ライブのあった次の日に退院して、迎えに来てくれたみんなと家に帰ってきたのだが。
「圭はゆっくりしてて、私たちが全部やるから」
「お昼ご飯なにがいいかな、やっぱおじや?」
「圭、水飲む? 具合悪くなったらすぐ言いなね」
彩葉もかぐやも芦花もすごい過保護というか、何もさせてもらえない。
今も彩葉と芦花に両脇をがっちり固められている。
例えばトイレに行こうとしても、
「圭? 取りたい物あるなら取ってくるよ」
「いや、お手洗いに……」
「わかった、ついて行く」
「トイレくらい1人で行きたいんだけど?」
「だめ、また倒れられたら嫌だから」
みたいな感じ。
プライバシー、なし!
真実、笑って見てないで助けてくれよ。
「真実……」
「急に倒れて心配かけた圭くんの自業自得でーす」
ぴえん。
みんなは、俺が倒れた原因は過労だと思っている。
本当は全然違うのだが、まあそう思ってもらった方が楽だし。
他の人から俺がどう見えていたのかとか、あのライブであの後何が起こったのかについては、後から聞いた。
ライブが終わりかけたときに、俺のアバターにノイズがかかり、変な頭をしたもの(おそらくリョウサン型月人の姿)に変わったこと。
そしてそのまま、そのアバターがかぐやに襲いかかったこと。
ヤチヨも何が起きたのかよくわかっていなかったこと。
2030/09/12という日付がモニターに表示されていたこと。
芦花から連絡を受けた彩葉とかぐやが合鍵使って俺の家に入ったら、俺が倒れていたこと。
かぐやは彩葉が倒れたとき以上に動揺したらしい、俺の意識が無かったから。
かぐや曰く、彩葉も俺が病院に運ばれるときには泣きそうだったと。
芦花も夜中なのにわざわざ病院まで駆けつけてくれたらしい。
真実も言葉の端々から本気の心配を感じ取れた。
なんかホント申し訳ない……
いや、自分ではどうしようもなかったのだが。
俺にできるのは、元気アピールだけである。
とりあえずお昼ご飯おかわりしてやろう。
お昼ご飯を食べてしばらくした後、彩葉が俺を自室に連れ込んだ。
そう書くといかがわしいが、単に内緒話をしたかっただけだと思われる。
「あのさ、かぐやのことなんだけど」
「うん」
「……その、月に帰っちゃうんじゃないかって思って」
彩葉が言うには、かぐやが月人に腕を掴まれて、それから様子がおかしいと。
昨日の夜俺のことが一段落した後も心ここにあらずで、時折何も無いはずの空間をじっと見ている。
でも何も言ってくれないし、俺のことがあったから聞く暇も無かったそうだ。
それから、2030/09/12は満月で、リョウサン型月人(彩葉はそんな言葉知らないが)は明らかにかぐやを狙っていたと。
一通り俺に根拠を説明した彩葉は、そのまま続けてこう言った。
「私はさ、かぐやに帰って欲しくない。ずっと隣に居て欲しい」
……少々驚いた。
この時期の原作彩葉は、かぐやとの会話を怖がって、結局花火大会まで何も言えなかったはず。
芦花真実にかぐやの様子を聞かれた時にも誤魔化してたし。
何が彩葉を変えたのかわからないし、それがハッピーエンドのために良いのかもわからないけれど。
まあ、俺はこっちの彩葉の方が好きかな。
「圭は、どう?」
彩葉はこちらを窺うように見ている。
そりゃあまあ。
「帰って欲しいわけはない」
けど、あらがえない運命なのもまた事実で。
……どうしたものか。
「かぐやとはまだ話はしてないんだよな?」
「うん」
「じゃあまずはちゃんと話さないと。まだ帰ると決まったわけでもないし」
心にも無いことを言ってんな。
自嘲しながら、でも、これ以外に特に思いつかないし。
「そうだ。そういやちょっと離れたとこで今日花火大会あるらしいし、かぐやと2人で行ってくるといいよ。花火見ながら、ゆっくり話してきな」
「圭は一緒に……いや、病み上がりだしキツいか」
「そういうこと。俺のこと心配なら、今日は芦花にこっち泊まってってもらえばいいし」
原作と違う彩葉がかぐやとどのような話をするのかは気になるが……
2人きりの方がいいだろう。
「そういうことなら、わかった。でもなんて誘おうかな」
「そんなのなんでも良いでしょ」
「そうかな」
「そりゃもう。スマホで花火大会のホームページでも見せて『あそぼー?』って言えば、かぐや飛び跳ねて喜ぶよ」
