ヤチヨはW杯とかWBC、オリンピックみたいなスポーツの大会も好きだと思うんですよね。
お祭りですし。
水族館を出たら、もうすぐお昼時って感じの時間だった。
「早いけど、混む前にお昼にしよっか」
「もう予約とかしてる?」
「いや、してないけど。圭は希望とかある?」
「特にないかな……芦花が行きたいとこないなら考えるよ」
「じゃあ目星付けてたとこがあるんだ、そこ行こう」
そう言った芦花に連れてこられたのは、名前からしてピザが売りなんだなとわかるイタリアンレストラン。
ウェイティングシートを見ると、俺たちの前には数組待っているようだ。
……待ってるの、全部カップルだ。
店の前にある椅子には、見事に男女ペアだけ。
幸い椅子はまだあったので、芦花と二人腰掛ける。
芦花も俺と同じことを思ったらしく、最初の会話はそれだった。
「カップルだらけだね」
「それな」
「私たちもそう見えてるのかな?」
「……見た目格差ありすぎて」
いつものように自虐に走った俺を、芦花がたしなめてきた。
俺の鼻先に向けて指を指して、それからくるくるっと回しながら言う。
「自虐禁止。圭は世界一かっこいいんだから」
「…………ありがとう」
芦花の褒め言葉はいつもまっすぐで、ひねくれた俺の心の奥まで染みこんでくる。
もう少しだけ自信持ってもいいのかなと、そう思える。
人間、そんな簡単に根っこが変わることも無いけれど。
俺の根っこは、間違いなくここ数日の芦花に溶かされていた。
幸いそこまで待つこともなく、順番が回ってきた。
「どれにしよう、ピザもパスタも美味しそう……!」
「まあ多少多めに頼んでも俺が食べるからいいよ」
男子高校生の胃袋はすごい。
転生して若返って、すごく実感してる。
「じゃあピザ一枚にパスタ二皿頼んで、シェアしよ」
「いいね、そうしようか」
店員さんを呼んで注文して、しばし雑談。
しばらくして、店員さんが美味しそうな匂いを連れてやってきた。
時計を見ると頼んでからそれなりに時間が経っていたのだが、芦花と喋っているとあっという間だ。
さて、頼んだものの紹介でもしよう。
ピザはビスマルク。
あの真ん中に半熟卵が載ってるやつ。
パスタは、イタリア産ポルチーニのクリームソーススパゲッティと、なすとトマトとモッツァレラチーズのスパゲッティで系統の違うものをチョイス。
俺も芦花も好き嫌いは特に無いし食の好みも似ているから、こういうとき困らなくていい。
「「いただきます」」
自然と揃った。
そのまま同じタイミングで、俺はトマトスパゲッティを、芦花はクリームソーススパゲッティをぱくり。
「これ美味いな」
「こっちも美味しいよ、はい、あーん」
また来た。
いや、正直来るかなと予想はしていた。
なんでかわからないけど、今日の芦花はこういうことやりたそうだから。
ずっと一緒にいたんだ、それくらいわかる。
そしてわかっていれば覚悟も出来ているというもの。
特にためらうこともなく、芦花の差し出したフォークをぱくつく。
……内心ドキドキしているのを隠して。
「はむ……キノコの風味とクリームが合ってていいね」
「でしょ? 頼んで正解だったね」
芦花が華やかに笑う。
前回……おとといだっけ?
