転生オリ主は綾紬芦花を幸せにしたい   作:天戸 蒼香

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壊せ

悩んだって苦しんだって次の日はやってくる。

 

かぐやは鋭いし、ああいう時に適当なことは言わない。

たぶん俺の態度になにか良くないものを感じたんだろう。

 

みんなのことを、しっかりと見ること。

正直何をどう変えればいいかわからないけれど……

まずは原作どうこうとかいうのはやめようか。

この現実世界を、自由に、やりたいように生きてみよう。

 

そんな決意をした矢先に。

酒寄が倒れた。

 

 

 

夏の日差しが俺たちを焦がそうと頑張るある日。

俺は昼のバイトを終えて家に帰っている途中だった。

珍しいことに、酒寄の携帯から俺に電話。

 

「もしもし酒寄、めずr」

「圭! お出かけしてたら彩葉がアチアチでフラって!」

 

かけてきたのはかぐやだった。

軽くパニック状態なのか要領を得ないけど、酒寄が倒れたのはわかった。

 

……そういえばそうだった。

自分のことに一杯で頭からすっぽ抜けていた。

 

「とりあえず家つれて帰って、酒寄の身体を冷やそう!」

「わ、わかった!」

 

ああ、人生二度目のくせに何一つ満足にできない。

自分がどうしようもないほど凡人でほんと嫌になる。

まとわりつく自己嫌悪を置き去りにしたくて、俺は走って家に帰った。

 

 

 

「ん……」

「彩葉!? だいじょぶ!?」

 

酒寄の意識が戻ったようだ。

とりあえず買っておいた経口補水液を渡して飲ませる。

 

「たぶん過労と熱中症のコンボだと思うから、これ飲んどきな」

「……」

 

一口飲んだ後、俺のことを焦点の合わない瞳でぼーっと見つめる酒寄。

瞳の中の俺の姿がはっきりした直後、酒寄は跳ね起きた。

 

「バイト!」

 

行かせるわけないだろ。

かぐやも同じ思いなのだろう、慌てて止めにかかる。

 

「彩葉、しんどい?」

「平気、すぐ行くから」

「バイトは休む連絡入れといたから、彩葉、もう休んで……」

 

かぐやは半泣きになりながら、酒寄を布団に戻す。

 

「……連絡、朝来がしてくれたの?」

「ううん、かぐやが。『したほうがいいかな』って圭に聞いたら、『お願い』って」

「そっか」

「あと、いっぱいふかふか置いといたから、いっぱいふかふかしてね」

「……ありがと」

 

ぬいぐるみを抱きしめながら酒寄が言った。

病で気が抜けているのか、年相応の表情という印象を受ける。

 

「あ、そうだ! 病院、病院行こ!」

「病院……は、お金かかるからやだ」

「そんなもんかぐやにまかしとき!」

「やっぱり、無理だよ……」

 

横から見ていてもわかるくらい、ぬいぐるみを抱きしめる酒寄の身体に力が入った。

 

「全部ギリギリで予定組んでるから……何日も休んだら、もう追いつけないよ……そしたら奨学金もでないかも……」

 

酒寄がこんなに弱ってるのは初めて見た。

それにしても、「追いつけない」とは何にだろうか。

自分の立てた予定との差なのか、はたまた母の幻影か。

そんな酒寄を見たかぐやは、弱々しい声で聞いた。

 

「……何で彩葉はそんなに頑張らなきゃいけないの?」

 

返答に詰まる酒寄をじっと見つめるかぐや。

だんだんと目を潤ませていき、最後には泣き出してしまった。

 

「うう……かぐやのせい? かぐやめっちゃ無理言ったから……彩葉ぁ、死んじゃやだぁ……!」

 

大号泣。

酒寄もさすがに困惑している。

美少女なのに、見るに堪えないレベルの泣き顔を晒してるからな……

俺は黙ってかぐやにハンカチを手渡した。

あっという間にびしょ濡れになったが、まあいい。

 