「ふふっ、そうだといいけど」
原作通り「あそぼー?」と彩葉に誘われたかぐやのはしゃぎっぷりは凄まじかった。
その場で浴衣のレンタルを予約し、着替えもせず今すぐ行こうと彩葉の手を引いていた。
最初俺と芦花の分まで予約しようとしてたから慌てて止めたけど。
かぐやは少し不満そうだったが、説明したら納得した。
まあ、俺の体調を理由にされたら納得するしかないんだろう。
夕方になって2人は出かけ、今は芦花と2人きり。
2人でソファに座ってだらだらスマホを弄っていると、芦花が話しかけてきた。
「あのさ、圭」
「んー?」
「彩葉とかぐやちゃんを変に心配させたくなかったから言わなかったけどさ」
「うん」
え、なに。
「ほんとは、過労じゃないよね?」
「……」
柄にもなく動揺した俺は、芦花の目を見た。
質問の体ではあったけど、確信に満ちた目。
……これはごまかせないかなあ。
「まあ……ね」
「圭が言いたくないなら言わなくてもいいけど、ほんとはなんで倒れたの?」
「それはな……」
スマホを置いて、芦花に向き直る。
転生者だってとこ以外は、ちゃんと嘘はつかずに説明しよう。
芦花相手に不必要な隠し事はしたくなかった。
なぜかスマコン経由で月人から脳に直接情報を流し込まれたこと。
具体的にいうと、月の世界とはどのようなものなのかとか、月の世界でかぐやがどんな存在だったかとか、月人はなぜこのタイミングでかぐやに接触したのかとか、その他もろもろ。
まあ正直ほとんどは原作で明かされた内容だったんだけどね。
それでぶっ倒れるんだから、原作彩葉さんはなんで8000年分の記憶流し込まれて耐えられるのかわからん。
あと、乗っ取り被害は他にもあったのに、俺だけがそういう目にあったのは謎。
全てを聞いた芦花は、自分の中で情報を咀嚼するように二、三度うなずいた後、俺の肩にコテンと頭を乗っけた。
なんだこの可愛い生き物。
そんな可愛い芦花さんは、少し声を震わせながら俺に聞く。
「……圭は、人間だよね?」
「もちろん」
芦花に不安に思って欲しくなくて、ノータイムで応えてやる。
転生したってだけで、前世も今世もちゃんと人間だよ。
……俺は、そう信じてる。
夜。
花火大会から帰ってきたかぐやは、俺と芦花にも月に帰ることを発表した。
運命を受け入れたかぐやの話し方が、すごくかぐやらしくなくて。
でも成長ってこういうことなのかなあとも思った。
かぐやと彩葉は、実はかぐやが月生まれだと芦花が知っていると思っていないので、すごい秘密を打ち明ける感出してたけど、俺が最序盤にばらしてたからね。
芦花は素直に驚いて、それから、かぐやの意思を尊重すると言った。
芦花はそういう子だからな、強い子だ。
俺は……どうリアクションをとればいいのかわかんなかった。
帰って欲しくないと駄々をこねることもできず、だからといって素直に送り出すには少しばかり仲良くなりすぎた。
かぐやと出会った頃なら素直にさよならできたのに。
ただただ、さみしい。
いや、月に帰るってことくらいわかってたはずなんだけど。
この後、彩葉がかぐやを再び現世に連れてきてくれるはずだと知っているけど。
もうこの世界は俺にとって「超かぐや姫!」の世界ではなくて、たくさんの人間が複雑で自由に動く現実世界で。
そうである以上、知っている未来は当てにもならないし、何より、俺は今の日常をもう一瞬でも手放したくなかった。
……でも、どうにもできない。
結局、言いたいこと全て飲み込んで、「俺もかぐやがそれでいいのなら」と返事をした。
その瞬間、彩葉が絶望したように肩を揺らしたのが目に入った。
俺だって受け入れなくていいなら受け入れたくないよ。
そんな想いを言葉にできるわけもなく、部屋に戻ってから1人で泣いた。
エアコンの駆動音が、俺のすすり泣く声を上書きして消していた。
この作品読み返したら、つたない伏線を張っておきながらその後の暴走で無意味になった箇所がいくつかある……
これもまたweb小説らしさですかね。
ちなみに作者としては感想欄での考察、展開予想などオールオッケーです。
当たり障りのない返信しかできませんが、当たってようと外れてようと作者がニヤニヤ読みます。
読者に当てられたからって展開変えるとかも絶対無いんでね。
そんな言うほど深い謎とかないけど……