絡繰機械操術師   作:ぽおくそてえ

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新たな仲間と新たな依頼

「うい、メンテナンス(点検)完了っと。魔力流すぜ」

『ん?んおお、終わったのか?』

「おうとも」

『少し関節周りが動かしやすくなったな』

「暫くの間戦闘が多かったからな。魔力やら何やらの残渣(ざんさ)が多かった。よし、今度はフィンリルだな」

『結構使ってたもんな、最近は』

「だぁな」

 

 

絡繰に限らず機械は少しでも不具合があるといざという時に故障して大事(おおごと)になりやすいのだ。だからこうしてメンテナンスをきっちり行なって少しでも安全に長く使える様にしておかねばならないのだ。これこそがアイテムや武器を使う者の基礎である。

 

「おおう、やっぱり今までに比べて摩耗しているな」

『補修方法はどの様に?』

「ヤマトは部品に魔力を流したり壊れた部品を交換したりして補修するんだが、こいつは部品を交換するのがメインなんだ。ヤマトは魔石のお陰でそういう仕様になっててね」

『そうなんですか?』

「ああ。だから俺の魔力の消費量が多くてさ。ま、こっちは部品の入れ替えだから魔力より金の消費が多くてなぁ」

『結構良い収入貰ってんだから文句言うなよ』

「リーナのお陰でな」

『貴方の担当エージェントでしたか』

「ああ。幼馴染でね」

 

フィンリルのメンテナンスの次はワルキューレの番だ。一旦連結を解いて休眠状態にする。そこから見た事のない仕掛けに四苦八苦しながらも点検を終えた。そのタイミングでやってきたのはバリーだ。

 

「失礼、今良いかな?」

「バリーか、入って良いぜ」

「前に君と共に戦った空賊達が正式にセツナ様の配下として登用された」

「そうかい」

「本当に口添えしたそうだな」

「あのまま見殺しにするのはちと辛かったんだよ。ま、人員はいた方が良いがよ」

「優しいな」

「いんや、殆ど実利で取った選択肢だ」

「良く言うよ」

「で、そいつらとはいつ合流する?」

「そうだね。入ってくれ」

「おう」

 

そこに居たのは空賊ブレイブ一家の首領だった男だ。前に戦ってから仲間入りするまで若干時間を要した様に見えるが、尋問などをしていたからだという。

 

「あの時は助けられたな」

「つっても、機関銃とかぶっ放したがな」

「威力抑えてただろ?死人が出てねぇのが何よりの証左だ」

「けっ」

「俺はブレイブ・ヘイルート、ただのしがない空賊……だったんだがなぁ」

「ギエモン・カイルスケイドってんだ、よしなに頼むぜ。俺もお前と戦うまでは冴えない魔導傭兵だったんだよなぁ」

「へぇ、そうなのか」

「何であれ、今後はよろしくな」

「おうよ。お前と一緒なら上手くやっていけそうだぜ」

「気が合いそうだぜ、俺らはよぉ」

 

互いにその日暮らしの生活をしていて、必ずしも良い生活だったとは言えない。特にブレイブ達は様々な相手と戦っていた犯罪者だ。だが、それでも仲間などが居てくれたから何とか踏ん張って生きてきたし、様々な縁が助けてくれた。

 

「生きる為にはこの道しか無かったんだ。お前もそうだろ、ブレイブ?」

「幾ら国とて(あまね)く全ての人々を等しく幸せにする事は難しいからな」

「俺らに依頼するのは国の手が届かない所だったり後ろ暗い任務だったりとかだからな」

「まぁなぁ。なんだかんだでそんな仕事ばかりだ。復讐、報復、制裁。色々やってきたな」

「俺もモンスターの撃退に殺害、犯罪者の捕縛と色々だ」

「使い捨ての存在だからな。俺らって」

「使い捨て、か。悲しいが、それが現実だな」

「じゃ、頼らせてもらうぜ。あの魔法なら大概の敵は何とかなるだろう」

「互いに戦力となる。お前も空賊の(かしら)ならそれなりに戦えるだろ?」

「はっ、言ってくれる。勿論だぜ」

「最後まで生き残れよ」

「お前こそ」

「またな」

「ああ」

 

