絡繰機械操術師   作:ぽおくそてえ

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すんません、今回だけ13時投稿です。
明日以降最終話までは6:30投稿となります


王子を狙うものは

「ほい、せい」

「頑張ってますね」

「役目を果たせてるか怪しいもんだがな」

「ギエモン、そんな貴方に早速仕事よ」

「はっ」

「アイラ、今日もご苦労さま。また後で」

「はい」

 

何かしらの動きがあったのだろうか、少しばかり顰めっ面をしていた。諜報部隊の方から得られた情報がギエモンに齎される。最近ユミナ姫が戦闘を生業としている人間を雇った可能性があるとの事だ。恐らくギエモンと同業だろうと。

 

「そいつをいち早く捕えろと」

「いえ、まずは情報収集から」

「相手はその道のプロでしょう。そう簡単に出来るとは思ってませんが」

「貴方なら出来る」

「ま、それも俺の生業ですからね。集められるだけやってみましょ」

「頼んだわ」

「お任せを。姫殿下に少しでも情報をお伝えしますぜ」

 

部屋を退出して数分、今度は別の女性に呼び止められた。後ろには彼女のメイドが付いている。彼女はこの国の第一王女のユミナ姫だ。放たれるオーラか魔力か、少し空気が張り詰めるのを感じた。

 

「そこの男、止まりなさい」

「貴女は確か、ユミナ様。何でございましょうか?」

「貴方、セツナと良く会ってるわね?」

「ええ、まあ」

「ふぅん、なるほど。貴方、あの子に雇われたのかしら?」

「ざっと申せば」

「貴方、あんな子より私に付かない?」

「いきなりですね」

「そうかしら?私の方が実力があるからお得よ?」

「……」

 

敵戦力を引き抜き、少しでも戦力差をつけようという算段だろう。確かに第一王女ともなれば王位にはセツナ姫に比べて近いだろう。本気で狙えなくもない地位にいる。セツナ姫に付くより良い待遇を得られる可能性は高いのだ。

 

「どうかしら?色々と優遇できると思うわ」

「申し訳ありませんが、難しいですね」

「あら?」

「先ず第一に契約を結んでいる以上、そちらを重視するのが傭兵です」

「相手の不義理をでっち上げる事も出来るわよ?」

「そうかもしれませんが、それでもあの方に付く理由があるんです」

「何かしら?」

「セツナ様は俺の力を信用してくださっているのです。それを裏切る真似は個人傭兵、そして1人の男として許されないですから」

「義理深いのね、気に入ったわ。貴方の気が向いたら私の部隊に組み込んであげる」

 

一回で本気で説得しにきているとは思えないが、今後の動向には注意を払っておく必要がありそうだ。だが、例えどんな頼まれ方をされようとも説得に応じるつもりは現段階では無いのだ。主人や依頼される人など、立場をコロコロ変えてては信用されないからだ。その様子を見ていた人物がいた。セツナと彼女の執事長バリーだ。

 

「姉様から声を掛けられてたのね」

「見られてましたか」

「でも、私を選んでくれた」

「ええ。依頼主への義理を果たすのが傭兵の最低限の務めですから」

「絡繰操術師の名は広く知られているから引く手数多よ」

「だと良いんですがね。ま、今の依頼主は貴女です。仕事が終わるまでは契約の効果が成立している訳ですから」

 

さて、今後どう動くべきか一度話し合おうとなった。食事を摂りに行く時間もないだろうし、大勢が出入りする場所で誰かに話を聞かれる下手は打てない。だからセツナ姫の部屋にて執事長バリー同行の元で行われる事になった。

 

「アイラ」

「はい」

「今日は私とギエモン、執事のバリーの3人で部屋で夕食を頂くから」

「厨房に伝えておきます」

「今後の動向を少し話しておきたい」

「はっ」

「……その前に少しお時間を頂戴いただければ」

「分かった」

 

情報収集だ。土系統魔法は大地とか石とかに同化して潜り込める特徴がある。だが、あくまでも鉱石が多数含まれない場所に限る場合がある。

 

「さてと、この城は主に大理石で出来ているな」

『同化するのか?』

「そのつもりだ。この魔法での潜入任務も仕事にあっただろ?」

『確かにな。俺は巻物に戻る』

「あいよ」

 

建物には複数の鉱石が使われていないみたいで、潜り込むのにはもってこいだった。まず目指すのはユミナ姫の(おわ)す部屋だ。そこに行けば何かしらの情報を得られるかもしれない。罠を警戒しながら部屋の壁に辿り着くと、そこにはユミナ姫と最側近のマイルズ・ハーンが話し合おうとしている場面だった。

