不思議なこともあるものです。
また芦花視点にチェンジ。
今日の私はダメダメだった。
圭とちゃんと付き合うために攻めると決めたのは良かったけど、攻めるっていうかただ空回りしただけになっちゃった。
お弁当も頑張って圭好みの味に仕上げたんだけどな……
圭はあんまり私を意識してる感じが無いし、やっぱり脈ナシなのかな……
「真実、何か手がかりはあった?」
『無かったわけじゃないけど、想像以上に深刻というか〜……』
今日の調子を見る限り、なにか根本的に変えないとダメだ。
そう主張した真実が、「放課後に圭と二人で話して攻略のヒントを探る」と力強く宣言していた。
その成果報告会と今後の作戦会議のために、夜も10時を過ぎたこの時間に通話を繋いでいる。
『ごめーん、遅れたー』
『彩葉今日もバイト?』
「少しは休んでよほんと……」
少し遅れて、彩葉もグループ通話に入ってきた。
彩葉は一人暮らししてて、なぜか学費や生活費も自力で稼いでいる超人だ。
私や圭、真実も気に掛けてはいるけど、いつか倒れるんじゃないかと心配している。
詳しい事情は聞いていないけど、もっと私たちを頼ってくれたらな……
『はいはい休みますー、それより今は芦花のことでしょ?』
「……そうだね、真実お願い」
『はいは〜い』
あえてなのか、真実は軽い返事で話し始めた。
『とりあえずいい話を先にしよっか〜。圭くんはやっぱり今好きな人はいないみたいだよ〜』
『ふーん、まあそうだろうなとは思ってたけど』
真実の報告に彩葉が返した。
私もそう思う。
「もしかして圭は彩葉のこと好きなのかな?」って思ってた時期もあったけど、見てる感じ圭は彩葉に対してもあまり意識してる様子ではない。
でもやっぱりこうして確認できると安心する。
『それで私思い切って聞いたんだよ〜、「芦花に告白されたら付き合うのか」って!』
『おお……それで朝来は何って答えたの』
『「芦花が本気なら付き合うんじゃないかな」だってさ〜!』
『よかったじゃん芦花!』
「そうだね……」
テンションの上がっている真実と彩葉。
彩葉なんか既に勝ったかのように盛り上がっている。
でも、私はそこまで盛り上がる気にはならなかった。
もちろん、付き合ってもいいとは思ってくれてることに対してはホッとした。
だけど逆に言うと、圭から付き合いたいとは思ってくれていないってことでもある。
ちゃんと圭に好きって思ってもらって、それで付き合いたいなって思うのは、贅沢なのかな?
「それで、悪い話っていうのは……?」
正直そっちの方が気になる。
私が乗り越えなきゃいけない課題が、その話から見えてくるはずだから。
『悪い話っていうか〜……』
真実が言いよどむ。
『なんか、「自分じゃ芦花を幸せにできない」って本気で信じてそうな感じだった……「自分みたいなモブが」とかも言ってたし』
『朝来がモブ? 伸びにくい勉強系ライバーであんだけフォロワー獲得してる人のどこが?』
『私もそう思う』
圭のどこがモブなんだろうか。
幼馴染みで好きな人って贔屓目を抜いたって、成績優秀で現役東大合格も十分狙えるし、スポーツだって本格的にやってるわけじゃないのに部活でやってる人たちと当たり前のように良い勝負してるし。
圭はもっと自分に自信を持って欲しい。
『それ言った時の圭の顔がすごい辛そうで、こっちまで辛くなったよ〜』
「圭……」
すごく想像できる。
脳裏に、痛々しく笑う圭の笑顔が浮かんで、私も胸が締め付けられるように痛い。
「でも、それは私どうしたらいいのかな……」
私には圭の呪縛を解く方法が思い浮かばなかった。
結局何をしても圭の心には届かないのかな。
真実も唸り声をあげている。
『うーん……』
『そうだ、ヤチヨに聞いてみるのは?』
