たとえ転生先が鬱ゲーな上に主人公の幼なじみだとしてもTS少女は曇らせがしたい 作:ヒナまつり
視界が広がる…そこには星のように、幾つもの未来が糸のように伸びていた。
バッドエンドも、ハッピーエンドもビターだって何だって見えるこの目で、定めた未来は俺が選ぶのではなく無垢なる少女の持つ矢が選ぶ。
「─これが、おねーちゃんの力…?」
「うん、絶望に抗う力だよ~!ねぇ、サキちゃんはどれを選びたい?」
飛んでくる糸を打ち落としながら、俺はサキちゃんに見せる未来を選択していく。そうじゃないと、物理的に脳が焼かれて死んじゃうからね!
「選ぶ…私が─」
一つ一つの未来を眺めながら、震える手でサキちゃんは弓を構える。
けれど、今さっきの決意した熱はほどけて今は選択することの恐怖が彼女の心に付き纏い目を閉じてしまう。
それは、きっと彼女が言っていたマモルくんの時のトラウマを引きずっているからだろう。詳しいことは分からないけどね…。
「─そう。選ぶんだ、サキちゃんが。けどね?その為の道も、力も…ボクがちゃんと助けてあげるから、安心して心の向く方に照準を合わせて?」
「サキの、心の向く方…」
優しく声を掛けながら、激しくなる一方の糸をどうにか逸そうとしてもおねーさんの冷気が失くなったから早くなり自由に動くようになった糸は俺の身体を傷つけていく。
─うへ、太陽と引けを取らない早さなんですけどっ!?しょうがない、致命傷だけ避けよー!生気空っぽになったらヤバイし─。
「─サキは、サキ…は─今さっき言ったみたいに…倒したい。でも─」
悩んで、悩んで下を向きながらサキちゃんは自分の答えを探し始める。目の前には幾つもの未来がある、けど蜘蛛の糸という過去の傷がサキちゃんの足を引っ張り続ける。
でも、そこから正解を見つけるためにサキちゃんは過去ではなく未来に目を見開いた…震える身体を支えながら。
「もう…耐えるだけはイヤ─!泣いて、苦しんで─助けを求めるだけなんて…もうやなの!だから、だから─」
震え泣き叫びながら、サキちゃんは自分の足で立って弓を構える。けれど、淡い光は暗い闇に飲み込まれてしまうもので─。
『おねえ、ちゃん─たす、けて』
何処か、声が聞こえた─。幼い、男の子の声が…。それは、ゆっくりと、ゆっくりと蜘蛛の糸を解こうとしていたサキちゃんに絡み付いた。
─まだ日は浅い癖にもう言葉を発せれるのー!?簡単に済むと思ってたんだけど─これは、サキちゃんには劇毒かも…!
「マ、マモル──っ!?」
予想通り、矢を番えていたサキちゃんは弓を下ろしていた。まぁそりゃ、そうだ…空想でも、願ってしまうものだから…人は。
もし、生きていたら…って。そのせいで、幽霊というエセリアルは生まれたんだから。
ただ─それをアラクネが糸で姿を模倣する形で写し出すとは思わなかったけど─!
アラクネの傍には、糸で編まれたたぶんマモルくんであろう子がいた。
「サキちゃん、あれは偽物だよ。惑わされちゃダメ」
『いやだ、くらいよ…おねえ、ちゃん』
その俺の声は、サキちゃんの耳には届かない。アラクネが俺の声に重なるようにマモルくんの声を発させたから。
「マモル、大丈夫…!おねーちゃんが、守るから─今度こそ…」
虚ろな瞳で、サキちゃんはマモルくんに近づく。それをアラクネは嘲笑いながら糸でサキちゃんを包み込むために全ての手を糸を編むことに使った。
─どうする、これを防げてもサキちゃんの心はもう操られてるし…それに、万が一俺が絡められたら本当に終わりだし…。
手立ての打てない絶望のその瞬間、サキちゃんがアラクネが持っていたキューちゃんと呼んでいた人形が地面へと落ち、青い光を放った。
「─キュー、ちゃん…?」
やっと、目が慣れた時に見えた光景は悶えるアラクネとサキちゃんを守るように糸に絡められたらサキちゃんの人形だった。
─今の青い光、暖かかった…。これは、きっとマモルくんの想いが…残っていたんだ。確かに、色々変な点はあった。
本来、こんなに負が溜まっている場所でこれまでエセリアルが発生しなかったのも傲慢の権化たるアラクネが生気を吸うだけでサキちゃんを済ませていたのも…。
きっと、マモルくんが守っていたんだ。ずっと、ずっと─。
「─サキちゃん、もう…夢に縋らなくても立てる?マモル君の、想いを無駄にしないで歩ける?」
アラクネが怯んでいる間にサキちゃんに近づいて少しだけ、冷たい声でサキちゃんへ問い掛ける。
「─サキ…は、歩ける─ううん、歩くの…マモルに守ってもらってばっかりじゃ─顔向け、出来ないから」
