「貴方達の出番よ」
「お、きましたかい」
「今夜私とマディエ兄様の所へ彼らが来る可能性が高いってアマツから」
「逃げてマディエ様と合流の出来る様に準備しててください。マディエ様にもお伝えすべきです」
「ありがとう」
これで準備は整った。勝利して相手の動きを封じる、ただそれだけだ。だが、この状況にギエモンは渋い顔をしてしまう。これにはアマツやバリー達が疑問を持つ。作戦通りに進んでいるのに何故その様な表情をするのだろうかと。
「……」
「どうしたね?」
「いや、正直思うところがあってな」
「険しい表情だ」
「15年前の事を思い出しててね」
「15年前、ですか?」
「何処かで聞いたが、ボルピット公国との国境の街イーベルデルクの出身だと。公国とは今もだが、当時から仲がよろしくなかったと聞く」
「ああ。だから、苦手な王侯貴族の為に戦うってのは、あまりな」
「だろうな。本当なら憎いって思ってもおかしくない」
確かに見捨てた貴族は恨んだし、すぐに復興の手助けに乗り出してくれなかった事に怒りを感じた事もある。それが本来の人間のあるべき感情だろう。だが、姫殿下は彼等を見捨てた貴族じゃないから、彼女を恨むのはお門違いという物だろうと感じてすらいる。
「彼女の母君、エリーン王妃殿下は国王陛下にすぐ向かう様進言なさっていた」
「そうなのか?」
「心優しい陛下はその言を取り入れ、生き残った方を別の街に一時的に避難させた。少しずつ復興させたというが十数名しか戻れず、外部の人が大勢入ったと聞く」
「確かにあそこは俺の故郷だが、自分の居た頃と様変わりしてる。もう帰る理由もあまり無い」
「離れてから何年経つ?」
「15年くらいだね、ヤマトと幼馴染と一緒にな。家族にひと月暮らせる程の金と10日分の食料を手に街から逃げて旅路に立った」
その幼馴染とは今も付き合いはあるのか問われ、自分の仕事を紹介してくれているエージェントなのだと伝える。旅立ってから今に至るまで互いを支え合う、一蓮托生の関係なのだ。
「長い付き合いだな」
「ああ、俺にとっては失いたくない存在だね」
「その御仁を大切にすると良い」
「そうだな。あいつ、リーナは大事な存在だ」
「リーナ殿の事、詳しくどう思われている?」
「仕事でも、私事でも欠かせない存在。何があっても守りたい。あいつを狙うならどんな敵だろうと容赦しない、そう思っている」
「私らが姫殿下を大切に思うのと同じくらいの感情、という訳か」
「そんな大層なもんじゃねぇさ」
「謙遜なさるな。誰かを守りたいという感情は大事になされよ」
さて、夜まで動きは無いだろう。今のうちに休む事となった。別れてから部屋に戻り、夕方ごろに起こす様ヤマトとワルキューレに伝えて寝床についた。気を張っていた日々だったから疲れが溜まっている。すぐさま眠ってしまった。
「ぐかー」
『やれやれ、ギエモンも大変だな』
『まさか王族の一員の護衛を任されるとは思いもしませんでした』
『そういやぁ、お前は誰に作られたんだ?』
『マスターが目覚められてから語りましょう』
少しでも知ってもらい、今後の生活に活かしてもらおう。だが、今がその時じゃ無い、そう思っている。それから6時間後、予定の時間となったから起こしにかかる。
『マスター、そろそろ時間です』
「んお?ああ、そうか」
『此処から先はいつでも戦える様にしておこうぜ』
「そうだな。はぁ、寝たからスッキリしたな」
「ギエモンさん、お目覚めですか?セツナ様がお呼びです」
「すぐ向かう」
