絡繰機械操術師   作:ぽおくそてえ

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新しいお話です。
よろしくどうぞ


新たな職場

「此処よ」

「これが王宮の……」

「これからは此処が貴方の居場所」

「場違いな気がしますが、ま、出来る限りやってみましょ?」

「頼らせてもらうから」

「無論です」

 

案内された王宮の中で、執事達の部屋の近くの客室に案内される。此処がギエモンの新しい部屋だ。セツナ王女自ら案内して頂けるとは、感謝しきりである。彼女とはまた後で会うとして、いつでも出動できる様、準備しておく。

 

『おうおう、依頼主が中間貴族レベルからいきなりスケールアップしたな』

「まさかの王族だ。ま、依頼された以上、期待に応えてこその傭兵だ」

『俺も協力する。お前が死ねば俺も死ぬからな』

「死が俺らを迎えに来るまで、せいぜい足掻こうではないか」

『へっ、そうだな』

 

早速2日後の朝に執事達に聞いて鍛錬場へと足を運んでいた。接近戦が苦手だが、生きる為には贅沢は言っていられない。打てる手立ては全て打ってこそ一流と考えている。

 

「よっ、ほっ」

「朝から励まれてますね。何をなさっているのですか?」

「ああ、メイドさんか。魔導絡繰用の糸捌きの練習さ」

「なるほど。あ、申し遅れました。私はセツナ様付きのメイド、アイラと申します」

「一昨日付で雇われた傭兵のギエモン・カイルスケイドだ。よろしくな」

「はい。何かお困りの事があれば我々にご用命を」

「そうか。ま、その時は是非」

「では、私は仕事の続きがありますので」

 

そして彼女と別れてから数刻、気づけばお天道様も天辺まで来ていた。修練に励んで集中するあまり、ヤマトに指摘されるまで気づいていなかったのだ。これには呆れる他ない。

 

「せい、はあっ!」

『朝からやっててもう昼だぜ。流石に飯食いに行けよ』

「もうそんな時間か。気付かなかったぜ」

『おいおい』

「とりあえず食堂に向かうか」

『さっきのアイラに会えりゃ良いが』

「ああ、腹減った」

 

一旦部屋に戻ってひとっ風呂浴びてからアイラを探して歩き回ると、ラッキーな事にものの数分で再開を果たせた。数時間修行していたからか、盛大に腹の音が鳴ってしまった。

 

「ギエモンさん」

「よう。朝以来だな」

「ふふ、お腹、凄い音でしたね。これから昼食ですか?」

「まぁな。今朝までは保存食の鹿肉とかが残ってたからどうにかなってたんだ。何処で食えば良いんだ?」

「職員には職員用の食堂があります。ついてきてください」

「悪いね」

「いえいえ、こういう時はお互い様です」

 

案内されたのは質実剛健とした内装の場所だった。此処が食堂で、非常に良い匂いが立ち込めていて食欲を唆るのだ。空腹には刺激が強すぎる。今まであまりこういった美味い食事にありつけた試しがない。この前の依頼の礼に頂いた美味い飯、ハリエルの例が稀有なのだ。普段は野生の肉を自己流の調味料でどうにか食える程度でしか作ってない。

 

「こちらです。王家の方々の食堂から歩くと少し離れてますが」

「提供効率を考えて厨房を挟んだ壁の反対側か」

「そうですね」

「此処で悪さをする人はおらんだろう?」

「食堂と厨房の従事者は基本中立なので」

「それもそうだな」

「私はこれにて」

「ありがとな」

「はい」

 

美味い飯は何杯食っても美味い。今日は訓練で体力と魔力を沢山消耗したからか、普段以上に腹が減っている。福利厚生の一部と聞いているお陰で四杯も食べてしまった。

 

