絡繰機械操術師   作:ぽおくそてえ

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お待たせしました、第3話です

最終話まで毎日投稿します


不穏な依頼

それは前のハリエルでの討伐戦から二、三日経った頃の朝だった。寝る必要の無いヤマトがある事に気づいてギエモンを起こす事から始まった。電話が鳴っている事に気づき、すぐさま起こしにかかる。連絡先はおそらくリーナで、彼女から回ってくる依頼関係だろうと踏んでいる。

 

『おい、電話鳴ってるぞ』

「んが?ああ……もしもし」

『私、リーナよ。ギエモン、今良いかしら?』

「構わんよ。どうした、こんな朝っぱらから。緊急の依頼か?」

『緊急かは分からないけど、今回は国の中堅貴族からよ』

「あ?その御仁は国に頼んでねぇのか?」

『突っ()ねられたんじゃない?』

「くそ、貴族は嫌いだし面倒だが仕方ねぇ。場所は何処だ?」

『ヘイルノルツ家領よ』

「丁度良い。今そこの近場にいる」

『場所はそこの……』

「ふむ」

 

とりあえず向かうだけ向かってみよう。故郷の貴族が戦争中に逃げ出して散々な目に遭ってから、ギエモンとリーナは王侯貴族に苦手意識を持っているのだ。だが、依頼なら仕方あるまい。待ち合わせ場所に向かうと、そこは大きな邸宅だった。

 

「此処か」

『大きな門だな』

「この前の商人宅より大きいな。やはり貴族は金持ちだな」

『言えてらぁ』

「さて、入るか。少しおとなしくしててくれ。初対面での自動絡繰は驚かれる事が多い」

『あいあい』

「はぁ、本当なら受けたくねぇのに」

 

まずは門前の衛兵達に依頼を受けた事を伝えねばなるまい。まず挨拶すると何者だと返ってきた。フリーの個人魔導傭兵、ギエモン・カイルスケイド。此処の主人から依頼を受けて参った事を伝えると、既に情報が出ていたのか、すんなり入れてくれた。彼がそうであるかと。衛兵らの主がお待ちだからと入れてくれた。くれぐれも失礼のない様にと注意を受けたが、何度か貴族や大商人の依頼は受けてたから分かっていた。中に入ると老紳士と若き女中と思しき人々が待っていた。

 

「待っておったぞ、絡繰操術師」

「この方が例の?」

「その様だ」

「貴方達は?」

「この館の執事長だ」

「私はメイド長です」

「ヘイルノルツ家亭主の邸宅でしたね。あなた方は差し詰めその参謀的立ち位置ですかね」

「そう捉えてもらって構わんよ。今お館様のナクルティ様は部屋でお待ちだ。案内しよう」

「お願いします」

 

案内されたのは館の中央に設けられた主人の執務室だ。ここまで幾つもの部屋を見かけており、やはりというべきか一般の住宅とは桁違いに金がかかっているし、維持するのに大勢の人々が雇われている。

 

「失礼します、ナクルティ様。例の傭兵をお連れしました」

「入室の許可を」

『ジョルツにシャオか。入れろ』

「はっ。許可がおりた、入れ」

「失礼します」

 

案内された部屋は豪華というわけでは無いが、質実剛健を体現したシンプルなものだった。中央に座するはこの館の主人、中堅貴族のヘイルノルツ氏だ。

 

「良くぞ来た。君が例の……」

「お初目にかかります、ギエモン・カイルスケイドと申します」

「ナクルティ・ヘイルノルツだ。さ、ソファに掛けたまえ」

「失礼します」

「いやはや、君の名は有名だね。各地の問題を解消して回っているとか。頼りになりそうだ」

「恐れ入ります」

「そこでそんな頼れる君に依頼をしたい。ジョルツ、改めて依頼書を」

「はっ」

 

今回の依頼は近くの山の中腹にあるゼイリエ坑道、その内側の探索・調査である。本来なら軍を動員したい所なのだが、採算や危険性を考慮して却下されたそうだ。それ以外の理由からも難しいと言われたという。ギエモン以外の傭兵などにも頼んだが、失敗続きだとか。

 

