少女の心に深めな傷を残して死にそうな低身長童顔ロリお姉さん   作:黒羽椿

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新米巫女、修行

 

 「……暑いわ」

 

 目が覚めると、私は四方を絡みつかれて拘束されていた。抱きついているのは、当然のように可愛い妹達だ。昨日、どうしてもと甘える三人の要望に応え、和室に布団を三つ広げて眠ったせいだった。

 

 「布団は三つしか無いし、お姉ちゃんは私と一緒に寝よっか」

 

 そんな一言が熾烈な争いを勃発させ、結局のところ妥協案として右腕を星奈、左腕をすみれ、腰に巴と、それぞれ縄張りを分割させることで決着がついた。当然のように、私が自室で眠るという案は除外されていたのは、少々遺憾である。

 

 「……ごめんね。週末は必ず、時間を作るから」

 

 こうやって拘束されるのはいつものことだ。私は慣れた手つきで三人から抜け出すと、音を立てないように身支度を調えた。まだ空が白み始めた、朝の5時だった。

 

 外に出て、いつも通りの準備を行う。変異種を探し、見つけ次第駆除する。いつもよりペースを上げているのは、これから野乃花の訓練の時間を作るためだった。

 

 「さぁ、お昼までには終わらせましょう」

 

 普通異形型変異種『蛸』。接敵して足を切り落とし、そのまま槍で頭を潰した。それでも動いたので、三枚におろすとようやく止まった。2分32秒。

 

 普通軟体型変異種『ナメクジ』。上から槍を投擲し、動きが鈍ったところで刀で細切れにした。塩が無くとも溶けて消えた。12分27秒。

 

 特殊群体型変異種『烏』。気配は特殊だが、一体一体は弱く何体か取り逃がした。恐らく、本体は別に居るタイプだろう。1分25秒。要警戒。

 

 「っと……あれは、見たことあるわね」

 

 周辺を見渡せる屋上から索敵をしていると、見覚えのある姿が見えた。特殊装甲型変異種『悪魔』。蟹のような外見のそれは、先日私が駆除したものと酷似していた。気配が少し違うところから別個体、もしくは元々二匹で一対なのかもしれない。

 

 「しかし……困ったわ」

 

 あれの堅さは嫌と言うほど知っている。切れない、貫けない、壊れない。攻撃は鈍いが、本当にしぶとく、しかも自己再生機能まで備えている。このまま無策で突っ込んでは、効率が悪すぎる。

 

 「勿体ないけど、使いましょうか」

 

 私は『悪魔』にマーキングをつけ、その周辺に結界を仕込んでから、一度セーフティハウスに戻った。畳んでいても大きさが私と同程度のとあるものを担いで、狙撃のポイントへ向かう。コレを使うのは、かなり久しぶりだ。

 

 「ふん……! ぬぬぬ……!!!」

 

 専用の弾薬を込め、その姿を解放させる。長さ約三メートル、持ち上げるだけでも神力を消耗するコレは、今回のような高耐久の変異種、または一度に勝負をつける時の兵装だ。見た目は避雷針のようで、とんでもなく重い。だからこそ、携帯には向いていない一品だ。

 

 その威力は折り紙付きだが、燃費はとても悪い。内蔵の弾薬と本体を作るのに、私の神力では一ヶ月以上かかる。消耗してから製造すると、その日数はもっと増えることになるだろう。とはいえ、私でも使用可能で貴重な高火力武器だ。惜しむ必要は無い。

 

 「穿て、『流星』」

 

 最後にもう一度神力で身体を強化して、天高く投擲する。遠距離型殲滅兵装『流星』。その一撃は、たとえ装甲型といえど防ぐことは敵わない。恐らく、接近にも気づけないだろう。

 

 一瞬、空が光った気がした。その瞬間、『悪魔』が居た場所が大きく爆発した。遅れて、音と衝撃が身体に伝わってくる。私は変異種の気配が消えたことを確認して、電話をかけた。

 

 「もしもし、奏? 『流星』を使ったわ。後処理を頼んでもいいかしら」

 

 「えぇ……なして事後報告なんじゃ? もうちょっと相談とかのぉ……」

 

 「だって、相談したら使うなって言うでしょ?」

 

 「……はぁ、人払いはしておるよな?」

 

 「当たり前でしょ。人も居ないし、火災とかの二次被害も発生してない」

 

 今回は市街地から少し離れた場所だったのも、使用に踏み切った要因の一つだ。強力な一撃で民間人を害しては、それこそ本末転倒というものだ。その辺りは注意している。

 

 「分かった分かった。適当な理由を作って誤魔化しておく。お願いじゃから、今度からは相談しておくれよ?」

 

 「善処するわ」

 

 「頼む……! はいと言っておくれ……!」

 

 「はいはい、分かったわよ。次はちゃんとするわ」

 

 これもまた、『流星』が使い辛い理由の一つだ。あまりに威力が高いため、近距離では使えず、更に周囲を破壊し過ぎてしまう。ままならないものだ。

 

 「はぁ……次、行きましょう」

 

 通話を切って次に向かう。その後、三匹の変異種を仕留め、天川神社へと向かった。午前12時前、今日はこれで終了とする。

 

 奏は……多分、今だと説教が始まってしまうだろうから、先に小日向と野乃花のところへ向かおう。

 

