円谷学園2年A組には宇宙人がいる。
その宇宙人は誰にも気づかれずにその街に潜り込んでいた。
その宇宙人のご近所さんも、学校のクラスメイトも、アルバイト先の店員も気づいていない。
こっそり、ひっそりと街に溶け込んだ宇宙人。
彼は悪い宇宙人なのだろうか?
ひっそりと街の住人を攫っているのか?
煙草に宇宙由来の植物を混ぜて人間の信頼関係を崩そうとしているのか?
封印された怪獣を眠りから覚ませようとしているのか?
地球侵略しに来た宇宙人なのか?
否。
断じて違う。
彼の出身はM78星雲光の国。
いつか、我々地球の人間が辿り着かなければならない境地にいる善なる光の巨人達の一人。
暗き闇を照らす光。
極論、何者も犠牲にせずとも生きる事ができる優しき生命体。
人は彼らに憧れる。憧れてしまう。
全ての宇宙の中で、初めての人間とウルトラマンの出会いから現在まで人間は助けてくれ続けた彼らの大きな背中に憧れ続けた。
その眩い光に手を伸ばし続けた。
彼も、そんな眩い光の一つである。
そんな彼が邪悪な訳がない。
宇宙人の、彼の名はラスティ。ウルトラマンラスティ。
宇宙警備隊に所属する若き勇気溢れるウルトラマンだ。
そんな彼が何故この地球にいるのか。
この地球には怪獣はいない。
侵略して来る異星人はいない。
この広い宇宙においてウルトラマンの助けを待っている人は数多くいる。
ウルトラマンは文字通り一人で星の危機を救う事ができる。
個人で惑星級の戦力足り得るのがウルトラマンであり、そんなウルトラマンが倒されたり、複数人で掛からないと倒せない敵がポンポン出てくる色んな宇宙の地球は宇宙規模でも魔境なのだ。
怪獣はいない、侵略異星人もいないラスティが派遣された地球だが、とんでもない厄ネタがあるのでウルトラマンを一人置いて置かなければならなかった。
この地球の核にはガイアフォースと呼称される超エネールギーコアを内包している。
ガイアフォースは願望器としての可能性を確認されており、地球人類がまだガイアフォースのある深域まで辿り着けるような科学技術を持っていないのと、地球そのものがその危険性を理解して隠蔽しているからこそ、この地球の安全は守られていた。
惑星規模の願望器など争いの火種としかならない。
しかし安心めされら、ガイアフォース自体は休眠状態であり稼働していない。
だから監視しておく程度で良かった──かつては。
光の国に戦争を仕掛けてきた究極生命体アブソリューティアンの存在がそれを許さなかった。
時空間を超えて戦力を集める奴らの存在が明るみになったせいで監視だけで良かった物に護衛を付ける必要性ができてしまったのである。
この地球のガイアフォースもその一つ。
もしアブソリューティアンにガイアフォースの存在が知られてしまったら星を殺してでも確保するだろう。
それを防ぐ為に使わされたのがウルトラマンラスティである。
そんなラスティだが、地球に辿り着いた際紆余曲折あって女子高生になる事になった。
女子高生になる事になった。
ウルトラ、マンであるラスティが女子高生になる事になったのだ。
それは、ラスティが地球に訪れたのを目撃した一人の女性がラスティの協力者となってくれて、そんな彼女が用意したラスティの地球上での立場が女子高生だったという理由がある。
ラスティは協力者の女性が考えに考えてこの立場を用意してくれたのだろうと嬉しい気持ちで満ちていた。
偉大なるウルトラ兄弟であり、ラスティの師匠であるジャックの言っていた通り、人間は優しい。などと思っていた。
残念、そんなモノは無く、女性の趣味だ。
─高位の生命体が女の子に擬態して女子高生してるのって萌えよね!
