「今日のメニューはネギ味噌ショウガと卵おじや。まず鰹節を」
「かぐや、酒寄早く食べたそうだよ」
「あっ、ごめん。あつあつだからフーフーして食べてね」
かぐやと酒寄がそれなりの時間抱きしめ合ったあと、早めの夕食の時間となった。
かぐやの長文作り方解説が入りそうだったので、会話をインターセプト。
酒寄は、卵2個入りのおじやをすくって口元へ運んだ。
「あちっ……超うまい」
「でしょーーー?」
かぐやは満面の笑みと謎ポーズで、酒寄に向けてドヤった。
病人に向けるには眩しすぎる笑顔だったけど、それがかぐやらしさだった。
しっかり完食して満腹になった酒寄は、再び眠りに落ちた。
相当限界だったんだろう……酒寄を見殺しにした自分に対し自責の念が積もる。
しばらく、部屋には俺が食器を洗う音と冷房の稼働音だけが響く。
気まずい沈黙を破るべく、俺は口を開いた。
「なあ、かぐや」
「ん、どったの?」
かぐやの声色はごく自然に聞こえる。
そこには俺への敵意とか不満とか、そういった負の感情はなさそうに感じた。
でも、さっき俺が酒寄と言い争ったシーン、かぐやは踏み込むべきではないと思っていたはずで。
それを土足で上がり込んだ俺に対し、かぐやは何を思っているのか。
『かぐやたちを、ちゃんと見て欲しい』
また脳内でかぐやの声が響く。
今回の俺の行動は、酒寄をちゃんと見ることができていたのか。
15年以上の2度目の人生で染みついた傍観者癖は、そう簡単には消えてくれない。
「さっき……」
「? うん」
言いよどむ俺を、かぐやは辛抱強く待ってくれた。
言葉を選んで、選んで、口に出す。
「さっき俺、酒寄と言い争いしたじゃん」
「うん」
「その……かぐや的には俺のこと怒ってないかなって」
俺はまだ洗い物の最中だから、かぐやの表情は確認できない。
いや、それは言い訳か。
単純にかぐやの顔を見るのが怖かった。
原作とか関係なく、かぐやに嫌われるのは辛い。
「別に怒ってなんかないよ」
かぐやはなんてことない調子で答えた。
洗い物を終えた俺は、手を拭ってかぐやを見る。
「圭なりに向き合ったんでしょ?」
「向き合ったつもりだけど……ただの独りよがりだったんじゃないかなって。俺が踏み込まずとも時間が解決したかもしれないし」
原作ではそうだった。
俺が余計なことをしなくても、かぐやが彼女を救うはずだった。
向き合うという免罪符を振り回して、意味も無く酒寄を傷つけただけなのではないか。
そんなことを考える俺に、かぐやは言う。
「でもちゃんと考えてその方が良いって思ったんでしょ? ならそれで良いとかぐやは思うよ」
かぐやは酒寄の頭を優しく撫でながら、俺を振り返ることもなく続けた。
「かぐやは彩葉のこと好きだから、踏み込んで嫌われたくなかったし。それに彩葉も苦しそうだったから、吐き出すべきだったのかも」
かぐやがすごい大人に見えた。
この前まで赤ちゃんだったのに。
「俺は、ちゃんと向き合えてた?」
「うん、ばっちり!」
「……そっか、それはよかった」
満面の笑みを浮かべてくれたかぐやに、こわばっていた心が溶けるのを感じた。
冷房の風が、少し汗ばんだ体に心地よかった。
結局あの後、酒寄は起きなかった。
次の日。
すがすがしい朝日を浴びてから、俺は酒寄の部屋を訪ねた。
「かぐや、おはよう」
「圭、おはー」
かぐやに招き入れられた俺は、酒寄に努めて明るく声をかけた。
「よーっす酒寄、体調どうだー?」
「朝来……」
気まずそうに返事をする酒寄。
酒寄の顔色は大分良くなっている。
まずは良かった、俺との言い合いで悪化したらと心配してたんだ。
「朝来、その、昨日は」
「昨日はごめん!」
俺は酒寄にかぶせるように言った。
「酒寄の気持ち考えずに好き勝手言った。挙げ句言いたくないことまで言わせちまった。本当にごめん」
深く頭を下げる。
あのときはこれが良いと思ったし、かぐやも肯定してくれた。
が、言い訳はしたくなかった。
それは不誠実な気がしたから。
「……朝来、頭あげてよ」
震える声で、酒寄は言った。
「私の方こそ、ごめん……昨日は、どうかしてた」
「いや酒寄は悪くない。土足で踏み入った俺が悪いんだ」
