お待たせしてしまい申し訳ない。
時系列というか現実的に可能かみたいな整合性より、作者が見たい画を優先したところがあるので、細かいツッコミは心の中にそっとしまっておいてください……
新しい朝が来た。
みんなにとってはなんてことない日曜日。
でも、俺と芦花にとっては一つの大事な節目になる日。
とはいっても、別に朝から気合い入れなきゃ入れないわけでもないし。
一つ大きく伸びをして、隣を見る。
大きなベッドの上に、芦花の姿は無い。
その替わりではないが、2歳の小さな女の子が毛布を蹴飛ばして寝ていた。
お察しの通り、俺と芦花の娘だ。
名をば、朝来桃香となむいふ。
「ももか」って呼ぶべし。
なんてね。
「まったく、寝相が悪いやんちゃっ子だねえ」
そっと毛布をかけて、起こさないようにベッドから離れる。
そのままリビングへ行くと、キッチンから芦花が顔を出した。
「おはよー芦花」
「おはよ。朝ご飯もうすぐ出来るから、顔洗ったら桃香も起こしちゃって」
「りょうかいー」
ということなので、俺たちの可愛い娘を起こしに行く。
桃香は、さっき起きた時に見た姿のまま、ぐっすりと寝ている。
仕方ないので、ほっぺを軽くぺちぺちして起こす。
幼児特有の体温の高さと頬の柔らかさが癖になりそう。
「ももかー、朝ですよー」
「んー……ぱぱ……だっこ……」
「はいはい」
愛しの娘を抱きかかえて、再びリビングへ。
こうやって甘えてくれるのも今のうちって言うもんなあ……
桃香を椅子に座らせて、芦花と一緒に皿を並べて、三人手を合わせる。
「「「いただきます」」」
俺の前には目玉焼きと食パン、それからカリカリのベーコン。
桃香には食べやすく切った食パンとか薄めに味付けされたスクランブルエッグとか。
芦花は、ヨーグルトとバナナ。
今日の芦花の朝食はいつもと少し違う。
それもそのはず。
「今日ついに、だな」
「ここまで来れたのも、圭のおかげ。本当にありがとね」
TOKYO SUPER LADIES COLLECTION。
日本最大級のファッションショーに、今日、芦花は出演する。
8年前のあの日に夢を諦めなかったからたどり着いた、インフルエンサーにとって、モデルにとって最高の夢舞台。
食卓にしんみりとした空気が流れる。
あんまり状況がわかっていない桃香が、俺たちの様子に小さく首をかしげた。
それを見た芦花が苦笑しながら桃香の頭を撫でて、話を変える。
「見に来てくれるんでしょ?」
「おう。酒寄研究所も今日は完全休日になってるから、酒寄も真実も来るぞ」
「ふふ、楽しみにしてる」
「それはこっちのセリフだなあ」
朝食を食べ終わってしばらく家族三人ゆっくりしてから、出かける芦花を玄関まで見送る。
「じゃあ桃香のことお願いね」
「おう、頑張ってな。期待してる」
「まま、いってらっしゃーい!」
「うん、いってきます」
芦花がいってきますのキスを俺と桃香の頬にする。
桃香は芦花に全力で手を振ってお見送りしていた。
かわいいね。
え、キスで動揺しないのかって、毎日やってたらさすがに慣れるだろ。
そもそもそれ以上のことしてんだし。
じゃれつく桃香を相手しながら、芦花に誓ったあの日からの歩みを思い出す。
現役で東大理Ⅲに合格した俺は、そのまま最低限の単位を取りつつたくさんの教授のところに通って、そのコネで学生のうちから人工皮膚に関する研究に明け暮れた。
東大のコネはすごい。
事前に話を通してもらってちゃんとした研究の構想があれば、学生だからとバカにされることもなかった。
おかげで最先端の設備と知見を得ながら研究することが出来た。
ちなみに研究動機で芦花の話をすると、非常にウケが良かった。
毎回少し恥ずかしいし、みんな判で押したように結婚式に呼べというので困ったが、まあそれだけ気に入ってもらえるのは嬉しいことでもある。
それで在学中に既存の物とは一線を画す人工皮膚の開発に成功して、治験という形で最初に芦花に使ってもらった。
既存の物とどう違うかというと、汗腺とか毛包とか神経とか、そういった所まで完全に修復出来る転が最大の違い。
詳しい話は省くが、要するにこれまでのものは皮膚という名のシートだったのが、俺たちの作ったものは完全に皮膚そのものだってことだ。
だから近くで見ても違いがわからないし、傷跡も完全になくすことが出来る。
それから、そのまま国家試験に合格して大学を卒業した俺は、研修医にはならずに酒寄研究所に就職した。
酒寄から直々にスカウトされては断れない。
他のお世話になった研究所からも声をかけてもらっていたから、そこは申し訳なかったが。
酒寄研究所で何をしているかというと、主に五感の実装に関する医学面からのアプローチである。
人工皮膚についても、KG型とYC型の外装に使うということで俺がメインで進んでいる。
ちなみに酒寄が皮膚の質感にこだわっていて非常に気色悪かった。
「違う、かぐやのほっぺはもっともちもちだった!」じゃねえんだよ、そんなの知らねえよ。
だが俺も研究者の端くれ、妥協は許されないので昨日も研究頑張った。
その酒寄研究所も、今日は全員休み。
俺も酒寄も芦花の勇姿を見たいからだ。
関係者席を押さえてもらったし。
全員休みなのは、これを口実に休ませないと全員休み取らないから。
あいつら酒寄の狂信者ばっかで怖い、マジでマッドサイエンティストの巣窟。
話がそれた。
酒寄と真実は基本原作と一緒。
酒寄は高2の夏にかぐやと忘れられない夏を過ごしたし、かぐやは一回月に帰ったし、今の酒寄はかぐやの義体作りに心血を注ぐマッドサイエンティストの親玉である。
それだと俺もその手先ってことになるのか……?
