たとえ転生先が鬱ゲーな上に主人公の幼なじみだとしてもTS少女は曇らせがしたい 作:ヒナまつり
「あ~もう!アイツはなんでこんな問題を起こすんだぁ!ユウ、ちゃんと手綱握っといてって言ってたでしょ!?」
陰陽学園…葬儀屋を育成する筈の学園に酒に焼かれた声が響いていた。
その叱責を目の前で食らったユウは目を回しながらもハキハキと無実を主張した。
「うぅ~、クウ先生!ユウは悪くないと思いますっ!ちゃんとユウはハルには無茶しないでって言ったもん!それに、ユウはちゃんと仕事したよ!?」
「じゃあ、なんでアイツは神降ろしを2日で二回してんのさぁ!知ってるよね?神降ろしって一回やったら最低でも半月は禁止されてるんだよ、死なないために!」
バンッ、と机を叩きながらクウは報告書に書かれた神降ろしの回数を指差しユウに詰め寄る。
けれど、ユウは退かずに涙を浮かべながら反論した。
「知ってるよクウ先生ぇ…それにユウだって止めれるなら止めたかったよぉ!でもね、非常事態だったんだよ?ユウが結界張らなかったらあの子殺されちゃって、ハルが神降ろししなかったら止めれなかったんだもん!だからユウもハルも悪くないよぉ」
「ふーん…じゃあ、鍛え直さないとね~?神降ろしなんかに頼ってるからハルは弱いしユウは結界術使いながらも戦えるようにしないとチームの意味ないもんね?ま、今はハル気絶してるからユウから…だね?」
ユウの話は一理あると考えたクウは黒い笑顔を浮かべながらユウに迫る。
その瞬間、ユウは足に生気を集中させ教室から飛び出そうとした。
だが、クウにとってはその速度はナメクジのようなもので直ぐ様ユウの襟を掴んだ。
「ひえっ、ヤダヤダ!ユウはゆっくり強くなるぅ!あんなスパルタ訓練はヤダ!ハル、助けてハルぅ!」
「はいはーい、ハルは今ぐっすりだからね~?助けなんて来ないよ!じゃ、訓練頑張ろぉー?」
「ひぃーん、ユウまだ死にたくなぁい!ハル、ハル~早く起きてー!」
ユウの情けない叫びは学園中に響いたが誰一人反応することなく校内に木霊した。
…ちなみにユウの同級生曰く、次の日の朝に現れたユウは幽鬼のように見えたと言う。
「ごめんなさい、ごめんなさい…私なんかが、手を伸ばしたのが間違いだったの…ごめんなさい」
騒然としている陰陽学園の音を気にもせず、白と黒の髪が混ざった彼女は、暗闇の中で幾つもの管に繋がれた小さな小さな少女の薄れた手を握りながら謝罪を繰り返す。
その瞳には、光なんて映っておらず何処までも続く闇だけが広がっていた。
だが、その背中に凛とした声が掛けられた。
「私なんか、なんて言わない方がいい。ハルは君に生きて欲しくて無茶をした。それに、ハルはこれが通常運転。気にしない方がいい」
それは、聞き手には優しさなんてないような言葉だが…声を掛けた彼女にとっては慰めるための言葉だった。
だけれど、心を痛めている彼女には攻撃に等しかった。
「気にしない方がいい?無理に決まってるでしょっ!私はあの時の記憶が残ってるの!氷柱があの子を貫く感触も、気絶しながらも生気を送り込むあの子の必死さも…全部全部っ!覚えてるのよ!あぁ、ホント…私はあの時に死んでれば良かったのよ!そうしたらこんな思いも、この子を傷つけることもなかったのに…!」
髪を乱しながら雪を象徴する少女は、自らを責め続ける。それこそが正しいと叫びながら。
けれど、凛とした少女は冷静に彼女を見つめ言葉を選びながら声をかけ続けた。
「…それは、違う。死んでいい人なんていない。それにハルが傷ついているのは、ハルが直ぐに君を助けたいと望んだから。そして、君の心が痛いのはそんなハルの頑張りを君が罪と感じているから、だよ」
「死んでいい人なんていない…?そんなことないわよ!それにね、私がしたことは罪なの!あの子が頑張る理由を私が作ったんだもの…!」
だが、錯乱し続ける少女は掛けられる言葉を全て拒否していく。
もう言葉は届かない。そう理解した少女は自らの力を解放しながら彼女へ近づく。
「しょうがない。先生に頼まれたし…君に、ハルがなんであんな行動をしたのか、君に何故罪がないのか…見せて上げる」
パラパラと、少女から本を捲るような音が響く。
そして、幾つもの文字が浮かび…再び氷に覆われそうな彼女へ吸い込まれていく。
やがて、幾つもの文字が彼女へ満たされた時物語へと変わった。
それは、黄昏時という妖怪に由来する混じり者が活性化する時間についての説明と…ハルについての物語だ。
ちなみにその物語は本の少女が知っている…ハルの、誰よりも優しい所と死と誰かを傷つけることを誰よりも恐れていることが中心に記されてる。
