転生オリ主は綾紬芦花を幸せにしたい   作:天戸 蒼香

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君は一体……?

「やあやあASAKくん、よくぞ来てくれた!」

 

きっかり15分後にログインすると、ヤチヨが出迎えてくれた。

原作含めても見たことのない場所。

最上階ではないけど、ヤチヨがいる天守閣ではありそう。

 

「どうも、お会いできて光栄です」

 

相手はツクヨミ管理人、とりあえず敬語で。

こっちは正体知ってるんだけど、なまじっか知ってる分どう接すれば良いかわからない。

 

「そんなかしこまらなくていいのに〜、ため口でいいよ!」

「そういうことなら」

 

お互いの出方を見極めあうような、じれったいやりとり。

ヤチヨは何のために俺を呼んだのか。

 

「それでさそれでさ、今日呼んだ理由なんだけどもね?」

 

ヤチヨは思ったより早く本題に踏み込んできた。

芝居がかっている言葉選び、芝居がかった口調。

何重にも重ねられた壁の向こう、ヤチヨの内心やいかに。

次のヤチヨの台詞は、何が出てくるか身構えた俺も驚愕する一言であった。

 

「君は一体何者なのかな……朝来圭くん」

 

風を感じるはずのないツクヨミで、冷たい風が吹いた気がした。

ヤチヨは……俺のことを知らない?

 

「かぐやいろPとのコラボライブのときのこと、覚えてる?」

 

俺の沈黙を情報不足による混乱と捉えたらしく、ヤチヨは説明を始めた。

 

「ああ。あのライブ、とても良かったよ」

「そういってもらえて、感謝感激雨アラモード! それでさ、最後に複数アカウントが乗っ取られる被害があったんだけど」

「俺もその被害者だからよく知ってる。エラい目に合ったよ」

「うんうん、大変だったねえ。それで、調査のために、被害にあったアカウントを調べたんだけど、圭くんだけおかしくてさ」

 

俺だけ?

いやまあスマコン使用者がぶっ倒れたってニュースが出ない時点で、あの現象は俺だけなのかとは思っていたが……

おかしいとは一体。

 

考え込む俺にたたみかけるように、ヤチヨは続けた。

 

「基本的にね、ツクヨミのアバターって現実世界の体が基準でしょ?」

「そうだな」

「初回ログイン時は、スマコンからいろんな生体データを読み取って、それを元にツクヨミでのアバターを組み上げる。だから、チュートリアルが始まるまで少し時間がかかるんだけど」

 

はて、チュートリアルにそんな時間がかかった記憶は無いが。

ヤチヨの話がよく見えない。

俺にわかるように筋道立てて説明しているんだろうが、結論が遠くてじれったい。

 

「圭くんは最初からツクヨミにアバターを組むためのデータがあったんだよ。なんなら今も、スマコンで肉体の動きを検知するんじゃなくて、スマコンに直接データが入力されてるんだ。……そう、かぐやみたいに」

 

かぐやみたいに?

おい、それって、つまり。

 

「はっきり言うね」

 

自分の足元から地面が崩れていくような感覚。

ヤチヨは、俺の喉元に、言葉の刀を突きつけた。

 

「圭くん。君は月人なんじゃないのかい?」

 

………………そんなはずはない。

俺は、確かに転生者であって、他の人と違うのはそうだが。

でもちゃんと母の体から出てきて、両親に大事に育ててもらって、同級生と同じように成長して、何か超常的な現象を起こしたこともない。

月のことなんて原作で知った以上の知識はない。

そんな普通の……普通の人間の、はずだ。

 

「俺は……月人なのか?」

「……自分でわからないの?」

 

ヤチヨの芝居がかった口調が初めて崩れた。

その理由を考える余裕など、今の俺には無かった。

 

俺が月人だとしたら、この体も偽物なのか?

だが、現実世界の俺の指先が冷え切っているのがはっきりとわかる。

この感覚が、皮肉にも逆に俺の実在を証明していた。

 

その考えに少し落ち着くと、違った発想が出てきた。

俺がただの人間じゃないなら、逆に何かできることがあるんじゃないか。

 

「俺に月の記憶なんてないよ」

「じゃあ」

「俺はね」

 

何かを言おうとするヤチヨを制して、俺は言葉を重ねた。

ヤチヨに全てを明かしてしまおうと思った。

隠し事はなしだ。

というか、自分が何者なのか知りたかった。

自分に何かできることはないか、一緒に考えて欲しかった。

そのためには、隠し事をしている場合ではなかった。

 

「俺は、違う世界の記憶を持って生まれてきたんだ」

 

俺のカミングアウトに黙り込むヤチヨ。

とりあえず話は聞いてくれそうで良かった。

長くなりそうだから、と断って、俺はあぐらをかいて座り込む。

ヤチヨが対面に座ったのを確認して、俺は口を開いた。

 

「それは、『超かぐや姫!』って物語のある世界。限界ハイスペ女子高生酒寄彩葉の元に月から破天荒お姫様のかぐやがやってきて、2人でヤチヨカップを勝って、コラボライブをやって……そして月に帰ってしまう、そういう創作が大人気になった世界」

 

ヤチヨは何も言わない。

混乱しているのか、こちらを窺っているのか。

 

「俺はこの物語の結末の、更に先を知ってる。かぐやが帰った後何が起きるのかも、彩葉が何をするのかも……月見ヤチヨの正体も」

「っ」

 

ヤチヨが動揺して肩を揺らす。

まあいきなり正体知ってるなんて言われたら動揺するか。

 

「俺は転生してこの世界に来た。芦花を幸せにするという使命を持って、生まれてきた」

 

ヤチヨはやはり何も言わない。

言わないと言うより、何も言えないのかもしれない。

 

「でも、前世も今世も、普通に人間として暮らしてきた。月の事なんて、物語の知識以上のことは知らない」

 

確かにコラボライブの時に、脳に謎の情報を突っ込まれたが。

別に月の重要情報とか何も無かったからな。

 

「これで俺の話せることは全部。今度はヤチヨが話す番だよ」

「…………」

 

俺の話した内容をかみ砕いているのだろう、ヤチヨはしばらく何も言わなかった。

もしかして拒否?

