さて、姫殿下から許可を得て2人を呼び出して、これからの動き方を説明した。ユミナ姫の事は既に知っていてもおかしくないが。王家内の争い事に彼ら程情報を素早く得られる立場の人間は居ないと考えられる。
「っつー事だ。2人とも既に今回の行動は知っててもおかしくねぇが」
「まぁ、そうだね」
「流石に俺1人じゃ無理だろ。相当な手練と踏んで2人にご助力願いたい」
「同じ姫を主と仰ぐ我々だ。協力は惜しまん」
「助かる。我々は犯人の捕縛を命ぜられた。やれるだけやってみよう」
仲間が1人でも居てくれる事がどれほど有難い事か。彼らの配下も既に動き出していると言う。全ては己らの主を守り抜く為だ。部屋から出ると、仕事中のアイラと遭遇する。
「あら?お三方が集まられるなんて珍しいですね」
「アイラか」
「そうだ、彼女にも来てもらうのはどうかね?」
「戦えるのか?」
「接近武術は多少心得があります。万が一、主に危険が迫った際には私もセツナ様の守護をせねばならないですから」
「そりゃそっか。仮にも国の第三王女付きのメイドだしな」
「とはいえ、お三方には及びませんよ」
「頼りになる戦力が1人でも居てくれたら助かる。いけるか?」
「はい」
「さて、どう動く?」
「奴らは再び狙いかねない」
話を聞く限りではバーズ王子は左腕を負傷されているとか。彼の利き腕だという。この情報からして、彼らは本気で無力化させるか、命狙っていると推測される。相手の動きを止める為にも正面から証拠突きつけるか、その上で反抗してきたら叩きのめすかするしかないが、アマツは叩きのめすなら裏の情報を得てからにしようという。それでは遅いのではないかと考えられるが、急がば回れ。とりあえず証拠集めをすべきだと言う。それから数日、出来うる限り情報を集め、証拠を揃え、言い逃れの出来ない状況を作り出してから下手人共を呼び出した。
「何だよ、俺らを呼び出してよぉ」
「これは何だと思う?」
「知らん。そんなダガーナイフは知らん」
「柄の部分しか見せてねぇのに良く武器種まで特定できたな」
「っ……」
「それだけならただの偶然だろ。似た物を見ただけだ」
「ほうかほうか」
確かに一つだけ武器をチラ見せさせても偶然答えられるかもしれない。ならばと次の証拠を突きつける。これで相手の反応を見る。相手が怪しい言動を示せば黒だ。
「こいつは何だろうな?」
「薬品か?」
「おい、あれは俺らが……」
「しっ、馬鹿!」
「そう、お前らが落としたボトルだ。剣に塗っていたんだろう、これで毒殺しようとした。だが、傷を負った王子は治療班に治された」
「貴殿らが第二王子を狙ったのは知っている」
「ちくしょう、こいつら」
「やっちまえ。黙らせればこっちのもんだ」
たった二つの証拠だが、これには彼らの指紋などが残されていた。しかもバーズ王子の体から検出された変わった毒である。これを作れるのはかなり特殊な知識が必要で、殺しを得意とする者でなければ作れない。王族の配下では彼等と諜報部隊の一部しか知り得ないだろう。痺れを切らしたのか、仕掛けてきたのだ。
「ヤマト、出番だ。フィンリルも使う」
『あいよ』
「召喚、フィンリル」
「貴殿の力、見ものだな」
「期待には応えねばな。3人も頑張ってくれよ?」
「うむ」
「では、私は空に溶けよう」
「任せた、アマツ」
戦力としては相手は20人ほど。こちらは数名。多勢に無勢の様にも見えるが、此方の方がより鍛えているだけあって戦い慣れている。相手も慣れていて拮抗している場面もあり、油断は出来ない。
「アマツの魔法は風属性か?」
「闇属性も持ち合わせている」
「なるほどな、諜報屋としては当たり前か」
「そして私は氷を操る。はあっ!」
「冷てえ!」
「ひっ、足が凍った!」
「やるねぇ。ほれ、小型爆弾だぜ」
「ぎゃっ!」
「ぐぇあ!」
「魔法道具も使うのか?」
「生き残る為ならな。頼れるエージェントに集めて貰ってた」
