たとえ転生先が鬱ゲーな上に主人公の幼なじみだとしてもTS少女は曇らせがしたい 作:ヒナまつり
純度の高い曇らせに必要なものはなんでしょう!
正解は…っ!幸せと絶望の高低差です!特に一度トラウマを解消させてからまたどん底に落とすと良いらしいよ!
ぜひ皆もやってみてね!
あ…なので、俺は病室でビクビク震えているハーフツインテールちゃんの光になって何時の日にかどろどろに依存させたいと思いますっ!
「おねーさん!おはようございますー!調子はどうですか?」
「な、誰よあんたっ!てか、なんで私は病院にいるのよっ!」
「ひぅ、ハルぅ…ユウは外で待ってるねぇ…」
あ、ユウが逃げた。しょうがないね、人恐怖症だからね。ま、そのお陰で俺は自由です!落としてやるぜ…!
「あ、ふんっ。で、あんたは誰?なんで私は病院にいるのよ」
おぉ、強気だ。でもユウが逃げた時に少しだけ寂しそうにしてたね。つまりは、この態度で人を傷付けるのが自分でも嫌なんだね?なるほどなるほど…曇らせがいのある子だね…!
「ボクはハル!幽霊みたいな悪い化け物を退治する人間です!で、おねーさんが病院にいるのは昨日悪い化け物に襲われて倒れちゃったからです!」
「悪い化け物…っ!あれ、夢じゃなかった…?じゃあ、あの人も…!お礼、言わないと…なのに、なんで震えて…」
夢じゃないと分かった瞬間、彼女は立ち上がろうとした。けれど、生気不足と霊力に当てられた恐怖はまだ身体から抜けきれてないみたいで震えだした。
「わわっ、おねーさん!まだ立っちゃダメですよ!霊力に当てられて生気が失われてるんですからっ!それに、恐怖抜けきってないでしょ?だからちゃんと休まないと、メッです!ほら、ゆっくり座ってください。ボクが側にいますから、もう大丈夫です…ね?」
ハーフツインテールちゃんを止めて落ち着かせるために彼女の肩に触れた瞬間、僅かに何かを奪われる感覚が俺を襲った。
これは…生気を吸われてる?エセリアル…じゃないよね。じゃあ、もしかして何かと人間のハーフ?ま、でもこれは…使える…!特に彼女は助けた時の俺に惚れてるみたいだし…!
よぉし、頑張るか…!
「ちょっ、何よ急に抱きつかないで!離しなさいよっ!」
「ごめんなさい…でも、こうしないといけないんです。おねーさんは今生気っていう元気の元が足りないので、生気を分けてるんです…だから、少しだけこのままで…」
「…っ、暖かい─?なによ、これ…なんでこんなに涙が─」
それ以上は言葉には出さなかったけれど彼女は涙を漏らしながらギュッと俺の服を握った。
雫は、あの日の恐怖を…溜め込んだ全てを漏れ出すように溢れて嗚咽だけが静寂な病室に木霊する。
だから、俺は優しく抱き締めて頭を撫でた。
「全部、全部…悪いのを出しちゃいましょ?ボクは、おねーさんの味方です。だから、大丈夫…」
「なんなのよぉ、あんたぁ…なんで、優しくするのよぉ…」
「ふふっ、強いていえば…ボクがおねーさんを、こうして抱き締めてあげたいって思ったからですかね?ま、理由なんてなんだって良いんです。泣きそうだったから、一人だったから…だから、その手を掴んであげたいっておかしな事ですかね…?」
「なによ、それ…お人好しね…。─でも、ありがと。…ごめん、もう少しだけ、このままでいさせて…」
頬を染めながら、不器用に彼女は言葉を紡ぐ。
生気不足は、生きる希望や楽しみを奪いエセリアルをおびき寄せる。
確かに本来、普通に生きている人にはあれぐらいの噂から作られたばかりの弱いエセリアルが人を襲えないはずだと思っていた。
きっと、彼女は既に限界だったのだろう。混じり者で見た目が良いし色々苦労したんだろうね。
…ふふっ、ほんと都合のいい─っ!やべ、生気渡しすぎて…気持ち悪くなってきたぁ…!
うぅ、もう少しだけ耐えろぉ…!曇らせの為だぞっ!命を奮い立たせろぉ!