「だって、映画とかだと人間ってすぐ死ぬじゃん!」

「そんなすぐ死にはしないよ……」

 

ゾンビにとか転生とか色々ごっちゃになった話をするかぐや。

酒寄は、涙で服が濡れるのも構わずに、そんなかぐやをそっと抱きしめた。

 

今までの俺なら尊いとか言ってたんだろうけど。

かぐやの台詞が頭をちらついて、俺はただ座ったまま何もできなかった。

 

 

 

「何で彩葉はそんなに頑張らなきゃいけないの?」

 

ひとしきり泣いて落ち着いたかぐやは、もう一度酒寄に尋ねた。

黙りこくる酒寄。

ただその沈黙は、答えたくないのではなく、答えたいから言葉を探しているように見えた。

 

「俺ちょっと外出てるね」

 

かぐやという光に溶かされて、自らのトラウマと向き合おうとしている酒寄が、俺には眩しかった。

かぐやからの指摘を、まだ消化できてない俺とは対照的で。

俺は、かぐやという眩しい光に目をつぶって立ち止まってしまった。

そんな俺が聞いて良いものではない気がした。

 

「えっ……朝来も、いてよ」

 

立ち上がろうとした俺に、酒寄が控えめに手を伸ばした。

思わずだったのだろう、俺に向かって伸びた手が行き所を無くして宙をさまよう。

……まさか引き留められるとは思わなかった。

一瞬、迷う。

 

『かぐやたちを、ちゃんと見て欲しい』

 

かぐやの言葉が、脳裏にこだまする。

……向き合わなければならない。

酒寄とも、向き合わなければ、ならない。

原作での知識ではなく、本人から、現実世界の彼女の口から、聞くべきか。

 

俺は立ち上がろうとした腰を、再び下ろした。

静かな部屋に、冷房の稼働音だけが響く。

 

「彩葉、聞かせて……?」

 

かぐやの声に後押しされたように、酒寄はポツポツと話し始めた。

 

父が死んで、豹変レベルで母が厳しくなったこと。

その母の正しさに潰されそうになったこと。

そんな中、緩衝材だった兄が家を出て行ったこと。

母が通った道を1人でなぞることができて、初めて母と対等になれると思ったこと。

 

「……それで、私が1人で学費も生活費も賄うならって、やっと折り合いついたんだよね」

「えらい簡単に言ってるけど、みんなそんなことしてなくない?」

「お母さんはそのくらい平気でやってたし、私も譲らなかったし」

 

純粋な疑問をぶつけるかぐやに対し、酒寄は言う。

 

「最初にここで目を覚ました時のことよく覚えてる。何にもないし、誰にも頼れないけど、自分の力で生きるんだって思ったらめっちゃ力湧いてきた。ラッキー……って」

「いやいやいや、ラッキーじゃないっつーのっ! 宇宙人調べでもそのお母さん激やばおかしいって!」

 

酒寄のずれた発言に、かぐやが全力で突っ込んだ。

「圭もそう思うよね!?」と同意を求めてきたので、うなずいた。

酒寄の母親は、おかしい。

そしてその母親の幻影に縛られている酒寄は……悲しい。

 

「2人には……」

 

わからないよ。

酒寄は寸前で言葉を飲み込んだ。

かぐやは一瞬迷った後、会話を終わらせるべく息を吸う。

俺は、覚悟を決めた。

 

「わからねえよ、そりゃ。俺は酒寄でも酒寄のお母さんでもないから」

 

思わぬ攻撃を受けた酒寄の身体がこわばった。

 

正直、これでいいのかわからなかった。

原作のかぐやみたいに、何も言わずにそっとしておくべきなのかもしれない。

でも、酒寄のことをちゃんと見るなら、踏み込むべきだと思った。

 

「でも、それと同じように、酒寄は酒寄で、お母さんにはなれないんだよ」

「っ! 私がどれだけ頑張ってきたと思って……っ!」

 