 

『ユミナ様。前回の空賊による任務、失敗との報が入りましたぞ』

『何ですって!?』

「……(彼らも此処までは想定済みだろう)」

『その代わりに傭兵稼業の人間を雇いましたぞ』

『うむ』

『ウィル・ヘイズです』

『この者にどなたを狙わせますかな?』

『1番の障害はマディエ兄様ね』

『では早速手配を』

『任せたわ』

「(活きの良い情報だ。くっくっくっ、録音完了と)」

 

これを証拠に万が一戦った時、勝利後の処分などに使ってもらおうと取っておく。その前に戦争にならない様にするのが一番だが、そう簡単には行かんだろう。話題は気付けば自分の事に変わっていた。

 

『そういえばセツナの所の傭兵、使えそうだわ』

『交渉を仕掛けますか?』

『いや、無理強いしても来ないでしょ』

「(俺もやはり狙われてるな。戦力の均衡を崩す為に)」

『でも、場合によっては殺さねばならないわ』

「(っ!?殺しの脅しか?)」

『それは、辞めておかれるべきでは?セツナ様や他の王族と戦争になりかねませんぞ』

『しかしねぇ、私の誘いを断ったのよ?許されないわよねぇ?』

『機を見るのも必要ですぞ』

『くっ、そうね』

「……」

『鼠に嗅ぎつけられては面倒です。私はこれにて』

「(一旦戻ろう。これ以上は危険だ)」

 

必要な情報は得られた。今は報告を第一に考えねばならまい。第一王子マディエを狙っているかもしれない事、自分も場合によっては命を狙われるかもしれない事、伝えたい事は様々ある。急ぎ壁から抜け出してセツナ姫の(おわ)す部屋へと駆ける。

 

「姫殿下」

「何?」

「急ぎご報告せねばならぬ事がございます」

「丁度良くございました。食事の準備が完了しておりました」

「此処なら話せる」

「では、お二人にユミナ様の狙いをお伝えしようかと」

 

聞いた言葉と録音しておいた音声を伝える。火球速やかに対応する必要もあるかもしれないと。第一王子が亡くなれば王位継承権はユミナ姫か第二王子のバーズ王子へと移る可能性が高い。

 

「マディエ兄様を?」

「こちらが警戒しているから当分は狙いにくいと判断したものかと」

「恐らくそうでしょうね。こちらの動きを探っているのではありませんか?」

「俺が諜報しに行くのを予測している可能性もありますね」

「敢えて掴ませたと?」

「でなければ、もっと慎重に話し合うかと」

「あの参謀殿ならあり得るわね」

「で、どう動きます?王子に要らぬご負担やご心労を強いるのは心苦しいですね」

「姫殿下」

「兄上には伝えておく。恐らくユミナ姉様はそれも織り込み済みの罠の可能性もあるけど」

「私も同行致します」

「バリー殿、お任せしてよろしいですかな?」

「ええ」

 

先に部屋を出た2人はマディエ王子の元へと向かわれるだろう。その2人の後を追うかどうか、判断する時が来た。どうするかというヤマトの言葉に昼間と同じ要領で後をつけようかと応える。襲われる事を考慮しているのだから、やはりというべきかそうなった。いつでも戦闘に移れるように準備させる。壁に同化して2人の後を追うと、マディエ王子の部屋の前へと辿り着く。

 

『兄様』

『夜分遅くに失礼致します』

『おお、セツナにバリーか。何、構わんよ。どうした?』

『此処は私の方から説明いたします』

『……ふむ、深刻な事態の様だね。部屋に入りたまえ』

『失礼します』

「(ふむ、此処までは順調ぞ)」

 

ギエモンや諜報部隊から得られた情報を総合して兄たるマディエ王子に事細かに詳細を伝えていく。妹のユミナ姫が御命頂戴とばかりに狙ってくるだろうと。今から警戒に当たって欲しいから急ぎ伝えに来たのだ。それを聞いてなるほど、彼女が自分の命を狙っているのかと納得していた。セツナが自分の配下に調べさせたらその可能性が高いと言っていたと告げる。確かに彼女は上に立とうとしている。理由は父上の事があったから。だけど、その後の狙いは依然分からないが。

 

『何か急いで手立てを、とは申しません。警戒だけはなさってください』

『その情報をもたらした者に伝えよ、感謝すると』

『ええ、彼も喜ぶと思う』

『しかし、その者は魔導士なのか?彼女らが気付かずにそんな会話をしているとは思えん』

『あの絡繰操術師だよ』

『ほう、彼か。確かに有能な魔導士と耳にした事がある。良くやった』

『頭撫でないで、子供扱いはもう辞めて』

『ははは、済まん済まん』

 

