彩葉視点、継続!
私の家をくまなく探したけど、圭はどこにもいなかった。
そもそも圭はこういうときにふざける人じゃないし、何かあったに違いない。
でもなんでいなくなっちゃったの?
圭本人が何か痕跡を残していないだろうか、と思った。
だから、芦花と2人、合鍵を使って慌てて圭の家へ。
最後に意を決して踏み込んだ圭の部屋、机の上にその書き置きはあった。
『ちょっくら月いってくるわ笑』
………………は???
あいつは何を書き残してくれてるんだ?
思わず紙を握りつぶしそうになったが。
「待って彩葉、2枚目がある」
耐えた。
いくら好きな人でも、いや好きな人だからこそかな?
腹が立って仕方がない。
すごく心配したし、すごく動揺したのに。
私のこの気持ちを返して欲しい。
私がこの気持ちを空想の圭にぶつけていると、芦花が息を一つ吸って、圭の書き置きを読み上げ始めた。
『1枚目でふざけてすみませんでした、ハッピーエンド迎えた後になんでもします』
「ふーん……なんでも……」
「彩葉……?」
「ごめん大丈夫、続けて」
ちょっと変なところに食いついてしまった。
『というわけで月に行ってきます』
『なんで俺だけ行けるのかについては深い理由がありまして』
『それを話すには余白が狭すぎるので、これも帰ってきてから話します』
「……芦花も知らないの?」
「うん……」
大きな隠し事をされていたのは、正直少しショックではある。
ただ……芦花にも明かしていなかったのなら、よほどのことなんだろう。
全てが終わったら、全部聞き出してやる。
『俺のことは心配しないでください。かぐや連れてそのうち帰ります』
『芦花へ 家の管理とか諸々頼む。帰ったらどこか一緒に出かけましょう』
『彩葉へ 月であの曲の完成版を聴くのを楽しみにしてる。本当のハッピーエンドはこれからだぞ』
「圭……」
「本当のハッピーエンド、か……」
……なんで圭があの曲の完成をわざわざ書いたのかはわからないけど。
私だって、かぐやを諦めてたまるもんか。
欲しいものは、全て手に入れる。
そう決めたじゃないか。
あの曲を作り上げて、かぐやと圭に届けるんだ。
そして、月に乗り込んで2人を取り返す。
圭は「そのうち帰る」と言ってはいるけど。
ただ待ってるだけなんて、そんなの私らしくない。
強い覚悟を持って芦花を見ると。
芦花もまた、覚悟を決めた顔でこちらを見ていた。
……綺麗な顔してる。
かぐやと圭と、同じくらい大好きな顔。
「私、全部諦めたくない。かぐやと圭と一緒にいたい」
「私も。圭とも、かぐやちゃんとも、やりたいことまだいっぱいある」
もちろん、そこに芦花もいて欲しい。
4人で暮らしたこの2週間を思い返す。
朝ごはんの匂いも、くだらない軽口も、全部が愛おしくて。
全部が私の日常だった。
それを今更月に奪われて、簡単に引き下がれるわけがない。
だからさ、芦花。
前にも言ったけど。
「もう一度言うね。芦花、私に芦花の全部をください。2人で、かぐやも圭も月から奪い返して、最高のハッピーエンド、作りませんか?」
「……うん、うんっ! いいよ、私の全部、彩葉にあげる」
「……ありがと」
……嬉しい。
無きそうなほど、嬉しい。
でも泣いてる場合じゃない。
これからもっと頑張らなきゃいけないんだ。
……でもちょっとだけ。
「芦花、芦花が私のものになった証拠、欲しいな」
「えっと……」
「目、閉じて」
ほんの少しだけ背伸びして。
ゆっくりと距離を詰めていく。
そして、月明かりが作る私たちの影が、重なった。
……はじめては、柔らかい以外よくわからなかった。
私だって精一杯だったから。
芦花の顔は、青白い月光に照らされ真っ赤に火照っていて。
でもきっと、私の顔も同じ色。
それから、バイト先に休む連絡をして、真実にも心配しなくていいよと連絡して。
キーボードとか諸々私の部屋に引っ張り込んで、準備完了。
芦花も学校を休んで私の面倒見てくれるっていうから、甘えることにした。
「まあその、私は彩葉の……恋人?だし、そばにいてあげることしかできないから」
