Fate/electronic wizard   作:skyfish

6 / 9
第5話「代償憑依」

突っ込んでくる黒い壁を前にウィザードは抱いていた綾子にすぐさま強化魔術をかけ横に放り投げた。ここから遠くに森の中に投げる。ものすごく乱暴だが強化のおかげでケガをしないから大目に見てほしい。だが、そんなことを言う暇などない。すぐに干将・莫耶をだし巨大な剣を受け止める。

 

「ず――――ッ!!」

 

 だが、受け止めたエネルギーに耐えられず後方に飛ばされた。空中で態勢を立て直す。地面に着地し改めて相手を見た。

 

「バーサーカー………ギリシャの大英雄を狂戦士のクラスで呼び出すなんて、頭イカレてるでしょ」

 

「あら、よく分かったね」

 

 ウィザードに言葉を返す透き通った少女の声。バーサーカーの正体を看破されても全く動揺の素振りをしない。森から出てきて、バーサーカーの隣に立つ白い少女。

 

「こんばんわ。お姉ちゃん。私はイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

 

「アインツベルン……」

 

 その言葉を頭の中で反芻する。聖杯戦争の情報はあらかたマスターから聞いていた。その中でも、聖杯戦争の原点である聖杯降臨の儀式において携わった『始まりの御三家』と呼ばれる一族。遠坂。マキリ。そして、アインツベルン。遠坂は聖杯降臨に必要な霊脈の提供。マキリ……現・間桐はサーヴァントへの絶対命令権であり聖杯戦争参加の証でもある令呪の提供。そして、アインツベルンは儀式に置いて一番重要である聖杯降臨の魔術式と聖杯の器を用意する役割を担うらしい。という意味では、聖杯戦争のノウハウを一番知っている陣営だ。

 

「それにしてもよくヘラクレスって分かったね。隠すつもりは無かったんだけどちょっと驚き」

 

「我が家の蔵書にあっただけだよ。それにしても大英雄をバーサーカーにしたら劣化もいいところじゃない」

 

「そうね。おじい様の命令だから逆らえないけど。それでも、バーサーカーは強いよ」

 

「どこのでもバーサーカーはおかしいのは決まりなのね……」

 

「? なにか言った?」

 

「こっちの話だよ」

 

 ウィザードは思考する。彼の大英雄が狂化により本来の実力を発揮できないにしても、それでもその力は計り知れない。彼らと同じだと考えるのが無難だ。実力差を意地でなんとか乗り切るとして、問題は宝具。ヘラクレスの攻撃系宝具は狂化によって使えないはず。となると残るは蘇生宝具『十二の試練』確かAランク以上の攻撃を12回でなければ死なないと記述されていた。そんな最後まで付き合う必要はない。一番現実的なのは一回殺し、蘇生中に逃げること。でも、それも厳しい。何故なら、自分の場合、Aランク武器を投影できるが、使用を禁じているのだから。

 

「おかしいのはお姉ちゃんだよ。呼び出されるサーヴァントは7騎まで。でも、なんで私の知らない8体目がいるのかしら?」

 

「聖杯に異常があったのではないの」

 

 ウィザードの言葉にイリヤは首を横に振る。

 

「いいえ。聖杯に異常はないわ。呼び出されたのは7騎だけよ。じゃあ貴女は何者なのかしら?」

 

「……1ついい? 『呼び出されたのは7騎だけ』と言ったけど、なんで7騎だけだと断言できるの? 私のような例外がいるのに、まるで分かってた口ぶりね?」

 

「!…………そんなの私には造作もないことよ」

 

 平静を装ってはいるが、わずかな動揺が見えた。すでにマスターからこの聖杯戦争でよばれるサーヴァントは7騎、各クラス1人のみだと聞いている。だが、そこに私が乱入して8人になった。これだけ見ればなにかしらの異常が発生していると考えるのが普通。だが、彼女は“聖杯に異常はない”“呼び出されたのは7騎だけ”とまるで聖杯のことを分かっている感じだった。

 

 白い少女はそれを紛らわすように言う

 

「ここはアインツベルンの結界の端っこでね。侵入者のことが手に取るように分かるんだ。もちろん、さっき飛ばされたあのお姉ちゃんもね」

 

 銀色の髪の毛に手をやったかと思うと、ほつれた髪の毛が小鳥に変化した。ニヤリ、と口元を歪ませる少女の姿が、白と黒のあの子たちの面影に似ていた。

 

