雄英卒で相澤・マイクらと同期である彼は3年B組の担任として生徒たちと心を通わせていく……はずだ!
※教職員以外はほぼオリキャラで進んでいくと思います。今後のことは何も考えてないです。唐突に終わるかもしれない。
こちら側に立つのもようやく慣れてきた。自分の頃とは違う教科書に戸惑いながらも何とかやっている。
「ビザンツ帝国は1453年にオスマン帝国の侵攻によって滅亡した。最後の皇帝はコンスタンティヌス11世とされており……」
眠そうな生徒をスルーしつつ、次に進む前に1つ思い出したことを伝えておく。
「語呂合わせは
ゴミという単語に反応したかのように視線がこちらに集まる。いつの時代も高校生はこういう単語が好きなのだ。実際のビザンツ帝国はゴミじゃないぞ、と付け加えたが果たして届いたかはわからない。
グレー地に金色のボタンが2列ついたシンプルなナポレオンジャケットに、同じグレーのスラックス。左脚にはレッグホルスター、腰からは2本のチェーンが垂れ下がっている。ターコイズブルーのマントを羽織った姿に目立つ薄い金髪。騎士を彷彿させるヒーロースーツのイオ・スパーダその人は今日も社会科教師として教壇に立っていた。
授業を終えそのままホームルームへと直行する。2週間後に体育祭を控えており、少しでも早く帰って技に磨きをかけたいという意思が強く感じられた。
「何度も言うようだが、夏のインターン先の変更や本免許取得に向けて可能性を広げたいと考えている者は最後のアピールチャンスになる。無理しなくていいから全力でやってくれ」
矛盾した言葉をつらつらと並べると教室を後にする。
残された生徒たちはカバンを掴むと我先にと体育館や演習場へと向かっていった。
体育館γでは大きなハサミと尻尾を持った蠍のような生徒と赤と銀の装甲に全身を覆われた生徒が戦っていた。真ん中にいる蠍の攻撃を走ったり跳んだりしてひたすら避けるというシンプルなトレーニングだ。しばらくは華麗に避けていたがあるときその尻尾が足首を捉えた。
「また速くなったな、サキョー!」
「次はこっちで捕まえてやる」
ジャキン、とハサミを鳴らすオレンジ髪の生徒。人間の形をしているが杏色の肌とその見た目から“異形型”の個性であることは明らかだった。
蠍のような大きなハサミと尻尾を持つ。ハサミは常に大きいので普段は尻尾を使って生活しているゾ!
「よっしゃ、もう1戦いくか!」
全身をアーマーで覆われた姿はさながら特撮ヒーローのようで、飛んでくるハサミをことごとく防いでいる。
日がすっかり落ちるまで2人は訓練に明け暮れた。寮への帰り道で買ったコーラを一気に流し込む。
「甲斐も速くなったんじゃないか」
「俺は力の使い方を覚えただけさ」
短く切られた赤髪を掴みながら彼は答えた。
特撮ヒーローに変身するように赤と銀のアーマーが自身の身体を覆う。覆われている間は能力がパワーアップする。
「もう3年生だぜ。成長してなきゃおかしいっつーの」
入学当初こそ向上した能力にかまけて直線的な攻撃が多かったが、たくさんの経験を経た今では色々なことを覚えた。甲斐もまた最後の体育祭で有終の美を飾ろうと励んでいるのだ。
「今年こそ負けるわけにはいかないな」
「こっちのセリフだ。まあ、頑張ろーぜ」
校舎内、会議室。配られたプリントを手に教員たちが机を囲んでいる。スパーダもその1人で『雄英体育祭 開催要項』の文字と睨み合っていた。
(実況 プレゼント・マイク……ここだけ決まってんのかよ)
「今年の体育祭に関して意見や案がある者はいるかい?」
すぐには手が挙がらない。少しの沈黙の後、セメントスが手を挙げた。
「今のご時世、強さだけでは不十分です。エンタメ要素を取り入れてみるのはどうでしょう」
「試ミトシテハ面白イガ、ヒーロー科ノ見セ場ヲ削ルワケニモイカナイダロウ」