 境内近くの、縄と線で作られた簡易的なステージ。そこで二人は今日も近接の訓練を行っており、野乃花は昨日よりも動きが良くなっていた。一撃、二撃と攻撃を防ぎ、更には反撃までしていた。

 

 「はっ……はっ……そこ!」

 

 「っ! 良いね! それじゃあ、もう少し本気出すよ!」

 

 「……! 受けて立ちます!」

 

 小日向の動きが速くなっていく。更に、今までの槍単体での攻撃ではなく、フェイントや体術も織り込まれた構成になっていた。

 

 野乃花も数十秒は何とか持ち堪えたが、最後は背負い投げられ、組み伏せられてしまった。

 

 「あっ、師匠! 結構早かったね!」

 

 「あたたっ!? 片桐さん片桐さんっ! 腕はそっちに曲がりません!」

 

 「おっと……ごめんごめん。脱臼したら痛いもんねー」

 

 野乃花は、私が考えていた以上に飲み込みが早い。小日向の複雑な連撃にも、多少は耐えれていた。これなら、少々段階を飛ばしても良いかもしれない。

 

 「小日向。お昼はもう食べたかしら?」

 

 「まだだよー。これから作るけど、一緒にどう?」

 

 「そうね、頂こうかしら。その間、野乃花を少し借りるわよ」

 

 「良いけど……え、もう巫術教えるの? 私の時は三ヶ月も地味な近接訓練やってから、ようやく教えてくれたのに!」

 

 巫術というものは、端的に言えば神力を効率的に使う技のことだ。野乃花の弓矢の精製、小日向の防護壁、私の瞬歩。大きく括れば全て巫術ということになる。

 

 「小日向は近距離、野乃花は遠距離専門よ。適材適所、というものがあるわ」

 

 「むー……まぁいいや。巫術は苦手だし、師匠に任せたよ」

 

 「頑張ります……!」

 

 小日向は境内へと戻り、私と野乃花だけがその場に残った。まずは実演を行い、感覚を掴んで貰うべきだろう。

 

 「じゃあ、野乃花。私をソレで刺しなさい」

 

 「え!? よ、避けてくれますよね……?」

 

 「良いからやりなさい。別に平気だから」

 

 野乃花は数秒目を泳がせると、私の眼を見た。一瞬躊躇うような素振りを見せたものの、覚悟を決めたのか真剣な顔つきのまま、私へ一歩踏み込んだ。

 

 「や、やぁ!……って、え?」

 

 「見えない壁みたいなのが分かるかしら? これが防護壁よ」

 

 巫女によって構築される防護壁の形はそれぞれだが、私は無色透明の見えない壁のような姿をしている。数日で覚えることが可能で、実践でも大いに役立つ便利な巫術だ。覚えておくに越したことは無い。

 

 「相手の攻撃に合わせて展開するのが一般的よ。上手い巫女は武器の形ぴったりの防護壁を作ったり、ただ防ぐだけじゃなくてカウンターに使ったりもするわね」

 

 「どうやって出すのですか?」

 

 「精製が出来るなら、そのイメージに近いわね。野乃花の想像する強固な壁。それを目の前に作りだすの」

 

 「えっと……こう、ですか?」

 

 野乃花が手をかざすと、そこへ眩い光が落ちてきた。5~6メートルはありそうな大きな光の壁。野乃花が想像した壁が、そこにはあった。

 

 「やり方は正しいけれど、大きさが過剰よ。まずは手のひらサイズを想像して」

 

 「ぬぬ……もっと小っちゃく、小っちゃく……」

 

 しばらく、野乃花が奮闘する様子を観察する。やはり、彼女の神力は規格外だ。私がこの規模の防護壁を展開すれば、数十秒でバテるだろう。

 

 だというのに、野乃花は出力をほぼ全開のまま、数分以上も展開している。神力という面だけでいえば、彼女は私が見てきた中で歴代最高の素質だ。これで発展途上というのだから、末恐ろしくて仕方が無い。

 

 「重要なのは安定した出力と即効性よ。一秒で無駄の無い防護壁を展開出来るよう、近接訓練と並行して行いなさい」

 

 「……はい、頑張ります」

 

 野乃花の瞳には不安が混じっていた。私自身、新米の頃に二週間で同じことが出来るかと言えば、多分無理だと思う。それほどに難解な訓練を、私は野乃花に強いていた。けれど、私の胸に不安は無かった。

 

 「安心しなさい。貴女なら必ず出来るわ」

 

 「え……きゅ、急に何ですか、もう……」

 

 「信じてるわ。だって、すぐに追い付くのよね?」

 

 「……! 当然です。約束、ですから」

 

 野乃花は強い子だ。私なんかよりも、もっとずっと。

 

 だからこそ、私が野乃花にしてあげられることは、信じて待つこと。いつか、彼女が私に並び立ち、追い抜かしてくれることを信じてあげること。それまで、彼女を守ってあげることだ。

 

 暖かな風が吹き始めた初夏の季節。私達を取り巻く運命の歯車は、ゆっくりと、しかし確かに動き始めていた。今の私には、それが幸か不幸か、その結末を知ることは無い。知る必要も無いのだろう。

 

 「さぁ、小日向が来るまで続けるわよ。あと二週間、死に物狂いで覚えなさい」

 

 「はい! よろしくお願いします!」

 

 野乃花の巫女復帰まで、あと13日。

 

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