たとえ転生先が鬱ゲーな上に主人公の幼なじみだとしてもTS少女は曇らせがしたい   作:ヒナまつり

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消えない傷跡、変われない私

 

 暗い病室の中で月夜に照らされる、薄く透けている金色の髪を眺める。

 

 クウ先生が言うには今のハルは、誰かが観測していないと消えてしまうらしい。

 

 それ程までに、ハルは傷つきながらも皆を守るために戦ってたのに…ユウは恐怖に負けて見ていただけだった。

 

 無茶をしちゃうハルを守るために、辛いのは嫌だけど我慢して強くなろうとしたのに…。

 

 なのに、ユウは変わらなかった。あの日と同じだ…ユウのせいで大切な人達が傷ついて、死んじゃったあの日と─。

 

 後悔が、無力感がユウを覆い…遠い遠い忘れたくても忘れられない波の音を引き寄せた。

 

 その日は、ユウとハル。そして、ユウ達のお父さんお母さんと一緒に海に遊びに行ったんだ。

 

 海の何処までも続く水平線を太陽が彩って、ハルの真っ白な髪と無邪気な笑顔を淡い赤で輝かせていた。

 

 ユウは、思わずその光景に見惚れて足を止めた。きっと、今も生気が足りずに苦しい筈なのに…本当にハルは楽しそうだったから。

 

 だからザーザー、海が動いてユウを濡らしても…憧れのユウを眺め続けていた。

 

 意識を取り戻したのは、心配そうにユウを覗き込んだハルの冷たい手がユウの身体を揺さぶった時だった。 

 

 『ユウ、どうしたの…?あ、熱中症!?お母さ─あれ、違うの?ま、元気ならいいや!ほら、あっちで遊ぼ!』

 

 息を吹いたら消えてしまいそうなか弱い力が輝きながらユウを連れていく。

 

 その側にいられたら、ユウもそんな風に輝けるのかな…。

 

 嫉妬と憧れが混じった感情がユウの中で木霊した。それが不幸の始まりだった。

 

 黄昏時、そして媒介となるユウの、幼子の醜い感情。それがここに眠る沢山の餓鬼を呼び起こしたんだ。

 

 化け物は、羨ましそうに…妬ましそうにユウを眺める。そして、奇妙な声で叫んだ。

 

 ユウはその時、恐怖に呑まれてパタリと砂浜に座り込んだ。なのに、ハルは怖がりながらもユウを守るために立ちはだかったんだ。

 

 ユウよりも、弱いのに。あんな鋭い爪で貫かれたらきっと死んじゃうのに…それなのにユウのためにと震える足で。

 

 カッコ良かった、でもそれと同時に羨ましかったんだ。

 

 ユウよりも、勉強も運動も出来ない癖に…誰よりも勇敢で自由なハルが。

 

 だから、ユウを襲おうとハルを餓鬼がなぎ払い血が砂浜に舞ったとき…ユウの心に少しの安堵が生まれた。

 

 やっぱり、ハルは勇敢なだけで実際は何も出来ないんだって思えたから。─自分と違うようで同じなんだって思えたから。

 

 そして、そんな醜い感情を…自分の本性をこの時、ユウは初めて自覚した。 

 

 だって、ハルはユウの為に立ち上がって…ユウのせいで傷ついているのに心の隅で何処か嬉しいと感じてしまったんだから。

 

 ─最低だ、ユウは酷い子なんだ…。だから、ハルみたいにはなれないの。きっと、ハルはこんな風に嫉妬なんてしないもん。

 

 恐怖と自己嫌悪が入り交じってユウは餓鬼の振り上げた鋭い爪を眺めることしか出来なかった。

 

 きっと、その時ユウは死んでもいいやってそう思ってた。

 

 でも、残念だけど間一髪でお母さん達がユウとハルを守ってくれたんだ。

 

 『ふぅ、ハルちゃん…ありがとうね?ユウのこと守ってくれて。…ふぅ。ユウ、ハルちゃんを連れて車へ戻れる?お母さん達はこのわるーい化け物を退治してから行くから!それに、車には頼りになるおねーさんが来るから安心してね?』

 

 優しく、お母さんはユウへ笑い掛けた。その時には、スッと恐怖もユウの醜い感情も失くなってユウはお母さんの言う通りに動こうとした。

 

 ─でも、恐怖に一度負けた身体は言う通りに動かなくて…ただまだ倒れてるハルの側に寄ることしか出来なかった。

 

 お母さんも、お父さんも皆…ユウにそうしてって期待する目で見ているのに─。

 

 ただ、どんどん増えてく餓鬼に頑張って対処するお母さん達を眺めるしか出来なかったんだ。

 

 どうして…どうして─!?なんで、ユウは肝心な時に動けないの!?皆のことが大切なのに、死んじゃったら嫌なのに!なんで…!

