「セツナ様」
「情報が多少集まりました故、ご報告を」
「2人で来るとは意外ね。お願い」
「今回の標的、ウィル・ヘイズですが……」
「魔法剣以外にも魔法銃を使う所を見ました」
「一丁と一振りね」
「器用に左手で振って右手で撃っておりました」
「恐らく戦闘経験も多く、歴も長いかと。これは傭兵としての俺の勘ですが」
「さもなくば姉様が雇うはずも無い、ね」
「誰しも有能、あるいは自分に近しい意見の人を側に置くでしょうから」
「そうね」
まず彼と相対するなら、戦闘に慣れた者を2人以上、出来れば3名ほど配置して行くべきであろうと独自の見解を述べる。戦争や闘争に詳しくないセツナ姫はそうなのかと問うと、アマツはああ、なるほどと即座に彼の見解を理解したという。両手を交互に上手く使ってくるであろうから、手の数を上回る人数が欲しい訳だ。詳しく説明して初めてそういう事なのかと理解した。でも、彼女の側近にそんな手練が居ただろうかと疑問がつく。ここは、ギエモンの相棒達に登場いただこうかという。ヤマト以外にも居るのか、アマツもセツナ姫も知らないのだ。そこで三体纏めて召喚してみる。これが絡繰操術師と呼ばれる男の得意魔法だ。
「では一体ずつ紹介をば。左手のこいつはメインで操る主戦力ヤマト、背中に控えているのは最近加わった
『前の任務では話す機会が無かったですな。ヤマトと申す』
『ワルキューレです。どうかよしなに』
「そしてこいつがフィンリル。俺の絡繰の中で唯一自我を持ちませぬ」
「これが絡繰操術師の魔法か」
「すごい……」
「全部操ってみたら戦力としては充分でしょうね」
「確かに」
この魔法があるとはいえ、他にアマツやバリーも同行した方が良さそうだ。だが、護衛兵もつけねばなるまい。中々バランスが難しい。一般兵も居るとはいえ、全員が全員練度が高いとは限らない。さて、仕掛けるタイミングはどうすべきかとの議論に移る。
「誰かを攻撃したタイミングを狙います」
「誰か?」
「マディエ様は警戒なさっている。エイル様はアマツの同胞が警戒しているでしょう。手薄な第二王子のバーズ様を狙う可能性が高いかと」
「バーズ兄様を……そう」
「ええ。情報を与えては、疑心暗鬼になる恐れがあります」
「確かに。姉様の態度があるとはいえ、心の何処かでは彼女を信じていたい面がある。実際私もそう」
「セツナ様……」
今は争う立場の姉だが、少し意地悪だったものの、ついこの前まで仲良くお茶したり遊んだりしていた仲なのだ。急に割り切れ、などと言う方が酷だろう。恐らく他の兄姉達も同様だろう。だからこそ、少し考えをまとめた方が良いタイミングなのかもしれない。
「……少しだけ、考えさせて」
「ははっ」
「姫殿下、我々はいつでも動ける様に準備いたしますぞ」
「ええ」
彼女の去り際の背中は苦悩と悲しみが立ち込めていた。一朝一夕に判断しなければならない立場だからこその感情なのだろう。そんな彼女を支える立場のギエモン達は今はどうする事も出来ない。ただ動いた時の為に策を練り、鍛錬をしていつでも行ける様にするしかないのだ。
「姫殿下が心配だな」
「かといって、此方が勝手に動くのは得策ではないな」
「まぁな」
「さて、どうする?」
「様子見するしかなかろうよ」
「やはりそうなるか」
「ま、ゆっくりやってこうや。俺は俺のやり方でやっていく。互いに雇い主の為にも」
こうは言ったものの、自分が役に立てているのか一抹の不安が
「さぁて、どう動くか」
『やれる事はやったんと違うか?』
「まぁなぁ」
『後は姫の選択次第だろ』
「俺らは見守るしかないかね」
『現状ではな』
「じゃ、姫の憂いを少しでも和らげる為、俺らに出来る事は鍛錬。鍛錬と洒落込みますか」
迷いが出たならまず鍛錬から。己の心身に向き合い、迷いを晴らすにはこれが一番だろう。体を動かしている時は無我夢中になれるからいつもこうしているのだ。いつも通り鍛錬場に向かうとそこには見覚えのある姿があった。
「んお?先客?」
『それくらいなら珍しくもないな』
「でも、あれって……」
「あら、ギエモンにヤマト」
「やはり姫殿下でしたか」
『でも何故ここに?戦闘は配下の者に任されるのでは?』
「私も時々煩い事を忘れる為にここに来るの」
「貴女様を悩ませる問題、先程話された姉君の事ですな?」
「ええ」
道着に着替えていた彼女から滔々と兄弟姉妹に関して話をしてくれた。つい数ヶ月前までは親子兄弟で仲良く暮らしてたのだという。当然ながらそこにはユミナ姫も含まれている。だが、今の状況に陥ったのはとあるきっかけがあってからだ。
「兄君と接する姿を拝見するに、仲がよろしかった様で」
「そうね。父上の病が見つかってからかしら、ああなったのも」
「ユミナ様なりに思う所がお有りなのでしょう」
「そうかもしれないわね」
「何はともあれ、話さなければ分からない事もありましょうぞ」
「でも、今更何と話せば良いのか」
「お悩みなら行動に移す事が吉と出る事もありますぞ」
「そうね」