ブレイブの去った後、バリーが心配そうな顔をして声をかけてきた。何となく言いたい事は分かるし、懸念事項も分からなくもない。かつて主を狙ってきた相手だから尚更心配だろう。彼は信用に値するかギエモンに聞いてくるほどだ。

 

「この前まで敵対してたんだ。気持ちは分からんでもないが、あいつらならば充分戦力になろう。戦い方や引き際っていうのを知ってると感じたんでね」

「確かに、負けを認めて引き下がったね」

「恐らく配下に無理をさせない為だろう」

「戦場では引き際を(わきま)えられるか、それが重要だからね」

「それが出来ない奴から死んでいく。そういう世界だぜ、賊も傭兵も軍隊も」

「実力や運のある者が生き残る可能性が高いと」

「それもまた然り」

 

今までは今まで、これからはこれから。そう割り切らないと生き残れない。それが戦いを生業としている者達にとっては常識だ。この国でも昔から『昨日の敵は今日の友』と言うではないか。だが、いきなり慣れろというのも厳しい話だ。だから無理強いは出来ない。

 

「それでも出来る限り協力しようぜ、仕事を終えるまでは 1人も欠ける事なくよぉ」

「そうだね」

「じゃ、俺は少し修行に赴く」

「いってらっしゃい……アマツ」

「何だね?」

「少し彼の過去を探ってくれ。信頼しているからこそ知るべきだろう」

「心得た」

「(あのイーベルデルク戦を生き延びた人が間近にいる。王侯貴族の戒めとして少しでも彼等の生活の実態を知っておくべきだ)」

 

さて、探りを入れる様に頼まれたアマツはバリーの事を伏せつつ真正面からギエモンに質問をぶつけていく。こそこそ嗅ぎ回って面倒事になるくらいなら本人に直接聞いた方が良い。しかも周りの人間はあの戦争での彼の消息を詳しく知らない者ばかり。当事者に聞くのが一番だ。しかも彼の此処までの事は当たり前だが本人が一番良く知っているだろう。此処に至るまでの彼の生活を知れば、戦争の副作用について少しは知れるだろう。

 

「俺がどんな生活をしてたか?」

「君の事を少しでも知っておきたくてね。少し興味がある」

「そうだなぁ。俺はあの戦争の後、幼馴染とこのヤマトと共に流浪の旅に出たんだ」

「そうだったな」

「それからは生きる為に狩りを覚え、街で困っている人から単発の仕事を請け負ったんだ。新鮮な野菜はなかなか食えなかったな」

「……」

「幼馴染も俺に負い目を感じてたのか、半年ほど後にエージェント会社に加入したんだ」

「ほう」

 

それから5年後くらいまでには傭兵として様々な依頼をこなして『絡繰操術師』の称号で呼ばれる様になったって感じだ。幼馴染のリーナもエージェントとしては優れた地位に就いている。あの戦争が彼らのの生活を大きく変えた訳だ。

 

「どんな依頼を受けてたんだ?」

「モンスターの討伐から薬草の採取に人探しまで様々だ」

「傭兵やギルドのメンバーはそういう依頼で生計を立てているんだな?」

「ギルドではどうかあまり分からんが、同業者の話を聞く限り、まぁ大差ないだろう」

「その様だな」

「俺の事を聞くあたり、姫殿下かバリーに頼まれたか?」

「秘密事項だ」

「そうか。ま、何となく予想は出来てるがな」

 

こんな事を聞いてくるのはセツナ姫かバリー辺りだろうと。しかも態々アマツに聞きに行かせているから自ずとその2人に絞られるというものだ。だが、この際そんな事はどうだって良い。少しでも戦争が減るのに役立つなら情報は幾らでも提供する所存だ。

 