爆弾や魔導銃はこういう場面の為に用意していた。相手が仕掛けてくれば正当防衛が認められるから遠慮なく仕掛けられる。少しずつ優位に進んでいるからか、相手も魔法をどんどん使ってくる。
「テメェら、良くもぉ……雷波!」
「おっと」
「土の壁か。慣れてるな」
「遠距離攻撃はああいう雷属性の魔導士にとっては常套手段だからな。だが、こっからどう近づくか……」
「それなら私に任されよ。はっ」
「ぐえっ!」
「アマツ、流石というべきか」
「敵に回すと恐ろしいな」
敵後方から風魔法をフルに使ってくる。流石は諜報部隊長、裏切り者の暗殺を兼ねているだけあって一切の遠慮が見受けられない。完全に無力化を目指す無駄のない攻撃の仕方だ。
「この……」
「銃を使いたかねぇが、相手が相手だ。仕方ねぇ」
『まずは俺から攻める。銃はフィンリル内蔵の物を使え』
「そうだな」
『まずは毒の小刀だぜ』
「うおっ、危ねぇ」
「撃ち込みます。はい!」
「ぎゃあ!」
「そこに連撃だ。ほれほれ」
此方が優勢とは言え、相手もタダでやられる程甘くはない。仮にも戦闘を生業としているその系統の稼業の人々だ。此方もそれなりに傷が増えている。更に魔法の合体という高度な技術を使ってくる。
「風と火を合わせろ」
「おう」
「高威力技をやるつもりか。3人とも下がれ」
「援護する」
「よっと」
「土壁如きで防げるか!」
「土だけじゃねぇ。金属もいけんのよ」
「そこに氷を当てて熱を奪う」
「ま、急な温度差で壊れるかもしれんがね」
なんとか壁を多重にする事で敵の広範囲高威力技を乗り切ったが、消費した魔力は多い。あまり長期戦には持ち込みたくない。すぐにケリをつけるべきだろう。まずは味方の無事を確認してから次の行動に移るべきだ。
「お三方とも無事ですか?」
「なんとかな。威力が想定より高くなくて良かったで」
「敵は半分ほどだな」
『俺にもっと行かせてくれ』
「分かってる。頼むぜ相棒、俺が本格的に銃を使う前によぉ」
『レーザー含めて火器は使いたがらねぇよな、お前』
この国では魔導銃を含めて銃は常に暴発の危険性がつきまとうからあまり使いたがらない。出来れば絡繰にも組み込みたくないが、少し暴発率の低い魔導銃なら結構有用だから仕込んでいる。魔法武器は常に魔力の枯渇と暴発、魔力残渣に注意を払う必要があるから、そこら辺は少し不便である。
「フィンリルで抑えてから、ほらよ」
「ぎゃっ!」
「光線銃か」
「その中でもこれは殺すより傷つける程度の武器だ」
「慈悲があるな」
「いや、むしろひと思いに1発で殺した方が相手は楽な場合もあるがな。生きている限り、撃たれれば体は痛むからさ」
「確かに。ほれっと」
「お、氷のナイフか。複数個を同時に生成する錬成速度、素晴らしいね」
「これでも元闘技場の戦士だからね」
「そりゃ意外だ」
詳しくは後ほど聞くとして、とりあえずは目の前の敵を倒す事だ。だが、相手も数が減って遂にプッツンしてきた。魔法の中でも既に錬成してきたのを召喚したのか、この場で作り上げたのか、大砲が3門出てきた。
「テメェら、
「あれは、大砲の召喚か」
「けけけ、これさえ使えばいくら魔導師といえどもタダじゃ済まねぇだろ」
「アマツは、あいつはどうした?」
「先程から居ませんよ」
「なに?」
「おそらくは……」
先程壁を錬成した辺りからまた姿を消している。今までの説明や戦闘から考えられる答えは一つ。またしても空に溶けて移動しているのだ。しかも大砲を斬ってみせるおまけ付きでだ。これには敵も混乱するばかりだ。
「な、なんだ?」
「大砲が斬れた?」
「ひっ!」
「次、無駄な抵抗をしたら貴様の首が飛ぶと思え」
「アマツさん!」
「おお、かっけぇな」
「う、くそぉ」
「情報を吐いてもらう。衛兵!」
「はっ!」
敵は全て捕らえた。彼等には知っている事全てを吐いてもらう。これでバーズ王子の御身も安泰だろう。
「ギエモン、助かった。貴殿の魔法は強力な物だな」
