ここからしばらくは同じ依頼人の話が続きます
「(これが、商売都市ウェイルか)」
「おや、客人かい?」
「ああ。旅の途上、偶々立ち寄った感じだ」
「何はともあれ、ようこそウェイルへ」
「お邪魔するよ」
やはり商売が発展しているのだ。それもそうだろう、王都から近い街の一つだから王侯貴族も買い物に訪れる事もある。安全な街な為に買い物だけでなく観光目的で来る人も多い。買い物したいなら街の中心部へ行けば大概揃うと有難い情報を授けられ、新しい装備を揃える為に歩き回る。
「おお、確かに魔石や絡繰用の加工品が充実してる!」
「兄ちゃん魔導士か?」
「ああ、魔導傭兵だ」
「最近ギルドに所属しているのが増えたが、あんたもか?」
「俺はフリーだ」
「そいつぁ珍しいな。ま、金さえちゃんと払ってくれりゃ何者だろうと構わねぇがよ」
「じゃ、こいつとこいつを」
「あいよ」
「金はこれで足りるか?」
「充分だ。毎度あり」
ここに立ち寄った目的の一つがフィンリルへの新しい武装の装着だ。手数こそ絡繰術者の戦い方だ。魔法で出来る属性攻撃が限られているから絡繰達に頼らざるを得ない場面も多いのだ。
「さぁてと、これで新しい武装を組み込むか」
『お、それは魔導機銃ではないか?』
「小さく格納出来るからフィンリルに組み込もうと思ってる」
『私は既に保有しております故』
「これで戦闘の幅が増えるってもんよ」
『俺に充分戦わせてくれりゃ何でも良い』
「そう言うと思ったよ。よし、フィンリルの改造を始めようか」
久し振りに泊まる宿で1人、
「よし、何とか組み込めたぜ」
『私と戦って試してみますか?』
「どっちかが壊れかねんぜ?」
『仕事が都合良く舞い込んでくるとは思えねぇしな』
「ふむ。ん?」
『如何しましたか、マスター?』
「リーナだ。もしもし?」
『今良いかしら?』
「おう」
ある程度予想出来ていたがやはり仕事だ。これは好機、彼らからしてみれば丁度よかったのだ。どうしたのかと尋ねられ、新しい武装を試せる好機だからと答える。
『あ、そう。じゃ、場所を伝えるわね』
「おう」
『王都ネスティよ』
「……分かった」
『貴族の見捨てようとしていた地、イーベルデルク出身の貴方と私は、彼らの住まう王都にあまり行きたがらないだろうけど』
「仕方ねぇ。アイツらにも事情ってのがある。で?具体的にどんな任務だ?」
『簡単にしか説明出来ないけど……』
今回の依頼、それは彼に来る仕事では珍しくもない物だ。とある高貴なる御仁の個人的な用事に同行して欲しい、即ち護衛任務だ。
「護衛任務?」
『高貴な立場の人の護衛くらいにしか聞いてないわ。詳しい事は私も聞かされてないの』
「お前が?」
『ええ。詳しく聞き出そうにもはぐらかされてね』
「情報漏洩対策かね。行ってから聞くとするよ」
『お願いね』
リーナの電話が切れてからというもの、支度を整えて翌日には列車に乗ってブレスティ王国王都へと急行する。依頼人を長らく待たせないのもフリーの傭兵の依頼人への最低限の礼儀というものだ。
「(王都ネスティ。依頼さえ受けなければ正直此処に来るつもりは無かったんだがなぁ)」
『険しい顔になってるぜ』
「仕方ねぇだろ。俺とリーナが王侯貴族を苦手にしてんのは知ってるだろ?」
『ま、実家のある街があんな事になれば当然か。あの頃の3人での逃避行が懐かしい』
「でも仕事は仕事、私情を挟むつもりはあまり無い」
『そうかい』
かつての戦争で隣国に攻め込まれた国境の街イーベルデルク。リーナとギエモン、ヤマトはその街に暮らしていた普通の少年少女だった。それからというもの、少しばかりの金と食料を手に長旅に出た。彼女がエージェントとしてギエモンに依頼を回しているのはその時に色々と助けられた恩を返そうという気持ちからだ。さて、街の一角にやってきたら、そこにあったのはヘイルノルツ家より大きな邸宅だ。
