残念、オリジナルエピソードでした!
中盤から彩葉視点になります。
引っ越しから数日が経ったある日。
午前中だけだった高校の夏期講習を受けた後、家に帰ると。
「圭、お邪魔してるよー」
「圭、おかえり! 今日のお昼ご飯はラーメンだよ! 麺から作るからね!」
芦花とかぐやがいた。
2人とも自室のようにくつろいでいる。
なぜ俺は学校があるのに芦花は行ってないのかというと、文理選択の違いだ。
夏期講習は任意だし。
「また勝手に入ってる……」
「でも私たちも」
「家賃出してるから」
「「ねー♪」」
それを言われてしまうと、俺は何も言い返せない。
とりあえず芦花とかぐやが仲良くしててよかったです……
俺の家に3人は少し狭いしかぐやが昼食の用意をするということで、隣の家に移動。
そっちでわいわいやっていると、彩葉も帰ってきた。
「彩葉おかえりー」
「おか〜」
「ただいまー」
芦花が玄関で彩葉を出迎えた。
お昼ご飯の準備をしているかぐやは、キッチンから声をかけている。
俺はちょっと今ゲームで手が離せなくて……
なので、チラッと目線だけ向けて挨拶。
「彩葉、お邪魔してます」
「圭もいたんだ。ゆっくりしてってね」
彩葉もようやく俺のことをすっと名前で呼べるようになった。
今では特に何事も無く呼んでくれる。
あれは本当になんだったのか、数学の応用問題より難しいねこれは。
そういえば、とかぐやが俺たちに話を振ってきた。
「彩葉と圭って一緒に学校行ったり帰ったりしないの?」
「彩葉は学校の人気者だからねー、一緒にいると色々めんどくさくって」
「ふーん?」
「私は別に良いんだけどな……まあ今日は進路のことで先生に呼ばれてたから」
説明する俺たちに対し、要領を得ない返事をするかぐや。
あれはたぶんよくわかってないな。
学校で会話してるだけでも針のむしろなのに、一緒に登下校しようもんならもう……ね。
まあ芦花といても同じなんで、ぶっちゃけ慣れてるといえば慣れてるけど。
最近学校でも二股とか言われ始めて、本当にチクチクとした視線を感じる。
俺が嘆いていると、かぐやがみんなに声をかけた。
「お昼ご飯できたよー!」
かぐやが麺から作ったらしいラーメンは、店で食べるより美味かった。
彩葉side
お昼ご飯を食べてしばらくのんびりしていると、芦花が声をかけてきた。
「彩葉、もし暇ならちょっと秋物の洋服見に行かない?」
芦花がこんな誘いをかけてくるのは、実は珍しい。
以前ならギリギリの生活を送っていた私に遠慮してだろう、服や小物といった買い物に誘われる回数は、カフェみたいな食べ物系と比べるとあまり多くはなかった。
これはなにか真の目的が……?
なんてね。
「いいけど……2人で?」
「うん」
「かぐやとか真実は?」
「今回は彩葉と2人で行こっかなって」
ふむ。
かぐやも真実も誘わないとは。
特にかぐやなんていつでも暇だから、誘わないってことは何か理由があるんだろう。
まあ、ギチギチスケジュールとかぐやのせいで、あんまり遊べてなかったもんなあ……
友人と親交を深めるのも大事なことだろう。
夏休みの勉強の進捗の悲惨さは、見て見ぬふりをした。
「わかった、じゃあ準備してくるね」
「30分後ねー」
芦花と2人、駅前の商業施設でウィンドウショッピング。
買わないのかと言われると……染みついた貧乏は、すぐには治らない。
芦花もわかっているのか、あまり勧めてくることもなかった。
というか芦花は何か買いたかったわけじゃないの?
やっぱり買い物は口実で、何か別の目的があったのか。
隣を歩く芦花の顔をチラリと窺うが、何かを言い出すような気配は無い。
やっぱ私の深読み……?
結局芦花が話を切り出したのは、一通りお店を回った後に入ったカフェの店内だった。
そう、かぐやに一段奪われた、あのパンケーキ屋さん。
あれもだいぶ昔のことのように感じる。
「彩葉、私と恋バナしよっか」
「こ、こいばな?」
こいばな。
コイバナ。
恋バナ?
