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窓の外から差し込む朝の光が、泉新一の瞼を無遠慮に叩いた。意識が泥のような眠りから浮上するにつれ、日常の音が耳に戻ってくる。階下から聞こえる母親の調理の音、通り過ぎる車の排気音、そして──自身の右手が立てる、奇妙なページをめくる音。
新一は重たい体を起こし、自らの右腕に視線を落とした。そこにあるのは、見慣れた五本の指ではなく、先端に目玉を生やし、触手のように変形して本を抱え込んでいる異形の生物だった。「ミギー」と名乗るそのパラサイトは、新一が眠っている間もこうして勝手に活動し、知識を貪り食っている。
「…おい、朝だぞ」
新一が掠れた声で呟くと、ミギーは目玉だけをギョロリと宿主に向けた。
『おはよう、新一。人間の睡眠とは非効率極まりないな。私はこの数時間で、哲学書の概論を三冊読破した』
「勝手に人の本棚を荒らすなよ」
新一はため息をついた。かつては平凡だった彼の日常は、ある夜、この正体不明の生物が右手に寄生したことで一変してしまった。脳を乗っ取られなかったのは不幸中の幸いだが、いまや彼は人間社会の常識と、人知れず潜む捕食者たちの世界との狭間に立たされている。
制服に着替え、朝食を流し込む。母親の信子には、右手の包帯を「怪我」と偽り続けているが、その不自然さをいつまで隠し通せるかという不安は、常に胃の底に澱んでいた。
「行ってきます」
努めて明るい声を出し、新一は家を出た。
通学路は、いつもと変わらぬ穏やかな空気に満ちていた。しかし、新一の神経は以前よりも過敏になっている。すれ違う人々の中に、もし「奴ら」が紛れ込んでいたら──そんな猜疑心が、常に背筋を冷たく撫でていく。
「おーい、泉くーん!」
張り詰めた空気を切り裂くように、明るい声が響いた。新一が振り返ると、そこには二人の少女の姿があった。
一人は、幼馴染の村野里美。ふわりとした髪が風に揺れ、柔らかい雰囲気を纏った彼女は、新一にとって人間としての日常を象徴する存在だ。最近、新一の様子がおかしいことに気づきながらも、変わらず接してくれる彼女の笑顔を見ると、新一は安堵と共に微かな罪悪感を覚える。
そして、もう一人。村野の隣で、まるでスキップでもしそうな足取りで近づいてくる少女。亜麻色の髪に、好奇心をそのまま形にしたような緑色の瞳を持つ、アレックス。彼女はアメリカからの帰国子女だが、その振る舞いは「文化的ギャップ」という言葉では片付けられないほどにエキセントリックだった。
「よう、泉! 今日のスポーン地点、ベッドの配置が悪くてさ。起きたら壁に頭が埋まってて、窒息ダメージ受けるかと思ったぞ」
アレックスは開口一番、全く意味の分からないことを言った。「スポーン地点」だの「窒息ダメージ」だの、彼女の語彙は常にゲーム用語のような独特の概念に彩られている。
「おはよう、アレックス。また変な夢でも見たのか?」
新一が呆れながら返すと、アレックスは「夢じゃない。リアルな不具合だ」と真顔で主張した。
このアレックスという少女もまた、新一にとっては別の意味で「理解不能」な存在だった。
以前、彼女が素手で木の枝をへし折るのを見たことがあるが、その折れ方は尋常ではなかった。まるで木材そのものが正方形のブロックになったかのように、パカッと外れたのだ。ミギーですら『あの雌の行動原理と物理法則への干渉能力は、私の知識データベースに該当がない』と匙を投げている。