「んん、美味いな」

「お、良い食いっぷりだね」

「こんな美味い飯はあまり食えなくてよ」

「よっぽど大変な生活をしていたと見た。それに朝飯も少ししか食ってなさそうだな?」

「良く分かったな」

「あんたみたいに商売道具を背負っている奴は一度見れば覚える。食堂に来てないあたり、碌なもん食ってねぇだろ?」

「そりゃそうか。それはそうとして、飯は有難く頂いた。何か手伝える事は無いか?」

「良いよ良いよ、あんたにはあんたの仕事があろう?」

「それもそうだが……」

「我々厨房のメンバーは王侯貴族の(まつりごと)などには不可侵が原則。あんたみたいな人が動くのが筋ってもんだ」

「そうらしいな」

「そのうち頼む事もあるかもしれねぇが」

「その時は任せてくれ」

「おうよ」

 

鱈腹食べて少し休んでから再び修練場へと足を運ぶ。一日中こんなに魔力を消費しては体を壊しかねないとアイラから言われたが、魔力は消費しなければ器は成長しづらいのだ。だが、こういう時でなければ実践しづらい方法なのも確かだ。

 

「さてと、修行を続けるかね」

『仕事の重責からくる責任感か?』

「ま、そんな所だ」

『無理だけはするなよ?』

「ああ」

 

そしてそれからまたしても数刻。天辺にあった太陽は沈みかけ、黄昏時と相成っていた。今度もまた体力と魔力を大量に使い、神経も使ったから疲労困憊だ。だが、少しばかり成長も実感できた1日でもあった。

 

「っと、今日はこんなもんか」

『お疲れさん』

「やはりというべきか、普段は此処まで動かさないから疲れるな」

『まぁ、1日ずっとだったもんな』

「帰るか」

『おう』

 

腹が減っては戦はできぬ。訓練もできぬし、依頼もこなせぬ。だから今日も今日とて食える内に沢山食べるのだ。今回も油や野菜、魚に肉、酒などの美味しそうな匂いが充満しており、入口より数メートル前から不思議と引き寄せられる感覚があった。空腹なのが余計にそうさせているのかもしれない。

 

「お、来たね」

「夕飯食いに来たぜ」

「出来立てだ」

「美味そうだ」

「どうだ?初めて王宮で過ごす日々は」

「いつもと大差ないな」

「そうか。ま、本格的に動くのは明日以降だろう」

「そうかもね」

「ま、それはさておき、これが今日の夕飯だ」

 

今回も減った体力などを少しでも回復出来るようにバランス良く食事をいただく。睡眠と食事は魔力や体力、気力を作り上げる重要な役割を持つ。それにしても、不思議と臣下の食事にしては美味いのだ。今度聞いてみるとしようと考える。

 

「うん、やはり美味い」

「貴族や王族方があんたみたいに沢山食ってくれりゃ作り甲斐があるのによ」

「あんま食わないのか?」

「ああ、そうなんだ。セツナ様くらいだよ、沢山食べてくださるのは」

「勿体無い。いつでも食べられる慢心から食への感謝が足りんのと違うか?」

「そう言ってもらえるだけ有難いね」

「俺はその日その日、いつも食にありつけるとも限らない生活をしていたからな」

「やっぱり変わった生活してるよ、あんた」

「ま、フリーの傭兵なんてそんなもんさ。ごちそうさまでした」

「おお、鱈腹食ったな」

「王侯貴族を満足させる美食、堪能させてもらったよ」

「満足してもらえて何よりさ」

「そろそろ呼び出しくらいそうだな」

「……いらしたね」

「ギエモン、来て」

「はっ」

 

臣下用の食堂に顔を出されたセツナ姫に呼び出されて連れられたのは彼女用の応接室だ。そこで頼まれたのは端的に言えばとある御仁の偵察だ。今は少しでも周りの状況を把握しておきたいとの事だ。

 

「情報収集ですか?」

「端的に言えば」

「で、どなたを探れば?」

「第二王女、エイル姉様」

「敵対しているとは聞き及んでおりませんが」

「比較的中立よ。でも、だからこそ」

「なるほど。その方は周りの様子を見られているって訳ですか。どちらに転ぶか分からない」

「そういう事」

「では、探りを入れてきます」

 