夜の帳が下りる頃、そろそろ相手も動いてくるだろう。目覚めも最高、気分は上々。魔力も冴えている。これならいけるだろう。セツナ姫の部屋には既にアマツとバリー、十数名の兵隊達が待ち構えていた。
「来てくれたわね」
「お待たせしました」
「良いのよ。そろそろ頃合いよ」
「私達が敵を足止めします。姫様は御身を大切になさいませ」
「ありがとう」
「おそらくマディエ様の所にも向かわれるでしょう」
「そうね。情報共有はしておいたわ」
「逃げ道は確保なされましたかな?」
「ええ、念の為にね。でも、そこも塞がれてる可能性が高いわ」
「用意周到に仕掛けてくるかもしれませんね」
周りの警戒をしながら合流地点へと少しずつ歩みを進めていく。敵を倒しながら合流し、一気呵成に倒していく。これが今回の大まかな戦略だ。まず絡繰操術師ギエモンが攻めてきた敵を受け止める。その間に合流するのだ。
「来た」
「バリー、アマツ、アイラ。姫殿下をお連れして逃げろ。今マディエ様も戦っておられる」
「ですが!」
「此処は俺が本気出すぜ。ヤマト!ワルキューレ!」
『おう』
『お任せを』
「あれが、絡繰操術師の人形達……」
「魔力の消耗が激しいが、もう一体行くぜ。フィンリル召喚!」
「ど、同時に三体とは」
『あんたらは先に行け。此処は俺らの戦場なんだぜ』
「お任せします。アイラ、此処は彼らの望み通り退こう」
「はい。姫殿下」
「うん」
マディエ王子の戦っていると思われる地点まであと少し。マディエの居る場所の近くまで来れば一安心だ。だが、敵はまだ居る。全てを止められてはいないのだろう。
「姫殿下はお下がりください」
「けけけっ、たったこれだけで何が出来んだよ」
「……出なさい」
「はっ」
「ほう、諜報部隊がお出ましか」
「時間稼ぎなんて無駄なんだよ、無駄無駄」
「マディエの元には行かせねぇ」
「囲まれたか」
「……信じなさい」
「セツナ様?」
「必ずこの状況を打破できると。信じるの」
「しかし、これでは……」
いざという時に使えとギエモンから預かった巻物を広げようとするが、初めての魔法に少しばかり緊張している。しかも使い慣れていない物を一発で使いこなせるか心配でもある。だから使う事に踏み出せないでいる。そこへ敵の凶刃が襲い掛かろうとしていた。
「へへへ、死ねぇ!」
「セツナ様!」
「っ……」
「させるとでも?」
「テメェ、さっきの!」
「どうにか間に合ったか?姫様、貴女を救出しに参上
「ギエモン!」
「絶好のタイミングだ。まるで救国の騎士の様だ」
「大丈夫か、我が妹よ!」
「兄様!」
刃を振り下ろそうというまさにその場面で、ギエモンが絡繰用の糸を敵の腕へと付着させて振り下ろさせない。そこへ援軍のマディエ王子の部隊が到着した。これで一気に勢力が逆転した。ギエモンの抑えていた相手はあまりの強さに途中で降伏、マディエ王子の相手も同様だ。
「さあ、出番だ!絡繰部隊、発出!」
「待て、君の魔力が!」
「大丈夫。こいつらは空気中の魔力と魔石で動くんです。行け!」
「ぎゃあ!」
「ごぅえ!」
「姫殿下。貴女に託した絡繰、ここで呼び出せますか」
「う、うん。えい!」
「おお、これが姫殿下の新しい力か」
2つの部隊を同時に相手にするのは無理だったのか、すぐに片付いた。これで残るはウィルの率いる部隊のみ。だが、此処からが本番だ。相手はユミナ姫が雇うくらいだ、傭兵の中でも上位に来るくらいの実力者だろう。
「片付いたな」
「マディエ様、ありがとうございます」
「君が道を開いてくれたからだ」
「今の俺は姫殿下を守る矛。最低限の役割を果たしたに過ぎません」
