私は本来読み手なのに〜……
というわけで、なんと、芦花視点に変わります。
あと先に言っておきますが、月と地球の時間関係はてきとーです。
そういうものだと思ってもらえれば。
気力を振り絞って家に帰ってきた私は、崩れ落ちるようにソファーに座った。
正確には圭の家であって、私の家じゃないんだけど。
怒濤の1日だった。
深夜、曲が完成したと彩葉に起こされて、すごくびっくりしたな。
その後、夜通し2人で月に向かって歌った。
それで朝また彩葉に起こされて、わけのわからないまま連れ出されて……
あの月見ヤチヨがかぐやちゃんだって話もすっごく驚いたけど、圭が普通の人間じゃないかもしれないって言われて、天地がひっくり返ったような気がした。
輪廻がどうとか、月の仕組みがどうとか、私にはよくわからない。
ただ、ヤチヨの言い方と彩葉の反応で、圭が普通の存在じゃないらしいということはなんとか理解できた。
圭とは幼稚園の頃から一緒にいたから、よく知っている。
だけど、私の知る限り、圭の身に変なことが起きたなんて一度もなかった。
……いや、変なことを言い出す人ではあるけども。
人間離れしたようなことをしているのは見たことがない。
私にとっては、どこにでもいる世界一の男の子でしかないんだけどな。
矛盾してる?
いいの、そんな一見普通の圭を私は好きになったんだ。
……そうだ、好きになったと言えば。
私、彩葉と恋人になったんだ。
3日経った今も実感がわかない。
彩葉のことを恋愛的な意味で好きなのか聞かれると、まだよくわからない。
夏休み終わりに彩葉から告白されるまでは、親友だと思ってた。
同時に、たぶん圭のとりあいっこになるのかなとも。
それが、まさかの私に告白。
しかも圭にかぐやちゃんまでいれて4人で幸せになろうだって。
正直何言ってるのか全然わかんなかった。
でも、考えれば考えるほど、悪くないなって思えた。
圭たちがタワマンに引っ越してから、私も3人とたくさんの時間を過ごした。
すごく楽しかった。
圭と2人、家でゆっくりする時間も。
彩葉と2人、買い物ついでにお茶する時間も。
かぐやちゃんと2人、次のやりたいこと探しをしている時間も。
4人みんなで、わいわい遊んでいる時間も。
全部ぜんぶ、かけがえない宝物みたいな時間だった。
かぐやちゃんと圭がいなくなっちゃってから、圭の家も彩葉たちの家も、すごく静かでさみしかった。
彩葉が部屋で頑張っている間、何回か1人で泣いちゃうくらいには。
彩葉の提案に乗って一緒に歩けば、またあの時間が帰ってくる。
好きな人たちに囲まれて、最高の幸せを手に入れられる。
あの日頷いたのは、そんな打算的な考えもやっぱりどこか私の中にはあったんだと思う。
でも、月明かりの下で交わしたキスは悪い気はしなかった。
……いや、正直ちょっと良かった。
なんか良かったって言うと変な意味に聞こえちゃうな。
変な意味だからしょうがないのかも。
「〜〜〜〜〜っ」
思い出してしまって、恥ずかしさにソファーに顔を埋めて足をじたばた。
彩葉は可愛いし、天才だし、最近はすごくかっこいい。
真面目な顔をしてると、別に似てもないのに圭とかぶる。
目のまっすぐさというか、表情から伝わってくる意志の強さというか。
私は自分を強く出すのが苦手だから、そういうのができる人に惹かれるのかもしれない。
好きの形なんて人それぞれで、一言で表せるものじゃなくて。
どんな形であれ、私は彩葉のことが好き。
恋人になった理由なんて、それだけで十分なのかもしれない。
恥ずかしさに沸騰しそうな頭で、そんなことを思った。
10月11日、午後8時半。
ベランダから空を見上げると、雲一つない夜空に満月が浮かんでいる。
手を伸ばせば届きそうなくらい大きな月。
あそこに、圭とかぐやちゃんがいるんだ。
今日は「かぐや&圭をどっかん奪還、めでたししちゃおう大作戦」の実行日だ。
作戦の名前はヤチヨが考えてた。
ネーミングのセンスが、なんとなくかぐやちゃんを連想するよね。
私たちを見下ろす月に背を向けて家の中に戻ると、既に彩葉がスマコンを片手に待っていた。
彩葉とかぐやちゃんの家のリビング、私たち4人の場所。
「そろそろ時間だね」
「……私結構緊張してる。彩葉はどう?」
「ふふっ、私もだよ」
他愛もない会話で少し緊張をほぐしてから、彩葉と2人でソファーに座る。
すると、彩葉がおずおずと私の手を握ってきた。
彩葉って意外と甘えん坊だよね。
最近の彩葉はかっこいい成分が多かったけど、こういうとこが可愛いなって思う。
「せーのっ」
彩葉のかけ声で、同時にツクヨミにログイン。
海の底に潜っていくような感覚のあと、目を開けると。
かぐやちゃんの卒業ライブのときと同じメンバーが、既にツクヨミの一室に集まっていた。
「待たせちゃった、ごめん」
「いや、俺らが早く来ただけ」
「そうそう、主役は最後に来るものなのです」
謝る彩葉に、気にするなと返す帝……さんとヤチヨ。
帝さんの後ろには雷さんと乃依ちゃんがいて、ヤチヨの隣には真実もいる。
彩葉は帝さんに引っ張られていった。
お兄さんだもんね、積もる話もあるんだろう。
そんな彩葉たちを眺めていると、私の方には真実が来てくれた。
「芦花と彩葉、なんか距離感変わった〜?」
「え、いや、まあ……」
決戦前の会話の一言目がそれなの!?