一礼して部屋を退出すると、少しばかり頭を悩ませる。普段からこういった任務が無かった訳ではないが、あまり好みの仕事では無いのだ。かなり難易度の高い仕事の場合が多いからだ。しかし頼まれた以上断るのは出来ない。こういう事も想定出来た筈だからだ。

 

「くそ〜、政情視察か」

『どうするつもりだ?』

「まずは聞き込み調査からだ。まずはどんなお方か聞く事からだな」

『なるほどな。先ずはお人柄を知る事からってか?』

「そうだな。相手を知るには身近な人間から情報を得るに限る。幸い今の俺は敵が少ない」

 

まずはエイル王女付きのメイドや執事達に質問してみるのが手っ取り早いだろう。彼らは彼女の事を良く知っている筈だ。こちらの身分を明かす事で少しでも信頼を得てから質問していく。

 

「エイル様ですか?」

「俺はあまりその方を知らん。どんな方か教えてくれると助かる」

「そうですねぇ。今は致し方なく強き方を見極めようとなさっている。優しいお心をお持ちの方ですから、まだ様子見されています」

「なるほど?」

「王族どころか国の中でもでも1、2を争う程の魔導の使い手と考えておりますが」

「勿体無い。そこまでなら王族の安寧に尽力されると考えるが」

「恐らくご自身の立場が第二王女だから誰かを支えるべきとお考えかと」

「なるほど。ありがとう」

 

次の人が教えてくれたのは彼女の魔法についてだった。エイル王女は風の魔導の達人であるという。

 

「そうなのか?」

「ええ。実力で言えば王家でも凄まじいお方ですが、今はユミナ様が台頭され、敵対できないから中々動きづらいと仰ってました」

「ううむ、やはりというべきか、かなりの実力者であられるか。恐らく王家の未来はその方にかかっているかもな」

「私も同感です。兄弟姉妹の皆様がご協力なされば王家の安定は間違い無いのに」

「慕われておるな」

「王家の未来を一番に案じられているのは恐らくエイル様ですから。ユミナ様の強硬な方針に心を痛めておいでです」

「ふむ」

 

最後に尋ねたのはエイル王女の執事長だ。彼に敵対する意思が無い事を伝えた上で同じ様な質問をしていく。

 

「エイル様ですか?」

「一つでも情報を知りたい。本来なら敵対する事を良しとしたくないんだ」

「そうですねぇ。最近第一王子のマディエ様とお話される事が多いと感じています」

「ふうむ」

「恐らくユミナ様の事を話されていると思います」

「やはり第一王女ユミナ様かね。済まんな」

 

此処まで集めた情報を包み隠さず全てセツナ姫に報告する。これくらいの情報は既に耳に入っているだろう、たいした情報じゃなくて申し訳なくらいだ。諜報部隊の一つや二つくらいあるに違いないから。

 

「軽く集めた感じ、当分様子見(静観)をされるでしょう」

「ありがとう」

「すみません、この程度の表面的な話しか集まらず」

「それでも良い。敵対する可能性が低いなら」

「どうしますか?恐らく他の方々も少しユミナ様を警戒なさっておられると思います」

「そうね。実は父上が病気がちなの」

「それは対外的に知られてない情報では?まだ会って二、三日の人間に言って良いものかと」

「貴方になら話しても良いと判断した。この情報は漏らさないと考えたから」

 

昔から気苦労の絶えない父王で柔和王と呼ばれるショーン陛下。恐らく昔からの傷などの積み重ねが今になって病に繋がったのではないかと推測される。彼の跡目はまだ正式には発表されておらず、重責に相応しい人物を限界まで見定めたいのだろう。それに痺れを切らしたユミナが強硬手段に出たのだろう。

 

「なるほど、父王ショーン様が病気を患われている事が王家内に伝わってから跡継ぎ争いが勃発している。で、ご兄弟の中でユミナ様がまず名乗りを挙げた。そこで他の候補者となり得る姫殿下らを狙ってくるかもしれんと」