「ハルー?あの人、そろそろ落ち着いたかなぁ?入っても平気ぃ?」
コンコンと、扉を叩きながらユウは不安そうに俺の名前を呼んだ。
その瞬間、ハーフツインテールちゃんはパッと俺から離れて朱に染まる顔を布団で隠して静かに呟いた。
「…その、ごめんなさい。初め強く当たっちゃって…それと、この事は誰にも言わないで…お願いよ」
「はい、誰にも言いません。二人だけの秘密ですね?それと…謝るならユウにしてあげてください。ボクはあれぐらいはへっちゃらですけど、ユウは人が苦手で…その、出来ればおねーさんとユウには仲良くなって欲しいので…ボクからもお願いです」
「…そうね。その、ハル?少しだけ、時間をくれる?一人になりたいのよ」
布団で隠れていて、彼女の顔は見えなかった。けれど、その声色で初めての感情に混乱しているのだと思い、俺は外へ出た。
─よし!きっと、あれは落ちたね!んで、このまま仲良くなったところで実は助けた人はボクでした作戦を実行しようっ!
そして─!
「ハル?顔色悪いよぉ、大丈夫ぅ?」
妄想に集中していた俺をユウは心配そうに見ていた。そして、小さな手で俺の手を握るとさらに不安そうに俺を見た。
だから、何時もより元気な笑顔で俺はユウの手を握り返した。
「あ、うん。大丈夫だよ!で…おねーさん、少しだけ一人にして欲しいって言ってたから待と?」
「ハル…むぅ、ユウトイレ行ってくる。戻るまでここに居て!」
えぇ、なんかユウがプンプンなんですけど…?もしかして、今めちゃくちゃ死にかけてる?
それとも、嫉妬?んー、それはまだないと思うけどなぁ…まぁ考えても分かんない事は無視!
取り敢えず、次に考えるべきなのは…あの子が学園に入るべきかだね。
死をほぼ経験したから霊力も少しは生えちゃったみたいだし、混じり者だしで入る条件はほぼ済んでるようなもんなんだよね~。
それに、先生に混じり者だってこと言えば簡単に入れてくれるだろうし。
そもそもこの世界は鬱ゲーで主人公以外バンバン死んでいくんだから守るためにも近くに居て欲しいもんね!
じゃ、誘ってみよー!お、ちょうどユウも戻ってきたみたいだし、ってなんか持ってる?
「お待たせ、ハル…!その…ね?これ、そこで貰ったんだけど元気が出るドリンクだってぇ!ハル、元気無さそうだし飲んでみて~?」
差し出された飲み物は、ラベルも何もない少し赤い水のようなものだった。まるでゲームに出てくるポーションみたいだ。
「えぇ?ボク元気だけどなぁ。ま、分かったよ…うぐっ、何これ血生臭くない?ま、味は美味しいけどさぁ」
「そうなのぉ?ユウは何も感じなかったけどなぁ。じゃ、入ろ?もう、怒ってないんだよね?」
「うん、平気!ボクがお話ししたからね~!それに、ユウに謝りたいって言ってたよ~?だから、緊張しなくて平気平気!」
そう、元気よく笑って俺はユウの手を取って扉を開けた。
その病室は夕焼けに照らされ、窓を眺める彼女を彩り窓から溢れた風が彼女の髪を揺らした。
…白銀、彼女の事をそう表す事しか出来なかった。元々は黒い髪だった筈なのに…。
そして、振り返る彼女から冷たい空気が流れた。
─雪女、彼女に混血しているエセリアルはそれなんだろう。
何故、今その血が活性化したのかは分からない。ただ言えることは今、彼女は暴走しているということ。
─これは、マズい。もし、こんな不安定なことが上にバレたら…彼女は殺される。混じり者に彼らは人権なんてないと思っているから。
折角の曇らせ要因をそんなことで失うわけにはいかないっ!
「ユウっ!ここを区切って!誰にもバレないようにっ!」
「うんっ!ハル、無茶はしないでねぇ?」
ユウは、寂しそうにしながらも急いで札を取り出して病室の扉に貼る。
そして、外へ飛び出して星を描き…パンと手を叩いた。
その瞬間、扉は閉ざされ異様な雰囲気が辺りに漂った。今、ユウがしたのは結界術の一つで神隠しを意図的に起こすもの。
だから、ここで起きたことは外にいる誰にも気が付かれることはない。俺が例え死んでも…ね。
─よっし!つまりは、無茶し放題!曇らせし放題っ!最悪死にかけてもここなら治して貰えるし…!