「私はもう彼氏いるから狙っても無駄だよ〜?」
「え、いやいや、というか真実なんで知って」
「まあ? 私だって2人の親友だからね〜。わかるよそのくらい」
真実……
困惑やらなんやらで言葉に詰まる私に、真実は優しい声で言ってくれた。
「あとで話、聞かせてね。圭くんとかぐやちゃんも一緒に」
「……うんっ」
ぱんっぱんっ
ヤチヨが手を叩いてみんなを注目させる。
「はーい。そろそろお時間だからー、ヤッチョから今回の『かぐや&圭をどっかん奪還、めでたししちゃおう大作戦』作戦の説明をするよ〜☆」
「ヤチヨ、その作戦名フルで言う必要あるの?」
「もちろ〜ん!」
彩葉のジト目を嬉しそうに受け流して、ヤチヨは話し始めた。
ここツクヨミから、ヤチヨが月へのゲートを開いてくれる。
そのゲートを通って月に行って、かぐやと圭を見つけて、連れて帰る。
ゲートは圭の座標を目印に開かれるので、おそらく圭の近くに出ることになる。
ゲートはいつまでも開いているわけじゃなくて、だいたいこっちの時間で10分。
月は地球より時間の進みが遅いらしく、月基準だとだいたい1時間くらい。
月に行くのは、私と彩葉。
戦いになるかもしれないから、本当は帝さんが行くのが良いんだと思う。
けど、ここは譲りたくなかった。
圭を迎えに行くのは、私でありたい。
圭と、みんなと幸せになりたいのに、ここで祈るだけなんて耐えられないから。
ヤチヨがちょちょいと弄った(ヤチヨ談)から、KASSENと同じイメージで動けるとのこと。
でも、チャンスも残機も一度きり。
ゲートは何度も開くことはできないから。
そして、もし向こうでHPがゼロになってしまったら……
「こっちの彩葉たちも、植物状態になっちゃう」
ヤチヨが言った瞬間、みんなの顔が曇った。
私と彩葉は既に知っていたけど、みんなは初耳だったんだろう。
「でも、行かないで後悔したくないから」
「私も」
彩葉の言葉に、私も台詞を重ねる。
4人でいられないのなら彩葉と2人海の底に沈んでも良い。
そう思うくらいに、私は圭とかぐやちゃんのまぶしさに脳を焼かれてしまった。
「……まあ、2人が覚悟決めてるならもう何も言わねえよ」
帝さんは強く拳を握りしめた後、何かを言おうとして、彩葉の顔を見て。
そして顔に隠しきれない心配を貼り付けたまま、諦めたようにそう言った。
続いて真実も私たちに駆け寄ってくる。
「絶対、帰ってきてね」
私たちの手を取って、祈るように真実は言った。
私も彩葉も、それに応えるように握り返す。
「任せて」
「またみんなで海行くんだもんね」
負けられないな。
今度こそ。
「さて、そろそろゲートを開ける準備もできたよ。2人とも、準備はいい?」
ヤチヨの言葉に、力強く頷く。
「うんうん、いい顔。……じゃあ、ゲート、オープン! 行ってらっしゃい!」
私と彩葉がゲートをくぐる寸前、聞こえるか聞こえないかギリギリのところでヤチヨが呟いた。
「かぐやを、圭を、よろしくね」
何か膜のようなものをぬるっと通る感覚があって、その次の瞬間、月のゴツゴツとした地面の上に立っていた。
もっと時間がかかるものだと思ってたよ。
あたりを見渡すと、大きな和風の建物があって、その縁側には。
「圭は……あれじゃない!?」
「圭!!!」
圭っぽい人影があった。
圭は無事なのかな、捕まってなにか酷いこととかされていないかな。
彩葉と2人、圭の元に駆け寄る。
そして私たちが見たのは。
「はいまた俺の勝ち〜、なんだ雑魚か〜? そんなんじゃ俺には一生勝てないぞ〜? ……ん? え、芦花に彩葉?」
カードゲームで、月人?を煽る圭の姿だった。
圭が月人とやってるのは、ポーカー(テキサスホールデム)です。
娯楽を知らず嘘もつけない情報思念体相手にブラフが重要なゲーム持ち込んで無双する圭、あまりにも小物。
え、シリアス展開? どこかにでかけたんじゃないですか……?
以下本編とは関係ない話
少しずつ上映終了が増えてきましたね。
私の最寄りも終わりということで、今日映画館最後の「超かぐや姫!」を見てきます。
祭りはいつか終わるものですが……みんなで「超かぐや姫!」という祭りを、少しでも長く楽しみたいです。
この作品も、その祭りを彩る提灯の一つになっていたら、嬉しい。