「ええ、概ねその通り」

「厄介な事で」

「こういう時こそ穏便にいきたいのに」

「ショーン様は後継者を指名されてないのですか?」

「まだ。ギリギリまで働きたいのかも」

「そうですか。ショーン様の説得は難しいかもな」

「とりあえず情報提供有難う。他の斥候にも集めさせる」

「その方が(よろ)しいかと」

「いつでも動ける様にしてて」

「無論です。依頼ですから」

「今日のところはこれで大丈夫」

「はっ」

 

これにてとりあえず一仕事終えた。だが、あまり良い気分にはならない。跡目争いは面倒事が多いから好かぬのだ。しかも今回は国全体を揺るがしかねない一大事だ。

 

「やれやれ、王侯貴族の跡目争いか」

『大変な事に巻き込まれたな』

「こればかりは仕方あるまいよ。彼女の護衛などが仕事だからな」

『報酬は衣食住に契約金か』

「当分は生活に困らんだろう」

『主は守り抜けよ』

「そのつもりだ。だが、何処で狙われるか分かったもんじゃない」

 

警戒しておいて損はあるまい。いつユミナ姫が他の王家を狙ってくるか分からないからこそ、護衛がいるのだ。自衛策も用意した方が賢明だろうかと思案する。そこに後方から来たのはセツナ姫付きのメイド、アイラだ。仕事の合間の様だ。

 

「おや、ギエモンさん」

「誰かと思えばアイラか」

「どなたかと話されてたんですか?」

「お前には見せても構わんか。ヤマト」

『あいあい』

「きゃっ!何ですかこれ!」

「自動絡繰人形だ」

『ま、驚かれるのには慣れたもんよ』

「自らの意思で喋り、動く絡繰!?」

「そういう事」

「初めて見ました……」

『あまり居ないからな』

 

そう、この国では珍しい技術だ。慣れているのは同じ絡繰師か機械魔法の使い手くらいだろう。このヤマトとは産まれた時を同じくしており、これまで20年程一緒に戦ってきた。放浪の旅も共にしており、絡繰はかなり年季が入っている。

 

「そうですか、生まれた頃からご一緒なんですね?」

「そして幼い頃に血の、詰まるところ生き死にの契約をしている」

「貴方の人生の相棒という訳ですか」

『そうだ。幾度となく共に死線を潜り抜けてきたんだ』

「長らくチームは組んでないから自然とそうなったな」

「そうですか。頼れる相手がいらっしゃるのは羨ましいです」

「そういやぁアイラの話は聞いてなかったな」

「私ですか?」

「そう。同僚として親睦を深めたいんでね」

「そうですねぇ、何処から話しましょう」

 

彼女は元々商家の家庭の出身である。それなのに王家のメイドになったのは、一見あまり縁がなさそうだが、お金だけはあったのだろう、王家にお金やら何やらを納めていたらしい。それでその縁で姫殿下に会い、お仕えする事となったそうだ。

 

「セツナ様は孤独を感じられている。少しでもそれを癒したいと思いました」

「確かに少し距離を感じるね」

「お仕えする決意を決めたのはそれがあったから」

「何年お仕えしているんだ?」

「彼此5年以上でしょうか。去年から少しずつお心の内をお話してくださる様になりまして」

「それまで4〜5年か。思ったより長いな」

「ええ。あの方はお優しい、それ故に色々と悪意やら負の感情を感じとられるのでしょう」

「優しい人ほど損をする。良くある話だ」

「貴方もそう感じられる方なんですね」

「ああ、だが……だからこそ、世の中は他人に対して優しくなれなきゃ良い方向に向かわねぇ。争いばかりでは人も組織も疲弊していくだけだ」

「そう、ですね」

「ま、そこは上の立場の方々の仕事だ。それを支えるのが俺らの役目ってな訳。気負いすぎるなよ」

「はい」

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