確かに、ヴィランの発生率は再び減少傾向にある。強さ以外の武器がないとヒーロー社会を生き残ることは難しい。
その一方でエクトプラズムの言うことはもっともだった。体育祭はヒーロー科の進路に関わってくる大切なイベント、ここでの活躍が職場体験やインターンの指名へと繋がってくる。
再び頭を悩ませる教員たち。会議も終わりの時間が近づいてきたとき、13号が流れを変えた。
「では、こういうのはどうですか?」
校長の顔が明るくなり、マイクが「ソレダ!」という感じで指を指している。スパーダはもちろん、他の面々も異論はなさそうだ。
「準備は誰がするつもりですか?かなり負担が大きそうですが」
「骨組みは私が作ろう。先生方には最終確認をお願いしたい」
それなら何とか……なる、のか?挙げた手を下ろしたスパーダはそれでも校長の“ハイスペック”さを信頼することにした。これでお開き……という雰囲気になったとき「そうだ」と動きを止める。
「今年も解説は相澤くんにお願いするのさ」
「……はい」
横からイェーイとハイテンションな声が聞こえてきた。
数日後。サラサラとメモを取ってパソコンの横に貼る。一応あとで校長に報告しておかなければ。
「ありがとうございます」と眼前の生徒は頭を下げて帰っていった。さっきまで作っていた体育祭の資料作りに早くも戻っている。校長から送られてきたデータを編集していると横から話しかけられた。グレーの髪に黄色のメッシュが特徴的な同僚。高校時代からの友人であるボルサリオンだ。ちなみに担当教科は理科である。
「なあ~この問題ってもっと簡単にした方がいいかな?」
「知らん。俺に理科を聞くな」
よりによって見せられた問題は物理だった。社会科が専門のスパーダには当然ピンと来ない。高校時代に見た文字列が並んでいるがもう解ける自信はなかった。
「まあ解けるやつは解けるしいいんじゃないか、そもそもそういうコンセプトなわけだし」
「それもそっか。そっちはどんな感じ?」
グッと覗き込まれたパソコンには地歴をはじめ、公民分野までカバーした問題が並んでいた。どれも高校レベルか怪しいものばかりである。
「難しくね?俺こっちの方がわかんねえよ」
当たり前だろ、お前が理科以外できなかったこと忘れてないからな。と言いそうになって思わず飲み込む。少し難しく作った自覚はあったのでひとえに不勉強なだけでは片付けられまい。
それでも理科と社会、勉強において両者は一向に分かり合えないのだ。強いて言うなら地理と地学に共通項があるくらいで他の分野に関しては互いに敵うはずもない。
辺りでは同じ作業をしているであろうセメントスが頭を抱えていた。
(そりゃまあ難しいよな)
既に西日は職員室を赤く照らしていた。窓の外からは放課後を楽しむ声がする。体育祭まであと1週間を切った。生徒たちのまだ見ぬ真価に期待しながらパソコンの電源を落とすのだった。
ある日の昼休み、いつものようにクラス内ではくだらない会話が繰り広げられている。その光景は寮でのそれと変わらないが、ひとたび制服を纏うとルームメイトからクラスメイトへと姿を変えたのだった。
教室の最後列ではクラスの盛り上げ役、
「夏目くん、ちょっといい?」
左から思っていたより低い声が聞こえた。青く短い髪は海を彷彿とさせる。同じクラスも3年目に突入するが彼女の鋭い瞳には未だに慣れない。
「ああ、うん」
「今年の体育祭の選手宣誓、代わりにやってくれないかな」
選手宣誓。開会式で行われる形式的な挨拶。1年生はヒーロー科首席入学者が、上級生は前年度優勝者が例年務めている。そして……
「勝ったのは
「そういうのじゃなくて、私出れないから」