彩葉が名案とばかりに声を上げた。
月見ヤチヨガチ勢の彩葉だからこその発想だ。
「なんだっけ、チャットで聞けるんだっけ……?」
『そうなの。ヤチヨはAIだからチャットで24時間お悩み相談を受けてくれるし、返信も早くていつも的確だし私もよく助けてもらってる』
推しの話ができて嬉しいんだろうな、心なしか早口の彩葉。
ヤチヨの話をしているときの彩葉はなんだか肩の力が抜けてて、こっちもホッとする。
『三人で悩んでても良い案出ないし、頼っちゃおっか〜』
「うん、彩葉お願い」
『オッケー、ちょっと待ってて』
彩葉がチャットのヤチヨに相談するのを待つことしばらくして。
『あ、返信来た』
『ヤチヨなんて〜?』
何かとっかかりが欲しい。
藁にもすがる思いで、彩葉がヤチヨの回答を読み上げるのを待つ。
『なんかすごい長文の回答が返ってきたから、ちょっと待って』
しばらく何かを呟く声が聞こえた後、彩葉は言った。
『えーっとね……これからは「意識させる攻め」ではなく、「存在を丸ごと肯定する攻め」にシフトしてみるのはどうかな? ヤッチョ応援してるよ〜☆ だ、そうです……』
律儀にヤチヨの話し方に寄せて、回答を伝えてくれる彩葉。
最後恥ずかしそうにするならやらなければいいのにとも思うけど、ヤチヨガチ勢としては譲れないんだろうか。
『要するに、デロデロに甘やかして溶かしちゃえってこと〜?』
『まあ、簡単に言えばそうなるね』
で、でろでろに……
『なんかもうちょっと具体例とかないの〜?』
『あるよ。例えば「圭が居てくれるだけで私幸せなんだ」とか、「こんな優しいとこが好き」とか、スペックじゃなくて精神面を褒めるのが良いって』
「なるほど……」
ふむふむ、そういう方向性か。
うーん、花丸とか付けてあげればいいのかな?
『ちょっと今やってみてよ芦花』
『私も聞きた〜い』
「えー、無茶振りじゃない?」
『私たちのこと朝来だと思ってさ』
『練習しとかないと、本番テンパって変なこと言ったら困るよ〜?』
真実の言葉に、私は今日の朝の出来事を思い出した。
攻めると決めたのに、空回りしてわけのわからないことを言ってしまった記憶。
確かに、練習した方がいいかも……
「け、圭はいつも頑張ってるし、そんな圭が好きだよ。花丸付けたげる〜……」
『『…………』』
勇気を振り絞って言ってみると、二人は黙り込んでしまった。
「な、何か言ってくれない……?」
『ごめん、思ったより破壊力やばくて』
『これなら圭くんイチコロだよ〜!』
きゃいきゃいとはしゃいで更にセリフを要求してくる二人に抵抗しながら、夜は更けていった。
おまけ
ヤチヨ「お、彩葉から相談来た! ヤッチョ張り切っちゃうよ〜☆ え〜と、なになに? ……え? 好きな人へのアプローチ……!? 文章には友達の話って書いてあるけど、こういうのは友達の話って体で自分の話するってヤッチョ知ってるもんうわ〜ん私の彩葉が取られちゃうよどうしようFUSHI〜!」
FUSHI「うるさいヤチヨ、一旦落ち着け!」
ヤッチョGPT『おめでとう彩葉、好きな人が出来たんだね! これまでいろんな相談してくれた彩葉にもついに春が来て、ヤッチョは感涙なのです☆ それで相談の答えなんだけど(以下略)』
彩葉「ん……? 私ちゃんと友達の話って書いたよな……?」
圭は実は自己肯定感があまり高くない(人より出来ることがあっても、人生二周目だから当然と思ってしまう)んですよね。
この点少し彩葉に近しいところがあって(CUTの永瀬アンナさんのインタビュー参照)、それを溶かすには結局、原作のかぐやがやったように、「ありのままのあなたが好きです」みたいな感じで存在をまるごと肯定してあげるのが近道。
頑張れ芦花、私は応援していますよ(はよ続きを書け)