ハッピーシンセサイザ(cover)を聞きながら読むんじゃよ
前話の感想欄で複数人から家賃の話を突っ込まれて慌てて調べたんですけど、インフルエンサーの収入なんてわかるわけもなし。
なので、ここはご都合主義ということでひとつ……おねがぁい(CVかぐや)
酒寄兄妹、かぐや、さらに伏兵芦花まで加わった朝来圭タワマン移住包囲網。
そもそも俺だって心の底では行きたかったけど、他人に負担をかける申し訳なさとちっぽけなプライドで拒否していただけなので。
一つ一つ丁寧にバリケードを除かれ丸裸にされた俺に、抵抗の術はなかった。
そんなわけで、引っ越すことになった。
部屋は、酒寄とかぐやの家の隣。
ただし、レイアウトの関係で向こう2人の家よりはやや狭い。
それでも俺一人だと持て余す広さだが、芦花の配信用スペースやかぐやの倉庫としても使われる予定。
保証人は朝日さん。
本当にありがとうございます。
家賃はかぐやが4割、俺と芦花が3割ずつ。
家賃が月30万なので、俺は月9万である。
まあヤチヨカップのかぐやとテテテさんの快進撃に引っ張られ、俺も漁夫の利で伸びたし。
元々お金はずっと貯めていたし。
継続して払えるラインがここだったのだ。
かぐやの援助を受けるなど恥ずかしい限りだが、無い袖は振れないのだ。
芦花は余裕そうでした、さすがカリスマインフルエンサー。
最初朝日さんが芦花についてどう反応するか不安だったのだが、酒寄の援護もあって案外あっさりだった。
酒寄とかぐやからのお願いを断るという選択肢はないとドヤ顔で語ってくれた。
まあ二股をしつこく疑われて面倒だったけど。
どっちとも付き合っとらんわい。
芦花も部屋を使うと決まったときの酒寄の表情がちょっと不思議だった。
100%嬉しいって感じじゃないし、だからといって嫌そうってわけでもないし……
あれはどういう表情だったんだろうか……?
考えてもわからないものはわからないけど。
かぐや?
かぐやは無邪気に喜んでたよ、芦花ともコラボやらなんやらで仲良しだし。
裏表のあるタイプじゃないからね。
決まってしまえばあとはとんとん拍子に話は進み、あっという間に引っ越し当日。
「では、また後ほど。15分くらいで着きますので」
「よろしくお願いします」
引っ越し業者の人を見送って、酒寄と2人、空っぽになった部屋を眺める。
向こうでは芦花とかぐやが待っているはずだ。
「……全部なくなっちゃったね」
「だなぁ……」
思えば色々あった。
原作を近くで見たいからとここに引っ越してきて。
ゲーミング電柱からかぐやを拾い。
なし崩しで俺と酒寄とかぐやで過ごすようになり。
かぐやがライバーを始めて。
酒寄が倒れて、俺と口論になってしまったこともあった。
ボロアパートではあるけど、ここでの思い出全てが輝いている。
「朝来、ちょっと泣いてる?」
「年取ると涙腺がゆるんでいかんね」
「同い年でしょ」
「……そうだった」
「変なの。さ、私たちも行こっか。かぐやたちが待ってるよ」
いざ、新たな生活へ。
思い出全部タカラバコに詰め込んで、次のステージへ行こう。
「うおおおおお。すごいすごい!」
大袈裟に語りを入れたけど、別に新居はすぐそこではあるので、秒で着いた。
部屋に入ると、かぐやが段ボールそっちのけではしゃぎ回っている。
「はいはい暴れないの、荷ほどきをする!」
酒寄がかぐやを叱るが、テンションの上がったかぐやはまるで聞いていない。
さて、俺も自分の荷ほどきをしますかね……
ということで、マイハウスへ。
「お、圭戻ってきた」
「おまたせしました。もしかしてもう終わった?」
「まだまだー、重いの運ぶの手伝ってー」
芦花もこのタイミングで色々運び込むとのことで、俺と一緒に荷ほどき。
部屋のレイアウトを話し合って微調整したり、重い物を2人で運び込んだり。
俺も芦花もやるべきことはさっさとやるタイプなので、予想より早く終わった。
ところで。
「芦花さんや、これはなんだい」
「圭さんや、これはタンスですよ」
「……なんでタンス持ってきた?」
「いや、配信で使うかなって」
美容系っていうかコスメメインのチャンネルでしたよね?
