雄英卒で相澤・マイクらと同期である彼は3年B組の担任として生徒たちと心を通わせていく……はずだ!
※教職員以外はほぼオリキャラで進んでいくと思います。1話作りましたが今後のことは何も考えてないです。唐突に終わるかもしれない。
同期がいなくなった。インターン中の事故だったそうだ。
それ以上は聞いていないし、聞く気もない。合同授業のときには珍しく欠席している者もいるのがわかった。
(ヒーローを目指すってのはこういうことなんだ──)
教室の後ろの席で
その日は嫌になるくらいの雨だった。
桜並木に歓迎されて坂道を上がると不自然に大きくて確かに憧れていた校舎が見えてきた。校門をくぐって中に入ると目当ての場所への道を真っ直ぐに進む。ドアを開けて自分の机を見ると上に段ボールが置かれていた。自分のものではない、中を見なくとも横にいる友人のものであることはわかった。既に置き場所がないその机に無理やり載せておく。
最終決戦から4年。プロヒーロー以外の職業も人気を高めていた頃。ヒーローから転職する者、後進育成から退く者も少なくなかった。雄英高校もその波を受けており、何人かのヒーローが教職を辞している。
そうしてその穴埋めのためにかつて雄英で教えを受けた者たちに校長から声がかかったわけだ。
機会に恵まれず新品同然だった紺色のスーツに赤色のネクタイをして壇上への道を歩む。アップバングにかき上げられた薄い金色の髪にそれはよく映えた。
「それでは本日付けで着任となった先生たちを紹介するのさ」
根津校長の挨拶の元、たくさんの生徒を前にした。ヒーローのときとは違う視線に緊張が収まらない。最も、横の新米は自分以上に緊張していたが。
「イオ・スパーダ先生、担当教科は地歴さ」
ゆっくりと礼をし、再び前を見た。生徒たちのキラキラした目が眩しい。昔ほどではなくなったと言えど、ヒーロー人気は依然として衰えていない。目を輝かせるのも当然……第一、いつの時代もこの学校に来るのはそういう人ばかりだ。
ヒーロービルボードチャートJP 昨年度下半期53位。彼もまた十分に名の知れたヒーローと言える。そうこうしているうちに着任式の定番、先生から一言の時間となった。
「えー、ただ今ご紹介に預りました。プロヒーローのイオ・スパーダです。皆さんとは主に歴史の授業でお会いすると思います。まあこれからよろしくお願いします」
一晩考えたけれど当たり障りのないセリフしか思いつかなかった。変わらず長めの校長の話をいい感じに聞き流していたらすぐに着任式は終わり、職員室に戻る道で同級生兼同僚に話しかけられた。
「ほ~ら~い、お前なんでそんな落ち着いてられるんだよ」
「別に落ち着いてはいない。あんな大勢の前で話す機会そうそうないからな」
高校からの付き合いでかれこれ20年近くの友人になるプロヒーロー“ボルサリオン”。スパーダと同じく雄英高校の卒業生で今回、教師として招かれていた。今日の着任式では緊張しすぎで何も話せていなかったが。
「それより勉強教えれるのか?」
「あんま舐めんなよ、忘れたのか?俺は学級1位を3年間守り続けてたんだぞ」
「理科だけな」
昔から小柄なことを気にしており、視界の端で灰色の髪に走った黄色のメッシュが動いている。
事前に聞いた話によるとスパーダは3年生の担任、ボルサリオンは生活指導になるらしい。なんでも教師が事故に巻き込まれてすぐには復帰できないのだとか。
用意された自分の机に戻るとペンを片手に学級名簿を手に取る。面白そうなのがいっぱいいるな──と思う前に後ろから邪魔が入った。
「よう!久しぶりだな。卒業以来か?」
「そんなわけ……あるかもな」