幼き少女の顔は、今では少しだけ大人になった。それと同時に役目を迎えたかのように、人形は青い火に包まれて消えていった。
─マモルくん、お疲れ様。後はおねーさんを信じてゆっくり休んでね─。
「それじゃ、弓を構えて。ボクも、今度は一緒に構えるから」
「─うん。もう、もう…惑わされない─っ!」
その強い声と共に放たれた矢は星のように、駈けていった。もう叶うことのない少女と少年の幸せな未来を描くように。
そして、アラクネを穿って人形の時のように青い炎がエセリアルを燃やした。
そして綺麗で、儚いその焔が全てを焼き尽くした時…結界は崩れ脅威は消え去った─。
「─サキちゃん、よく…頑張ったね。もう、我慢しなくていいよ。ほら、おねーさんに全部吐き出して?」
頭を撫でながら、震えているサキちゃんを抱えると彼女は幼き少女に戻ってポツリ、ポツリと涙を溢した。
「─ひぐっ、ごめんなさい…ごめんなさい…っ!お父さん、お母さん─マモル…っ!もっと、もっと早く何かすれば…サキが、もっと頑張れば─っ!」
溜め込んでいた声が、想いが溢れていく。この傷は直ぐには癒されるものじゃない。けれど、生きている限り治り行くもので─サキちゃんが掴み取った未来への道が健やかなものであることを俺は祈ることしか出来ない。
けれど、今だけは少しの暖かみで彼女の傷を癒そう。挫けないように、道を歩んでいく力を忘れないように─。
それに、曇りから晴れる姿を眺める絶好のチャンスだからね─!
初めてのエセリアル退治から少し時間が経った頃、俺達はサキちゃんが休んでいる保健室へ向かった。
あの日、サキちゃんは泣き疲れて寝ちゃって、その上初めての霊気に当てられてるのもあって3日間も寝ていたんだ。
でも、その時間のお陰かサキちゃんの様子は変わっていた─少しだけ大人になったんだ。
だから、僕は触れることにした。サキちゃんの心の傷へ─。
今の彼女なら、きっと現実を見えると信じて…。
「─ねぇ、サキちゃん?マモルくんは、どうして死んじゃったの?何に─」
「─マモルは、誘拐されたの。サキが、山で遊ぼって誘った帰り道で。サキを守るために囮になって。サキはね、それを眺めることしか出来なかったの。助けを呼ぶことも、マモルを助けることも─何も出来なかった」
後悔するのように、彼女は言葉を紡ぐ。でも、泣くことも口を止めることもなかった。ただ、しっかり俺の瞳を見つめて答えた。
「それで、少し経った日にマモルの遺体が見つかったの。サキは見えなかったけど…すっごく残酷だったんだって。お母さんが言うには、顔すら分からない…ドクロみたいだったって。それに、犯人の人も─」
─少しか、それでそこまでなる?それに、犯人までもか…。やっぱり、その事件もエセリアル関係だね。後で書類を漁ってみよう─もしかしたら原作と関係しているかもしれない。
あのアラクネは、少しだけだけど土蜘蛛の力も持っていたし─。
「─そっか。ありがとう、ごめんね?まだ起きたばっかりなのにこんなこと聞いて」
「─ううん。サキも、少しだけ忘れていたことだったから思い出せて良かった。もう、忘れないようにしないと」
そう言って、サキちゃんは大人びた表情で空を眺めた。そこに写っているのはきっとマモルくんの姿なんだろう。
でも、そのサキちゃんに似合わない不幸せな顔に手が伸びた。柔らかな黒の髪に。
「─おねーちゃん…サキはもう平気だよ?ちゃんと、歩けるもん」
「─そっかぁ、でも少しだけこうさせて?まだ、サキちゃんは他の人を頼っていい時期なんだからさー?」
「そっか…。うん、じゃあ─もう少しだけ撫でて?サキ、それならもっと頑張れるから─っ!」
サキちゃんの可愛らしく笑う姿に俺は幼い頃のユウの姿を重ねた。
あれは、何時だっけ?ユウ、ずっと泣いてたよね…?あれ、でもあの日─っ!?
鋭い痛みが俺の頭に響いた。まるで、思い出すことを許されていないかのように…。
「─ちゃん!おねーちゃんっ!大丈夫…?何処か痛いの?えっと、えっと─」
心配そうに、慌てながらサキちゃんが俺を見つめる。
─うへ、サキちゃんってば俺が苦しんでるのをユウが見た時みたいな反応じゃん…。あぁ、でもその表情のお陰で痛み引いてきたかも─。
「大丈夫、もう大丈夫だよ。…ほら、何ともないよー?ちょっと眠気が来ちゃっただけ~!それじゃ、サキちゃんのこれからのお話…しよっか」
ハルらしく答えながら、俺はこの消された記憶を後でアヤノの力で確認することに決めた。きっと、この記憶は今ユウがミュに変わっちゃっている事と関係あるから─。
それに、廃ゲーマーとして忘れちゃっているスチルがあるのは嫌だしね!