「そんなことない。朝来に言われて、自分が周り見えてなかったって思い知らされた」
お互いに謝り続ける。
酒寄もどうやら本気で悪いと思っているらしく、お互い止まれない。
「いやいやいや」
「いやいやこっちこそ」
「はいはいその辺でストーップ!」
だんだん謝罪合戦になってきたところで、かぐやからストップがかかった。
「2人とも悪くないし、2人とも謝って許した。これでハッピーエンド、じゃん?」
かぐやらしい言い回しに、俺も酒寄も思わず笑みがこぼれる。
「なんかかぐや変なこと言った!?」
かぐやが不服そうに叫びながら、笑い出した。
釣られて声を上げて笑ってしまう俺ら。
「……朝来に嫌われてなくて、良かった」
酒寄がぽろっとこぼした一言が宙に溶けて消えていく。
そういうことを言われるとかなり照れるのですが。
そんなじれったい空気に気づいたのかどうなのか、かぐやがこっちに寄ってきた。
「そだ、仲良しのやつ、仲直りの印に、やろ!」
じゃんけんのチョキを突き出して、3人でぶつけ合う。
それから手を広げてガオーっとしてから、最後にキツネにしてチュっとする。
原作と違って俺のアバターからきたライオンも入って、少し長くなった仲良しの儀式。
その違いが、やっと俺もこの世界の一員になった感じがして、すごくくすぐったかった。
『みんなのために、わんわんお! ヤチヨカップの公式実況担当、忠犬オタ公です! 今日も元気に、職務果たしちゃいまーす! 今週もヤチヨカップ特集、暫定4位までは公式を要チェキ! 君の推しはいるか? ではでは、トップスリーの発表だ。3位、癒やし系アイドル湯雲ぬくみ! 2位、ハイスペエルフ、テレリリ・ティートテート! そして、下馬評通り独走状態だ。堂々第1位、ブラックオニキス! もはやこの3人で決定か? ちな圏外だけどランキング爆上げ中のチームがいるんだよね。みんな知ってる? まだまだ番狂わせ、期待しちゃってます!』
『ヤチヨも楽しみにしてるよ〜!』
『『いえーい!』』
「テテテさんすごいねえ、すっかり遠い人になっちゃって……」
ここはツクヨミ内にある、俺の家。
俺は一人で忠犬オタ公の配信を見ていた。
酒寄とかぐやは、ツクヨミ内の真実ハウスにいる。
なんか最初リアルで約束をしていたけど、酒寄の体調不良を受けてツクヨミに変更になったらしい。
さすがにツクヨミとはいえ彼氏持ちの女の子の家にほいほい上がるわけには行かないので、俺は自宅待機inツクヨミである。
にしても、忠犬オタ公のかぐや贔屓がすごい。
いいのか?
まあヤチヨが許すならいいし、ヤチヨなら許すに決まっているからいいんだけど。
あの人割と初期の路上ライブからいたもんなー。
ファンクラブ会員つけるならNo.6くらいかな?
忠犬の忠犬っぷりはさておき。
はーあ、今頃帝からかぐやにコラボのお誘いが飛んでんだろうな……
などと思いを馳せていると、開きっぱなしだったコンソールが一件の新規DMを知らせた。
だれかな、ハイスペエルフのテテテさんかな。
でもあの人ヤチヨカップガチってるから今忙しいよな。
そんな感じで、送り主を脳内で検索しながらDMを開くと。
『Black OnyX 帝アキラさんからのメッセージ
ASAKくん初めまして!
俺はブラックオニキスの帝アキラ そっちの噂は俺の耳にも入ってるよ!
実は今かぐやちゃんにコラボのお誘いをしてるんだけど
その関係でASAKくんとも話したいことがあってさ
よかったらお時間もらえないかな?
良い返事待ってるぜ!』
……は???
なに?????
この作品らしくない(?)シリアス続きで読者の皆さんも疲れたでしょう。
私は疲れました。
なので、次回はもしかしたら肩の力抜いて読める番外編にするかも。
あ、アンケートご回答ありがとうございます。
一応現時点(4/21深夜1時)では僅差で朝が多かったので朝に予約したんですが、今後のアンケートの推移やUAの動きなんかも見ながらもうちょい考えますね〜
追記
お気に入り874(ヤチヨ)件見逃した! ありがとね!
更新時間帯のご希望ありますか
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特になし