 美綴は弓道部に入っている。ならば、これが使えるかもしれない。手元に現れたのは何の変哲もない弓矢。それを森の中に投げた。

 

「護身用よ! 『ゲンジバンザイ』といえば御利益あるわ! 遠くに逃げなさい!」

 

「じゃあ、殺すね。やっちゃえバーサーカー」

 

「■■■■■■―――!!!」

 

 狂戦士が咆える。迫りくる巨人を苦虫を噛んだ表情で睨み付けた。

 

「なんでバーサーカーはこんなのばっかりなんよまったく!」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「いって…………」

 

 投げられた綾子は泥だらけの手で首を抑える。一瞬何が起こったか分からなかった。だが、自分が投げられたであろう方角を見る。木々が折れ、土が陥没しているのが真っ直ぐになっているのを見るに、あれらは自分がぶつかった跡だ。木にぶつかり、地面をバウンドした後だと信じたくもないがこの1時間の経験から別に不思議に思えない。体を確認するが泥だらけで傷、痣一つついてなかった。たぶんウィザードと名のる彼女が何かしてくれたのだろう。できれば衝撃も消してほしかった。傷一つないのに痛みを感じるのはもうコリゴリだ。

 

そう思っている綾子の前に何かが地面に突き刺さる。そこには弦が張られている弓と矢があった。弓道で使うのと同じ、なんの変哲もない普通の弓矢。

 

「護身用よ! 『ゲンジバンザイ』といえば御利益あるわ! 遠くに逃げなさい!」

 

 聞こえてくる声と轟音。立ち上る土煙から向こうでドンパチやっていると察する。その立ち上る煙と同じ高さに白い点が二つ。目を凝らして見る。

 

「鳥……?」

 

 鳥が光ったと思うとすぐ隣を『インッ!』と音が通過した。後ろを見る。木が銃弾を受けたみたいに焦げていた。

 

「ちょ、冗談じゃないよ……!」

 

 矢が入った筒を背負い、弓を持つ。とにかく走る。後ろからあの音が響いてくる。見ると鳥がこちらに飛びながら光を放つ。手に持った弓を見る。どう見ても普通の弓。装飾もなにもない。

 

「こんなのでなんとかなるのか?」

 

 だが、彼女が護身用と渡した物だ。普通じゃないのは確証できる。でも、『ゲンジバンザイ』は言わないといけないのだろうか?

 

「もういい。当たって砕けろだ……!」

 

 矢を一本取り出す。この際作法は無視。すばやく、正確にあの鳥を射貫く!

 

「ゲンジバンザイッ!」

 

 祈るように放たれた一矢。それはおおよそ普通の矢の軌跡ではなかった。それは撃ち落とそうと放たれた白い光を弾き、白い鳥の一羽に穴をあけた。鳥は本来の髪の毛に変わりながら墜ちる。

 

「や、やったのか……?」

 

信じられないと呟く。彼女の腕が元々うまかったからか。物がよかったからか。この場合両方だろう。ウィザードの思惑がうまくいったのだ。これなら! と呟き次の矢を構える。鳥の形状が剣に変わっていた。ゲンジバンザイ。と呟き矢を放ち、命中する。だが、今度は形状変化による強度が上がったせいか矢が斬れた。

 

「やべ―――」

 

 言ったのもつかの間、剣は綾子の眼前まで迫り

 

「―――――ふんっ!!」

 

 割り込んだ誰かに殴り落とされた。剣はくの字に折れ曲がる。赤紫色のスーツを着た女性は左拳を見つめる。

 

「いい腕ですね。さすがです」

 

「あんた、ウィザードの関係者?」

 

「あなたが美綴ですか。私は簡単にいうと彼女の上司です。急いで来てくれと言われたので来たらこれでしたので」

 

 上司、ということは彼女が言ってたマスターって人だ。どこまでも彼女に助けられた。すると、スーツの女性は顔を上げて戦闘をしている方角に向けた。

 

「―――え、ごめんとはどういう事ですか?」

 

 すると、突如紅く光った。戦闘の音が倍増する。より激しさが増しているのが分かった。

 

「ここでじっとしていなさい。私は見に行きます」

 

「ま、待ってくれ。私も行かせてくれ。それにあんたと一緒の方が安全だからさ」

 