優勝できるほどの実力者でしれっと学級委員長もこなす彼女……水鏡は普段と変わらない至って真面目なトーンでそう言った。新学期も早々に既に出られないことが決まっているとは普通ではない。何らかの事情があることは容易に察せられた。
「……それで何で俺に?」
「2位だったからに決まってるじゃない」
昨年の最終種目決勝戦で夏目は敗れた。昨年だけではない、一昨年も栄光を手にすることなく終わっている。リベンジも初優勝もラストチャンスだった。
「それと、親御さんに良いとこ見せるんでしょ」
「先生には?」
それを言われたら敵わない、とばかりに夏目は観念した様子を見せた。だがそこは委員長、1枚上手だった。
「もう伝えてある。どうせ引き受けてくれると思ってたから」
「今年こそ勝てるのを楽しみにしてたんだけどな」
冷たいようでしっかりと周りを見てくれているのだ。委員長が委員長たる所以か、3年で培われた能力かはもうわからない。そんなことは気にならないほど板についていた。
「……悪いね」
言い残したかのように呟くと水鏡は足早に教室を出た。降って落ちてきたチャンスが重圧のように、否、重圧としてのしかかっている。
『親御さんに良いとこ見せるんでしょ』
うるさい、そんなことわかっている。誰のせいで――
考えても自分の顔しか浮かばない。昨年も一昨年も同じミスをした。水鏡相手に真っ向から突っ込みすぎたのだ。今年こそは、と思っていたいるが。感じたモヤモヤは簡単には拭えない。それぞれが色々なものを抱えて臨んでいるのだ。
昼休みも残り僅かとなった廊下。既に人の影は少ない中、委員長はそこにいた。
「大丈夫です。空けられました……いえ、そちらの方が大事ですから。はい、お願いします」
会話の相手がいなくなった鉄塊をポケットにしまい、窓の外を見る。自分は間違っていない、そう思うことで精一杯だった。
「お?水鏡!もう昼休みは終わりだぜ!」
「すみません!すぐ戻ります!」
廊下に予鈴が響いている。宿題はとっくに終わっているがまた別の宿題が生まれてしまった。それは英文のテキストよりよっぽど難しい。それでもすぐそこまで迫っている5時間目へと自然に心が向いた。
普段の数十倍の人数がいる雄英校内。一般の人はもちろん、近郊のプロヒーロー、保護者など様々な人物がいる。今日は雄英体育祭当日。みんなこの日に向けて調整してきた。ヒーロー科諸君に至っては昨日から心待ちにしている。
スパーダは朝のホームルームで激励を飛ばした後、第一種目の準備へと駆け出した。舞台裏のスピーカーからはマイクがDJ魂で実況しているのが聞こえてくる。俺実況あるから、あとヨロシク。と、うっかりマイクの担当分も押し付けられてしまった。データはもらったが上手くやれるかは数十分後の自分次第。とにかく今は会場の準備に集中だ。
『3年ステージ!生徒の入場だ!圧倒的実力派、まずはヒーロー科A組!』
待ち合わせ場所に行くとエクトプラズム、セメントス、ボルサリオンが待っていた。みんな各々の準備を終えている。
「すみません、ホームルームが長引いて」
なおこの人物こそ長引かせた当人である。熱い(?)エールを送っていたらかなりギリギリの時間になってしまった。
『それでは選手宣誓をB組
「どーせお前が長引かせたんだろ。こっちはいつでもいけるぜ」
親友にはお見通しだ。主審も務める根津校長の進行と少し被ったが何を言いたいかはわかった。息を整えて手短に準備を行う。数十年ぶりの体育祭。熱気も熱量もあのときのままだ。
『宣誓。僕たち生徒一同はスポーツマンシップに則り、正々堂々と勝負し……』
続けて自分の生徒の宣誓が聞こえてきた。色々とあるだろうに立派な声である。
『悔いを残さないことを誓います』
やはりB組の生徒だ。しっかりと勝ちに来ている。なればこそ、今度はこちら側で全力を尽くさせてもらおう。
そうして火蓋は切って落とされた。
『雄英体育祭!スタート!!』