「泉くんおはよう。アレックスちゃんったら、朝からずっとそんな調子なのよ」
村野が苦笑しながら新一の隣に並んだ。
「里美の家、今度リフォームしようぜ。匠の技で、全面ガラス張りのトラップタワーにしてやるから」
「絶対にやめてね。そもそもトラップタワーって何?」
村野とアレックスの掛け合いは、もはや漫才のようだ。平和な光景。パラサイトの恐怖など、まるで嘘のような穏やかな通学風景。新一の心から、少しだけ緊張が解けていく。
交差点に差し掛かった時だった。信号が赤に変わり、三人は足を止めた。通勤ラッシュの時間帯、歩道はそれなりに混雑している。
「あ、そうだ泉。昨日の夜、裏山でクリーパーみたいな気配しなかったか? 『シューッ』って音がしてさ」
アレックスが新一の顔を覗き込みながら、また奇妙な話題を振ってきた。
『クリーパーとは何だ? 新種の生物か?』
ミギーが新一の右肩付近で微かに身動ぎし、小さな声で問いかけてくる。新一は慌てて右腕を背後に隠し、周囲に聞かれないよう咳払いをした。
「し、知らないよそんなの。風の音じゃないか?」
その時、歩道の端を猛スピードで自転車が駆け抜けていった。ベルも鳴らさず、歩行者の隙間を縫うような無謀運転だ。
「危ないっ!」
村野が短く叫び、身を引こうとした。しかし、混雑の中でバランスを崩した彼女の体は、隣にいた新一の方へと倒れ込んでくる。
「わっ、っと…!」
新一は咄嗟に反応した。ミギーが寄生して以来、彼の動体視力と反射神経は人間離れした向上を見せている。倒れてくる村野を支えることなど、造作もないはずだった。
だが、不運というのは重なるものだ。支えようと伸ばした右手が、予想よりも早く、そして深く、対象を捉えてしまった。さらに悪いことに、新一の右手──ミギーは、時折、宿主の意思とは無関係に、より「安定的」で「把持しやすい」形状へと自らを変形させることがある。
新一の手のひらが、柔らかく温かい感触を捉えた。それは衣服越しでもはっきりと分かる、豊かな弾力。指先が沈み込み、掌全体でその曲線を包み込んでしまう。
新一は自らの体勢を立て直し、村野を抱きとめる形になった。ここまでは、まあ良い。危機回避として許容される範囲だ。問題は、彼の右手が、村野の胸部をしっかりと、まるで精密機械がサンプルを採取するかのように、完璧なホールド感で掴んでいたことだった。
「…え?」
時が止まった。交差点の喧騒が、遠くへ退いていくような錯覚。新一の視界には、すぐ目の前にある村野の顔があった。彼女の瞳が見る見るうちに見開かれ、頬が林檎のような赤色に染まっていく過程が、スローモーションのように映る。
離さなければならない。新一の脳はそう命令していた。だが、ミギーの細胞が混じった右手は、未知の感触に対する好奇心なのか、あるいは単なる反射なのか、無意識のうちに五指に力を込めてしまった。むにゅ、という何とも言えない感触が右手に伝わり、それが視覚情報と合致して新一の脳髄を直撃する。
「あっ、い、泉く…ん?」
村野の声が震えていた。怒りか、羞恥か、あるいは混乱か。そのすべてが混ざり合ったような、今にも爆発しそうな声音。
『新一』
その時、脳内にミギーの冷静すぎる声が響いた。
『心拍数が急激に上昇している。体温も上昇傾向。呼吸が浅く速い。これは生殖行動の予兆か? お前たちの種は、公衆の面前で、求愛行動を行う習慣があるのか? 私の研究データにはない行動様式だが』
(だ、黙れミギー! 今それどころじゃ…!)
