「うぃ〜、やっと一安心だ」
「お疲れ様でした。少し休まれてください、傷が開きますから」
「治療、感謝する。それで、ユミナ様は今後どう動くかねぇ」
「あの方は国の防衛の為、そうお考えの様ですが」
「国を思われる心は理解できるが、あまりにも強引だぜ」
「そうでもしなければ国は導けない時がある。時には強引に見えたり冷酷だったりとそういう判断も必要となる。我々は父上を見てそれを学んだ」
「マディエ様」
確かにこれは仁義や王道とは対極に位置する行動や考え方かもしれない。だが、優しさだけでは国の王政や国民は守れない。ユミナ姫の考え全てに同意する訳ではないが、理解できる部分もある。ギエモンにも理解できる部分が少しばかりあるのだ。何かを守るには時には心を鬼にしなければならない時がやってくる。
「何はともあれ、お疲れ様だね。今後はセツナと話し合いながらやってくれ」
「はい」
「済まないね。肉親の、兄弟姉妹の争い事に巻き込んでしまって」
「依頼とあれば殺し以外なら基本引き受けるつもりですよ。我らを使い捨ての駒と蔑む者もおりますが、事実ですからね」
「そうか」
「じゃ、少し休ませてもらいますよ。あちらがどう動くか、見せてもらいますから」
その日の夜、ワルキューレから声をかけられる。この前ヤマトに話そうとしていた事をギエモンを交えて話すべきだろうと判断して自ら話しかけた。
『少し宜しいですか?』
「そちらから来るとは珍しい。どうしたよ?」
『マスター、私の出自を今のうちに語っておこうと思います』
「
『ええ。本来ならここより人間の生活を脅かすモンスターを狩る為に産み出されたのです』
「だろうな」
『私が生み出された頃、モンスターの全盛期でした』
「らしいな」
しかし、人間はあらゆる手段を駆使してモンスターの首領達を倒していき、いつしか彼らは力が落ちていったという。これは魔法の開発が進んだ結果だったのだ。そこで更に勢力を拡大すべく彼女を含む
『今は見た限りではモンスターと人類が互角な勢力となり、人類は空前の繁栄を手に入れました』
『その上に俺らが生きている。そう言いたい訳だな?』
「確かに、史書でもそう書かれているな」
『ええ。封印されていたとはいえ、ある程度の事はマスターの魔力を通じて情報を得られましたから』
「便利な能力だ事」
『ただ、マスターの知っている情報以上の物は得られません』
「ははぁ、そうなんだな?」
『ええ』
ワルキューレは本来なら闘争の為の道具。でも、マスターのギエモンのお陰で新しい道を知れそうだ。何の為に闘うか、ギエモンもまだ答えは見つかってない。互いに協力していこうという。全ては
「ギエモン」
「姫殿下」
「急で申し訳ないけど父上に会ってほしい」
「いきなりですね」
「風雲急を告げる。そんな事態になりかねないからよ」
「分かりました」
恐らく体がいよいよもってまずい所まで来ているのだろう。あまり考えたくないが、そう長くはないのかもしれない。だから今のうちに顔を合わせておきたいし、病の事を少しでも知っておきたい。
「父上」
「おお、セツナか。元気そうだね」
「お陰様で」
「背後にいるのはアマツでもバリーでもアイラでもないね」
「お初目にかかります、魔導傭兵ギエモン・カイルスケイドと申します。今はセツナ様の配下として働いておりまする。以後お見知り置きを」
「おお、君が。噂は予々、詳しい話はセツナや彼女の兄姉達から聞いている」
「左様でございましたか」
病のせいか、体はだいぶ弱っている様に見える。歩くのもやっとと言った所だ。今は側近の助けもあって何とか
「ふむ、確かに素晴らしい魔力の持ち主だ。険しい道のりを数多越えてきたのだろう」
「有難きお言葉」
「セツナの為に体を張って守ってくれたと聞く。何か褒美は要らんかね?」
「そうですね。故郷のイーベルデルクに少しばかり援助を。帰る場所では無くなりましたが、少しでも恩返しがしたいのです」
「おお、君はそこの出身だったか。いやはや、義理深いね。しかし、それはつまり……」
「ご想像通り、あの戦争の関係者です。最早帰るつもりはありません」
「何故かね?」
「もう十数年も地元を離れております。一度も帰ってないから今更どんな顔して帰れば良いのか分からないんです」
「そうであったか」
ところで、2人はただ紹介の為に来たのではないのだろうと問う。ここは無礼を承知の上で尋ねる他ない。何を聞くのかといえば陛下の病についてだ。
「父上、姉様は父上の病を知ってから考えが変わられた」
「確かにそれも一因であろうな」