 

 そうやって涙を溢れさせ波に揺られ心の中でどれだけ叫んでも答えなんか出なかった。

 

 ただ、状況が悪化していくのをユウは無力に、悪い夢を見ているかののようにボーッと座り込むことしか出来なかったんだ。

 

 でも、意識を取り戻したハルは血が溢れて死んじゃいそうなのにお母さん達の頼みをユウの代わりにやってくれたの。

 

 ポタポタ、血が垂れても…淡い息を繰り返しながらユウを引っ張ってハルはユウを安心させる為に必死に平気そうにしながら歩く。

 

 血痕が砂浜を汚し、忌々しく輝く太陽がユウ達を照らしても…ゆっくりゆっくり車へ向かう。

 

 けれど、ハルはもう限界で地面に崩れそうになった。

 

 その時、クウ先生は現れたんだ。そして優しくユウとハルを包んでお母さん達に振り返り叫んだ。

 

 『ヒビキ先輩ユウのお母さん!直ぐにこの子達を車へ送ったら援護に戻ります!少しだけ耐えててください!』

 

 『はーい、ユウ達を…任せたよぉ!』

 

 その時、初めて苦しそうにしているハルを見た。きっと、ハルは分かっていたんだ…お母さん達が無茶をして死にかけてるって。

 

 だって、そうじゃなきゃ…何時も笑ってるハルが苦しそうに自分の不甲斐なさに歯を食い縛ったりなんてしないから。

 

 でも、ユウは全然そんなこと分からなくてクウ先生に車へ入れられ、直ぐに焦って踵を返すクウ先生の顔を見てやっと理解したんだ。

 

 お母さん達が死んじゃうってことを…。そして、ハルもゆっくりと熱を失っていったの─。 

 

 ユウはどうすればいいのか何も分からなくて、ただ必死に死んじゃやだって叫びながらハルの手を握ることしか出来なかった。

 

 そう、今みたいに。

 

 死んで欲しくて、でも死んで欲しくはなくてずっと一緒に居たいのにきっと何処かへ飛んでいっちゃう月を放したくなかったから。

 

 感情という海に溺れながらも息を吸うためにその熱を握りしめていたんだ。

 

 そして、結末はユウという一人の少女の感情によって引き起こされたエセリアルによってユウとハルのお母さんお父さん達が死にクウ先生だけが生き残るという形になった。

 

 今回は、誰も死にはしなかった。でも、ハルは相変わらず傷ついて…ユウは相変わらずその光を眺めてることしか出来なかった。

 

 ─じゃあ、次は?…きっとハルはまた無茶をするでしょうね。でも、貴方はまた眺めてるだけなの?今度こそハルが死んじゃうかもしれないのに。

 

 頭の中で、鈴のような美しい声が響いた。それに、ユウは虚勢で答えた。

 

 「今度は、今度こそはユウが頑張るの!ハルが死んじゃわないように!」

 

 ─本当に?頑張れるのかしら。どうせまた、恐怖に呑まれて膝をつくだけでしょうに。

 

 呆れたようにその声はユウを責める。でも、多分それは本当のことでユウは自分に言い聞かせる為にまた声を振るわせた。

 

 「ち、違う!もう、こんな惨めなのは嫌だ…見ているだけは嫌なんだもん…!だから、怖くても立ち上がるんだ…うん、絶対に!」

 

 ─相変わらず、言葉だけなのね?貴方は…そして自分勝手。だから、失うのよ。ほら、見てみなさい…貴女が目を離したせいでハルが消えかけてるわよ?

 

 冷たく、あしらうように声は舞って眠っているハルの元へ行く。

 

 そして、そこに視線を合わせた時にハルがもっと薄くなっていることに気がついた。

 

 今の一瞬、ユウは自分の事に必死でハルのことを忘れていたんだ。

 

 大切で堪らない筈のハルをユウ自身が死なせるところだったんだ。

 

 それに気がついた瞬間に、ユウは自分を信じれなくなった。

 

 だから、更に海に溺れて息すら吸えなくなった。でも、意識を手放すことはハルを殺すことになるから苦しくても必死に意識を保つために足掻いた。

 

 けれど、踠けば踠くほど段々閉じていく瞼に抗えなくなる。

 

 そして、目の前がハルの光すら見えなくなる瞬間に美しい歌声と呆れるような声が言った。

 

 ─見てられないわ。少しだけ変わってあげる。だから貴方は一回この海に溺れてみなさい。そして、その中にある答えを見つけるのよ。そこにしか、貴方にしかその答えは見つからないのだから…。

 

 最後、暗闇の中のユウに見えたのはあの日の忌々しい夕焼けと海…そして、その側で歌を歌い続けるユウに似た何かだった。

 

 でも、不思議と心に浮かぶのは安堵で抵抗することなくユウは深く深く記憶と感情の海に沈んでいった─。

 

 

 


 

 「…寒い、ボクはまだ─?」

 

 酷い痛みと孤独の寒さにやっと俺は目が覚めた。─どれぐらい眠っていたんだろう?

 

 そんな些細な疑問は、俺の側で夕焼けに染められながら俺の顔を眺めている彼女によって吹き飛ばされた。

 

 …ユウ、の筈だ。だって背丈も制服もユウものだし。でも、髪色も目の色も違う。

 

 一体、何が?

 

 そう問おうとした俺の口に、それは唇を落とした。

 

 そして、無理矢理舌を俺の口へ押し込みユウの舌から出ている血を流し込んだ。

 

 血生臭さと快感が俺を襲う。だが咄嗟の出来事で俺は、ユウの身体に宿った熱に溶かされることしか出来なかった。

 

 やがて、ゆっくりとそれは俺の側から離れて妖艶な笑みで呆けている俺を眺めてこう言ったのだ。

 

 「やっと、会えたわね。醜い醜い…私の月?」

 

 その瞬間、俺の瞳に海とヒレが映った。だから、俺は小さな小さな震える声でその名前を呼んだ。

 

 「…ミゥ?」

 

 それは、原作で複数あるBadEndの一つ…ユウが自らの血に呑まれた時に現れる災厄の筈なのだから─。

 

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