やはり兄の前ではどんなに大きくなろうと小さい妹のままなのだろう。頭をついつい撫でてしまうのだ。そんな仲睦まじい2人を眺めながら、出るタイミングを窺う。

 

「もしかしたらその絡繰操術師を頼るかもしれん。よしなに、と伝えてくれ」

「はい。恐らく彼は……」

「此処に居ますぜ」

「おお、壁から出てきた。なるほど、その能力で探っていたのか」

「そういう事です。隠れて探りを入れる無礼、お許しを」

「いや、君は妹や俺を陰から守ろうとしていたのだろう?」

「買い被りすぎですよ」

「ふふふ、そう言うが、君の事は少し調べてたんだ。ヘイルノルツ伯爵逮捕の折にね」

「そうですかい」

 

大切な家族を支えてくれる配下の者達は極力大切にしておきたい。だが、敵対する者達は容赦しない。妹の事を支えてくれるギエモンには感謝しきりだ。

 

「妹を、よろしく頼むよ」

「ええ。依頼はちゃんとこなしますから」

「君の実力、冷静さ、そして慎重さから考えて杞憂に終わるのは分かるがね」

妹君(セツナ様)は俺やバリー殿が支えます、傭兵と執事の名に賭けてでも」

「ふふふ、良い(まなこ)をしている。覚悟はそこらの従者より出来ていると見た」

「伊達に長年傭兵をしていません。死が隣人の生活をしていましたから」

「通りで。それでも曇った瞳はしていないね」

「相棒が居るからですね」

「心から信頼できる者の支えがあってこそ力を発揮出来るか。正直、そういう関係が羨ましいよ」

「マディエ様?」

「何でもない、悪かったね引き留めて」

「いえ、失礼します」

 

優しい兄君であったと感じる次第だ。自分には兄弟含めて家族が居ないから羨ましい限りだ。彼は弟妹皆に優しいのだ。あの方こそ王に相応しい御仁であるとバリーは個人的に思っている。確かにそれは言えているのだ。それと同時に国を守る為なら迷いなく的確な判断を下せる。

 

「王家継承順位第一位ですからね。余程の事が無ければ次期国王です」

「その次がユミナ様か第二王子(バーズ様)。だから狙われるのでしょうな」

「ええ。セツナ様、今日はゆっくり休まれてください」

「うん」

「では、私はギエモンさんと話を」

「頼めますか」

 

ここからは臣下の者同士の会話となる。姫殿下はギエモンとバリーに今後の事、有事への対応を任された。信頼の証というべきか。この信頼に応えてみせる場を与えられたと。

 

「そう捉えても良いのでは?」

「貴方は実力も度胸も一流。私も貴方を信用しよう」

「嬉しいね、頼られるという実感は」

「セツナ様は優しい心の持ち主。共にあの方の為、後ろ暗い任は我々が取り仕切ろう」

「それこそ傭兵の仕事だ。貴方は表立って支えるんだな」

「しかし……」

「傭兵は血生臭い仕事には慣れっこだ。今までは知らんが、本来は貴方の様な高潔な人物がやるべき任務じゃねぇさ」

「……」

「俺は裏から、貴方は表から姫殿下を支える。それでどうだ?」

「分かった。貴方を信頼しよう」

「任せな。依頼が継続する限りでは、契約は絶対だ」

「傭兵にしては義理深いな」

「だからこそ数々の仕事を任されたんだ」

「それはそうかもしれんな」

「信用は俺にとっては重要なもんさ」

「では、協力していこう」

 

後ろ暗い任務は好まぬが、バリーにばから任せるのを良しとしない。今まで得た経験を今こそ発揮すべきタイミングだろう。彼と別れた後にヤマトを呼び出した。傭兵の裏の顔、久し振りに出そうかと心を決める。

 

『けけけ、やっとか。本気の戦闘なら数ヶ月振りだね』

「まずはユミナ様の雇ったという裏方の人間からだ」

『急ごうぜ、時間は有限だ』

「頼りにしてるぜ、相棒」

『おうよ』

「さて、今日は休もう。明朝から俺らも本格的に動くぞ」

『汚れ役なら夜更けを狙うんじゃねぇか?』

「王子は警戒なさる。逆に油断する朝方を狙うとも考えられる。王城兵に今晩は任せよう」

『そうだな』

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