酒寄がここまでの激情を見せたのは初めてだった。

かぐやは突然始まった言い合いにおろおろするばかり。

 

「違う、努力を否定してるんじゃない。目的が間違ってるって言ってるんだよ」

「私が、間違ってる……?」

「そうだ。お母さんの幻影を追い続けてもその先には何もないだろ! お前は、お前のために頑張るべきだろうが!」

「なっ……!」

「お母さんがどれだけすごいか知らんが、お前が目指すべきはお母さんの背中に追いつく事じゃないだろ!」

「うるさい! 朝来に何がわかるっていうの!」

 

言った瞬間、酒寄はやってしまったという顔をした。

そんな表情(かお)をさせたかったわけじゃなかった。

でももう止まることはできない。

ただ心からあふれ出るものを、言葉に乗せて叩きつける。

 

 

 

「何もわからねーよ! だから話せっつってんだろ! 察してほしいなんて甘えんな、全部吐き出せ! 全部受け止めてやるから! 頼れよ、周りを!」

 

 

 

激しい言い合いで、お互い息が切れている。

永遠にも感じられる静寂の中、酒寄の目から一筋、涙がこぼれた。

雪が溶けて湧き水になったみたいな、綺麗な涙だった。

 

静かに泣く酒寄を、かぐやがそっと抱き寄せた。

2人は静かに抱きしめ合っている。

かぐやの放り出したハンカチは涙で重く冷たくて、これは現実なのだと強く意識させられた。

 

これで、よかったんだろうか。

これで、ちゃんと酒寄と向き合えたんだろうか。

自分の傲慢で、また彼女を傷つけただけではないのか。

 

何もわからないまま、俺は2人の姿をただ見つめていた。




めちゃくちゃ難産で死ぬほど悩みました。
そんですみません、たぶんこの作品最大のターニングポイントなので少し語らせてください。
興味ない方はまた2日後にお会いできればと思います。



今話の中で圭は2度大きな決断をしています。

1つ目は、彩葉の過去を聞くかどうかです。
ここで彩葉を振り切って退出した場合は、バッドエンドまっしぐら。
この世界線の圭は、酒寄彩葉という「キャラクター」でない1人の人間からも、自分自身の過ちからも逃げ出したわけですからね、そんなやつが芦花を幸せにするなど168億年早い。
ただしそれは「圭と芦花にとって」であり、いろかぐヤチは原作通り結ばれます。
かぐやは結局逃げ出した圭のことをそれとなく彩葉から遠ざけて、くねくね圭君は一生くねくねしたまま芦花のこともまともに見ることができなくなって、あとは……ね。
芦花が愛想を尽かすか、2人で底なし沼に沈んでいくのかはご想像にお任せします。
まあ真実次第かな。

2つ目は、彩葉の「2人には……(わからないよ)」に対して踏み込むかどうかです。
ここで原作かぐや同様何も言わないことを選択すると……実はバッドエンドにはなりません。
ただし、ハーレムルートは閉ざされます。
かぐやほど破天荒でない圭では、ここで踏み込んで強引に彩葉をクローゼットの外に引っ張り出さないと(rayCPKverのMV参照)、彩葉の心の呪縛を解くことはできません。
圭は太陽でも月でもなく、よくて小惑星ですから。
でもかぐやが原作通り呪いを溶かすのでいろかぐヤチは結ばれるし、この世界線では圭がちゃんといろんなものと向き合うことにはなるので、彩葉にとって良き友人ポジに収まっていきます。
原作で言うと、彩葉にとっての芦花真実ポジがイメージしやすいかも。
この後は圭次第ではありますが、芦花とだけ付き合う世界線が本線ということになります。
かぐやにとっては父もしくは兄のような存在になっていくので、普通に仲良しです。
みんな幸せになるので、これもまたハッピーエンドでしょう。



初期プロットではもっとこう、芦花彩葉をくっつけるために圭が色々策を凝らすも上手くいかない様を笑う話だったのに、どうしてこんなことに……?

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