「扱いに慣れるまで少し時間がかかるがね。ま、なんとかなって良かったぜ」
「だが、肝心の首謀者たるウィルがまだ残っている」
「奴は下手に動かないだろう」
少しでも時間を稼ぎたい。だから下っ端を切り捨てたのかと疑問が呈されるがおそらくそうだろう。こういう戦略に少し長けているアマツ同意見だという。ギエモンのいうとおりで、こういう手合いの者は慎重に動く。一見すると冷酷に見えるが、皆で守るべき主の為に動くという仁義の側面がある。バリーはあまり納得していないが、それが事実なのだろう。これからは激しい戦闘が予測される。この中でギエモンは雇われのフリー傭兵、失っても大勢には影響しにくい。万が一の時は切り捨ててもらって構わないという、王家の為の覚悟を問うた。これには是と答えるしかなかった。
「とりあえず尋問して、そこから得られた情報を基に次の行動に移ろう」
「任せて良いかい、アマツ?」
「専門分野の一つだ」
「流石だね」
「セツナ様に捕縛成功の事、報告してほしい」
「ああ」
アマツに情報収集を任せて、まずは主のセツナ姫に報告をすべきだろう。まだ下っ端とは言え、仕掛けてきたから捕縛したまでだと伝える。反論されぬ様に諜報部隊に証拠を撮らせていたし、突きつけた証拠を持ってきているのだ。捕縛したが、まだリーダーが手付かずだ。
「セツナ様」
「実行役と見られる下っ端連中を捕縛しましたぞ」
「ご苦労」
「次は指示役のウィルの捕縛となろうかと」
「まだ彼が残っているのね」
「素早く行わねば、王家としての地位と潤沢な金銭を利用して実行役を補充してくるでしょう」
「厄介ね、そうなると」
「陛下に要らぬ心労はおかけしとうございません。ここは迅速に対応せねばなりませんぞ」
「分かった。情報が届き次第すぐに行動に移すわよ」
「ははっ!」
それから1週間ほど、相手が人員補充を行う隙を与えぬ迅速さでアマツが情報を集め終えたとセツナ姫から聞き及び、彼の元へと馳せ参じた。彼の顔は少しばかり疲労の色を感じ取れる。苦労をかけてしまった事を詫びた。
「君達か」
「アマツ、お疲れさんだね。済まんな、苦労かけた」
「流石に1週間で迅速に的確な情報を集めるのには苦労したよ。しかも痛みや恐怖を伴う拷問は極力しないという私の信条に今回ばかりはネックだったな」
「それでも情報は得られたのですよね?」
「まあ、確かに」
「今後の対応が変わる可能性がある。急いで姫殿下に報告だ」
結論として彼らは使い捨ての駒である。これまでも何度か攻撃を仕掛け、捕縛された者達は用済みであると。中には殺されかけた奴もいるらしい。それだけ急ぐ理由があるのだろうか。
「何もそこまでしなくても」
「何かを急がれていると申す者も居ました」
「もしかして、父上の病が……」
「悪化している可能性が高いと?」
「そうだと思う。父上は心配をかけまいと多くは語らないから……」
「そうでしたか」
「父上の様子が心配だわ」
「少し話をされては?」
「そうね」
「王家専門の薬師がついておりましょう。その方にも詳しい病状を伏せろ、話すなと伝えておられるでしょうが……」
「でしょうね。でも、話はしてみる」
「私アイラも同行いたします」
「お願いするわね」
もはや猶予は無いだろう。すぐにでも父王の病状を聞き、後継者を立てるべきだと説得にかかる事となった。そうすれば無益な争いをせずとも良いのだ。その裏でまずは相手陣営の軍事力を少しでも減らすべきだ。
「俺らはウィルの捕縛の準備をしよう」
「そうだな」
「ところで、陛下は病に臥せっておいでだそうだが、何の病なんだ?」
「臓腑の病だそうだ」
「ふむ。深刻なのか?」
「予断を許さぬ状況でね」
「そうなのか。ユミナ様が急がれる気持ちも少し分かる気がするな」
「ユミナ様にはユミナ様なりの考えがお有りなのだろうが、しかしなぁ」
「兎にも角にも、我々の方針は決まったも同然だ」
「後は指示が降り次第すぐに行動に移る」
「うむ」