たとえ転生先が鬱ゲーな上に主人公の幼なじみだとしてもTS少女は曇らせがしたい   作:ヒナまつり

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ep.1 幼き少女の人形 上

 

 ただの民家、その前に俺達は立った。

 

 「よし!おねーさん、ミュ!ここが現場だよ~!今回のは、まだ簡単にすむ筈だから頑張ろー!」

 

 俺はマシロの緊張を解すために何時もよりも元気よく振る舞った。

 

 変に緊張していると、土壇場でミスをする可能性があるからね!まぁ、そのせいで地味に息が苦しいんだけどね…!

 

 「はぁ。ハル、そんなことより自分の身体を労りなさい」

 

 「そうよ!わ、私は別に平気だし?…だからさ、自分のことを大切にしてよ」

 

 でも、二人には俺の空元気が丸分かりだったみたいだ。くそぅ、演技力が下がってるぅ…!しょうがない、生気は回復しても疲労は残ってるんだもん。そのせいで病弱さが引きだってるんだよ!

 

 「えぇー!?別に、ボクは平気だけどなー?それより、ほらさっさと事件を解決しちゃおう!おねーさん、やり方は覚えてる?」

 

 どうにか話を逸らそうと、俺は本題に入った。すると、おねーさんは渋々、だけど自信満々にドヤ顔で答えた。

 

 「えぇ!完璧に覚えてるわよ?先ずは被害が拡大しないために、結界の為のお札を貼るのよね!」

 

 「うん、大正解~!これをしないと被害が拡大しちゃうから、さっさと貼っちゃうよ!」

 

 「えぇ。これでいいのよね?」

 

 おねーさんはそう言いながら、民家とその塀を囲うように四点にお札を張った。その瞬間、一瞬すべてのお札が光り結界が貼られた。 

 

 「正解~!おねーさん、才能あるよ!ユウが初めの時はちゃんと囲うように置けてなくて結界が不安定だったんだよ?」

 

 「へぇ、ユウ結界術は得意って言ってたけど…」

 

  「まぁ、その後しっかり練習したからね?今は上手だよ!ねぇ、ミュ?」

 

 「えぇ、ハルが一向に結界術を上手くならないからユウは必死に練習したのよ」

 

 淡々とミュは俺の弱点をバラした!…うぅ、おねーさんに格好いい所を見せてもっと依存してもらおう作戦がぁ─!

 

 「あぁー!?それ、絶対に言わなくても良かったよね!おねーさん、今はボクもしっかり貼れるからね!?頼れる先輩だからね~!?」

 

 「ふふっ、大丈夫よ。ちゃんと頼ってるもの。だから安心して、その…ハル先輩?」

 

 慰めるように、おねーさんは真っ白な肌を朱に染めながらも先輩呼びをしてくれた。

 

 ─可愛い…っは!危ない、惚れてしまう所だった…!落ち着け、落ち着け…俺!

 

 例え、これまで残念甘々幼なじみと酒大好きお姉ちゃん、デレデレ不思議ちゃんしか女の子と接してなかったからってチョロすぎるよ!曇らせの為に、耐えるんだぁ…!

 

 そんな俺の葛藤を他所におねーさんの緊張は解けていたみたいで不思議そうに俺を見ていた。

  

 だから、誤魔化すためにコホンと声を挙げ、俺達は結界の中に入った。

 

 ちなみにユウの時とは違って囲うようにちゃんと貼られたお札は、術士が生気を送らなくても元々貯めてある生気によって稼働するから安心安全!やったね!

 

 「ねぇ、ハル?そういえば、今回のエセリアルがどんなのか教えてもらってないんだけど…」

 

 「あぁ、確かに!そうだね…じゃあ次の手順に進むと同時に教える~!じゃ、ここにアヤノお手製の本を置くよ~?」

 

 そう言って俺は開いた本を現場である家に押し当てた。その瞬間、この土地に起きた悲劇の物語が本に綴られていった─。

 

 


 

 「はぁ、なんでメシまだ作ってないの?俺、この時間に帰るって言っただろ!?」

 

 パリン、お皿がまた割れた。でも気にせずお父さんは何時も通りお母さんに拳を振るう。

 

 「…ごめんなさい、ごめんなさい!あの子のお世話で時間が足りなかったの!あの子のせいよっ!」

 

 「あぁ?なんだ、また母さんに迷惑かけたのか?そのせいで父さんにも迷惑をかけるとか、生まなきゃ良かったなぁ?このグズっ!アイツはあんなにも良い子だったのに、さぁ!」

 

 お母さんは、痛みに叫びながら怖い目で私に指を指す。するとお父さんはお母さんを殴るのを止めて私に拳を振るう。

 

 ─痛い…。何時もやられてるのに、この痛みは慣れなくて泣きそうになる。でも、泣くと更に殴られるから私はウサギの人形のキューちゃんを握って耐え続けた。

 

 痛くても、苦しくても耐えれば終わることが分かってたから。これさえ終われば、きっとまた弟が死んじゃう前の幸せな家族に戻れるって思ってたから。

 

 でも、その日のお父さんは機嫌が悪かったみたいで耐えても耐えても殴るのを止めなかった。

 

 血がポタポタ垂れても、声が漏れないようにキューちゃんを抱き締めても…まだ怒ってたの。

 

