新しい小説が完成したので毎日投稿開始です。
全部で16話、よろしくどうぞ。
『ギエモン、ギエモンよぉ』
「どうしたんだ、ヤマト?」
『次の依頼は何だ?そろそろ骨のある奴と戦いてぇのよ』
「無茶言うな。戦闘ばかりじゃ身が持たないし、報酬が安い事が多い。それに絡繰のお前が壊れたら戦力半減だしよ」
『ちぇっ』
絡繰操術師と呼ばれる魔導傭兵の男、ギエモン・カイルスケイドに話しかけている意思ある人形はヤマト。2人は各地を放浪しながら専属のエージェントに紹介してもらった仕事をこなして生計を立てている。この日も前日に張り合いのないモンスター退治を終えてふらりふらりとあてもなく国の中を彷徨っていた。2人は産まれた頃より生活を共にしており、幼少期に魔力を貸して、その代わりに力を借りるという契約をしていた。
「血の契約の時、お前の力を借りる代わりに魔力を貸す。そうしたな」
『戦闘を沢山させてくれりゃ申し分が無いがな』
「確かに勿体無いな、契約を活かせねぇとよ」
『だろ?』
「だが、さっきも言ったがお前を失えば戦力としてはガタ落ちだ」
『頼られるのは嬉しいね』
「へっ。おっ、あれは……」
『新しい依頼か。近場だから会えたなぁ』
国の中核都市で出会ったのは2人の幼馴染であり、ギエモンの専属エージェントのリーナ・ベイリーンである。彼女の所属しているエージェントギルドがこの街にあるのだ。普段は連絡を取り合っているのだが、この日は偶然会えたのだ。
「ギエモン」
「リーナか。依頼でも回ってきたのか?」
「ええ」
「お前の回してくる依頼なら良いものが多い。話を聞こう」
「ついてきて」
『依頼か。戦闘だと良いなぁ』
「そう上手く行くかねぇ」
早速ギルドに赴いて話を聞くと、どうも盗賊退治の類だという。ヤマトは好戦的な性格だからか、こういう戦闘系だと少しばかり喜ぶのだ。
「盗賊退治?」
「大商人の治める街で暴れ回ってるんだって」
「やれやれ、戦闘か」
『ヒヒヒ、やったな』
「貴方は戦闘が好きよね」
『戦闘用絡繰人形だから』
「それもそうね。で?受ける?」
「断る道理がない。行ってくる」
「依頼人はこの人。この街の館で待ってるそうよ」
「領主殿か。あいよ。行くぞ
『楽しみだ』
2人は移動の間に作戦を立て、体力を温存する為に列車に乗ってバリーシアへと揺られていく。バリーシアへは列車が整備されてて助かるのだ、こういう移動の時は。まだ地方では馬車の出番が多いから、中核都市間ではこうした移動が楽できて良いのだ。
「仕方ねぇよ、採算ってのがあるからな」
『結局金か』
「生きていく上では金が必要なんさ」
『俺は生きる実感が有れば何でも良い』
「生きる実感か、何を以てそれを成すか。難しい問題だな」
『難しく考えすぎなんだよ、お前は。命のやり取りだ、簡単に言えばよ』
「命のやり取りねぇ」
『そうさ、生死を超えたその先に俺の強さは有ると思ってる』
「時折お前には驚かされる。確かにそうかもしれんな」
『哲学的に考えられるのは人間ばかりじゃねぇって事さ』
生死の契約を結ぶ彼らは、ギエモンが死ねばヤマトも消滅するのだ。だが、ビビってばかりでは心が折れてしまう。張りのある生活だからこそ生きる実感を得られるとヤマトは常々思っている。そうこうして1時間半程経った頃、依頼主の元へと到着した。
「おや、ようやっと来たか。ええっと、貴方は個人傭兵の……」
「お待たせして申し訳ありません、ギエモン・カイルスケイドです」
「ああ、そうそう。とりあえず此処に向かって盗賊どもの退治を」
「はい」
「報酬は成果報酬とする」
「ええ。では」
「……おい」
「はっ」
「奴が盗賊を討伐したら少なめの報酬を渡す。場合によっては消せ。後々我々に歯向かわれては困る」
「ははっ」