クラスが違ったので特別親しかったわけでもないが、随分と声の大きいやつとしてスパーダの脳裏には刻まれている。振り返らずともわかる相手は、プレゼント・マイクはヒーローに教師にDJにと三足の草鞋を器用に履いている人間だ。当然、メディアへの露出も多くどこかで会った気になっていても不思議ではない。互いに互いの活躍は認識していても実際に会うのは久しぶりとか初めてとか意外とよくある話なのだ。
「で、何の用だ?ボルサリオンならいないぞ」
昼飯買ってくるだの何だのと職員室へは戻らずどこかへ行ってしまった。似た者同士で思い出話でもしに来たのなら出直してほしい。
「連れねぇなあ。お前、B組の担任になるんだろ?1年間ヨロシクな」
「うーわ、マジかよ。そういや横の担任は聞いてなかったな……」
ニカッと笑うマイクから目を逸らし、再び「マジかよ……」と零す。相性が悪いわけではない(そもそも関わりがなかった)がいつもとは別ベクトルのハイテンションに着いていける自信はあまりない。
「そんな顔すんなよ~。仲良くやろうぜ」
「はいはい。頑張るよ。
翌日、3‐Bと書かれた教室に入る。ドアを開けた瞬間にクラス中からの視線が刺さる。進路を決めなければいけないこの年に、新任ではじめましてでしかも代理でどこの馬の骨とも知れないヤツに人生を預けるなどできない。その気持ちがビシビシと伝わってきた。教壇を前にしてひと呼吸おく。
「説明があったと思うが1年間代理で担任を務めさせてもらう、スパーダだ。色々と思うところはあるだろうが後悔はさせないつもりだ」
一晩考えたがやはりまともなセリフは思いつかなかった。与えられた役割を果たすのが最低限の義務だとは思っていたので口にしてみたが反応はイマイチだ。そのときすっと手が挙がった。
「出席番号15番の
茶髪でどこか明るい印象を受ける生徒が発言をした。教室中が彼のことを見ている。スパーダの困惑した表情を見抜いたのか立て続けに声を発した。
「ほら、1年間一緒にやっていくんですから少しはお互いのこと知っておかないとですよ」
「あ、ああ。そうだな。趣味は博物館巡りだ。県や地域ごとに違いがあって展示以外も面白いぞ」
もっともらしい理由に頷くも当の夏目は口元以外は笑っていない。警戒されていることが目に見えてスパーダへと伝わってきた。
(仮にも雄英卒のプロなんだが……ま、心配なのは教師としてだよな)
それから4月の間は生徒たちと積極的に交流をし、何とか名前と個性と性格を一致させることに成功した。
桜も散り、正門までを緑が出迎えてくれるようになった。
ハイツアライアンス教職員棟の1階では同期たちが思い出話に花を咲かせている。
「いたいた!あいつ今何してんの?ヒーロー辞めたって聞いたけど」
「俺も知らねぇな。最近会ってなかったし。相澤、知ってるか?」
「知らん。そんなやつがいた記憶もない」
……咲いていない。元A組が1人、相澤が全ての花を枯らしていた。今日の仕事を終え、みんな私服へと着替えている。簡単な片付けをしてスパーダが向かったときにはもう3人が来ていた。
「おっ、B組も揃ったな。どうよお2人さん、この生活慣れた?」
「まっっっっったく!自由な校風がすぎるだろ!」
生活指導担当になったボルサリオン……
「サポート科は爆発起こすし1年は普通科とヒーロー科が喧嘩するし。経営科のやつらが可愛く見えてくるよ」
「ああ、あの喧嘩ってまだあるのか。あればっかりはどうしようもないよな」
自分たちの時代も入学当初はヒーロー科落ち普通科からやっかみや嫉妬を向けられていた。仕方ないと言えば仕方ないのだが、はた迷惑なことだけは間違いない。
「編入狙いのやつもいるからな。敵情視察のつもりだろ」