新一は心の中で絶叫し、ようやく右手の呪縛を解くことに成功した。バッと手を離し、後ろへ飛び退く。
「ご、ごめん! 違うんだ! あっ、いや違わなくないけど! 自転車が来てそれで…っ」
新一はしどろもどろになりながら弁明した。顔が熱い。耳まで真っ赤になっているのが自分でも分かる。村野は胸元を両手で隠し、涙目になりながら新一を睨んでいる。
「泉くんのえっち」
蚊の鳴くような声だったが、その破壊力はパラサイトの攻撃に匹敵した。新一は精神的ダメージを受け、その場に崩れ落ちそうになる。そこに、今まで事態を静観していたアレックスが、ニヤニヤとした笑みを浮かべて割り込んできた。
「おおー! すごいな泉! これがジャパニーズ・ラブコメの波動か! 物理演算エンジンがいい仕事してるな!」
彼女は両手を叩き、まるで演劇でも観ているかのように無責任に喝采を送った。
「接触判定がシビアだと思ったけど、まさかそこで『掴む』コマンドが発動するとは。今の『むにゅ』って音、効果音を入れなくていいくらいリアルだったぞ」
「アレックス、茶化すな!」
「あはは! 里美も顔真っ赤! シェーダーのエフェクト掛かりすぎだろ!」
アレックスのデリカシーのない発言が、凍りついた空気に火をつけた。村野の視線が、新一からアレックスへと移動する。その瞳には、羞恥の涙ではなく、冷ややかな氷の刃が宿っていた。
「…アレックスちゃん?」
村野の声色が一段階下がった。
「へ?」
アレックスが間の抜けた声を出す。
「今の、そんなに面白かった?」
「え、いや、その…ロマン? 青春の1ページ的な?」
アレックスの表情が引きつり始める。野生の勘──あるいはマインクラフターとしての生存本能が、クリーパーの爆発直前のような危機を感知したらしい。
「行こっか、学校」
村野はニコリと笑ったが、目は笑っていなかった。彼女はスタスタと歩き出す。その背中からは「後で覚えてなさいよ」という無言の圧力が放たれていた。
「お、おい待てよ里美! 冗談だって! ちょっとテクスチャを褒めただけだろ!?」
アレックスが慌てて追いかける。新一はその場に取り残され、深く深いため息をついた。右手に残る柔らかな感触と、ミギーの『人間とは難解な生物だ』という冷ややかな感想だけが、そこに残されていた。
「さ、最悪の朝だ」
新一は呟き、重い足取りで二人の後を追った。平和な学校生活は、パラサイトの脅威とは別のベクトルで、既に崩壊の危機に瀕していた。
■□■□■□
午後の日差しが、美術準備室特有の油絵具と鉛筆の削りカスが混ざったような匂いを温めていた。北高の美術室は、校舎の古い棟の三階に位置している。窓の外にはグラウンドの喧騒が遠くに聞こえ、室内には鉛筆が紙を走る「サッ、サッ」という乾いた音だけがリズムよく響いていた。
今日の課題は「人物クロッキー」。二人一組のペアになり、互いをモデルにしてスケッチブックに描き写すというものだ。
泉新一にとって、この時間は平穏であると同時に、拷問に近い緊張を強いるものだった。理由は単純明快。彼の目の前、パイプ椅子に座って少し恥ずかしそうに視線を逸らしているモデルが、今朝の一件で気まずさが最高潮に達している村野里美だからだ。
「動かないでくれよ」
新一は掠れた声で言い、4Bの鉛筆を握り直した。
「動いてないよ。泉くんこそ、さっきから全然筆が進んでないじゃない」
村野が少しだけ唇を尖らせて抗議する。その表情の変化すら、新一の目にはあまりにも鮮烈に映った。
『新一』
脳内に直接響く無機質な声。ミギーだ。
『理解できないな。三次元の物体を二次元の平面に不完全な形で模写することに、何の意味がある? 記録が必要ならカメラを使えばいい。網膜の映像を脳内で再生するほうが遥かに正確だ』
(黙ってろ、ミギー。これは「芸術」であり「授業」なんだ。効率の問題じゃない)
新一は心の中で毒づきながら、目の前の少女の輪郭を追いかける。ミギーが右手に同化してからというもの、新一の手先の器用さは異常なほど向上していた。定規を使わずに直線を引くことも、コンパスなしで真円を描くことも造作もない。