真実は彼氏とそのまま結婚して双子産んでた。
今も芦花と定期的に育児トーク会してるみたいですね。
回想がアホみたいに長くなってしまった。
それだけ濃密な8年間だったってことか。
ふと時計を見ると、ちょうど良い時間になっていた。
さて、そろそろ俺らも家を出て、酒寄や真実と合流しますかね。
「ももかー、出かける準備しようか」
「ままのとこー?」
「そうそう、ママに会いに行こうなー」
まーじでうちの娘可愛すぎ。
誰にもやらん。
「お待たせしましたー」
待ち合わせ場所に行くと、酒寄も真実も既に待っていた。
酒寄の首にはスマホがかけられていて、画面の中にはヤチヨもいる。
「真実ー久しぶりー。所長もお疲れ様です」
「おひさ〜、桃香ちゃんも久しぶりだね〜」
『ヤッチョもいるよ〜』
「ここでは所長言うな」
真実がしゃがみ込んで桃香と両手を合わせている。
所長呼びに不服そうな酒寄は無視。
この人は弄った方が面白いから。
「双子ちゃんは?」
「旦那に任せた。あの子たちじっとしてられないし、旦那もファッションショーは居心地悪いって」
「まあ男にはな……」
「おい私を無視するな朝来、給料カットするよ」
「横暴だ!」
面白いからと放置してたら、酒寄はとんでもないことを言い出した。
それパワハラだぞ、パワハラ。
「ももかー、この人がパパをいじめるよー」
「うわ、大の大人が娘に泣きついててダッサ」
「おねーちゃん、パパいじめる、だめー」
「あーいや桃香ちゃん違うの、これはほんの冗談で!」
わざとらしく桃香に泣きつくと、良い子の桃香は酒寄に「めっ」した。
それにおろおろする酒寄。
酒寄の動きに合わせて揺れるスマホの中で、ヤチヨがコロコロと笑っている。
真実がそれを見て呆れたように手をパンパンと叩いた。
「はいはい、ふざけてないで行くよ〜」
「「「『はーい』」」」
この場で一番強くてしっかりしてるのは、二児の母となった真実だった。
関係者パスを使って並ばずに入って指定された席に座り、辺りを見回す。
「うへえ、落ち着かない……」
周りマジで女性ばっかりで肩身狭いな。
そもそもこのグループも俺以外全員女性だけど。
「圭くんしっかりしなよ、芦花の姿目に焼き付けないと」
真実にそう言われて、背筋を伸ばす。
俺の膝の上で、桃香が真似してシャキッとした。
かわいいね。
だんだんと会場に人が増えて、高まっていく熱気を感じながら待つ。
ふっと照明が落とされた。
いよいよだな……
ランウェイと呼ぶのだろうか、中央に用意された花道を、様々な服を着たモデルさんたちが次々にこっち来ては帰っていく。
「まま、まだー?」
「まだだねえ、楽しみだねえ」
もぞもぞ動く桃香をなだめながらショーを眺めていると。
通路の奥から、見覚えのある髪色が出てきた。
「ままだ!」
桃香が小さく叫ぶ。
ランウェイの奥から歩いてくる芦花の姿は、自信に満ちあふれていた。
すねの傷跡など一切見当たらない、すらっとして綺麗な脚。
その美脚を惜しげも無く晒して、美しい歩き方でこちらに近づいてくる。
俺はその姿にもう感極まってしまって、声一つ出ない。
「ぱぱ、ないてるー?」
「桃香ちゃんはこっち」
不思議そうに俺の顔をぺちぺち叩いた桃香が隣の真実に回収されたが、俺はそれどころじゃない。
俺と芦花が夢にまでみたこの一瞬を、目に焼き付けたかった。
8年前のあの日、病院の前で誓ったこと。
転生してからずっと何者でもなかった自分が目標を見つけて、それだけを考えて走ってきた。
芦花を幸せにするということ。
俺が、俺自身が、芦花を幸せにできたのだと、今の芦花の姿が確信させてくれる。
そして、芦花が俺を信じてくれたこと。
芦花が誰よりも諦めずに頑張ってくれたからこそ、俺の努力も報われた。
それが何よりも嬉しい。
ランウェイの先端まで来てポーズを取る芦花と一瞬目が合った。
芦花は周りに気づかれない程度に俺に小さく微笑んで、そしてくるりと反転して道を戻っていく。
か、かっこいい……
かっこいいし可愛いし綺麗だし、また惚れ直した。
好き……
「あ、朝来が魂抜けてる」
