FALBRIGHT・ONLINE ーフルブライト・オンラインー   作:ひーどらん

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05話 ああ、兄妹よ…

――そのプレイヤー、“ホムラ”が、

どんな人生を背負ってログインしているのか。

アッシュがそれを知る由は、まだなかった。

 

 

烏場ほむらは、どこにでもいる普通の女子高校生だった。

クラスの中で特別目立つわけでもなく、問題を起こすこともない。

ただ一つ、周囲と少しだけ違うとすれば――

家族全員が有名なフェンシング選手、という点だろう。

幼い頃から、ぼんやりと察してはいた。

自分もいつか、この“剣の世界”へ足を踏み入れるのだろうということを。

だが、その未来はあっさりと覆された。

兄・隼人は、十代にして世界を制した。

天才――その言葉以外が思い浮かばないほどの、圧倒的な存在。

結果的に、両親の期待は兄へと一気に傾いた。

ほむらに向けられた言葉は、いつしか決まってこうなった。

――別に、好きなことをすればいい。

兄との仲が特別に悪かったわけではない。

むしろ、普通に優しい兄だった。

それでも。

兄へ向けられる称賛と、自分に向けられる“免除”の言葉が重なるたび、

比べられているのではなく、比べる価値すらないのだと突き付けられている気がした。

コンプレックスは静かに育ち、

やがて自分自身を責める気持ちへと変わっていった。

そんなある日。

珍しく、兄のほうから声をかけてきた。

「少しいいか、ほむら」

聞き慣れた声なのに、背筋が自然と伸びる。

ほむらは無意識に、いつもの笑顔を作った。

「なぁに、お兄ちゃん?」

隼人は少しだけ言葉を選ぶようにしてから、続けた。

「来年発売されるゲームのベータテスト版があるんだ。

……抽選、当たってさ」

ゲームに詳しいわけではない。

ソーシャルゲームを少しかじる程度だ。

それでも、わざわざ話題に出すということは、

相当に倍率が高いのだろう、と察する。

「よく分かんないけど、すごいじゃん。

お兄ちゃん、ゲーム好きだもんね」

「ああ。でも……ほむらに遊んでほしいと思ってな」

一瞬、言葉の意味が理解できなかった。

「え……?

いいの? 折角当たったのに」

隼人は小さく首を振る。

「嫌いってわけじゃない。

ただ……ほむらも、この家で少し息抜きしていいんじゃないかと思って」

その言葉を聞いた瞬間、

胸の奥が、きゅっと縮こまった。

――やっぱり、分かっていたのだ。

自分が、この家の中で息を詰めて生きていることを。

競争の輪から、そっと外されていることを。

それでも、兄は悪くない。

むしろ、優しさから出た言葉なのだ。

だからこそ、何も言えなかった。

「……そっか。

じゃあ、お言葉に甘えちゃおっかな」

精一杯、明るく言ったつもりだった。

笑顔も作った。

けれど。

その笑顔が、どんなふうに映っていたのか――

考えないようにして、ほむらはその話を終わらせた。

 

ゲームは、逃げ場所だった。

誰とも比べられず、

誰の期待にも縛られず、

なぜか“失敗しても許される”世界。

そしてこの場所でだけは、

自分のやりたいことを選んでもいいような気がした。

そうして彼女は、今日ログインする。

 

誰かに追いつくためではなく、

誰かから逃げるためでもなく。

ただ――

自分で選んだ一歩を、確かめるために。

 

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