ギエモン達が立ち去ったのを確認してからそんな物騒な話が飛び込む。だが、個人の魔導傭兵相手にはこうした口封じは良くある。万が一何か不都合な事を漏らしたら容赦しない。そういう事だ。
『アイツら、何か隠してそうだぜ』
「恐らく討伐の成果を独り占めする為に俺を消しにくるかもしれんな。己の失態を隠す為にもよ」
『じゃあ!』
「お前が居るし、もう一体のフィンリルも居る。あの様なクソッタレに使い捨てにされるつもりはねぇよ」
『フィンリルか。使いこなせよ、俺らを』
「ああ。ここ最近、お前で事足りていたから使ってなかったな」
『俺と違って自動絡繰じゃねぇからな』
「喋らねぇしな」
ギエモンはヤマト以外にも普通の戦闘用絡繰人形のフィンリルを持ち合わせている。だが、このフィンリルは魔導の細工が組み込まれているから使うには神経を魔力をヤマト以上に消耗するから使わないで済むならそれに越した事はないのだ。やっと辿り着いたのは丘の上にある盗賊の拠点だ。
「あそこが拠点だそうだ」
『俺が先手を打つ。続けよ』
「分かってる。お前の扱える属性は俺より多いからな」
『お前も本来は出来るんだろうがな』
「出来てもやらねぇ。面倒事は御免だ」
『それでもフリーの傭兵かよ』
「へっ、うるせぇ」
『けっ。行くぞ』
互いに軽口を叩ける仲なのは産まれた時より側に居たからだろう。互いを信頼して、尊重しあうからこそ、悪態もつけるというものだ。仕事柄信頼できる相手は少なく、貴族や大商人は彼らを使い捨ての駒としてしか見てないケースも多い。さて、敵が油断している隙を撃って先手を取る。
『秘術・毒霧!』
「な、なんだ!」
「傭兵だ!全員撃破させてもらう!」
「1人と1体かよ?」
「舐めた真似しやがってよ」
「俺らだけじゃねぇぜ。召喚、フィンリル」
「(絡繰人形?ま、まさかこいつ……)」
「霧にはフィンリルの内蔵しているこいつだ。火炎放射!」
「ぎゃあ!」
「ぶぇっ!」
慌てて動きが緩慢な敵に対して毒霧と、それを爆破する為に炎を発する。読み通り敵はさらに慌てふためき、一回の攻撃で複数名をダウンさせる事に成功する。だが敵もただではやられない。すぐに体制を立て直して立ち向かってくる。フィンリルは魔力の糸で操る為に射程範囲がある。その範囲外から攻撃しようというのだ。
「遠距離攻撃だ!」
「行けるな、ヤマト?」
『当たり前だろ?舐めるなっての』
「じゃ、散」
「絡繰使い如きが」
「お前ら、こいつの仕掛けに驚け」
「あれは、鉄の矢か!?」
「絡繰人形は様々な仕掛けを内包している」
まずは二手に分かれて移動しながら攻撃を仕掛けていく。フィンリルには魔力に反応して使われる武器が幾つか内包されている。それを使って攻めるのがギエモンの戦法なのだ。まずは風の砲弾だ。
「風砲」
「魔法の盾、用意!」
「「「おおっー!」」」
「ほう、魔法には魔法で対抗か」
「はっはっ、そこに魔法銃だ」
「ふむ。煙玉、発射」
「ぬっ……」
「見えねぇ!」
「動揺するな、放てぇ!」
「は、ははっ!」
煙玉が爆発して周囲の状況が飲み込めないが、その煙の範疇に居るだろう。そこに集中放火すれば当たるだろう。だが、その油断が命取りだ。
「どうだ、行けただろ」
「へへっ、他愛もない」
「この程度……がっ!」
「ぐぇぁっ!」
「な、暗器!?」
「5人か。まだまだだな」
「くそ、防いでいたか」
「砂の盾だ。これが俺の力の一つ」
「何だと?ただの絡繰使いじゃねぇのか?」
「こいつらだけが俺の魔法じゃねぇ」
「ひっ!」
「行くぞ、フィンリルの本番はこれからだ」