それ故に、雪の少女は自らの暴走がどうしようもなく起きてしまったこと、つまりは今回のことは防ぎようのない事故だということ。
そして、ハルがその対処の為に傷ついたのはハル自らが君を早く助けたいし、傷つけたくもないという我が儘で…速戦即決を選んだからだということを脳裏に刻まれた。
実際、暴走していることを理解した瞬間にハルがユウと共に外へ出て神隠しを起こし先生や本の少女を待てば誰も傷つかずに終わったことなのだ。
だから、雪の少女に罪なんかない。どちらかというとハルが悪い。女たらしだし。
「ねぇ、なんか途中で変な言葉が流れたんだけど?」
「事実。ハルは女たらし…君ももう落とされかけてるし」
ジトッとハルの顔を見つめながら、本の少女は肯定した。雪の少女はそれに吹っ切れたように笑い、心に小さな灯火を点けて本の少女へ問う。
「確かに…。私さ、今さっきまでジーンって来てたんだけど引っ込んだよ。ま、でも…ありがと。あ、そうだ。自己紹介…してないわね。私、マシロ。それで、黄昏時なんだけど…訓練したりすれば暴走しないように出来るの?」
「私は、アヤノ。それと、出来る。私も混じり者だけど、もう平気だから」
アヤノとマシロは、ハルが起きるまでその場で話し合った。
もう、その場には闇なんてなく小さな星々の輝きだけが満ちていた。
だから、ハルを見守っていた月はハルの精神に静かに沈んだ。もう、ハルを傷つけるような危機は無くなったと思ったがゆえに。
「ハル、起きなさい。ここなら生気が無くても起きれるでしょ」
冷たくも聞き慣れた声が脳内に響く。普通じゃない会話の仕方、それだけで俺は今魂だけで神の寝室に呼ばれたことを理解した。
─あぁくそっ、またか…相変わらず人間大好きだなこの神…!
「はいはい、起きてるよ。んで、何の用件?俺は早く起きたいんだけど?」
「相変わらず、貴方は敬意がないのね」
「そうしろってあんたが言ったんだろ。嘘も通じないしな。で用件を早く教えろ、人間の寿命はあんたが思ってるより短いんだ。特に俺はな」
「はいはい、分かってるわ。用件は一つ、貴方の身体がまた一歩死に近づいたってこと。相変わらずだけれど無茶しすぎよ」
冷淡に、だが愛情を持って神は現実を教えてくる。だが、そんなことはとっくに覚悟している。
それに、この世界には寿命を伸ばすズルがあるのだ。
例え病弱でも出来る…複雑だけど俺にとっては簡単なことでね。
そう、それは魂の欲望の解消。普通の人には分からない自らの心の底に隠された欲望のね。
ま、俺は曇らせだって知っているのでぇ?イージーということなのです!へへっ、寿命を増やすために命を削るぜ!ま、これは純粋な人間にしか出来ないんですけど!
「だから、貴方の身体に少しだけ神格を与えたわ。喜びなさい、寵愛よ。…これで長生きできるわね」
当たり前のように神は呟いた。そこには罪の意識も無くただ嬉しそうにしていた。
「…はっ!?待て、待て待て待て!嘘だよな?おい、ツクヨミ?嘘だって言えって!」
神格…!?止めてね、厄ネタだからそれ!つよつよエセリアルに狙われるだけだからそれぇ!それに寿命も増やせないし!
いやまぁ、神格を持ったから寿命は増えるけどね!くそがっ!
「何よ、不満なの?私の寵愛が」
ベッドに寝っ転がっていた神は起き上がり、不満そうに俺を見つめた。
その瞬間、溺れるような恐怖と冷たさが俺を襲った…。それは、初めて味わった前世の死のようで俺はただ震えることしか出来なかった。
─寒い、寒い寒いッ!嫌だ、死にたくない…!誰か、助けて…!
そんな、俺の叫びを神は読み取り優しく俺を包んだ。とても、とても嬉しそうに。
「あら、可哀想。大丈夫、私が貴方を守って上げるわ。私だけが…ね?だから、受け入れてくれるわよね?私の寵愛を」
拒否することを許さないと暗に伝えるように神は俺を見続ける。
だから、俺は首を振ることしか出来なかった。…流石、エセリアル…本当に勝手だ。
「あら、なにか言いたいことがあるのかしら?」
「なにも。神様の寵愛嬉しいなぁって思っただけ~」
「そう、それなら良かったわ。なら神格は死に近づく度に上げるわね?嬉しいんだものね」
「止めてね。ア、イエ…トテモ、ウレシイデス」
「ふふっ、そうよね。貴方は私のことが大好きだもの…嬉しくないわけないわよね。えぇ、それじゃあ用件は以上よ。お休みなさい」
無邪気に神は彫刻のように笑い、俺に口づけをした。
その瞬間、意識は急に遠ざかり目の前は真っ暗になった。
きっと、そろそろ目が覚めるのだろう。─次からは神降ろしは止めとこう。うん、やっぱりエセリアルは全員敵っ─!