「なるほど、そういう事でしたか」

「あそこには危険なモンスターが現れるという。だが、そこには魔石が沢山眠っているとされている。安全を確保しつつ調査してほしいのだ」

「ふむ」

「報酬はいくらでも渡そう」

「かしこまりました。お受けしましょう」

 

今回の依頼を正式に受理して現地へと向かう。馬車を回してくれて近場まで連れて行ってくれる事になった。ヤマトに今回の依頼についてどう思うか問うた。確かに魔石は重要な燃料や魔法道具の素材になる便利な石だ。その利権が欲しいのだろうと応答があった。やはりそうだろう、この国での重要性は誰もが認識している。報酬は高そうだ。行くのだろう。魔石はフィンリルの絡繰の作成や維持に関係している。タダで貰えれば助かるのだ。此処からは馬車で20分ほどだ。戦闘が起きても良いように準備して向かう。

 

「では此処ら辺で。ご武運を」

「感謝する。さて、5分ほど歩くぞ」

『あいあい』

「石を喰うモンスターとかかね」

『あるいは魔法が使える魔獣の類だろう』

「魔石を食って平気となればそうだな」

『魔石の情報が回ってるあたり、全くの未開発だとは思えないなぁ』

「途中で断念したのかもしれんな」

『他の傭兵も、おそらく同行した国軍も実力者だろうに』

「こればかりは行ってみないと分からんな」

 

辿り着いた場所は何処か開発された節がある。本当に調査だけなのだろうか。それはヤマトも不思議に思った。それこそ国の関わる開発案件でも可笑しくない。魔石は重要な資源だから断るとは思えないのだ。

 

『魔法国家には欠かせないもんな』

「断る理由とした採算なんて少し見ただけでどう試算した?兵力を割けない理由は魔物(モンスター)だけか?裏に何かあるんじゃ?」

『此処で思案していても仕方ねぇ。行こうぜ』

「そうだな」

 

入り口から歩く事数分、ここら辺の魔石は粗方掘り尽くされていると見られる。ある程度の年数開発されていると見るべきだろう。だから何かしらのトラブルに遭遇して開発を断念したと考えられる。

 

「こっちだ」

『入り口から暫くは整地されてるみたいだな』

「やはり魔物か。だが、落ちている道具が新しい物から古い物まで様々だな」

『裏があるな、これ』

「戦闘準備を。フィンリルを使うかもしれん」

『そこまでか?』

「念の為だよ」

『ま、そうだな』

「そろそろもう一つ絡繰人形を手に入れるか。剣や暗器を多く内包した奴が良いな」

『お、やる気になったか?』

 

現状のままでは出来る事が少ない。両方同時に操作するのは大変だろうが、出来るに越した事はない。だが、絡繰人形は複雑な機構と作り手の少なさからすぐに手に入るとは限らない。さて、入ってから十数分、まだ整地されているエリアだ。ここら辺にも開発に関係する道具が放置されている。

 

「これが此処の魔石。ふむ、なかなかに良い。質は悪くなさそうだな」

『少し拝借していこうぜ』

「比較的取られてるエリアでまだこれだけの数が有るとは」

『だが、特上って訳ではないみたいだな』

「もっと奥まで行けばもっと数も質も良くなるか。急ぐぞ、全てを食い尽くされる前に」

『おう』

 

一歩一歩着実に奥へと歩みを進めていく。モンスターなのか、はたまた盗賊の類か。今この時点ではどうにも分からないが、奥に行くにつれてどんどん道具などが散らばっているのが分かる。何かが暴れているのか、或いは戦闘にでもなったのか。

 

『何か、気配を感じるな』

「……居る。隠れるぞ」

『……うむ』

「ブルルル」

「あれは赤毛の天狼か」

『何故此処に?』

「確か古い文献に載ってたな。1日に4000キロ(千里)を駆けると聞く」

 

火の精霊なんて信仰があるくらいで、本来なら火山や熱い場所を好んでいるのだ。水や冷気を司る白天狼の亜種であり、通常種含めてこんな場所にいる筈のないモンスターだ。今回の依頼、何かが怪しい。

 

「モンスター生息録にはどの階級で載ってたっけか?A級かS級だったか?あ、でも信仰があるって事は」

『ああ、信仰から討伐禁止モンスターに。禁忌級に指定されてるな』

「っつー事は、もしや軍が手を出せないのは、こいつが原因か?」

『あり得るな』

「魔石が取れないのは何処かからこいつが追われて入り込んだからか」

『何かに追われたか。そこの調査は国軍に注文しようか?』

「まだ判断するには拙速だ」

 

