なんと、推薦文を書いてくださった方もいて。
一歩間違えればキャラ崩壊でバッシングの嵐だった世界線も見えましたが、皆さん欲深怪獣いろはのことを好意的に受け入れてくれているようでよかった。
今後とも応援よろしくお願いいたします。
残念ながら、今話からまた圭視点に戻りますが……
光陰矢の如し。
秋の日は釣瓶落とし……これは違うか。
8月下旬はまだ夏、アスファルトの照り返しが俺らをジリジリと焼き焦がす。
そういえばこの前、芦花と彩葉が2人で遊びに行っていたな。
俺はともかくかぐやまで置いていくのは珍しいなと思ったので、印象に残っている。
それ自体はいいのだが、なんか帰ってきた時に手を繋いでるし、芦花が帰宅後もしばらく放心状態で……
一体なにがあったんですかね。
もしかしてあれですか?
彩葉から芦花に告白あったとかですか?
いろろか来ますか?
来ちゃいますか?
閑話休題。
かぐやが来てから、時間が過ぎるのが本当に早い。
今日はコラボライブ当日。
俺はライブには参加しないので学校で模試を受けていたのだが、正直集中しきれなかった。
数学とか物化は仮にも理系ライバーやってるんでいけるけど、もう英語とか全く頭に入ってこなかった。
かぐやはリハーサル飽きてないだろうか。
彩葉はヤチヨとちゃんと話せているだろうか。
同じ模試(選択科目は違う)を受けていた芦花と試験の休み時間にすれ違ったけど、なんか魂抜けてそうだった。
後で一緒に勉強会しような。
一度家に帰って荷物置いてパパッと着替えて、彩葉とかぐやの……長いな、いろかぐの家に突撃。
隣だから一瞬で着くけどね。
インターホンを押すと、出てきたのは彩葉だった。
「おーっす、調子どうっすかー」
「いらっしゃい、圭。絶好調っすよー……って言いたいところだけど、正直緊張してる」
彩葉も最近、前にも増して壁がなくなった気がする。
軽口に軽口で返してくれる率も上がったし。
嬉しいことですね。
「……ねえ、圭」
彩葉は、意を決したようにこちらを見てきた。
急にどうしたんだろ。
「どうした?」
「ライブ前に緊張ほぐしたいからさ」
彩葉はスッと息を吸って、言った。
「少しの間、手を握って欲しいな」
「……そんなことでいいなら」
彩葉の口から出されたのは、謎のお願いだった。
それで緊張がとれるのかはわからないけど……
まああの彩葉がお願い事できるように、他人に頼れるようになったんだ。
応えてあげねば男が廃るというもの。
原作のミニライブで彩葉とヤチヨが握手してたみたいに手を繋いで。
それから、少しでも勇気を送れるようにと、軽く手を握りしめる。
彩葉は目をつむっていて、何を思っているのかはわからない。
「よし」
しばらくそのまま手を握っていると、目を開けた彩葉から追加の要求。
「最後に、なかよしのやつ、やろ」
「いいね」
チョキぶつけて、ガオーからのチュッ。
何度やっても、自分のライオンが入っているのが気恥ずかしい。
「じゃあ、行ってきます。私のこと、ちゃんと見ててよね」
「……おう」
彩葉はほどよい緊張感を漂わせながら、配信部屋に入っていく。
キリッとしたその顔があまりにも魅力的で、俺は返事をするので精一杯だった。
コラボライブの会場は、あり得ないほどの熱気に包まれていた。
観客たちは、これから始まる唯一無二の
関係者ということで特等席にいる俺たちも、当然その一員であった。
いやだって楽しみだろ!
前世ではスクリーンで見てきたあのライブを!
VRとはいえツクヨミ内最前の席を用意されて!
いろかぐヤチのファンサを死ぬほど浴びることができる!