「護衛ならお任せあれ。このギエモンと」
「私、バリーが付き添います」
「私も行きましょう」
「アマツまで。心配し過ぎでは?」
「備えあれば憂いなしと申しますからね」
「何故、貴方達はそこまで私に……」
「そんな事、単純ですな」
「え?」
そう、至って単純な理由なのだ。たった一つ、彼女に付き従う理由が。それは何なのか分かっていないから、質問してみたら、ギエモンから返ってきた答えはこうだ。
「貴女の国を憂う心を少しでも晴らしたいのです」
「私の、心」
「貴女は俺に道と目標をくれた。誰かの為に体張って働く理由と場所を与えてくれた。それだけで恩を返すには充分なんですよ」
「ギエモン……」
『カッコつけてるね』
「良いだろうが、ヤマト」
「ふ、君は変わっているね。少ししか接していない相手にそこまでするとは」
「それだけ恩義があるんだよ」
良い生活環境にやり甲斐のある任務。恵まれた仲間達。これだけの環境はそう与えられたものではない。達成感がある任務を遂行させてくれるのは傭兵として有難い限りである。だから心優しい第三王女の為に少しでも力になりたいのだ。
「何か御用があればいつでもお呼びくだされ」
「ええ」
「では、失礼」
「我々もこれにて」
『おい、修行は良いのか?』
「今日のところはな」
それよりも頼れる人物に頼み事をする為に電話をかけなければならない。用意して欲しい物品が二、三個ある。此処まで来ればいつ正面衝突となるか分かったものではないから尚更だ。
「もしもし、リーナ」
『あら、そっちからなんて珍しいわね。どうしたの?』
「ちょいと調達して欲しいものがあるんだが」
『何かしら?』
「魔導爆弾と魔導銃だ」
『戦争でもするつもり?』
「いずれな」
『……貴方がそこまでするなら構わないわ。死なないでよ?』
「唯一の幼馴染のお前を置いて死ねるかよ」
『ふふ、そうね』
遡れば15年ほどになるだろうか、イーベルデルクが隣国ボルピット公国との戦争に巻き込まれたのは。親達に逃げる様にと言われてから何年もギエモン、リーナ、ヤマトの3人で放浪の旅を続けていたのだ。
『あの時以来、貴方は私をいつも助けてくれたよね』
「ああ。あれから15年か」
『貴方とヤマトと私。3人で旅をしたもんね』
「そうだったな。懐かしい記憶だ」
『私はエージェントの道を、貴方はフリーの傭兵の道へ』
「互いに協力しながら生きてきた」
『感謝してるよ、今もね』
「俺もお前のお陰で暮らせてる。有難い限りだぁな」
『あは、ありがとう』
「そういえは昔から良く食ってたよな、お前は」
『しょうがないでしょ、魔法とか頭とか使うとお腹がすくんだもん』
「にしてもなぁ。俺の奢りでご飯三杯食うと思わねぇだろ」
『良いもん、今は自分のお金で食べてますし。少しでも報酬を引き上げてますしぃ。貴方も人の事言えないでしょ?』
「はっはっ、いやいや。惚れた女の為に稼ぐのも悪かねぇ」
『えっ?ふえっ……』
「あ、悪いな」
『だ、大丈夫だから』
「ま、いつも通りお前の元に帰る。その為に協力してくれ」
『うっ……はいはい』
少し恥ずかしさの残る会話を切り上げて次の段階へ進むかひと思案だ。先程爆弾なら武装を頼んでいたのは魔法以外の選択肢を取れる様に準備する為だ。出来れば非人道的な手段以外を選びたいが、事態が事態だ。取れる手段は取っておきたい。こういうのは荒事に慣れた傭兵としての経験から来る考え方である。ヤマトはいつでもいける。戦闘なら任せろという。相棒としてこれからも頼らせてもらう。次のセツナ姫からの呼び出しを受けたのはそれから暫く経った頃だ。
「ギエモンさん、ヤマトさん、セツナ様がお呼びです」
「やっとか、待ちくたびれたぜ。アレから何事もなく1週間も経つしな。必要なブツは揃ったな」
『いよいよ出番だぜぇ』
「修行してたとはいえ、しばらく出番が無かったからな」
「此方です。ついてきてください」
部屋に案内され、まずはセツナ姫の説明を受ける。なんと一回バーズ王子を狙っており、少し負傷しているとか。セツナ姫も少し表情に怒気が含まれている。
「遂に仕掛けてきたらしいわ」
「ほう?」
「狙ったのは貴方の予測通りバーズ兄様ね」
「やはりですか」
「兄様達と今後どう動くか検討した結果、狙ってきた連中を拿捕する事となった」
「しかし、目的を達成しかけていて容易く油断しますかね?」
「だからこそ油断するのよ。目的達成は目前、そこしか見えてない可能性もある」
「ふむ」
「それと、相手は2分隊くらいの人数だそうよ」
「結構居ますね」
「援軍の妨害と攻撃部隊に分かれたんでしょうね」
「そうとなりゃ、俺1人で戦えるかどうか」
「何も貴方1人でやれとは言わないわ」
「で、どうする?」
「バリーやアマツと協力させてくだされ。流石に俺1人じゃ厳しいですぜ」
「構わないわよ」
「では、手筈を整えて参ります」
そう言って部屋を後にしたギエモン。まずはバリーとアマツの協力を得るべく、2人を自分の部屋へと呼び出した。