「俺は依頼が人殺し以外なら生きる為に粗方こなす。それが俺のスタイルさ。幼馴染(リーナ)の為にもな」

「ふむ」

「バリーにも姫殿下にも伝えろ、俺は最後まで依頼を果たす為に動く。人は殺さぬ、されど勝つ為なら戦う気力を極力奪うと」

「分かった」

「さあて、修行を続けるか。行くぞ、相棒」

『おう』

 

彼から聞いた事の仔細は全てバリーへと伝えた。この事はセツナ姫へと報告があがるだろう。やはり戦争によって様々な苦労をしていく人が増えるし、出さずに済む死傷者も出てしまう。

 

「そうか、やはり苦労していたんだな」

「幼馴染の為に死と隣り合わせの生活を送ってるそうだ」

「戦が起これば数多くの救われない人々が生まれてしまう、か」

「あいつなら人に勝つ為には殺さずに済む方法ながら、最短で勝てる手段を取るだろうな」

「それが長期的な視点で最善だと経験で分かっているのだろう」

「これは彼女に惚れた弱みかもしれんな。話ぶりからそう感じた」

「彼を何としても生かして帰そう。それが我々に出来る彼と彼のエージェントへの最低限の礼儀だ」

「うむ」

 

密かに約束事が出来た。ギエモンは何としても五体満足でエージェントの元へ向かわせる。これがせめてもの礼儀だろう。さて、その頃ギエモンはセツナ姫に呼び止められていた。何か嬉しそうな顔をしている。

 

「ギエモン、ギエモン」

「姫殿下、如何なさりました?」

「貴方の作ってくれた絡繰を父上に見せたら、国軍でも本格的に採用できないかって」

「あ?何でです?」

「この国の中でも高度な技術だとか。作り方とか教えてもらえないかしら?」

「そ、そりゃ構いませんが、至って普通の技術だと思いますぜ?複雑に見えるだけだし、作り手が少ないだけですよ」

「父上が仰ってるから間違いないと思うわ」

「は、はぁ」

 

まずはショーン国王陛下に詳しく聞かねばなるまい。絡繰は確かに使い手も作り手も少ないが、国軍の技術レベルなら既にそれなりの物が出来上がっていてもおかしくない。何故この技術を今更、と感じている。

 

「お呼びですか、ショーン陛下」

「おお、来てくれたか、絡繰操術師。何処かで名前を聞いたかと思えば、その肩の絡繰か」

「ええ、俺の相棒です」

「ふむふむ、そうだったな。そんな君に頼みたい事がある」

「絡繰操術部隊ですか?今既にありますが」

「更に拡充したいんだ。君の力が有れば百人力だね。作り方とか教えるか、作ってもらうかだが」

「陛下の命とあらば。但し、仕事の合間を縫っての依頼となります。しばしお待ちください」

「ありがとう」

 

依頼とあらば即座に対応、行動に移さねばなるまい。しかも依頼人はあの国王陛下だ。失敗は許されないときた。逆に言えば此処で成果を出せば、セツナ姫の護衛成功と同じくらいに名前が売れるかもしれない。絶好のチャンスだ。

 

「ひぃ、まさか俺らの技術が陛下の目に留まるとは」

『あの街の親父さん達から相承されてきた技術だからな。つっても本来なら生活が便利になる程度のもんだったがな』

「だな。出来れば戦闘絡繰を作りたくなかったし、それを戦争に使うのは親父達の遺志に反するが……」

『どうする?』

「約束しちまった以上は受けるしかない。全力でやろう」

『ま、お前の選択に従うぜ』

「一宿一飯の恩義だからさ」

 

早速翌日から絡繰製作部隊に指導を開始して、それから数日が経過した。これまで作ってきていた武装絡繰に更に発展した技術を教えていく。剣を使う物、槍を武装した型、斧を操る物。本当に様々な基礎に基づいた発展系を少しずつ伝えていく。自分だけで抱えていても勿体無い技術ばかりだからだ。