チラッと見えた感じ、入ってるの明らかに芦花の普段着なんですけど?
「……じゃあこれは?」
「……パジャマ」
「パジャマ、いるかい? 泊まる気ですか?」
「……配信で使うかなって」
「無理があるだろ」
芦花さん何考えてるんです?
どっちみちパジャマ配信なんてえっなもの許しませんよ。
「まあ百歩譲って服はいいよ。で、これは?」
「……ぬいぐるみです」
「このぬいぐるみ、芦花のお気に入りのやつだよな? 見覚えあるし。今もこれがないと寝れないのかは知らないけど」
「……だってこっちで寝泊まりしたいんだもん」
「だもんて」
芦花の上目遣い攻撃にもさすがに屈しないぞ。
マジでこっちで寝る気なの?
さすがにいくらなんでも。
「あのな芦花。俺男、あなた女。同じ家で寝泊まり、倫理的問題。OK?」
「ノー」
「…………」
あなたそんなキャラでしたっけ?
なんかもっとこう、一歩引いちゃうキャラじゃなかった?
だから俺が積極的に行けって言い続けてたわけだし。
……もしかして俺のせい?
「……だめ、かな」
黙っている俺を見て機嫌を損ねたと思ったのか、弱々しく芦花が尋ねる。
……はあ、芦花がしたいならそれは極力叶えるのが、幸せにするってことか。
だが、許可するにも一つ聞いておきたいことがある。
それは。
「一つ聞かせて欲しいんだけど」
「うん」
「なぜ俺の家に寝泊まりしたいんだ?」
そう、理由を知りたい。
場合によっては協力もできるし。
やっぱり酒寄が好きとか、実はかぐやが好きだからとかでも全然いいぞ……!
芦花は、迷うように目線を左右に動かした後、こう言った。
「ほら、彩葉支えるのにも都合がいいでしょ?」
「あー……」
なるほどね。
「やっぱり酒寄のことs」
「彩葉は友達。これは絶対」
「はい」
やっぱ違うのか……
ちょっとがっかりしていると、インターホンが鳴らされた。
ドアを開けると、酒寄が立っている。
「あれ、合鍵渡したのに」
「いやさすがに……」
「それでどうした?」
「ちょっと買い物に出るから、何か買う物あるかって話と、かぐやのこと見張ってて欲しい」
「かぐやの方はわかった、任せて。買う物はちょっと待ってね」
俺の方はあらかた買ってたし、追加の収納用品なんかは自分で見たいので特にない。
なので、部屋の奥で荷ほどき中の芦花に声をかける。
「芦花ー、酒寄が『何か買う物あるか』ってー」
「うーん、じゃあシャンプーとコンディショナー、種類は彩葉にLINEしておくからー」
……住む気満々か?