「此処か」
「おお、貴方が絡繰操術師ですか」
「ギエモン・カイルスケイド、遅ればせながら依頼を受けに参りました」
「優秀な個人傭兵をなされてると聞いて、依頼いたしました。ささ、中へお入りください」
「失礼」
部屋に案内されて少し、早速本題に入る事となった。詳しくはエージェントからも聞いておらんのだ。依頼はどの様な案件なのか?確か護衛任務と聞いているが、分からない事の方が多い。依頼は単純明快、彼ら貴族の主の1人を護衛して頂きたいというのだ。
「依頼していただいて有難いし、依頼主の事情に口出しもあまりしたくないのですが、それでしたら人数を割ける国軍や魔法ギルドなどに頼むのが定石では?」
「今回はあくまでもお忍びですので、軍からは十名程度しか同行できないのですよ。それに国では派閥がある物でして」
「って事は、護衛対象は王家かそれに連なる大貴族や大金持ちという事になりますか?」
「そういう事になります」
「ふむ。そんな依頼を回してくるあたり、貴方も何かしらの接点が有ると」
「私も貴族の一員でしてね」
「そうでしたか」
その主を守る為の任務。これまでにない重責のかかる仕事だ。だが、依頼人の貴族からは不穏な情報を齎される。この件に関して、どうもきな臭い話を聞きつけているという。
「ほう?」
「第三王女を狙う一味が居るとの事です」
「穏やかじゃないですね。もしや、今回の依頼っていうのは」
「ええ、第三王女の、彼女の護衛です」
「分かりました。出来る限りやってみます。その前に、王家の状況を聞きたくて」
「答えられる事なら」
「今、第三王女はどなたに狙われてるので?第一王子ですか?それとも第二王女?」
「それはですね」
どうも狙っているのは第一王女のユミナ姫だという。噂ではその様だが依頼人の彼も詳しい事は知らないという。確かにあの御仁は、ユミナ姫は激情家と聞き及んでいる。そんな人には冷静に彼女を支える名参謀が付いているとか。恐らく政敵を1人でも減らそうとの算段なのであろうが、これは貴族同士でもよく有る話だ。確かに、立場ある人間同士なら珍しくも無いだろう。
「報酬は成功した場合、通常より多めに出しますよ」
「かしこまりました」
「貴方は前にヘイルノルツ家当主の不正を暴いて捕縛に貢献された。頼らせてもらいます」
貴族の案内でやってきたのは王城の一室だ。連れられた部屋に居たのは第三王女セツナ姫である。
「姫殿下、新しい護衛を連れて参りました」
「ふぅん。ねぇ、貴方は誰?」
「ギエモン・カイルスケイド。魔導傭兵です」
「そう……」
「物静かな方ですね」
「昔から友もほぼいらっしゃらないと聞きますからね」
「そうでしたか」
「ギエモン」
「はっ」
「私はブレスティ王国第三王女セツナ。貴方は頼って良い人間?」
「姫殿下の、依頼主の命とあらば、人殺し以外であれば受ける所存にござる。今回の護衛も万事おまかせを。頼られて依頼を果たせねば一流の傭兵の恥と心得ております」
「分かったわ」
護衛に回っているのは部屋の中にいる十数名だ。馬車3台に分かれて目的地へと移動するのだ。ところで、今回の出向く先は何処なのか尋ねると、地図の上ではひっそりとした森の中だった。
「此処にはセツナ様の母君エリーン様が眠っておられるので」
「なるほど、墓参りなら仰々しく出向きづらいと」
「そういう事になります」
「此処まで人数が少ないと、相手からしてみれば好機。狙わぬ手はありますまい」
「そこなんです。これでも動員できる最大人数ですが、それでも多勢に無勢となりかねません」
「ふむ」
「エージェントの方から聞いています。貴方達は激戦地イーベルデルク出身だとか」
「ええ」
「十数年前に隣国と戦争になった時に壊滅寸前まで追い込まれたとか」