 

「ここを接合したら完成だ」

「なるほど、今度は弓兵型か」

「イーベルデルクには我々の知らない技術も多い」

「事細かな情報は親父達の遺志として残る様、ヤマトの腹部に書物として隠されてたんだ。それを知ったのはここ二、三年だがね」

「始祖から連綿と受け継がれてきた技術か」

「そうだな」

 

今回作った絡繰達は魔法弓だから、供給する側の魔力の多い人なら弾切れも起こしづらい。その代わり、使用後の魔力の残渣には注意を払う必要がある。これは魔導銃などでも起こる根詰まりだ。やはり技術が幾ら進歩しても、いや、進歩するからこそ起こりうる課題だ。

 

「今日はここまでかな」

「有難い。やはり数百年来の知恵は伊達では無いな」

「それでも大元の絡繰族の消滅で、技術の大半が一度失われていると聞く」

「戦争か」

「恐らくは。詳しい事は本人らから聞いてないから分からんがね」

「あの一族がほぼ全滅したのは人類の大規模な戦争とそれに伴う内部分裂が原因と聞く」

「生き残ったのは極僅か、か」

『話す機会が到来か』

「ヤマト……」

「これが絡繰操術師の」

 

生まれた頃に彼等から継承された一部の知識を今、話す時が来た。この国の陰でほぼ消滅するまで至った絡繰達の歴史の一部を。知識が正しければ確か200年くらい前だっただろうか。人類の結果として滅んだ国とその当時の戦争を生き残った国が全面衝突した事があったのだ。その当時、先程話があった通り絡繰族の中でも生き残る為に二手に別れたのだ。種として生き残る為に互いと戦うのだ。作戦としては良くある話だし、それが戦争の一側面だ。確かに長らくこの国に仕えているとそういう場面に出会(でくわ)す事があるというし、傭兵同士で戦う事も珍しくないから納得している。

 

『既にワルキューレ達の対モンスター戦闘絡繰生命体(決戦アンドロイド)は封印されてた。その一方で現役の自動で動く戦闘用絡繰人形の大半が参戦し、1回目の戦争で3割方が消滅したんだ』

「でも、それだけなら滅亡とは程遠いよな?」

「確かに」

『一度の戦争だけならな』

「待て、誰か歴史に詳しい御仁は?」

「この中では私だが……ま、まさか過去4度の興亡戦争と呼ばれる戦に絡んでいるとでも言うのか!?」

 

 

普通なら国の勃興に関わる重要な歴史だ、何も触れられていないなんてあり得ない。史書に詳しく記載される筈だ。しかし部分的に都合の良い箇所しか書かれないのだ、残った勝者側の史書は。

 

「そうか、ヤマトの心には当時の生き残りの知識が」

『絡繰族の数少ない生き残りの知識だね。そいつらがイーベルデルクの民に一部の知識を与え、彼らが俺を作り、お前に与えた』

「この国で量産されていないのはやはり、イーベルデルクでの戦争が原因か」

『多くの絡繰は戦後、技術の過度な漏洩を防ぐ為に自らを破壊してたし、作るには貴重な材料が必要となる』

「今日教えられた物でさえそうなのだ、意思ある絡繰は尚更技術と材料が必要であろう」

 

どうやって作ったのか、書物を読んでいるギエモンですら知らん。書物の全てを読破した訳じゃないからというのもあるが。まぁ知ったら後戻り出来ないだろう。深く知る事の恐ろしさは良く分かってるつもりだ。深淵を覗く様な知恵とは得てしてそういう物なのだ。知り過ぎて発狂寸前まで行った事例もあるそうだ。例えそうなろうとも知識を求めるのが人というものだ。とりあえず今日は此処までだ。

 

「良く話す気になったな、ヤマト」

『危険を事前に知らせておくべきだ。そう思っただけだよ』

「……」

『お前も良く良く知ってるだろ?』

「そりゃあな」

『ま、こっからはあいつら次第だ』

「だな」

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