基本擬態は人間の姿なら自由だとラスティに言われロリを指定しなかっただけ協力者的にはほんの少し思い止まったが、所詮はほんの少しでしかなく、欲望に従っていた。
ウルトラマンジャックはラスティにこうも言っていた。
─人間は素晴らしいだけでなく、愚かな所もある。戦いが起きるまで時間があるだろうから、彼ら彼女らの両方を見るんだ。どちらか片方で無く、両方を知って初めて我々は真に人間の為に戦う決意を決める資格を得る
ラスティは擬態の姿が協力者の女性、結城遥の欲望に従った姿だとは知らない。気づいていない。
悪意ではないが、ラスティはそういう機微にも気づく事ができるようにならなければならない。
この地球での任務はラスティの現地での成長を望まれてのものでもあった。
宇宙警備隊は新人のウルトラマンは取り敢えず地球。みたいな風潮が地球大好きウルトラ兄弟の影響であったりする。
何がともあれ、地球を守るあめに宇宙人、ウルトラマンラスティは女子高生として潜入している。
地球での名は守星照夜、モリホシテルヤだ。
この名前はラスティは数万年後だろうと忘れる事のない大切な宝物の一つとなる。
昼休み、円谷学園二年A組は心地の良いタイプの喧騒で満たされていた。
「サッカーしようぜ、サッカー」
サッカーボールは友達だと公言している円堂少年がクラスの友達をサッカーに誘ってる。
彼は常日頃から言っている。このサッカーボールは俺の親友なんだと。
それにとある男子がこう茶化した。
「友達を蹴るのか?」
本人は軽い茶化したつもりだったのだろうが、酷い事を聞く。
「こいつはマゾなんだ! だから一杯蹴ってやると滅茶苦茶喜ぶんだ!」
これにはとある男子も空いた口が塞がらなかった。
円堂少年はクラスの友達を男子も女子も運動ができる人もできない人も関係無く、俺の親友を喜ばせてやってくれとサッカーに誘っていた。
「もう無理〜! 終わった!」
神田川少女が教室の隅で絶望に打ちひしがれていた。
なんでかと言うと、昼休みが終わった次の時間は小テストがあるのだが神田川少女はそれの対策が全然できていないのだ。
彼女が勉強をサボっていた訳では無い。
彼女は少し物を覚えるのが得意では無くて、今回は神田川少女が覚え切る前に小テストが迫ってしまったのだ。
「かーンちゃん!」
「ここにお前の友達がおるじゃろう!」
しかし神田川少女には彼女の事が大好きな二人の友達がいた。一人の少女と一人の少年が彼女に話しかける。
「最低限の基礎は教えてやるよ!」
「あたし達はあんたを見捨てない!」
「二人ともぉぉぉぉぉぉぉお!」
神田川少女は生きていく上で少し他の人より不利だったがそれを補って余りある程の友がいた。
「喰らえ、俺の改造消しゴム、ドラゴノイドバスター‼︎」
「いや、僕のジャスティスハンマーラゴンが勝ーつ!」
教室の隅で大声で叫ぶ少年二人がいた。
一人の名前は滝山隼人、もう一人の名前は坪川翔太。
滝山少年は前髪を上げたワイルドな感じの少年で坪川少年は他の男子より少し長い髪で眼鏡を掛けているクールな感じの少年だ。
二人はバカだ。
おバカだ。
小学生がやるような事を高校生になっても本気でやっているおバカだ。
バカはバカなので全力でバカな事をする。
「タッキーに菓子パン」
「じゃあ俺つぼっちに80アイス」
「二人とも、あたすの為に争わないでーっ!」
「あっははは! 声低いな勇子ちゃんってか?」
全力でバカをやっている姿は楽しいので、彼らの周りには人が集まる。馬鹿にしているのでは無く二人のバカが好きな人達が二人の周りに集まるんだ。
二年A組は熱く、激しく、楽しい喧騒が広がっている。
─好きだ
ウルトラマンラスティは、守星照夜はこの光景が好きだ。
犯されていけない、大切な景色だ。
これを守る為にこの場所にウルトラマンラスティはいる。
この光景を壊させない為に守星照夜はいる。
照夜は毎日のこの時間が好きだった。
「なーにまた一人でキリってしてるのー?」
フニャンと柔らかい二つの果実照夜の後頭部にあたり、柔らかな手が照夜の手を覆った。
「ふふ、千夏。君もこのやりとりが好きだな」
照夜が振り返ると、そこにいるのは親友である大地千夏。
照夜の黒いストレートとは違いふわりとした髪のどこか柔らかい印象を持つ少女だ。
千夏はあごを照夜の肩に乗せ、照夜の手をにぎにぎと握って密着する。女子特有の距離感の近さだ。
照夜は擬態だが美少女だ。千夏は天然の美少女だ。
美少女が密着している絵面は大変健康に良い。
「今日の購買戦線の成果はどうだった?」
「むふー! ご覧あれぇ」
千夏は片手で持っていた物を飼い主に狩り取った獲物を自慢する猫のように自慢気に見せた。
彼女の手にあるのは流星パン。円谷学園の購買に昼休みだけに一日に十個だけ販売されるとんでもなく美味いパンだ。
マジで美味いパンだ。
競争率がとんでもなく高いそれをゲットする事ができた千夏の顔は喜びで満ち溢れている。
「照夜も一緒に食べよー」
そう言って流星パンを半分に千切って差し出す千夏の顔はやはり笑顔。
「友達と食べたらきっともっと美味しくなるよね」
─千夏、君はやはり優しい
食いしんぼうな千夏という少女は食べ物が一番美味しくなる状態を熟知していた。
それを、友と分け合う時だと。
「ならば私は君と遥が作ってくれたお弁当わ、分け合おう」
「キャー! 嬉しい。遥さんのご飯美味しいよね!」
照夜にとって千夏という少女は特別だ。
地球で初めてできた友達。
星守照夜は、ウルトラマンラスティは、この優しい少女が大好きになってしまっている。
それ程までに千夏は出会ってからずっと、照夜に人間の素晴らしい所を教え続けている。
「はむ、」
「もきゅ」
分け合った流星パンを二人は同時に食べた。
「美味しい!」
「舌が蕩けちゃぁう!」
きゃっきやっと美味しいを分かち合う二人の間には確かに確固な友情があった。
二人の関係の始まりは円谷学園の入学式の日に桜の下で照夜が飢えていた千夏にご飯を分け与えた事が始まりだった。
星守照夜はウルトラマンだ。
大地千夏は人間だ。
ウルトラマンと人間の真の友情の一歩目を二人は踏み出していた。