「それより、まだウィルとやらが残っている」
「奴を捕らえねば終わりませんな」
襲撃を計画していたウィルの元に報告の兵がやってくる。暗い顔をしていたのを見て何となく結果は予測がついているが。そしてやはりというべきか、予想通りの結果となった。
「うん?……ちっ、失敗したか」
「これ以上は難しいかと」
「そうだな。一度退却だ」
「はて、お前にそんな選択肢はあるかな?」
「お前はこの前の……確か名前はギエモン・カイルスケイド、魔導傭兵の1人か。連れているのはヤマトとワルキューレだったな。絡繰操術師の名前は俺も聞き及んでいる」
「流石に調べはついてたか」
「当たり前だ。闘争中の身だぞ、俺らは」
それは然り。互いに直接武力を振るう事だけが闘争ではない。情報戦も仕掛けているのだ、此方の事を調べてても何ら不思議ではないし、むしろ当然とも言える。特にギエモンやウィルのレベルの魔導士ともなれば名は売れている。調べれば真偽様々な情報がすぐに集まる。
「お前1人か?」
「まさか」
「隊長、囲まれてます」
「手遅れか」
「俺を倒したら可能性はまだあるぜ?」
「自惚れて調子に乗らない方が良いぞ?」
「そりゃそうだ。それに、お前の強さは何となくだが分かっているつもりだ。生半可な奴じゃあ無いとね」
「隊長、ここは我々が」
「いや、こいつは俺にやらせろ。お前らじゃ太刀打ち出来んだろ」
「今回はワルキューレとヤマトで行く」
『ここは私の出番ですね』
『あいよ。任されたぜ』
互いに自分の実力を最も発揮出来る戦闘スタイルが確立されている。ギエモンは当然ヤマトとワルキューレだ。フィンリルは今使うべきタイミングではなかろう。此処まで魔力を消耗しすぎた。
「ワルキューレ、前衛を任せた。ヤマトは真ん中から攻め立てろ。俺は魔法道具などで援護するからさ」
『はい、マスター』
『あいあい』
「あれが絡繰装置か。俺も仕掛けよう。おいでませ、
『出ましたね』
「あれが噂の」
ウィルの狙いはまず、手前のワルキューレからだ。ビアンコで仕留めるつもりだという。属性はまだしも、威力や範囲を知らない段階だから冷静に立ち回る必要性が出てくる。慎重さこそ傭兵に求められる技能の一つだ。さもなくば様々なモンスターや賊と戦う時に死んだり大怪我したりしかねないからだ。
『魔法剣ですか。少し様子見しながら戦いますか』
「気をつけろよ。魔法剣は厄介な物ばかりだぜ」
『結論として、要は斬られねば良い。そうですね?』
「まぁな」
「私らの調査による見聞が当たっていれば、あれは光属性を操る。ネーロは恐らく闇属性だろう」
「ほう。色の名を冠するだけあるな」
此処で勝利した陣営が王家継承順位で優位に立てるから、互いに全力で戦うまでだ。ネーロで銃弾を放ちつつ、距離を詰めながらビアンコで切り抜ける。それがウィルの基本戦術だ。一丁一振りを交互に器用に使って攻め立てている。
「はっ」
『避けてからの、水のビームです』
「直線的だな」
『下から斬撃ですか』
「だけじゃねぇ」
『っ!飛ぶ斬撃!?』
「危ねっ」
『絡繰糸……助かりました、マスター』
「無茶だけはすんなよ?」
『はい』
「器用な真似をするな、カイルスケイド」
「これが俺の魔法の一つだからな、ウィル。後衛からの援護が得意だ」
『講釈や講義は後にしな。今は戦いの最中だ』
「そうだな」
「ネーロ、フルスロットル」
「(来るか、闇属性の弾丸の嵐が!)」
「はあー!」
「隆土!」
「くそ、硬いな」
土塊とはいえ、操る術者の実力は指折りのものだ。弾丸では簡単には撃ち貫けないだろう。そこへ仕掛けたのは中衛を務めていたヤマトだ。
