狂ったように咆哮を上げた。

血の泡を撒き散らし、斧を振り上げながら突進してくる。

しかし――

アッシュはもう、

この怪物の“すべての癖”を学習し終えていた。

右足を引く癖。

踏み込み前のわずかな溜め。

攻撃範囲の端で起きる吸い込み判定。

「もう、お前は学習済みだ……」

アッシュが低く呟いた瞬間、彼の身体が紫の残光に包まれる。

≪紫電≫――発動。

次の瞬間、アッシュは豚巨人の懐に滑り込み、

刃が膝関節の弱点を正確に裂いた。

ドシュッ――!

巨体がぐらりと揺れ、

豚巨人はたまらず膝をついた。

巨人の咆哮は、苦痛と恐怖が混じった濁った声へと変わる。

アッシュは息を吐き、チョッパーナイフを構え直した。

「悪いが……ここからは、狩りだ」

ハンターの視線が、獲物を捉える。

 

豚の巨人を倒した直後、アッシュの視界にウィンドウが展開された。

≪貪欲者の指輪≫を入手

効果: クリティカル時の与ダメージ上昇

「……悪くない」

序盤の火力不足を補うには、申し分ない性能だ。

アッシュは指輪を装備し、そのまま先へ進もうとして――ふと、光に気づいた。

プレイヤー救難信号。

無視しても問題はない。

だが、アッシュには豚の巨人で検証したい事柄が一つあった。

「……まぁ、実験台としてはちょうどいいか」

そう呟き、光に手を伸ばす。

 

次の瞬間、転移先で一人のプレイヤーと対峙していた。

男性アバター。

――なのに、装備はどう見てもシスター服。

ちぐはぐ極まりない格好で、少し挙動が落ち着かない。

「……ッ! よかった~!

もう誰も助けてくれないかと思ってました!」

低めだが若い声。

ボイスチェンジャー込みだろうと、アッシュは即座に判断する。

「ええ。このボスで、ちょっと試したいことがあって」

「……え? ってことは、もう倒したんですか?」

無言で頷く。

すると、そのプレイヤーは目を輝かせた。

――こんな“まっすぐな目”を最後に見たのはいつだったか。

後輩の日野が入社してきた日以来かもしれない。

「え、でも……かなり早くないです?

自分、何回かマルチで挑んだんですけど、全然ダメージ通らなくって……」

「ああ。マルチだと、ボスのHPが増えるんですよ」

「……え?」

このゲーム、難易度調整がだいぶ意地悪だ。

ソロの方が楽なケースも多い。

「……このゲーム、思った以上に難しいんですね。

知り合いに勧められて応募したんですけど……」

その“知り合い”とは距離を置いた方がいい。

アッシュはそう思ったが、口には出さない。

「あ、そうだ。私はホムラっていいます」

「ご丁寧に。自分はアッシュです」

挨拶を済ませ、アッシュは言った。

「じゃあ、さっさと片付けますか」

「……え? 今すぐ行くんですよね?」

ホムラの視線の先、ボス部屋の霧の前で――

アッシュは、動かなかった。

「いや、1つだけ試したいことがあるんで」

そう言うと、戦闘中でもないのに弓を構え――

霧の奥へ矢を放った。

「え、なにを――」

次の瞬間。

豚巨人のHPバーが、わずかに削れる。

「……!?

も、もしかして……ここからでも攻撃、当たるんですか!?」

アッシュは答えず、ニヤリと口元だけを歪める。

奥で豚巨人が咆哮する。

だが、霧を越えてこちらへ来ることはない。

「この霧、ボス取り合い防止のために“個別空間”になってますよね」

ホムラが、はっとしたように口を開く。

「……つまり、通れるのは“プレイヤーとボスだけ”?

攻撃は防いでない……?」

「その仮説で検証しました。

弓チクは正直、楽しくないですが」

アッシュは淡々と続ける。

「なので――矢に、毒を仕込みました」

「えっ!?

そんなスキル、もう取ってるんですか!?」

「いえ」

アッシュは平然と言った。

「さっき倒した豚巨人のウンコを拝借しました」

「…………」

ホムラは、言葉を失った。

どれほど世界観が作り込まれていようと、

破傷風狙いの糞毒矢を思いつく攻略者など想定外だったのだ。

「……ちなみにウンコはどこにでも落ちてて、序盤の敵は大体耐性低めです」

追撃の一言に、

ホムラはゆっくりと、距離を取った。

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