「……それもそうですね。決して離れないでください」

 

 女性のあとをついていく。森を抜けると、そこは戦場だった。道路は爆弾が落とされたかのように抉られ面影を残さず、木々はなぎ倒されている。土は陥没し歩くのも困難なほど。その中心に巨人と1人がいた。

 

「■■■■■■■――――ッ!!!」

 

 巨人は咆える。全てをなぎ倒す咆哮を前に彼女は一歩も引かない。堂々と佇むその手には槍のような斧、斧のような槍を持っていた。それだけではない。彼女から漏れ出す赤い(もや)のようなもの。それが、彼女の背後で、巨人に引けを取らない鎧をまとった武人を象っていた。

 

 ウィザードが口を開く。

 

「『我が戟の錆となれ、古希腊(古代ギリシャ)の大英雄!』」

 

 彼女と野太い男の声が重なって聞こえた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

冬木市、新都のとあるビルの屋上。2人の赤い主従がいた。遠坂凛とそのサーヴァント・アーチャーだ。

 

「やはり、魔力は柳胴寺に流れている」

 

「となると、山にいるのはキャスターでしょうね」

 

 新都を中心に発生しているガス漏れ事故。その原因はキャスターによる魔力収集だ。今日も止めに入ったが骨の傀儡に足止めされた。冬木市のセカンドオーナーである遠坂凛にとって、これは無視できない。堂々とやるそれは彼女にとって喧嘩を売られているに等しい。追いたいが今からではもう間に合わない。なんの策もなくキャスターの根城に攻め込むのは自殺行為だ。

 

「もう少し見て回り―――」

 

「待て、凛」

 

 なに? と振り向く。アーチャーは新都の山の方角を見ている。

 

その瞬間

 

音が()える――――感じがした

 

風が突く―――――――――感じがした

 

鈍い振動が伝わる―――――感じがした

 

なぎ倒された―――――――感じがした

 

大地が拒絶した――――――感じがした

 

 

 

 

 

 

 

 

一条の光が、空を裂いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何よあれ!?」

 

「おそらく宝具だろうな。最低でも対軍宝具なみの威力だ」

 

「冷静に分析している場合じゃないでしょ!? すぐに行くわよ!」

 

 遠坂凛はアーチャーに言いつける。あれほどの威力を持つサーヴァントがいる。また、あの光の前に感じたもの。あれが気のせいでなければ全て宝具によるものということになる。そんな物騒なもの持っている相手の顔を確認しないと気がすまなかった。

 

 

 

 そこに着いたときは全てが原形を留めていなかった。ここまでの被害を見るに一方はバーサーカーと考えられる。では、その相手があれを放ったのだろうか? アインツベルンの結界のためすぐに去らなければいけなかったから、そんなに調査できなかった。一応綺礼に連絡しておくことにする。

 

「バーサーカー以外にも厄介なのがいるわね」

 

赤い少女はまだ見ぬ敵に注意を払い

 

「まさか、二回もやられるなんて……でも、私のバーサーカーは強いんだから」

 

白い少女は予定外にも臆さず余裕を見せる

 

 

 

 

 

「ごぶゎ……!」(同調率の30%でこのザマ、ようやく2回……か)

 

「大丈夫ですか?! ウィザード!」

 

「私がお礼する前に消えるなんて許さないからな! おい! しっかりしろよ!」

 

 なんとか仮拠点まで逃げてきた3人だが、到着と同時にウィザードは大量の血を吐く。薄れていく視界の中、自分を心配する2人の顔だけが見えた。

 




今回出したのは、呂布奉先の方天画戟です。

攻撃ですが『切斬、刺突、打撃、薙ぎ、払い、射撃』の6種であり、そこからあんな感じに表現してみました。ですが、なんかかっこわるい。

Newキーワード:代償憑依

またの名を憑依経験(偽)。彼女自身が宝具を投影した場合、憑依経験が異常に反応し、その持ち主の魂が現れてしまう。そのため、宝具投影の際には憑依経験を抜きにした工程でやる。精度的にはアーチャーのものよりもより本物に近いものが作れるが中身が伴っていない。そのため真名解放も使えない。これは英霊達がその一生を駆け抜けた証であるため、ただの魔術師である自分にはできるわけがない。と、彼女は考えている。

真名解放する場合、憑依経験をすることで可能になるが、その真名解放のランクが大きいほど負担が大きい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。