「芦花に魂刈り取られたんなら本望でしょ〜」
『ヤッチョが回収しとこっかなー』
気づいたらショーは終わっていたが、俺はまだ放心状態から抜け出せずにいた。
なんか言われてるけど、今の俺は気にしない。
芦花が世界一ってことを噛みしめる方が8000倍大事なので。
「まま、すごかった! かっこいい!」
桃香も大興奮だ。
そうだな、すごかったしかっこよかったな。
ふう、娘の一言で現世に帰ってこれた。
「さて、じゃあその世界一かっこいいママを迎えに行くかー」
たぶん気を利かせてくれたのだろう、真実も酒寄も外で待っていると言って二人近くのショッピングモールへ入っていった。
その気遣いに感謝しつつ、またまた関係者パスを使って楽屋エリアへ。
「ROKA様」と書かれた部屋をノックすると、中から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「お邪魔しまーす」
「みんないらっしゃい」
扉を開けると、ステージのメイクを少し残した、でも衣装はすっかり私服に着替えた芦花が俺たちを出迎えてくれた。
その姿を見た瞬間、桃香が俺の手を離して弾丸のように突っ込んでいく。
「ままー! かっこよかった! きらきらしてた!」
「桃香! ふふ、見ててくれた? ありがとね」
芦花がしゃがんで、大好きな娘を優しく受け止める。
それを見つめる俺の視界は、情けないことにまた少し視界が潤み始めていた。
一歩、足を踏み出す。
そのまま、しゃがみ込む二人の背中に腕を回して、桃香ごと、俺のすべてである愛しい嫁を強く抱きしめた。
「圭……? どしたの、急に」
驚いたような芦花の声が、俺の胸元にこもる。
腕の中に感じる、確かな二つの温もり。
間違いなく芦花は、俺の愛する人は、自分の足で立って、自分の力で夢を叶えたんだ。
万感の想いを込めて、俺は芦花の耳元でそっと呟いた。
「やっと、ここまで来られたな」
俺の言葉に、芦花が一瞬だけ身体を強張らせて。
それから、すべてを察したように俺の背中に細い腕を回してきた。
小さな桃香を二人の身体で挟み込むような、少し不格好で、だけど最高に温かい抱擁。
「…………うんっ。圭がいてくれたから、私、ここまで来れた」
少し鼻声混じりの声でそう言って、芦花が俺の胸に顔を埋める。
真ん中に挟まれた桃香が「パパもママも、ぎゅーおそろいー」なんて無邪気に笑っていて、それがまた俺たちの涙腺を緩ませにくる。
まったく、誰に似てこんなに可愛いんだか。
まあ芦花ですね、間違いない。
まだまだ人生は長い。
きっとこれからも、たくさんの困難が待っているんだろう。
明日からはまたマッドサイエンティストの巣窟に戻ってかぐやの義体作りをしなきゃいけないし、桃香が大きくなって反抗期を迎えたら俺は部屋で一人で泣くかもしれないし、たまには芦花とくだらないことで喧嘩をする日だってあるかもしれない。
だけど、あの絶望からここまで走ってこられた俺たちなら、この先何が起きたって全部大丈夫だ。
「よし、じゃあ真実たちと合流して、お祝いに美味いもん食べに行きますか!」
「わーい! おにくがいい!」
「ふふ、久しぶりに何も気にせず食べられるし楽しみ〜」
転生して掴み取った、俺たちの最高に愛おしい生活。
もしかしたら別の世界線もあったかもだけど、これもまた、転生オリ主が芦花を幸せにする話。
ひとまず最初の章は、これにてめでたしめでたし、ってね。
というわけで、another√も完結しました〜!
めでたしや〜
ここからは基本本編時空に帰っての後日譚なんかを投稿していくんですが、もらったネタを膨らませる段階でかなり苦戦しているものもあって、全部は書けないかもです……
本編分岐の芦花√(anotherとの差別化に苦戦)とか、歌みた関連(作者の音楽の趣味が変すぎて、知ってる曲の大半がJASRACにもNexToneにも無い)とか。
7月は作者が単純に忙しい(W杯ではなくて)というのもありますし、あんまり更新頻度には期待しないでお待ちいただければと。
あと高評価とかもね、お待ちしております()
それでは、さらば〜い!