自分と縁のなさ過ぎる単語を前に、変換に時間がかかった。
まさか芦花がそんな話を振ってくるとは思わなかったし。
「うん、恋バナ。彩葉はさ、好きな人、いる?」
「へ……」
好きな人。
好き、か。
生まれてこの方、恋なんてしたことがなかった。
自分のことに精一杯で、恋人はおろか友達すら自分からまともに作ろうとしなかったから。
もちろん知識としては知っている。
恋とは、「異性に愛情を寄せること、また、その心」を指す言葉。
もっとも最近は多様性の時代だ、別に相手は異性で無くともいいのだけど。
話が脱線した。
私は恋をしているのか?
私は本当の意味で恋なんて知らない。
だから、欲しいかどうかで考えてみよう。
かぐや。
七色に光る電柱から現れた、破天荒な月の姫君。
散々振り回されて、迷惑をかけられてきた。
でも、もうそれも日常の一部で、いなくなるなんて考えられない。
一生隣に居て欲しい、私のためにご飯を作って欲しい。
欲しい。かぐやが、欲しい。
朝来圭。
高校に入ってすぐに声をかけてくれた人。
色々助けてくれていたんだなと、周りを見る余裕のできた今ならわかる。
私が倒れたとき、母の呪縛に囚われていた私を、きっと嫌われる覚悟で救ってくれた。
そこまでしてくれる人が、他にどこにいるというのか。
欲しい。圭も、欲しい。
綾紬芦花。
圭と一緒に私を見守ってくれていた大切な……友達。
今は、友達。
ずっと無理をしてきた私を、慈愛の心で温かく包み込んでくれた。
同性ではあるし、きっと芦花はずっと前から圭のことが好きだ。
でも、圭にだけ向けられるあの眼差しを私も向けられたいし、あのぬくもりを手放したくない。
欲しい。芦花も、欲しい。
私は恋について何か勘違いしてるんだろうか。
普通恋って1人に対してするものだよね?
それとも、こんなに強欲な人間だったんだろうか。
でも、3人とも欲しい。
さっきお昼ご飯を4人で食べたあんな幸せな時間を、手放したくない。
私が考え込んでいると、芦花が口を開いた。
「彩葉もわかってるかもだけど、私はね、圭が好き」
やっぱり。
芦花はそのまま続ける。
「彩葉も、圭が好きなんだろうなって思ったから、今日2人で話せたらなって思ったんだけど」
「私は……」
一瞬、口ごもる。
世間的には許されないだろう。
きっと後ろ指を指されるだろう。
かぐやはともかく、芦花や圭が受け入れてくれるかもわからない。
それでも。
覚悟を決めろ、酒寄彩葉。
譲れないものは、絶対に譲るな。
欲しいものは、全て手に入れるんだ。
「私は、圭が好き」
やっぱりそうか、という顔をする芦花にかまわず、続ける。
「でも、かぐやも芦花も、同じくらい好き」
「えっ?」
そうだよね、困惑するよね。
恋のライバルかと思った次の瞬間、そのライバルから告白されてるんだもん。
でももう止まれないし、止まる気も無い。
「私は、全部欲しい。だからさ、芦花」
テーブルの上の芦花の両手を握りながら。
「芦花、私のものになって。それで、かぐやも、圭も、私たちのものにしよう」
頭の上にハテナマークを飛ばしている芦花。
まあそんなすぐに決められないかもだけど。
4人で、ハッピーエンドにしてやろうじゃないか。
「彩葉……あの……」
「いいよ、すぐに答えなくて。でもそれが一番みんな幸せじゃない?」
「そうかもだけど……」
「世間の目とか知らない。芦花にとって私の案が幸せかどうかで決めてほしい」
「えと……わかった……」
半ば放心状態の芦花の手を握って、私たちの家に帰る。
抵抗がないのを良いことに、指絡めてみたり。
全然芦花は何も反応しなかったけど。
もう数日後には、あのヤチヨとのコラボライブ。
かぐやにも話をして、圭と芦花を虜にできるよう頑張らなきゃ、ね。
本編で彩葉が暴走して、作者も頭を抱えています。
書き始めた段階では、芦花と彩葉がライバルとしてお互い頑張ろうする話の予定だったんです。
でも母親の呪縛は圭がぶっ壊してるからメンタル的には既に偽ED後彩葉に近いし、そこに芦花が刺激を入れて恋を自覚させたら、まあこうなる気はするし。
このあとどうなるんだマジで……