恥ずかしがりながらそんなことを言う芦花があまりにも可愛くて、思わず抱きしめてしまった。
それはさておき。
芦花、真実、バイトの後輩。
みんなにありがとうと心の中で頭を下げて、それからキーボードに向かう。
キーボードを通して、かぐやと向き合う。
かぐやが欲しい、かぐやと一緒にいたい。
ただそれだけの純粋な気持ちを、曲に込める。
朝、用意してもらったパンを食べて、キーボードに向かう。
お昼になったら芦花とご飯を食べて、芦花をぎゅーっとしてからまたキーボードに向かう。
芦花の作った夜ご飯を一緒に食べて、お風呂に入って、お風呂上がりのスキンケアとかを芦花にやってもらう。
その間ずっと曲のことだけ考える。
夜芦花が寝る前にまたぎゅーっとして、キーボードに向かう。
行き詰まったら、思い出したように少し眠る。
夢の中でかぐやと会う。
起きたらまた曲を作る。
途中、お母さんと電話越しの大喧嘩もした。
自分の道を進むために、お母さんと決着を付けなければいけなかった。
大切な人ができたこと。やりたいことができたこと。
伝えるべきことを、伝えるべき分だけ伝えた。
当然、お母さんはすぐに認めてはくれなかった。
それからはもう200km離れた壮絶な親子喧嘩だった。
夜中だったけど、芦花に隣で手を握ってもらって、負けじと言い返し続けた。
あんなに怖かったお母さんが、全然怖くなかった。
私には譲れないものがあるし、芦花というかけがえのない人も隣にいるんだ。
言い合いで負けるわけにはいかなかったし、負ける気もしなかった。
そして最後には、こう言わせたんだ。
「ええよ、やってみ」
そんな感じの生活を3日くらい続けて。
「できた……!」
ついにできた。
すごく苦戦した気もするし、案外すんなりできたような気もする。
「芦花、芦花! できた!」
時計を見ると、夜中12時を過ぎた頃。
まだ南中までは行っていなさそうな月が、上を目指して上っている。
たぶん、居待月かな。
座って待つ月。
でも私は待たない。
いつまでも上らない月なんて、こちらから引っ張り出してやる。
寝ていた芦花を起こして、寝ぼけ眼をこする芦花の手を引いてベランダに連れて行く。
起こしてごめん、でも芦花も一緒に聴いて欲しかった。
かぐや、見ていますか?
私、頑張ってかぐやの楽しみにしてた曲、完成させたよ。
お母さんとも向き合えたし。
言いたいこと、やりたいこと、全部この曲に詰め込んだ。
待っててね、今から迎えに行くから。
圭、聴いていますか?
圭が勝手に月に行ったこと、私も芦花も怒っています。
今も2人ですごく心配しています。
帰ってきたらいっぱい説教して、それから力一杯抱きしめて逃がさないから。
覚悟してよね。
右手でかぐやのくれた銀のブレスレットを、左手で芦花の手を。
強く握って、歌う。
芦花も月をまっすぐに見て、一緒に祈る。
決して上手い歌声でははないけれど。
月まで届け、この想い。
一晩、喉が枯れるまで繰り返し歌った。
芦花も途中から覚えてきて、一緒に口ずさんでくれた。
夜更かしは美容の大敵なのに、最後まで付き合ってくれてありがとう、芦花。
……あの曲を、Replyを歌っていて、一つ、気づいたことがある。
月見ヤチヨ。
私の女神様。
なぜヤチヨの曲はあんなに私に刺さるものばかりだったのか。
なぜヤチヨはいつも全てを見通したように笑っていたのか。
なぜ圭は置き手紙でReplyの完成を要望したのか。
ヤチヨは…………貴女は、私たちの全てを知っているんじゃないですか?
総合評価が2943pt突破した……
やっとここまで来れたね……というか、こんなとこまで来ると思ってなかったんですが。
立川行こうと出かけたら富士山連れてこられた気分。
作者は果報者なのです……感謝、感激、雨アラモード!
皆さんと一緒に月まで行きたいので、最後までお付き合いよろしくお願いします!
ちなみにいろろかの影が重なるシーン(婉曲表現)、書いててキモオタスマイルやめられなかった。
みなさんの口角も天井に突き刺さってるといいな。