「シャンプーとコンディショナーだって」
「……芦花もこっちに住むんだっけ」
「俺も同じ疑問を抱いてる」
首をかしげながら、酒寄は買い物へと旅立っていった。
スーパーすぐそこだけど。
俺は大方荷ほどきは終わっているので、かぐやの様子を見に行く。
男の荷物なんか大した量はないからね。
「かぐやさん荷ほどき進んでますかー」
「圭! 見て見て! 私さいきょー!」
かぐやはガチャガチャのカプセルを両目にはめた姿で出迎えてくれた。
荷ほどきは……進んでなさそうですね。
進める気もなさそう。
「おー、そんなさいきょーかぐやは荷ほどきも最速で片付けられるんじゃないかなー」
「えー、圭がやってー」
「いやいや、ここに住むのはかぐやなんだから、かぐやがわかるようにしないといけないでしょ」
「う゛ぇ〜めんどい〜」
「手伝いはするから一緒にやろうな」
すぐに興味が余所に向くかぐやをなだめすかしながら、荷ほどきをやらせた。
頑張ったおかげで、酒寄が帰ってくる頃にはなんとか見られるくらいにまでなった。
ほ、本当に疲れた……
帰ってきた酒寄はホットケーキミックスを買ってきていた。
ちゃんと荷ほどき頑張ってたらご褒美に、ということらしい。
なんだかんだ酒寄ってかぐやに甘いよなあ……
というか、なんかお母さんみたいな発想だなあ……
まあそんなわけで、ちゃちゃっとパンケーキを焼いて休憩タイム。
女子陣でワイワイパンケーキ焼いたり、果物切ったりして。
俺はパンケーキの生地かき混ぜたり、生クリーム泡立てたりしてたよ。
「おいしー!」
「うまーい!」
お店のパンケーキも美味いけど、自分たちで作ったら、こう、違う美味しさがあるよね。
「かぐやちゃん、私のも1枚食べる?」
「いいの!?」
「芦花、かぐやを甘やかさないで」
芦花は慈愛という言葉がピッタリな表情で、かぐやにパンケーキを差し出す。
芦花のこの聖母の如き微笑み、そしてかぐやの向日葵のような笑顔。
それを呆れたように、でも笑いを隠しきれない酒寄。
うーん、俺の夢見た光景がここに……!
「圭! 圭も1枚ちょーだい?」
そうだった、朝来圭とかいう不純物もいた。
「朝来はかぐやを甘やかさないでよ」
「うん、というか俺も食べたいのでだめー」
「えええええけちーーー」
俺に断られたかぐやがジタバタして、埃が立つからやめろと酒寄に怒られている。
マジで酒寄お母さんだなあ……
ひとしきり暴れた後、かぐやは思い出したように爆弾を落とした。
「そういえばさ、彩葉と圭ってお互い名前で呼ばないの?」
「「え」」
俺もまあまあ動揺はしたけど、酒寄の狼狽っぷりは凄まじかった。
俺の動揺が一瞬で収まるくらいには。
「いやえとあのそのでも」
「酒寄さん? 一旦深呼吸しようか」
「あー、また酒寄って言った!」
酒寄を落ち着けようとした俺に対し、容赦なく追い打ちをかけるかぐや。
まあ俺はいいのだ。
だって転生前は彩葉って呼んでたわけだし。
キャラから1人の人間相手に変わったとて、昔呼んでいた以上ハードルは低い。
「わかったわかった、彩葉って呼べばいいんだろ?」
「あわわわわ」
彩葉と呼んだ瞬間、酒……彩葉はさらに動揺し、ついには痙攣し始めた。
どうしたんですか本当に……
「芦花、これどういうこと?」
「あー……はあ……圭にはわかんないと思う」
芦花に助けを求めるも、首を振られた。
解せぬ。
「ほらっ、彩葉も!」
「けっ、けっkkkけっ」
「あはははは、彩葉ニワトリみた〜い!」
俺は限界オタクみたいだなって思ったよ。
それにしても、何がそんなに彩葉を動揺させてるんだ……?
俺にはわからない理由ってなに……?
「け、圭……」
「わ、彩葉顔真っ赤〜……でもアチアチじゃないね」
「……そんな真っ赤になりながら言われると俺も少し恥ずかしいんだけど」
謎にオーバーヒート寸前の彩葉、困惑する俺、面白がりながら彩葉の額に手をやるかぐや。
芦花は……感情がよくわからないんだけど。
それはどういう顔なんですか?
そんな感じで引っ越し初日は過ぎていった。
ちなみに彩葉が俺の名前を普通に呼べるようになるまで丸一日かかった。
最後の芦花の表情=親友と幼馴染みが仲良くて嬉しい+強力なライバル出現が確定して不安&燃える闘志
クソボケの圭には読み取れるはずもなく。
そんなんだから現文できないんだよ、圭。