「ボルピット公国の事も気がかりだとか」
「そうだろうね。で、私の病についてだったかな?」
「はっ」
「ふむ。臓腑の病とは聞いておろう?」
「ええ、まぁ」
ショーン陛下の場合、戦闘の傷が原因と言われているそうだ。昔魔法剣で得た傷から、今になって病を発症してしまったとか。だがそんな長期間かけて発症するのはあまり考えられない。普通なら短期間で解毒すればどうにかなる。そう言いたいのは分かるという。考えられる条件としてもしや呪詛ではないかと。それは正解であり、魔法剣でも珍しい呪いの剣だそうだ。
「あの最期の一撃を受けた私は病を得た訳だ。数十年前に受けた呪いがこの一年で発現するとは思いもしなかった」
「治療や解呪は?」
「効果が薄いそうだ。寿命がある内にやらねばならん事があるのは分かっている。だが、時間が無さすぎる気がしてね」
「そう、ですね」
「君は呪いの類に詳しいかね?」
「いえ、申し訳ありませんが」
「そうか。出来ればマディエかバーズに玉座を継いでもらいたいが、ユミナが何と申すか」
「姉様が……」
「あの子なりに国を想ってくれているのは知っている。だが、やり方が如何なものか。確かに国王の座には厳しさや冷酷さも必要だろうが、そればかりでは周りがついてこないのだよ。妻エリーンが良く申していた」
エリーン女王陛下は心優しいお方であり、子供達や陛下には勿論の事、仕えるメイドや執事、果ては国民の一人一人に至るまで皆に優しかったという。だが、数年前に病で以って崩御なされたという。それから一年間国民の大半が自主的に喪に服す期間がもたれたほど支持されていて、王家を支えた屋台骨と言われる程のお方だったという。そんな彼女の忘れ形見たる家族、その1人のセツナ姫が特に心配だという。
「娘をよろしく頼む。王侯貴族に怨みを抱いている可能性がある事も重々承知の上だ。それでも……」
「国王陛下として、そして1人の親として、と言ったところですかね。お任せくだされ」
「受けてくれるのか?」
「そこまで言われて動かないのは雇われ傭兵の矜持に反するので。確かに領土を守るべき貴族に怨みを持ち合わせていた時期もありましたが、引き摺ってては守るべき相手を失いかねない。そう思ったのです」
「そうか。私から謝らせてくれ、済まなかった」
「顔を上げてくだされ。その言葉だけで充分ですよ」
王族とは本来艱難辛苦があろうとも全ての人々に安寧を齎すべき存在。ギエモン達傭兵や軍、一般市民の力を借りねばならないのが心苦しいというが、国とは民達を守る代わりとして税などを受け取り、統治する存在である。内政に外交、いずれも失敗は許されざる状況。陛下はそんな状況下で長らく執政なされてこられたから、少しでもお返しがしたいのだ。今までの気苦労からか頭の毛が薄くなったと軽口を申していた。お陰様で無事に暮らせている民も多くいるのだ。
「少しの間、力を貸してほしい。良いかね?」
「無論です」
「うむ。ふぅ、疲れたわい。少し下がらせてもらうよ」
「失礼しました」
「またね、父上」
「うむ」
陛下の退室された後、2人もセツナ姫の部屋へと戻った。不謹慎だけど、そう長くはなさそうだという結論に至った。その前に何としても、子供達の誰かに王位を継承出来るように動くべきであろうかと考えに至る。
「難しいわ、父上の説得は。人徳があるが故に、後継者にもそれを求めたいだろうから」
「やはりそうですか」
「そうね。兄様達と結束する他ないかしら」
「ううむ、どうしたものか。計略とか苦手なんですよね」
「とりあえずマディエ兄様と……」
「呼んだかね?」
「うわ、いつの間に」
「頼みたい事があるの」
「何だね?」
これは陛下に最も近くにいるマディエ王子に父王の説得を試みてもらおうと画策する。だが、父の説得なら彼でも難しいと告げられる。
「そうですか」
「我々で国政が出来るというのを証明すればまだ分からないがね」
「……ふむ」
「私には難しいかな」
「そこは俺が担当しよう。その前にユミナをどうにかせねばならんが」
「俺が手を出す訳にはゆきますまい」
「そうね」
「っしゃ、仕方ねぇ。今は捕まえたウィルから情報を得る他ないな」
「俺はいつでも動けるように準備します」
「そうしてくれ。セツナ、良き配下を得たな」
「うん」
「では、失礼するよ」
「お疲れ様です」
此処からはいつ何が起きてもおかしくない。準備を怠らずに安寧に至るまで邁進するまでだ。
「では、俺は絡繰のメンテナンスに移ります。いつでも動ける様にしますから」
「分かったわ」
「ではまた」