4時寝6時起き、not予約投稿。
「芦花!!!!!」
数メートル先だろうか、地面に倒れ込んだ芦花の元へ駆け寄る。
土砂降りに近い雨の中、邪魔な傘を放り捨てた。
芦花の左足は、どう見ても曲がってはいけないところで曲がっている。
その惨状から目をそらしながらすぐ側でもう一度声をかけると、芦花は弱々しく笑った。
「いた……はは、どじっちゃった……」
「芦花、痛いよな!? 何処が痛い!? というかこれ何本かわかるか?」
自分でも錯乱してるのがわかるくらいだったけど、わかっていても抑えられなかった。
指を三本立てながら確認すると、ちゃんと返事が返ってくる。
「三本……圭、ちょっと落ち着いて……」
「落ち着けるわけないだろ! えっと、警察? 救急車が先か? あっ、相手の車は」
俺に人生二度目の貫禄などかけらも無かった。
愛する人の前でただ心配することしかできないのが、こんなに苦しいなんて。
「すみません、大丈夫ですか!?」
幸い、相手の車の運転手は逃げることなく車から降りてきた。
とりあえず、車を邪魔にならない場所に移動するのと救急車を呼ぶのをお願いしておいた。
俺の方も、芦花を抱き上げて、頭を揺らさないように気をつけて歩道に寝かせて、それから警察を呼ぶ。
「もしもし、警察ですか? えっと、事故です。車と歩行者の……」
警察に説明する過程で、ちょっと落ち着いた。
落ち着いてから湧いてきたのは、後悔の念。
俺がもっとちゃんとしていれば、こんなことにはならなかったのに。
芦花の手を絶対に離したりしなければ、芦花は痛い思いをしなくてすんだのに。
「ごめん、俺がもっと気をつけていれば」
「圭のせいじゃないじゃん、悪いのは私」
「いや、でも」
「圭」
なおも言い募ろうとした俺の口を、芦花が震える指先で塞いだ。
それからその指を自分の口元に持って行き、ジェスチャーで「静かに」とする。
痛みに顔をしかめながら、それでも気丈に笑う芦花。
雨粒がしたたり落ちる髪が、やけに脳裏に残った。
悔恨の言葉すら封じられて、自分の無力さに涙が抑えられない。
「なんで圭が泣くの……」
呆れたように、でも優しい顔で、芦花は言った。
遠くからサイレンの音が近づいてくる。
俺が出来るのは、ただ芦花の手を握ることだけ。
芦花と一緒に救急車に乗って、俺は待合でただ待つ。
端から見たらKOされたボクサーか魂を抜かれた抜け殻みたいだと思う。
スマホを触る気にもならなかった。
「圭ちゃん、久しぶりね!」
久しぶりの呼ばれ方に顔を上げると、芦花の両親だった。
「お久しぶりです、お二人とも」
「相変わらず固いわねえ。未来の息子なんだからもっと普通にしてくれていいのに」
芦花のお母さんは、俺に対してずっとこんな感じだ。
芦花のお父さんは……いつも俺のこと複雑な目で見ている。
まあ可愛い娘につく悪い虫だと思われているんだろう。
「それより、今回は芦花を守れなくてすみませんでした」
「いいのよ、事故だもの。それに意識もちゃんとあるって聞いたわ」
「しかし……」
「申し訳ないと思うなら、芦花のこと貰って頂戴。婿入りでも良いわよ?」
俺の方へ指を向けてから冗談を飛ばす芦花のお母さん。
その仕草は芦花とそっくりで、親子なんだなと場違いな感想を持った。
結局、芦花についた診断名は、「高エネルギー外傷による左脛骨幹部骨折及び全身打撲」だった。
要するに、交通事故で左足のすねの骨の真ん中がポッキリ逝ってしまった、ということである。
あと地面に叩きつけられたせいで全身を打撲している。
