Fate/electronic wizard 作:skyfish
冬木市から離れて3日。2人は遠く離れた日本の首都、東京にいた。今は、電車に乗っている。バゼットが座り、その前にウィザードが立っている。日本電車特有の満員列車に巻き込まれていた。バゼットはいつも通りの赤紫のスーツを着こなす。対するウィザードは普通の黒い学生服である。容姿も相まって、どこにでもいる普通の女子高生にしか見えない。
「次の駅で降ります」
「はい。ですが、本当にいるのでしょうか?」
今向かっているのはバゼットの左手の変わり―――つまり義手を造る技師の下だ。確かに彼女なら最高の一品を作れるだろう。
だが、問題はその技師なのだ。
「大丈夫だよ。ちゃんと時間も伝えてあるんだ。それに、待ち合わせは向こうが指定した場所だから逃げる必要ないでしょ? いろいろと」
「そうですね……」
呟くと電車のアナウンスが鳴った。
≪まもなく、観布子駅。観布子駅―――≫
それは、冬木市を出た次の日からウィザードは行動していた。彼女が最初に取った行動はとある大企業の本社に侵入することから始まった。深夜、警備員を眠らせ、監視カメラなどセキュリティシステムを停止させる。それを行うのは全てウィザードだったが、バゼットから見たそれはとても手馴れていた。そして、コンピュータの前に座り背伸びすると
「さーて………やりますか」
そこから始まったのはキーボードをタイピングする音。誰もいない部屋にカチャカチャと連打する音が響き渡る。ウィザードが作業しているのが何なのか後で知ったが、彼女はハッキングという技でいろいろな組織から情報を盗み出していた。国が管理する国民の住民登録、ドコモ、auなどの携帯電話会社がもつ契約者リストなど。個人情報が保存されいるすべてのデータを集めていた。集め終えるのにかかった時間は3時間。それだけでこの国の個人情報をすべて集めたのだ。当の本人は「スペック低! おそ!」とかいろいろ呟いていたが。
一通り集め終えてこれで終わりかと思うと、キーボードを叩いて、Enterキーを押す。すると、画面いっぱいにあったリストに赤いバツマークが表示される。それは個人ごとに表示されていた。ただ、ところどころバツが入っていない人がある。待つこと30分。1億近くあったリストは400人程度にまで数を減らした。残ったリストを並べ、印刷ボタンを押す。印刷した紙を片手に私たちはその場を後にした。
次の日、昨日のリストを手に公衆電話に入る。その時の衝撃は忘れられない。だって、私の職業柄、どうしても無視できない名がでてきたのだから。
「あ、お電話すいません。蒼崎橙子さんの電話番号でよろしでしょうか?」
「ぶっふ!!?」
思わず吹き出してしまったのは許してほしい。それほどに、驚いたのだ。ウィザードが出した名前は、魔術教会に封印指定を受けた魔術師の名前なのだから。
バゼットを余所にウィザードは電話をかけ続ける。大体半分にバツがついてきたころ。
「お電話すいません。蒼崎橙子さんの電話番号でよろしでしょうか?……………………え? 違うけど連絡先を知っている?はい、はい………要件は義手を造ってほしいのです。出来れば明日にでも………………………はい。夜にまた折り返し電話します。では」
ウィザードが公衆電話から出てくる。
「見つけたのですか!? あの、人形師を」
「どうやら古い知り合いだったみたい。連絡先だけ知っているから向こうで聞いてくれると言ってました」
「では、私の質問に答えてください。何故サーヴァントである貴方が彼女のことを知っているのですか? 記憶が戻ったのですか?」
「いや、未だに霞みがかったままだよ、ただ生前、あの人に助けられたことが合ったのを思い出したのさ。向こうは私のこと無関心だったけど」
「………貴方は本当に何者なのですか?」
「さあ? ただ、真っ当な英霊じゃないってことは確かだね」
本当に、このサーヴァントは分からない。ただ分かったことは、彼女は本当に最近の英霊なのかもしれない。だとすると、活躍していたのは10年も離れていないことも考えられる。蒼崎橙子と接点がある以上考えられるのはここまでだ。いや、あるいは人形師の方が彼女のことを知っているのかもしれない。
そして、相手先から待ち合わせ場所と時間を聞いた私たちは、次の日東京都の観布子市にやってきた。駅を出て歩くこと数分。待ち合わせの場所である喫茶アーネンエルベに着いた。着いたのはいいが『喫茶店の前で待っていろ、案内する』と知らされている。のだが、誰もいない。店を間違えたかな? とウィザードが地図と睨めっこしていると、茂みから黒い猫が出てきた。猫は私をじっと見つめると歩き出す。
「ウィザード。行きますよ」
「どうしたの、マスター。ていうか今の私は岸波白野って名前なんだよ」
「使い魔です。おそらく、いえ、十中八九あの人形師のもので間違いありません。行きましょう、白野」