『無茶しやがってよ。木術・鹿おどし!』
「うお!」
「そこだぜ」
「がっ!」
『いきます、雷の鉄槌!』
「上か。撃ち落としてやる」
『くっ!』
「飛べるとはな」
『戦闘に必要な機能です』
「便利だな」
空中戦や水中戦に対応できるのがワルキューレの強みだ。モンスターは戦う場所を選んでくれないから、ある程度の場所は想定して作り込まれているのだ。互いに仕掛け、避けながら魔法を放つ。一進一退のせめぎ合いが続く。
『空砲!』
「ネーロで連打だ」
『うおっ!ちっ、土の鎧が剥がれたか』
「俺の魔法で薄い鎧をつけさせて正解だった」
『全くだ。久し振りに使ったよ』
「戦いながら話をするとは余裕の様だな」
「んな訳あるか」
「ふん」
ウィル曰く、彼の主人ユミナ姫はこの国の危機に対抗なさろうとしている。危機とは一体なんぞや。そう問うとイーベルデルク戦争は知っているかと返ってくる。ギエモンはそこの出身だから、嫌でも知っているのだ。ウィルは少し意外そうな顔をしていた。ならば、ボルピット公国とは今も小競り合いが続いているのも知っているかと逆に聞いてくる。その話は少し聞かされているが、まさか、大規模な戦争を仕掛けてくるとでもいうのか。ウィル曰く有り得ない話では無いだろうという。なるほど、国王陛下が病で亡くなったら戦争を。そういう事だろうかと聞くと話が早くて助かる、つまりその通りだと言う。
「させねぇ。俺の様な奴は、今後二度と生み出さねぇ為にも強くあらねばならぬ。だが、それでも、ユミナ様のやり方は間違っている。例え国の事を思っておられたとしてもだ!」
「お前とは同じ道は歩めぬと思っていた。此処で死ね」
『ギエモン。ここは俺が』
「下がってろヤマト。俺がやる」
『マスター、危険です』
「この為に爆弾と魔法銃を貰ったんだ。俺は死なねぇ、あいつの元に帰ると決めたからな」
互いに同じ射程距離の武器を使う。弾丸に爆発、時折蹴りや拳が飛び交う。片や殺しを視野に入れ、片や今後の情報を引き抜く為に生きて捕縛する事を目指す。
「死ね、カイルスケイド!」
「俺は何としても生き、お前を捕縛する!」
「おらよ!」
「鉄壁!」
「くっ、止められたか。ならば」
「させねぇよ」
『無属性の斬撃!?』
『接近戦では良く使うぜ。本人はこの間合いが苦手だと良く言ってるがな』
「おらぁ!」
「がっ!くそ、痛むな、その光の剣!」
「ちっ、相打ちか」
「タダではやられない。傭兵なら何としても勝つ。分かるだろ?」
『お、やるね』
『援護しなくて良いんですか?』
『アイツらの間に入ったらタダじゃ済まんだろう。大丈夫、アイツなら必ず勝つ』
誰もこの間合いに入ろうとはしていない。見守りたいというのもあるが、危険だから入れないのだ。そして、遂にギエモンがウィルの懐へと飛び込んだ。
「強い技の射程距離の範疇に入ったぜぇ」
「くっ」
『これで決まるぞ』
「緊張してきたな」
「これで終わりにしようや」
「そうだな」
「「はあっ!」」
『っ!どうなりました!?』
『これは……』
「俺の、勝ちだ」
「強いな」
「捕縛してくれ」
「はっ。さ、君の仲間は既にお縄についた」
「ちっ、しょうがねぇな」
肩や腕、腰に腹とあらゆる箇所に切創や銃弾による傷が出来ており、痛々しいばかりだ。それでも勝ってしまうあたり、流石は長年戦ってきた経験がある傭兵だ。
「これでとりあえずは解決だな」
「取り調べは任せても?」
「うむ」
「ふー……疲れた」
「ゆっくり休んでください」
「そうさせてもらうわな」