俺も芦花の両親と一緒に話を聞かせて貰ったが、それを聞いて本当に、心の底からホッとした。
とりあえず生きててくれたから。
医者曰く、「これだけで済んだのはかなり運が良い方だ」とのこと。
受け身を取る際に手をついて骨折したり、あとは膝関節ごと逝ってしまったりするケースも多いらしい。
完全に治るのは数ヶ月ほどかかるらしいが、この後経過観察して新しい骨折が見つかったり脳出血が出たりしなければ二週間以内には退院できるとのことだった。
その日は病棟の関係で身内以外は絶対にNGということで、俺は芦花に会えずに帰ることなった。
少しでも側に居たいが……仕方がない。
帰り道で、真実と酒寄に芦花のこと伝えておく。
LINEを送った直後、真実から電話がかかってきた。
『圭くん、芦花は大丈夫なの!?』
「とりあえず二週間くらいで退院はできるって」
『死んだりしない?』
「容態急変しない限りは」
『そこは断言してよ〜……でもよかった』
スピーカー越しにホッと息を吐く音が聞こえた。
真実はそのまま続けた。
『芦花の様子は?』
「今日は会えなかった。明日お見舞い行くつもりだけど、真実も一緒に行くか?」
『うん、行くよ〜。私だって二人の幼馴染みだもん』
思い返せば、確かに真実も幼馴染みと言っていいほどに長い付き合いだな。
今更それに気づいて、なんだかおかしくて少し笑えた。
『なんで今笑った〜?』
「いや、嬉しくなっただけー。じゃあ明日14時に立川市立病院のエントランスで」
『おっけ〜、また明日〜』
真実の声を聞いて、沈んでいた心が少し明るくなった気がする。
真実も大切な友達だなって再確認。
ちなみに酒寄はバイトがあって来られないとのことだった。
ヤチヨのごめんスタンプが五個一緒に送られてきていた。
いや、仕方ないけどさ……
日曜14時ちょい前。
「圭く〜ん!」
「お、真実」
病院のエントランスで、真実と合流する。
「圭くん昨日は……あんま眠れなかった? 顔に出てるよ〜」
「まあ、芦花が心配で……」
「そっか〜、そりゃそうだよね〜……」
寝不足が真実にばれてしまった。
芦花にはばれないよう気を引き締めていかないと。
面会可能な時間になると同時に、俺と真実は芦花の病室を訪ねた。
それなりに知名度のあるインフルエンサーってことで、個室にしたらしい。
お見舞いする側としてもその方が楽だし嬉しい。
「失礼しま〜す! 芦花、大丈夫!?」
「お邪魔します」
芦花は、俺たちの姿を見るとゆっくりと体を起こした。
「来てくれてありがとね。……圭はあんま見ないでくれると嬉しいな」
「なんで?」
「メイクとか出来てないから」
「そっか」
メイクしなくても芦花は世界一可愛いし綺麗だけどな。
その後は真実が芦花と色々話してるのを後ろで聞いていた。
俺としては、脳にダメージとかなさそうで良かった。
芦花は少し空元気には見えるけど……
「じゃあここからは女の子だけの秘密トークのお時間だから、圭くんは出てって〜」
「ごめんね圭」
「いいえー、ごゆっくりー」
真実に追い出され、病室から退散する。
とりあえず病棟の通路にあるソファに座り込んで……頭を抱えた。
芦花が可愛い。
直視できない。
俺は今回の事故で色々と自覚してしまった。
俺は芦花のことが好きだ。
どうしようもないくらいに。
ずっと芦花の側に居たいし、俺が芦花を幸せにしたい。
芦花が俺に笑いかけてくれる時間を、手放したくない。
でも、芦花はたぶん酒寄のことが好きで、俺にチャンスがあるのか?
いや、そもそもこれは許される恋なのか?