「はーい」
猫の姿をした使い魔を私たちはついていく。一目のある道から路地裏に入り、一目のある場所に出たら、また路地裏へ………を繰り返して行くこと大体30分。とある建物、いや4階部分が工事中のままだから廃墟でも間違いないだろう―――の中に使今は消えていった。建物の入り口に立って初めて把握した。注意しなければ分からない人避けの結界が張られている。この中に、あの封印指定を受けた人形師がいる。
「よーし。行きましょう」
「随分軽いですね」
「マスターが警戒するのも分かるけど、『虎穴に入らずんば、虎児を得ず』ってね」
それだけ言い岸波白野。もとい、ウィザードが先頭で入る。階段を上り三階につく。そしてドアをノックする。
「入れ」
中から声が聞こえ、ウィザードがドアを開けた。
キィ――
「―――――――――――」
――バタン
そして閉めた。
「どうしました?」
ウィザードを見る。彼女の顔は明らかに動揺していた。
「うん……うん。虎穴が何とかとか言ったけどさ。相手も相当の迎撃態勢でいることは分かってたけどさ――――――何で『無差別級のヘンなもの』がいるのよ……!!!」
なんでよ! と小さく彼女は呟く。事情は知らないが明らかにトラウマ的な何かに陥っている。このままでは埒が明かないので自分から入る。そこには人形師、蒼崎橙子。黒髪ストレートの少女と着物を着た少女がいた。それに、姿は見えないがもう1人の気配を感じる。
「バゼット・フラガ・マクレミッツ。封印指定執行者が私に何の用だ?」
「本来でしたら言葉など交わさずに終わりますが、今は事情が違います。人形師、蒼崎橙子」
「久しぶりに懐かしいやつから電話が来たかと思ったら、いきなり義手を造ってほしいと言われたときは訳が分からなかったぞ。しかも、その相手がお前とはどんな冗談だ?」
「今、日本の冬木市で行われている儀式について知っていますね」
「……なるほど。そういうことか」
冬木の儀式と聞いただけで彼女は察した。聖杯戦争のことは魔術師ならだれでも耳にする。
「橙子、話が続かない。こっちは気分悪いのに呼び出されているんだ。さっさと済ませろ」
「こら式! すいません。彼女普段からあれなんです。私、黒桐 鮮花です。彼女は両儀 式」
人形師の隣にいた少女が名前を言う。一方着物の少女はそっぽを向いた。
「で? 後ろにいる彼女は?」
「……ウィザード」
「はあ~。分かってます。ウィザードのサーヴァント。岸波白野(偽名)です。以後お見知りおきを」
「え、彼女がサーヴァント? 普通の人間にしか見えない」
鮮花さんのいう事は本当だ。彼女、ウィザードはとても人間染みて見える。
「―――へぇ。面白いもの持ってるじゃないか」
着物の少女、両儀式さんがウィザードを面白そうな顔で見つめている。その瞳は彼女の深淵まで見透かしているように見えた。
「貴方に渡すものなんかひとつも―――――ん?………んん?」
ウィザードは何かを言いかけて、訝しげに疑問の声を上げる。そして、スタスタと彼女のところに近づこうとしたのを遮るように虚空から黒一色の服を着た青年が現れた。
「式に何するつもりだい。君?」
「兄さん!」
青年、黒桐幹也は式を守るようにウィザードの目の前に現れる。そんな彼にウィザードは自身が着ているコートを出現させて
「これ、彼女に着せなさい」
と、幹也に渡した。
「はい?」
「ほら、速く彼女に着させて。まったく、いくら『無差別級のヘンなもの』でも見てらんない。なんでその状態で、そんな冷える服装なの」
「…………おい。全然話が見えてこないぞ。要点だけ言え」
「ここまで言って分からないの?! もう! おめでとうございます!」
「怒りながら祝った!?」
伽藍の堂の事務所が変な雰囲気に包まれる。
「まさか、まさか皆気づいてなかったの? 最近彼女が体調を崩すことが多かったと思いますけど、理由もなくとか考えていないよね!?」
「………まさか、式!」
幹也が勢いよく式に振り向く。彼女の顔は
「―――~~~~~///」
顔真っ赤にして混乱していた。
「もっと体をいたわってください。それから一応病院に確認をとるんですよ――――――おめでとうございます」
「えっと……ありがとう、ございます?」
ウィザードの満面の笑顔で送られる祝いの言葉に幹也が答える。
一方―――
「こ、子供……? 式と幹也の子供……………………」
「あー、鮮花。現実をしっかりと受け止めろ」
まるで燃え尽きたかのように全身真っ白になった鮮花を橙子がぽんぽんと叩いて慰めていた。バゼットはぽかーんとしていた。
白野「それじゃあ、話を始めましょう」
バゼ「え、この状態でやるんですか!?」
橙子「始めようか」
バゼ「切り替え速いですね!」
第5次聖杯戦争がだいたい2000年から数年に起きたらしいので
時系列的に見ても、式と幹也が頑張った時期に矛盾はないと思いこうなりました。