しかし、いざ村野を描こうとすると、その「正確すぎる右手」が思うように動かない。髪の毛一本一本の流れ、制服のシワ、そして彼女の柔らかそうな肌の質感。それらを見つめれば見つめるほど、今朝の手のひらの感触──あの弾力と熱──がフラッシュバックし、線が震えてしまうのだ。
「あらあら〜? 泉くんったら、ずいぶんと熱心な視線ねえ」
背後から、冷やかしを含んだ忍び笑いが聞こえた。振り返ると、村野の友人である裕子とアキが、ニヤニヤしながら新一の手元を覗き込んでいた。
「里美のこと、穴が開くほど見つめちゃって。そんなに見つめられたら、里美も溶けちゃうんじゃない?」
「朝も二人でイチャイチャ登校してたしねー。美術室でも二人の世界ってわけ?」
アキが囃し立てると、モデル席の村野が「ちょ、ちょっと! やめてよ二人とも!」と顔を赤くして身を乗り出した。
新一の顔にも、一瞬で朱が差した。心臓が早鐘を打つ。図星を突かれた動揺と、男としてのプライド、そしてパラサイトという秘密を抱えるがゆえの過剰防衛本能がない交ぜになり、彼は反射的に大声を上げてしまった。
「う、うるさいなッ! 違う! これは観察だ!」
新一はスケッチブックをバッと胸に抱え込み、友人の少女たちを睨みつけた。
「僕はただ骨格の構造とか、筋肉の付き方とか、光の陰影を芸術的な観点から分析していただけだ! やましい気持ちなんてこれっぽっちもない! 純粋な美術の追求だ!」
典型的な、あまりにも教科書通りの「ツンデレ」反応だった。教室の一瞬の静寂の後、裕子たちが「はいはい、そういうことにしておきましょ」「顔真っ赤だよ、芸術家さ〜ん」とクスクス笑いながら去っていく。村野はといえば、呆れたような、それでいてどこか嬉しそうな、複雑な笑みを浮かべて新一を見つめ返していた。
「ふふっ。泉くん、芸術的観点なんだ?」
「う…まあ、そうだよ」
新一はバツが悪そうに視線を逸らし、再び鉛筆を走らせ始めた。恥ずかしさで爆発しそうだったが、奇妙なことに、このやり取りのおかげで右手の震えは止まっていた。
だが、この美術室には、甘酸っぱい青春の空気など一瞬で粉砕する「異物」が存在していた。新一の隣の席。そこで一心不乱にスケッチブックに向かっているのは、アレックスだ。彼女は先ほどから、美術の授業には似つかわしくない音を立てていた。
「シュッ! ガッ! ズザザザッ!」
鉛筆を走らせているというよりは、紙を削り取っているような音だ。しかも、彼女の左手にはなぜか三十センチ定規が握りしめられている。人物画を描くのに、定規?
新一は嫌な予感を覚えつつ、恐る恐るアレックスの手元を覗き込んだ。
「おい、アレックス。お前、何を描いてるんだ?」
「何って、里美に決まってるだろ。私の
アレックスは自信満々に鼻を鳴らし、スケッチブックを新一に見せつけた。そこにあったのは、村野里美ではなかった。ある意味では村野里美の構成要素を持っているのかもしれないが、それは根本的に次元が異なっていた。四角い顔。四角い胴体。長方形の手足。髪の毛さえも、カクカクとしたブロックの集合体で表現されている。
それはさながら、解像度を極限まで下げたレトロゲームのキャラクターか、あるいは「マインクラフト」の世界に迷い込んだ村野里美の姿そのものだった。
「カクカクじゃねえか」
新一は絶句した。
「違う、これは『ローポリゴン・モデル』だ。処理落ちしないように頂点数を削減した、究極の機能美だぞ」
アレックスは真顔で主張した。彼女の眼球には、世界がすべてブロック単位で見えているのではないかと、新一は疑った。
「お前なァ、美術の授業は写実性が評価されるんだぞ? そんなブロック人間を提出したら赤点だ」
「ふん! 凡人には、この高解像度テクスチャパックの良さが分からんか」
アレックスは呆れたように肩をすくめると、クルリと振り返り、モデルをしている村野をじろじろと眺め回した。その視線は、美術的な観察というよりは、品定めをするような不躾なものだった。