そう、土属性の魔法を操るのもギエモンの特技だ。手が塞がっている時などは足を踏み込んで魔法を発動する器用な真似まで出来る。だからこそ何年もこの業界で活躍して生き残ってきたのだ。そんな彼の活躍を見守っていたヤマトも何人か倒して実力を知ったのか、少し気怠そうだ。彼はギエモンの魔力を多く借りずとも空気中にある魔力で動けるのだ。だから多少術者のギエモンと距離があろうとも自らの意思で動ける。
『けっ、アイツ楽しそうにしてんじゃねぇか』
「喋る絡繰なんてあんのか?」
「知るかよ。それより壊すべきだ」
「どうやってだよ」
「分からねぇが、やるしかねぇよ」
『俺は複数の属性を扱えるんだ。手始めに、これでどうだ』
「あれは……総員退避!」
『遅ぇよ。風鳴火花!』
「火の粉が爆発!?」
「風で拡散してやがる!」
2属性攻撃は魔力の消耗が激しく、関節などを詰まらせる魔力の
「10名被弾しました」
「逆にその程度で済んだか」
『おーおー、逃げおおせたか』
「どうしますか」
「絡繰の弱点は関節部と聞く」
「そこを狙うと」
「ああ」
『そう来るだろうな。だが、俺ぁ関節部分を一時的に分解できる』
「くそ、詰まらせる作戦は駄目か」
『さぁ、俺を楽しませろ。生きる実感が欲しいんだよ』
絡繰人形使いはそう多くないが、武器使いの弱点と似た部分もあるからそこを狙うのは定石だ。だからこそ、自分の弱点を一つでも潰しておくのは戦人の取るべき戦略だ。出来る事はやっておきたい、そういう慎重さが重要なのを知っているのだ。闘争に愉悦を感じたいからこそ尚更ヤマトはそこを重視しているのだ。突っ込みながら腕の鋸を出して回転させて攻撃を仕掛け、裂傷を起こす。
『鉄鋸風車!』
「ぎゃあ!」
「アレを止めろ!」
「水の弾丸を撃てば錆びるかも」
「それで行くか。前線、用意!」
「はっ」
『何だ何だ?何する気だ?』
「熱湯弾、発射!」
「撃て撃て!数撃ちゃ当たるかもしれねぇ!」
『すぅ……』
「移動するか。偏差撃ちで追い込め!」
「「「おおっ!」」」
『風刃竜巻!』
「うわぁっ!」
「ぎゃあ!」
「更に突っ込んで来て範囲攻撃か」
偏差撃ちを考慮して細かく移動しながら攻撃すれば当たる頻度を減らせる。攻撃をいなしながら範囲攻撃を仕掛ければ良い。竜巻と同時にそこから発せられる空気の刃を放てば一気呵成に倒せる。
『ふん、これで半減だな』
「こいつ……」
『無駄な抵抗だが、やれるだけやってみやがれ。俺を追い込め、俺に生きる実感を与えろ』
「テメェ、ぶっ殺してやる」
『おっと、そいつぁまさか』
「小型ロケットだ。これで無事では済まんだろう」
『くくく、死に反抗するのが好みでなぁ』
「喰らえ!」
所謂ロケットランチャーの様な武器を発出するが、避けてみせて少し離れた場所から火炎を放つ。意図せぬ場所で爆発を起こしてダメージを与えられなかった。こちらを殺しにかかるのなら殺される覚悟はあると判断して鋸を再び装着する。
『ふん、火を放てば自然に爆破するとは』
「な、な、何故……」
『テメェらはそこまでだ。死ね』
「ひっ!」
「待てヤマト」
『何だよ、ギエモン?こいつらの退治が依頼だろう?殺しておけば盗賊として終わるだろ』
「人殺しは一部の国以外では御法度だ。犯罪者に成り下がるつもりはねぇよ」
『……けっ、命拾いしたな、テメェら』
「ただ、罪は償え。国軍がもうそろそろ到達する」
「あ、ああ。助かった」
「命を無駄にするなよ?ヤマト、軍に引き継いだら帰るぞ」
『ちぇ、仕方ねぇな。今回もハズレか』
「まさか、絡繰操術師って、あんたの事か」
「ああ、そうだ……」
人殺しは法律があるからというのもあるが、極力命を奪いたくないという自分の信条に反するからだ。無駄な殺生は好まぬのだ。とりあえず逮捕してしっかり反省してもらおうと判断した。
『これで終わりだな』
「待て、少し戦闘が長引くかもだ」
『お?そうなのか?ひひっ』
「貴方がギエモンだな?」
「如何にも。