超かぐや姫の一ファンとしてこんなに幸せなことがあろうか、いやない。
「ライブ楽しみだね〜」
「そうだね。彩葉がこんな大舞台に……」
となりにいる芦花と真実もかなりわくわくしている様子。
会場の照明が一時的に落とされ、ステージの上に人影が現れた。
ライブの始まりを察した観客達が、息をのんで見守る。
そしてしばらくの静寂の後、スポットライトがパッとヤチヨを照らし出した。
「ヤオヨロ〜☆」
いつも通りの挨拶、いつも通りの始まり方。
でも俺は知っている。
ヤチヨは8000年の間、この瞬間を何億回も夢見てきたことを。
「みんな生きるのはどうですか? 良い事あった? それとも泣いちゃいそう?」
会場からいろんな声が上がる。
些細だけど幸せだった事、下を向きたくなるような不幸だった事。
観客の声を聞いてうんうんとうなずいた後、ヤチヨは続ける。
「よしよし、全部大丈夫。どんなに孤独な道のりでも、楽しかったなーって記憶が足元を照らすよ。この時間も忘れられない思い出にしたいから……どうか一緒に、踊ってくれる?」
ライブはあっという間に終わってしまった。
ワールドイズマインは3人ともめちゃくちゃ可愛かったし、Ex-Otogibanashiは踊りも歌もめちゃくちゃ感動して泣いたし……
まあこの辺は語り始めると無限にしゃべれてしまうから一旦置いておくとして。
あとはそうだな、彩葉が最初から楽しそうにしてたのは良かった。
手をにぎにぎした甲斐がありました。
かぐやもすごく楽しそうで、お父さん嬉しいです。
2人とも何度か目が合ったし、彩葉がこちらに向けて積極的にファンサしてくれて嬉しかった。
破壊力やばかった。
今はヤチヨがライブを締めるためにしゃべっているところ。
あれだね、原作だと後ろでかぐやが彩葉に結婚しよっかなって言うシーン。
……そう、つまりこの後月人が来るはずだ。
そこまで考えたところで、急にアバターの操作が効かなくなった。
あれ? え? なんで?
バグ?
このタイミングで?
慌てて強制ログアウトを試すが、できない。
一切の操作を受け付けないバグなんて聞いたこと無いぞ。
……いや待て。
月人が襲来するこのタイミング。
原作であった、数人の観客がリョウサン型月人に変化するシーン。
ということは、まさか……
その瞬間、俺が、いや、全人類が知り得るはずのない何かを見た。
そこで、意識が途絶えた。
「ん……?」
知らない天井だ。
……ノリでとりあえず言ってみたが、本当にここはどこだ?
周りを見回すと、規則正しい電子音を響かせるモニタや、俺の腕に繋がれた点滴の管があった。
そっか、病院かぁ……
時計を見ると、夕方の6時。
日付は……わからん、あとで聞こう。
だんだんと思い出してきた。
コラボライブの最後、月人にアバターを乗っ取られた。
その乗っ取られる過程で、スマコン経由で色々脳に情報を叩き込まれたことが原因で、負荷がかかって倒れたってわけ。
彩葉がFUSHIから8000年分の記憶入れられてぶっ倒れてたのと一緒。
量は比較にならないほどこっちが少ないけど。
どんな情報を突っ込まれたのかって?
それはね……
がらがらっ
「圭、来たよ……って圭!? 起きてる!?」
「圭! よかった、二度と起きなかったらどうしようって……」
「よかった……! 私看護師さん呼んでくる!」
それぞれ彩葉とかぐや、それから芦花。
彩葉とかぐやは目に涙を浮かべながらこちらに飛びついてくる。
芦花はそれを見てから、看護師を呼びに行った。
芦花にも飛びつかれたかったなーなんて言ったら怒られるかな。
あと彩葉ってそんな素直に感情表現する子でしたっけ。
なんか原作の彩葉とどんどんズレが大きくなっていくなあ、こっちの彩葉も好きだけどさ。
「あー……ご迷惑おかけしまして」
「ほんとだよ、まったく……」
我に返って恥ずかしくなったのか、俺から離れてそっぽを向きながら返事をする彩葉。
いとかわゆし。
それとかぐやさんや、腹にめりこんで痛いから、無言で頭を押しつけてぐりぐりするのやめておくれ。
その後芦花が看護師を連れてきてくれて、いろいろ検査して。
何も異常が見られなかったので、念のため病室で一泊してから退院した。
病院食って味は別に我慢できるけど、食べ盛りには全然量が足らないな……
原作小説版でもライブシーンはカットされていたので、それに習ってこちらでもカット。
原作とのライブでの相違点としては、彩葉が最初から緊張していなかったことと、彩葉とかぐやのファンサが他人にはわからない程度に圭個人に向けて行われていたこと、そしてかぐやの「彩葉と結婚しよっかな〜」に対する彩葉の返答。
圭の意識がないので描写はありませんが、「おいたはだめだよ〜」とかその辺は原作と同じ流れになっています。