あのときもすごく美味しく感じたのを思い出した。
芦花に食べさせてもらうと、二割増しで美味しく感じるんだな。
さて、こういうのはお返しするもの。
前世の名作ラブコメで学んだ。
というわけで。
「はいお返し。あーん」
「け、圭!?」
俺の手元のトマトスパゲッティをフォークに巻いて差し出すと、芦花は目に見えてうろたえた。
まあ俺は普段こういうことしないから、不意打ちだったんだろう。
俺もテンション上がってるのかも。
そりゃ前世からの推しとデートなんて全オタクの夢だし、テンション上がるに決まってるな。
「ほらほらー、腕が疲れるから早くー」
「えっわっ、わかった」
俺が急かすと、芦花は目をぎゅっとつむってフォークにかぶりついた。
そのままゆっくりと前のめり状態を解除して、口を動かしている。
「どう、美味しい?」
「……味わかんない」
「ははは、そっか」
テンパると味わかんなくなるよね、うんうん。
芦花の方からしたらただのじゃれ合いなのに、なんでテンパるのかは不明。
幼馴染でもわからないことはある。
それからはお互い普通に自分で自分の分を食べた。
パスタは半分食べたらお皿を交換って感じで。
さすがにずっと食べさせ合うのは周りの目も時間も厳しいものがある。
それでも、昔と変わらずに他愛も無い話で盛り上がるのは、本当に楽しいひとときだった。
お腹を満たしてからやってきたのは、上のフロアにあるプラネタリウム。
「実はプレミアムシート予約してあるんだ〜」
「ありがとう、いくらだった?」
「お金はいいの、普段圭にお世話になってるお礼ー」
「男のプライド的にそれは……」
「うーん、じゃあ次回は圭が色々考えてよ、それでどう?」
次回。
芦花はもうすぐ酒寄と付き合うんだから、次回とか無いけどなあ。
そんなこと言えるはずもなく、俺は愛想笑いで誤魔化した。
「……まあ、次回があったらね。じゃあお言葉に甘えることにする」
「うんうん、よきかな〜」
俺の返答に、芦花は満足げにおどけて見せた。
意外と上映時間まで少ししかないということで、とりあえずシアターに入った。
入って早々目に入るのは、明らかに家族とかカップルでの利用が想定されたソファのような席。
たぶん寝転がって見るんだと思うんだけど。
「……もしかしてプレミアムシートって、これ?」
「うん」
「あー……いいの?」
「なにが?」
「……いや、芦花がいいならいいと思う」
「? 変な圭」
さすがにカップルシートって幼馴染の距離感じゃ無いと思うんだが……
ああ、わかったぞ。
あれだ、幼馴染すぎて家族みたいなものだからか。
兄妹とか姉弟なら不自然でもないもんな。
一人でうんうん頷く俺を、芦花が変なものを見るような顔で見ていた。
というか、確かに俺は変なものであった。
寝っ転がると、ソファはすごく快適で、昼飯直後なのもあって少し眠くなってくる。
「圭、寝ないでよ」
「いやさすがに……でもちょっと眠い」
「んー……えいっ」
!?!?
芦花が俺の頬を人差し指でつついてきた。
さすがに予想外すぎる。
驚いて声を上げそうになった瞬間、場内が完全に暗くなった。
くっ、意図を聞き損ねた。
まあいいか。
スクリーンに映し出される満天の星空の下、芦花が握ってきた手をしっかりと握り返した。
「今日は楽しかったー」
「俺も楽しかった」
芦花とこうして出かける機会ももう無いだろう。
きっとこの記憶も足元を照らしてくれる。
外はかなり雨が降っている。
俺と芦花が地面に足を着けるたびに小さく水しぶきが上がる。
おかげで一歩一歩が小さくならざるを得ない。
……帰るのが名残惜しいから、正直ちょっと嬉しい。
さすがにこの雨では手もつなげず、俺たちの間には傘一つ分の空間が出来ている。
芦花が雨音に負けないように声を張った。
「またこうやって二人で遊びに行こうね」
「……機会があればな」
きっともう無いけど……
芦花はもうすぐ酒寄のものになってしまうから。
ずっと俺の隣にいたのに
この思い出を宝箱にしまって、芦花を笑って送り出さなきゃいけない。
嫌だ、ずっと一緒にいたい
「雨音で聞こえないよ!」
芦花がこちらを振り返りながら言った。
そのまま後ろ向きで一歩二歩、交差点の横断歩道に入っていく。
「芦花、信号……!」
点滅した信号が赤になった直後。
「け、えっ」
芦花をこちらに引っ張ろうと手を伸ばした俺の向こう側。
対向車線から交差点を慌てて右折してきた車に撥ね飛ばされ、芦花の体が宙に浮いた。
暗い展開をやりたいわけじゃないので、特別に明日には次話を上げます。
徹夜してでも上げます。
上がらなかったら寝落ちしたということです()
ちなみに、東京スカイツリータウンにあるコニカミノルタプラネタリウム天空では、7月3日から「流れ星を探して feat. BUNP OF CHICKEN」なる作品が上映されるそうですよ。
歌詞考えたらrayも流れそうですし、お近くの方は恋人と行ってみてはいかが?
恋人いない人は……ちょかぐの好きなキャラのアクスタでも連れて行けばいいんじゃないですかね(てきとー)