「こいつらの捕縛は我々が務める」
「構いやせんが、報酬はきちんと頂くよ」
「……我が主人は端金で済ますつもりの様だが」
「分かっている。少しでも良い、エージェントに報酬を回して欲しい」
「義理堅いのだな」
「彼女らのお陰で暮らせているからな」
「分かった。依頼主に口添えしておこう」
とりあえず一旦エージェントのリーナの元へと向かい、報酬の支払いを受け取る事にした。恐らく依頼の出来次第では首を狙ってくるだろうと考えていたが、現場の人間はそこまでするつもりは無かったのだろう、見逃された。
「お疲れ様ね」
「今回はヤマト的にハズレだとよ、リーナ」
「あら残念。とりあえず報酬を渡すわ。もう手数料は引いてるから遠慮せずに受け取って」
「あいよ」
「貴方のお陰でそれなりに報酬が出たわ」
「当たり前の事を伝えたまでだぜ」
『次はもっと良い依頼を頼むぜ』
「おい、ヤマト。お前の好きな戦闘の依頼を回してもらえるだけ有難ぇじゃねぇか」
「ふふ、良いよ。努力するから」
『本人もこう言ってんだからさ』
「済まんな、こいつが贅沢言ってさ」
「貴方達の様な優秀な傭兵のお陰で、依頼主からの手数料で生きてけるから。でも叶えられない可能性は考慮してよ」
『あいあい』
「じゃ、次も頼むべ。国の各地を移動してるかもしれんが」
「はいはい、毎度ありがとね」
「依頼はまず電話などでな」
依頼主の方へ向かう前に少し休息を取って絡繰の汚れや傷、魔力の残渣を点検したい。だが、依頼主が首を狙っているなら釘を刺しておきたい。
「はあ、疲れた。呑むか」
『俺の油も頼むぜ』
「しばらく静かに出来るならな」
『その代わり、特上のものをくれよ?』
「へいへい。その前に商人さんに会ってこよう」
本来ならやらなくて良い依頼者との面会だ。会ってみれば依頼の完了は報告されているという。報酬の件についてとりあえず感謝の念を伝えておく。これで彼女らも生活できるというものだ。傭兵とはいえ相手も殺すのは不本意なのだろう、彼の邪魔にならないのなら手を出すつもりはないという。
「はあ、そうですか」
「次依頼するか分からんが、いざという時は動いてもらうかもしれん」
「かしこまりました」
「挨拶が終わったならさっさと去れ」
「では、失礼します」
「……消すには惜しい人材だな。良き判断だ、副商隊長」
「ありがとうございます」
まずは解決出来て重畳といったところか。それなりの報酬を得たし、宿代がかからない事が多い放浪傭兵には金が有り余っている。なので10日ぶりに酒を呑む事にした。
「さあてと、酒に油を買うか」
『今日の報酬で上等なものが買えそうだな』
「今回はこの店だな」
『さてさて、楽しみだなぁ』
「少し大人しくしててくれ」
『あいあい』
「いらっしゃいませー!」
「酒はこれにツマミとしてこれ。それとこの上等な機械用油を」
「金額はこちらです」
「ほれ。釣り銭は要らん」
「あ、ありがとうございましたー!」
釣り銭を受け取らない事はしばしばある。貯金もあるから出来る使い方だ。
『いつ見ても惚れ惚れとする金の使い方だな』
「洞窟で泊まってるから家賃がねぇ分、安上がりだからな。しかも飯は金を払わずとも現地調達が出来る」
『良く病気にならねぇな』
「免疫がついたんだろ」
『はっ、それもそうか』
「それはそうと、今日は何処で雨風を凌ごうか」
それからというもの、2時間ほど歩いていくと街が遠くに見え始めていく。こっち方面には街があったと記憶しているが、そこに行くか不明だ。
『そうなのか?』
「ま、日が暮れるまでに辿り着けるかだ」
『また雨風を凌ぎながらの旅路か』
「仕方ねぇだろ。定宿の無い男だからな、俺はよぉ」
『けっ』
最悪野宿をする旅路だが、もう慣れたものだ。はてさてこの日はどうなるだろう。