「体育祭は蹴落とすための最初のチャンスだもんな」
開催を来月に控えた雄英体育祭。オリンピックに代わって国民の一大行事となり、カメラや学外のプロヒーローたちが大勢やって来る。ヒーロー科向きのイベントでヒーロー科を出し抜くことは学校内外へのアピールになるのだ。
「そういうこった。じゃ、俺は戻るぞ」
「うぃ~おやすみ~」
相澤は立って歩きはじめてから挨拶を言い、後ろも振り向かないまま去っていった。
「宝来サンはどうよ、3年B組は」
「なかなかクセの強いやつばっかだ、それにまだ警戒されてるみたいだし」
赴任初日のホームルームを思い出せるのはあの冷たい目だけ。1ヶ月で少しは信用してくれるかと思ったが根本ではまだそうはいかないようだ。
「こんなのでも雄英出たプロなのにな」
「お前の方が“こんなの”って顔してるだろ」
当時と変わらないコントは健在である。腐っても鯛とはこいつのためにある言葉かと思うほどだ。
「夏目か?アイツはそーゆーヤツだ。俺も最初はそうだったからな」
「1年で仲良くなれる気はしないな」
卒業まで10ヶ月、どれだけ絆を深められるだろうか。ずっと担任だったかのように接してくれる生徒もいる一方で、代理を素直に受け入れられない生徒もいる。ここからが腕の見せ所というやつだ。
「あ、荷解きしないと。悪い、また明日な」
「まだ終わってなかったのかよ」
雷堂は顔の前で両手を合わせてごめん、と言うと自室に戻っていった。
「頼んだ、宝来!」
「あっ、おい!?」
宝来の腕をガッチリと掴んで。山田の顔も今ばかりは煽ってるようで腹が立った。
そのまま引っ張られて雷堂の部屋まで来てしまう。中に入ると机や棚の周りはほぼ段ボールで埋められていた。一応ベッドまでの道は確保されているが決して住みやすいとは言えなさそうな環境だ。
「頼む!どれだけ開けても減らないんだよ」
「開けてるだけだろ。これもこれも、それもだ」
段ボールから出して棚にしまうという意思はないのか。半分以上は開封済みであり、真に未開封のものだけなら大した数はなさそうだ。職員室でもこんな感じで雷堂は段ボールの中に物を出し入れしている。
「そこをなんとか!」
「いーやーだ。自力で頑張れ」
片付けくらい1人でできないと本人のためにならない。この歳にもなって片付けができないはかなり致命的な気もするが……
うなだれる雷堂の部屋を足早に離れ、上の階にある自分の部屋へと戻る。段ボールハウスとは打って変わって整頓された部屋だった。本棚には歴史書や偉人伝、博物館のパンフレットが並んでいる。その中で少し異質な空気を放つ厚手のクリアファイル。別に大したものは入っていない、入場券の半券がまとめられているだけだ。
余談だがよくクリアファイルと呼ばれているあれは正式にはクリアホルダーと呼ぶらしい。
(……明日、叩き起こして片付けさせるか)
今日は金曜日。差し込む月明かりをカーテンが返している。宝来は電気を消すとすぐに眠りに落ちた。
雄英の敷地の一角。4階の角部屋に明かりが灯っている。中ではシャーペンを動かす音がした。この現代に珍しく手紙を書く音だ。
『正直、学ぶことはないと思います。最後の1年なので、なるべくたくさん勉強して次に繋げます』
仕事を終えたペンをストラップのついた筆箱にしまう。既に今日は明日になっているが、1階では学友たちが談笑していた。
「3年生始まっちゃったね」
「何やっても『最後の』って付いちゃうんだな」
「最初は心配だったけど意外と何とかなりそうじゃん」
新しい学年にも慣れた様子を見せながら今後の生活に期待を膨らませる。年度一発目の行事は体育祭、学生として『最後の』アピールの場。優勝に向けて虎視眈々と準備を始めていた。