 その真っ赤に染まったお父さんの目を見た時、私は今日死ぬんだってそう思った。でも、それでも良いかなって思えたんだ。痛くて苦しいのがやっと終わるんだから。

 

 だけど、お父さんはそんな簡単には楽にしてくれなかった。

 

 「これ、アイツがお前にあげたやつだろ。お前がアイツを殺したのになんでまだ大切にしてんだよ!あぁ!?」

 

 私が殺しちゃった最後の弟との思い出、絶対に放したくないそれをお父さんは私から奪おうとした。それだけは、それだけは許せなかった。

 

 「…っ!やめて、やめてよ…お父さんっ!」

 

 だから、必死にお父さんに抱きついて抵抗した。でも、お父さんの力は私なんかじゃ止められる筈なくてお父さんはキューちゃんを私から奪って力ずくで引き裂こうとしたんだ。

 

 私はただ、その光景を眺めることしか出来なかった。大切なものなのに、命よりも何よりも大切なものなのに。

 

 また、守れなかった…。

 

 『大丈夫、お姉ちゃん!僕が守るから!』

 

 突然、頭の中に聞き覚えのある声が響いた。それは、大切で大好きだった…もう死んでしまった弟、マモルの声だった。

 

 でも、お父さんにもお母さんにもその声は聞こえてないみたいでそのままキューちゃんを壊そうとした。

 

 けれど、その瞬間お父さんの手はグチャってトマトみたいに潰れたんだ。

 

 「…はっ?おい、おいおい…なんだよ、なんだよっ!?いてぇ、俺の手、俺の手がぁ!?」

 

 怖くて、堪らなかったお父さんはぐずぐずと泣きじゃくってマモルみたいになった。

 

 お母さんも釣られたのか一緒に泣き出して私を指差しながら変なことを言ったの。

 

 「化け物ぉ!化け物よぉ!誰か、誰か助けてぇ!」

 

 でも、そのつんざめく不愉快な声は長くは続かなかった。空から垂れてきた糸に繋がれたから。

 

 それで、お母さんは昔のお母さんに戻ってくれたの。私のことが好きで、マモルのことも好きで優しいお母さんに。

 

 「なんだよ、何なんだよぉ!おい、ミサキ!どうしたんだよっ!」

 

 でも、お父さんはまだ戻ってくれてなくてお母さんにすがりついたんだ。だけど、それも長くは続かなかったの。

 

 お母さんの時みたいに、糸がお父さんを元に戻してくれたんだ。…いや、マモルが戻してくれたの!

 

 だから、私たちは幸せに暮らすんだ!キューちゃんとマモルとお父さん、お母さん…五人で!

 

 ケラケラ、糸に操られた人形が笑う。それを囲うように、人たちが偽りの笑顔を浮かべていた…。

 

 


 

 綴られた小説は救いようのないものだった。児童虐待にDV…人間の悪いところが溢れていた。だからか、おねーさんは顔を真っ青に染め絶句していた。

 

 「なによ、これ」

 

 「うーん、この感じ人形にこの少女の怨念やら何やらが貯まってエセリアルに変化した感じかな~。それに、糸…操り人形か~。おねーさん、これがエセリアルだよ。私たちがこれから戦う人を傷つける化け物。まぁ、今回のは人間が悪いけどね~。…はぁ、ちゃんと助けてあげよう。この少女だけでも」

 

 こういうのを見ると何時も思ってしまう。エセリアルが悪だと葬儀屋は言うけれど、人間の方が悪なんじゃないかって。

 

 だけど、エセリアルが介入したせいで人は死んだ。だから、葬儀屋としてエセリアルを退治しないといけない。例え、それがこの少女を助けるためにやったとしても。

 

 「…ふん。そもそも、エセリアルは人間の欲によって生まれたの。人魚も、この人形も。だからね、ハル。人間なんて、こんなものよ。貴方が望むようなものじゃないの」

 

 冷たい目で、ミュは人間を蔑む。それは、BadEndのルートで見たユウの大切な人を殺す時に似ていて、俺は…心に残った人達を思い浮かべながら人についてミュに教えた。

 

 「確かに、人は醜いよ。自分勝手だもん。ボクだってそうだし。でも、それで諦めないから、変わっていくから美しいんだ。絶望に倒れても、死にたいって思っても…たった一つの希望っていう星に手を伸ばせる儚い生き物だから…だから、ボクを信じてよ…人間のこと、好きにして見せるから!」

 

 とっておきの笑顔でミュに俺の本心を伝える。嘘なんか一つもない、本心を。

 

 だからか、ミュは目を伏せ口を閉じた。ただ結末を見守ると言っているように。

 

 おねーさんも、やっと気持ち悪さが治ったみたいで立ち上がって俺を見つめた。

 

 「…ねぇ、ハル。私も、人が嫌い。だけど、ハルは…綺麗だった。私も、そうなりたいって思うぐらいには…だから、この子も助けよう。私みたいに、少しだけでも…こんな偽りの夢じゃなくて、希望を見れるかもしれないから」

 

 …その言葉で少しだけ、おねーさんのことが分かった気がした。だから、おねーさんの手を俺は取って家の中へ足を進めた─。

 

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