そんなことを考えていたら、あまり眠れなかった。
どのくらい時間が経ったのだろう、真実が病室から出てきた。
「芦花の病室戻る前に、ちょっと私とお話しよ〜」
そう言って、真実は俺の隣に腰掛ける。
それから、
「圭くんさ、芦花のこと、好き?」
「……ああ。好きになっちまった。いや、前から好きだったのを、昨日ようやく自覚した」
「うんうん、やっとか〜」
したり顔で真実が頷く。
ムカつく顔だ……
「昨日、地面に倒れ込む芦花を見て、頭がもうぐちゃぐちゃになってさ。二度と手放したくないって思った」
「いいじゃ〜ん、じゃあさ——」
真実が何か言おうとしたのを無視して、俺は視線を床に落とした。
「でも叶わぬ恋だからな」
「は?」
真実らしくない剣呑な声に、思わず顔を上げた。
ここまで真実がキレているのは、俺の知る限り、小学生の時にクラスメイトが給食のシチューをふざけて床にぶちまけた時以来だった。
「なんで圭くんが遠慮してるのかさっぱりわからないけどさ」
真実は小さく息を吸って続ける。
「私は、芦花の隣は圭くんが良いと思ってるし、そうあるべきだと思ってる」
………………。
幼馴染みでずっと一緒にいた真実にそう思ってもらえるのは、とても嬉しい。
でも。
「でも、芦花には酒寄が——」
「彩葉は今関係ないじゃん」
俺の言葉を遮って、真実はぴしゃりと言い切った。
「諦める理由じゃなくて、やる理由探しなよ。さっきからうじうじとさ……今の圭くん、死ぬほどダサいよ」
「………………」
何も、言い返せなかった。
「圭くん、自分で芦花に言ってたよね。なんだっけ、『恋は最後まで諦めるな』だっけ?」
真実の言葉が胸に刺さる。
確かに言った。
芦花と酒寄をくっつけるために、芦花が自分の恋に邁進出来るように。
「それで言った本人が何をためらってるの? 全力でアタックしてみようよ」
「………………」
「芦花はさ、さっき言ってたよ。『昨日本当に楽しかった、ずっとこの時間が続けばいいのにと思った』って」
芦花……そんなこと思ってくれてたのか。
「だからさ。勝手に諦めないで、ずっと芦花の隣に居てあげてよ。隣で手を握ってあげてよ」
真実の声はもはや涙混じりだった。
祈るような口調でもあった。
……幼馴染みにここまで言わせてしまった。
俺が情けないばっかりに。
「……真実」
「なに」
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
自分で自分の顔は見えないけれど、きっと、今までにないくらいに据わった目をしている自覚があった。
「ありがと。俺、覚悟決めたわ」
「……うん。最初からそうしてよ」
真実はフンとそっぽを向いて、目元を拭った。
「じゃあ、私は帰るから」
そう言って立ち上がり、そのままエレベーターホールに足を向ける。
「次会うときにはちゃんと付き合ったって報告聞かせてね〜」
ひらひらと手を振って立ち去る小柄な真実の背中が、すごく大きく、かっこよく見えた。
あの、前話の感想欄での反応が本当に予想外で、そんなつもりじゃなくて……
まだ一山あるんですが、ハッピーエンドです絶対。
作者が保証しちゃう!
皆さんは車に撥ね飛ばされたこと、ありますか?
私はあります。
晴れの日のランニング中でバリバリ青信号でしたが、交差点を慌てて右折してきた車にポーンと3メートルくらい。
車側は3~40km/hくらいだったらしく、宙に浮いた感覚は今でも鮮明に覚えてます。
対向車線で信号待ちしてた車の運転手さんがすごい顔してたのも覚えてる。
怪我ですか? 打撲と擦過傷だけです。
MRIまで撮りましたが、ヒビ一つ無かったですね。
事故った直後は絶対腰の骨折れたと思ったんですが。
ちなみに撥ね飛ばされた直後の私の第一声は「うぉ……マジかよ……」でした。
その後自分で歩道に移動して警察呼んでるし、案外余裕だなこいつ……