そんな邪悪な考えを読み取ったのか、彼女から幾つもの氷柱が飛び出した。
直ぐ様、俺は霊力と生気の循環を回し身体能力を引き上げ氷柱を叩き落とす。
でも、砕かれた氷柱は小さなトゲとなり俺を襲おうとする。
─氷は全て操れるのか…っ!砕くのは得策じゃなさそう!
トゲを片腕で防ぎ壁を駆け抜けながら、俺は彼女へ近づこうとする。
「おねーさんっ!声は聞こえる~?聞こえるなら、ボクを信じて目を閉じてて!」
だが、彼女は俺の声に何一つ反応しないどころか新たな氷柱を生み出して貫こうとする。
逃げ道はない、当たったら流石に死ねる…!しょうがないかっ!奥の手の第一段だ…!
霊力を引き上げ、生気へ押し付ける。その時、人は生きるために生気を奮い立たせる。霊力に覆い尽くされないように、死を拒絶するために。
その瞬間の輝きは化け物にとってとても美しいらしい。特に、俺に力を与えている味方のエセリアルにとっては。
だから、命を賭けて足掻く瞬間ソイツは俺に力を宿す。それが、葬儀屋になって得られる唯一の加護だ。
─ま、最終的には裏切るやつの方が多いんだけどね…!こいつだけは別だけど…!
「曰く、月は何時でも人を見ている。曰く、月に愛されし者は未来を見通せると言う。故に、我は月の神の寵愛の元に未来を穿つっ!」
生気が身体に満ち、本来の俺の姿を映し出す。月のように輝く黄金の髪、深海を思い浮かばせる蒼い瞳…それらが彼女を照らし、幾つもの未来を示す。
─うへぇ、頭焼き切れる…っ!相変わらずドSの化け物だな、くそっ!
目に見えたのは、このまま彼女を殺す未来と殺される未来…そして、彼女を正常に戻す未来。
直ぐ様、俺は未来を掴み取るために力を振るおうとする。
しかし、幾つもの氷柱が飛び俺を突き刺し血が溢れ、全てが凍り付かされる。
死─それが虚ろな瞳の彼女に写り敵意が消えた瞬間、霧のように俺の死は消える。
「おねーさん、ボクはここだよ~?残念、月に惑わされたみたいだね?」
彼女の手を掴みながら、俺はそう呟いた。水面に写る月を彼女は本物だと思ったようだ。
「もう、大丈夫!おねーさん…これは、医療行為だから…許してね─」
自分の血を含んで、俺は薄れていく意識の中で雪のように白い彼女に口づけをした─。
怖い、身の毛がよだつような夢を見た。
明確な死を経験するそんな夢で、最後には触れてはいけないと思ってしまうほど綺麗な妖精に包まれて暖かさに溶かされた。
だから、このまま眠ったままでも良いとそう思えた。
どうせ、私の人生に幸せなんてないんだから…夢から覚めたらアイツらにまた虐められて、父親にセクハラ紛いの何かをされるだけなんだから。
あぁ…でも、それは違かったみたい。
あの日病室で目が覚めたどうしようもなく不器用な私を小さなあの子は夢と同じように触れてくれたんだ。
あの夢と同じ月のような綺麗な金髪ではないけれど、あの子の持つ熱は夢よりも私の心の雪を暖かく溶かして拒絶することなんか出来なかった。
だから浮わついた心で少しだけ、すこーしだけ一緒に居ても良いかなって思った。
それにあの夢の中にいた人にも会いたいしと、自分の心に言い訳しながら名前も知らない少女を待っていた。
その時心にあった感情が、どんな感情なのか今の私には分からなかったけれど…ただそうしたいと思ったから─。
でも、夕暮れが私の瞳に写った瞬間…私の意識は冷たい冷たい氷に覆われた。
それから、私はまたあの月と出会った。綺麗に輝いていて儚いそんな月と。
でも、手を伸ばしてもそれには届かなくて代わりに氷が月を貫いた。
どばどば、赤が月を染める。そして、月は輝きを失っていく。
そんなこと、私は望んでいなかったのに…月は堕ちた。
心は更に氷に覆われ、私は目を閉じようとした。でも、手に宿った熱によって私の瞳は開かれた。
そして、朧げな月は私に口づけをし、熱を流し込んだ。
その熱は、私の身体を巡り快楽と共に覆っていた氷を溶かしていく。
もっと、もっとその熱が欲しい…。そう願って、私はその月を見ようとした。
だが、その後ろにある輝きに睨まれて私は現実へ戻された。
…血を流しながら私にもたれる小さなあの子と共に─。