「本当なら守ってくれなかった貴族の頼みは断りたい気持ちです。ですが、何かしら事情がある、だからそれを探る為にも来ました」
「あの地を治める貴族が死にたくなくて逃げたから。そういう事らしいですよ」
「やはりか」
「私は彼ではありません。しかし、王族に仕える者として謝らせてください。申し訳ない」
「……貴方の様な人ばかりなら良いのですがね」
墓参りの支度を終えて3台の馬車に分かれた。ギエモンとヤマトは真ん中の姫殿下の馬車の上に陣取って広く警戒する。
「では、出発します」
「はい。ヤマト、行くぞ」
『おう』
「そして、フィンリル召喚」
「おお、それが自動絡繰達ですか」
「ええ。馬車の上から警護します」
出発から30分以上が経とうかという時間になった。ここまでは特段敵方に攻め込まれる事は無い。しかし、油断は禁物だ。移動して警戒しながらヤマトと敵の行動予測に移る。
「ヤマト、お前が敵として攻め込むならどうやる?」
『そうだなぁ、下から行くか、それか遠距離からだな』
「それか後ろからか」
『そうなる』
「じゃ、お前は後ろを警戒してくれ」
『おうよ』
「護衛の執事殿、地面を中心に観察を」
「ええ。貴方達は周囲を注意深く探りなさい」
「はい」
「俺は上方を警戒します」
各方面へと抜かりなく警戒にあたり、武装して待ち構える。森の道のりの中腹を過ぎたあたりで前方で枝が折れる音が複数回、翼のはためく音が徐々に近づいてくるのが聞こえてくる。やはりというべきか、上空からやって来た。
「むっ、上空前方より何か来ますぞ」
「やはり狙いに来ましたか」
「ヤマト、いつでも行ける様に準備してくれ」
『分かってる。もう完了している』
「ヒャッハー!」
「イエッヒー!」
「空賊か」
「へっへっへっ、あんたらに恨みはねぇがこれも依頼だ」
「しゃあねぇな。俺らも依頼だ、深手を負っても恨むなよ?」
やってきたのは空賊ブレイブ一家。数々の商隊や軍を追い返してきたり襲撃してきたやり手の空賊だ。今回は恐らくユミナ姫に雇われてセツナ姫襲撃に加担しているのだろう。まずは馬車を止めずに動く事を優先する。ヤマトとギエモンを中心に少しでも猛攻を凌ぎながら撃墜させるしかない。
「まずは新装備、機関銃だ」
「ぎゃあ!」
「ぶべらっ!」
「あれが噂に聞く絡繰とやらか。魔導銃で対抗しろ」
「へ、へい!」
『させねぇ。ほれよ』
「こっちは風魔法か」
「流石は絡繰操術師、手慣れている」
「馬車は止めないでくだされ。何が何でも進んでほしい。敵は俺らが中心となって倒しておくので」
「助かります」
目的地に安全に到達するには空賊達を1人でも多く倒しておかねばならない。相手の狙いは姫1人。傷一つでもつけられたら依頼失敗と心得て戦っている。多勢に無勢だから突っ込んで行けと首領ブレイブが命ずる。
「それが、こちらは的が多い故に的確に撃ち落とされやすく……」
「情けない。爆弾を使え、俺らの仕事は第三王女セツナの殺害ただ一つ。それ以外の雑兵どもは関係ない」
「は、ははっ」
「やらせるとでも?ほら、炎だ」
『そこに追い風よな』
「ぐ、戦い慣れてやがる。近づけねぇ」
相手は接近戦より中距離攻撃の方が戦いやすいと判断したのか、爆弾などを重点的に使用し始めてきた。それを
「こちらを全員纏めて爆破せしめようとは。王侯貴族嫌いの俺でもそこまではしねぇってのによ」
『恐らくさっきの身内の争いに使われてんだろうぜ』
「だろうな。鋼砲弾!」
「ぎゃあ!」
『数も少しずつ減り始めてるな』
「俺らの抵抗が無意味じゃねぇってか?」
「もうすぐ目的地です」
「そこからは抵抗に加わってもらいますよ」
墓場まで争いは持ち込みたくないが、こればかりは仕方なかろう。敵を少しずつ減らしていっているから、もう一踏ん張りだ。だが、ここにきて意外な結末が待っていた。