そして、彼女は教室中の注目を集めるような大きな声で、とんでもないことを口走った。
「ま、実物をよく見りゃ、こんなもんか。ふっ、美少女のアレックスはね、村野よりもレベルがあるんだよ」
教室の空気が凍りついた。新一の手が止まる。裕子たちのおしゃべりも止まる。村野の笑顔がピキリと固まる。しかし、アレックスは「空気を読む」という機能が実装されていないかのように、さらに言葉を重ねた。
「だいたい、日本の女子高生は盛りすぎだ。メイクしてるやつは…ブフゥ! 笑いが止まらんよ!」
アレックスは一人で肩を震わせ、勝ち誇ったようにニヤニヤと笑い出した。
「所詮は
「へぇ…そうなんだ」
アレックスの背後で、地獄の蓋が開く音がした。新一が見ると、いつの間にかモデル席から立ち上がった村野が、アレックスの真後ろに立っていた。その顔には満面の笑みが張り付いているが、瞳の奥には漆黒の闇が広がっている。般若ですら裸足で逃げ出すような、静かで絶対的な怒り。
「あ、あれ? 里美?」
アレックスが振り返った瞬間、村野の細腕が閃いた。
「ぎゃっ!?」
電光石火のヘッドロック。村野の腕がアレックスの首にガッチリと食い込む。
「ぐえっ!? ちょ、判定おかしいだろ! 当たり判定広すぎ…!」
「アレックスちゃん? メイクがテクスチャ? あざとい?」
村野は甘い声で囁きながら、万力のように腕の力を強めていく。さらに、拳の指関節を立てて、アレックスのこめかみをグリグリとねじり上げ始めた。
「い、痛い痛い痛い! ハートが! HPバーが減ってる! 防具着てないんだぞこっちは!」
「あら〜、アレックスちゃん。私たちにも喧嘩売ってるってことよねえ?」
さらに悪いことに、裕子とアキ、それにクラスの女子数名が、悪魔的な笑顔を浮かべて包囲網を敷いていた。
「アメリカ仕込みの美少女レベル、たっぷり見せてもらおうかな」
「素材の味をチェックしてあげる」
「ひいぃっ! モブが! NPCが敵対化した!?」
アレックスの悲鳴が美術室に木霊した。もはやクロッキーどころの騒ぎではない。それは一方的な蹂躙だった。村野に首を極められ身動きが取れないアレックスに対し、女子生徒たちのくすぐり攻撃や、ほっぺたをモチのように引っ張る拷問が炸裂する。
「ぶふぅ! やめ、そこはヒットボックスが! 装備耐久値がゼロになるぅぅぅ!」
「反省した?」
「した! しました! 私が悪うございました! だから土下座コマンド入力させてくれ!」
新一は、その光景を遠い目で見つめていた。ミギーが新一の脳内で呟く。
『新一。あの雌は、生物としての生存戦略が破綻している。なぜ自ら、敵対勢力を増やすような発言をする? 集団内での孤立は死を意味するのに』
(…あいつなりの、コミュニケーションなんだろうさ。たぶん)
新一はそう心の中で答え、嵐のように揉みくちゃにされているアレックスに、そっと黙祷を捧げた。
『彼女の首の骨が折れる確率は、30%といったところか』
(やめろ、縁起でもない)
アレックスの断末魔のような叫び声と、女子たちの高笑いが響く中、チャイムの音が救いのように鳴り響いた。解放されたアレックスは髪をボサボサにし、哀れな姿で床に転がっていた。
「リスポーン…地点…更新…」
虫の息で謎の言葉を呟く彼女を見て、新一は思った。パラサイトよりも、女子高生の集団心理のほうがよっぽど恐ろしい、と。
「さ、次の授業行こっか、泉くん」
すっきりした顔で髪を直した村野が、何事もなかったかのように微笑みかけてくる。
「あ、ああ…」
「誰か…ステーキ…持ってないか? ゾンビ肉でも…可…」
新一は引きつった笑みを返しつつ、床でピクピクしている「自称美少女マインクラフター」を跨いで教室を出るのだった。
これこそが、日常を守るための正しい選択だと信じて。
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