相手は禁忌級だし、例え戦闘になっても勝てるか怪しい相手だ。観察して対処法を考えるしかない。道具を使って誘導するか、挑発して誘導して外に出すか。色々策を練るが、あまり現実的ではない。

 

『見届けるつもりか?』

「しばらく様子見か、あるいは話し合いか」

『討伐不可となればそうだな』

「む?人間よ、そこで何をしている?」

『喋ったぜ』

「気づいてたか。俺はギエモン・カイルスケイド。この坑道の様子を窺う様にと命を受けた」

「ふむ、左様であったか」

「して、赤天狼たる貴殿が何故此処にいる?」

『討伐禁止対象で熱や火を好むあんたが此処に居るのが不思議でよ』

「……話しても良いか。お主になら」

 

話に応じてくれる性格なのか、戦う意思がないと感じ取ったのか、仔細を話してくれた。曰く棲家のガレイユ砂漠を追われたとの事だ。相手は人間ではなく、モンスターだという。しかもそれなりのやり手であるとも。なんせあの赤天狼を追い詰めるほどの実力だからだ。雷を操っていたから雷獣の可能性が高いらしい。

 

「そうか。ううむ」

『どうするよ、相棒?』

「……報酬が貰えるなら考えよう」

「ほう、考えてくれるか?」

「基本、すぐさま死に直結する依頼じゃなけりゃ受けるつもりだ」

「ついて参れ。この奥に面白い物を見つけた」

 

後ろをついて歩いていると、壁を破壊してみせた。そこの奥には研究室と思しき場所であり、幾つもの製造プラントが並んでいた。しかし、殆どは空になっており、残っているのは一つだけだ。あれは絡繰なのだろうか、フィンリルと違って関節が目立っていない。曰く(いにしえ)に使われていた自動絡繰だそうだ。昔に滅亡したとされる一族ではないかと推測されるとも。

 

『こいつも俺と同じ絡繰族なのか?』

「そうだろうな」

「これを操れる存在を待っていたのだろう、お主達が来てから少し目が光っている様に感じる」

『どうするよ?』

「こいつを頂く。報酬の前払いとして受け取っておこう」

「頼めるか?」

「必ずや。ヘイルノルツ家には上手い事伝えておく」

 

赤天狼にはとりあえず別の場所へと移動してもらい、坑道の安全は確保した。この情報をヘイルノルツ氏に伝えておいた。天狼が犯人だと聞き及んでいたのか、あまり驚いてはいなかったが。

 

「なるほど、やはり天狼か」

「上手い事誘導して追い返しておきました」

「モンスターと思しき存在があの場所から離れたと情報が。採掘も可能になったと」

「嘘はついてない様だな。分かった、報酬はこれだ」

「ありがとうございます」

「君は頼れるね」

「期待に応えてこその傭兵です」

 

一旦ここでヘイルノルツ氏からの依頼は完了した。報酬を得て帰ると、傭兵の居ない部屋で『奴を追え。もし歯向かうなら躊躇せず殺せ』とジョルツに密命を与える。ギエモンは信用できる存在か、試させるつもりらしい。

 

「さて、天狼の依頼通り、ガレイユ砂漠に向かうぞ」

『戦闘か。ウズウズするぜ』

「気をつけろよ。あの天狼族を追いやる程のモンスターだ」

『良いじゃねぇか。禁忌級以外なら大歓迎だ』

「太古のモンスターかもよ?」

『けけけ、そうだとしたら狩り甲斐がありそうだ』

「やれやれ。貰ったこいつ、出番がありゃ良いが」

 

2人はガレイユ砂漠に降り立ち、怪しい場所を探りながら、いつでも戦闘に繰り出せるように警戒しながら歩き回る。

 

「着いた」

『熱いな』

「まずは捜索からだ。それにしても、貴族さんの言ってた事、信用して良かったのかねぇ。何か企んでたろうに」

『さて、今更確認する手段も無かろう』

「そうだな……あそこ、黒い雲だ」

『怪しいね』

「急ぐぞ。此処ら辺の自然現象とは思えん」

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