「……これ以上やってもどうせ依頼失敗だろうぜ。降伏する」
「しかし!」
「どのみち我らは殺される運命。任務に成功したところでそれは変わらんよ」
「隊長……」
「だが、此処で散るのは俺だけで充分」
「何だ?来ねぇ」
「我々の仕事は此処で失敗だ。生かすなり殺すなり好きにしろ」
「潔いな、空賊の割に」
「失敗しようが成功しようが、あの人なら俺らを殺処分するだろうぜ」
「そうかよ。あまり好まぬが……」
「待って」
「セツナ姫殿下?」
首領だけでも殺しておくか。だが、これをしても争い事は絶えないだろう、そう判断して出てきたのは護衛対象のセツナ姫である。彼らの様な戦力が今は必要だとの判断も含まれるのだが。
「俺らを雇おうと?」
「ええ」
「セツナ様!それは!」
「彼らを使えば制空権を取れるでしょ?それに恐らく先に彼らを雇ったのはユミナ姉様」
「そうかもしれませんが、父王に知られたら」
「これはある意味では裁き。汚名を雪ぐ為に恥を承知で生きるか、このまま断って此処で断罪されるか。選択肢は二つに一つ」
「……」
「父上達には私が捕縛して裁きを与えたと伝えるから」
「は、はあ」
「なら、俺からも口添え致しましょう」
「良いの?」
「ま、俺の勝手な行動ですよ」
依頼主の意向に沿った行動だ。彼女が彼らを生かして利用したいのなら口添えくらいならお安い御用だ。後は空賊達、特に首領のブレイブの判断を待つばかりだ。抵抗する事も考えられる。
「さあ、どうする?」
「やれやれ、人遣いの荒いお方だ。だが、そこが気に入った。俺らの力、今度こそ正しく使ってください」
「分かった」
「はっ、やるじゃないですか」
「貴方はこの後どうするの?」
「今回の契約は帰り道まで。それ以降の事はまだ考えちゃいませんよ」
「それなら新しい依頼をエージェントに」
「すぐ取り掛かります」
「断れない空気っすね。ま、報酬さえ貰えりゃ何でも構いませんが。担当エージェントには俺から先行して伝えときます」
こういう追加依頼も珍しくない。だから基本的にギエモンから先行して連絡して、そこに依頼主が正式に仕事を頼むのだ。まずはリーナに電話で連絡を取る。
「リーナ、少し良いかい?」
『貴方から連絡なんて珍しいわね。依頼成功?』
「それもあるが、新しい依頼が数日の内に行くと思う。ブレスティ王国第三王女のセツナ様に雇われる可能性が高い」
『そう。良いんじゃない?今まで不安定な職だったんだし』
「まぁな。暫くは依頼を回さなくて大丈夫だ。他の奴らに回してやれ」
『
「依頼が終わったらフリーに戻るがな」
『復帰の算段がついたらまた連絡してね』
「おう……では、暫く世話になります」
「よろしく。これは今回の分の報酬」
「有難く頂戴いたします」
「貴方ほどの実力者が傘下に加わっていただけたら百人力ですよ」
「ただ生きるのに必死だっただけです」
「ご謙遜を」
ここで王家の内情について少し事情を把握しておきたいので質問をする。どうも第一王女に狙われているとかどうとか。事実、今回は空賊達に襲われたし、此処は本来王族以外は通らないし戦力も多いから、本来は手出しするとは考えづらい。後ろ盾や依頼主が居たからこそやってきたのだ。
「こういう事は決して珍しくありません。仲間を増やし、敵を減らす為に
「やはりそうでしたか。身内で頼れる方は?」
「第一王子マディエ様が我々に近い立場かと」
「ほう」
「何はともあれ、我々は我々である程度の立場を構築せねばなりません」
「そりゃそうですね」
「今は第一王女に従う勢力と様子見をする勢力、それに対抗する勢力に分かれていますね」
「そうなんですね」
「何処かが動けばどうなるか分かったもんじゃありませんよ」
「慎重に行きましょう。全滅になったら最悪だ」