と俺が少し困惑し始めた頃、ようやくヤチヨは口を開いた。

 

「その前に一つ聞かせて。私の正体、本当に知っているの?」

 

震える声。

何かに怯えるようなヤチヨの視線。

……そんな顔させたかったわけじゃないんだけどな。

 

「そうだなあ……彩葉の歌を聞いて地球に帰ってこようとして、でも隕石にぶつかっちゃったんだよな。その後も辛いこと、苦しいこと、たくさんあったって俺は知ってる」

 

ヤチヨが目を見開いている。

そうして目がまん丸になると、かぐやの面影があるよなあ。

 

「8000年間の長旅よく頑張ったな、かぐや」

 

俺にできる最大の慈愛を込めて、ヤチヨに微笑みかける。

ヤチヨの反応は劇的だった。

 

「っっっ……私は……ヤチヨはあなたのこと知らないのに……」

 

やっぱそうだったか。

それでもなあ、原作も知っててかぐやとあれだけの時間を過ごして、俺はヤチヨのこと知らない人とは思えないよ。

でも向こうからしたら不愉快だったかな。

そんなことを考えていると。

 

「ごめんっ」

 

ヤチヨが胸元に飛び込んで来た。

そのまま俺の胸で泣きじゃくるヤチヨ。

 

……すごい頑張ったんだもんな。

8000年、たった1人で。

知らない人である俺の胸で泣いてしまうくらいに、長く孤独な道のりを歩いてきたんだ。

 

「少しだけ、少しだけだから」

「いいよいいよ、むしろ嬉しいよ俺は」

 

おっかなびっくり頭を撫でてみたりして。

ヤチヨは振り払わなかった。

こちらとしては感覚なんて無いんだけど、でも確かに暖かいものがあって。

ヤチヨもぬくもりを感じてくれていると、嬉しい。

しばらくそのまま、ゆっくりと流れる時間を感じていた。

 

 

 

「整理するけど、圭に月人の自覚はない」

「うん」

 

ひとしきり涙を出し切ってから、状況の整理に入る。

 

「ヤチヨは圭のことを知らないし、他の世界から来たってことは輪廻の外から来た可能性が高い」

「そうなるな」

「圭の正体はどうでもいいとして、どうやってかぐやを月人から守るかだね」

「……俺にとっては大事なんだが」

 

怒濤の展開過ぎて動揺は収まったが、俺にとってはアイデンティティの危機なんだが。

ヤチヨは一瞬「そりゃそうか」という顔をした後、人差し指を立てて俺に解説してくれた。

 

「今の最優先目標は?」

「かぐやを帰らせないこと」

「その通り! 申し訳ないけど、圭の正体は後回し。彩葉やかぐやの味方だってことがわかれば、今はそれでいいからね」

 

まあ、それもそうか。

それにしても、少しづつヤチヨらしい口調が戻ってきたな。

少し気になったことがあるし、今なら聞けるか。

 

「あのさ、かぐやの運命を変えること、ヤチヨは良いのか?」

 

少し曖昧な聞き方になってしまったが、しっかり伝わったようだ。

ヤチヨははっきりと答えてくれた。

 

「さっきも言ったとおり、私たちは今、輪廻の外に片足出てる」

「ふむ」

「つまり、今のかぐやを私みたいにしない、最大のチャンスなんだよ」

 

なるほど。

つまり、この輪廻を断ち切る望みがあるから、それなら賭ける価値があると。

 

「そして、圭。圭が、私たちを輪廻の外に引っ張り出すんだよ」

「……そりゃまた責任重大な」

 

急にすごい重い責任を背負ってしまった。

でも。

 

「俺のことそんなに信じて良いの?」

 

俺の問いかけに一瞬きょとんとしたヤチヨは、なんだそんなことかと笑った。

 

「彩葉とかぐやのことずっと見てたから、圭のこともそれなりに知ってるけどさ」

 

ヤチヨは立ち上がって、向こうへ数歩歩いてから、振り返って言う。

 

「もう一人の私があんなに懐いてて、彩葉も信頼してるみたいだし。それにヤチヨにあんな優しい顔向けてくれたんだもん。信じるに決まってんじゃん?」

 

最後の言い方が少しかぐやっぽくて。

かぐやの自称父としては、その信頼に応えないわけにはいかないよな。

やってやろうじゃないの。

 

と意気込んだところで、ふと一つアイデアが降りてきた。

 

「そういやヤチヨ、俺って月人みたいな構造してるんでしょ?」

「そうだよ?」

「じゃあさ……」




というわけで、設定開示回でした。
どうでしょうか、皆さんの予想は当たっていましたでしょうか。
この設定は割と序盤から変えていないので、矛盾は無い……といいのですが。

そんじゃ私は7回目の超かぐや姫!をキメてきます。
さらば〜い☆
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