まあ万が一違ったとてかぐやも誕生日間違えてたし、数日のズレくらい許されるでしょう……
「犬DOGEの義体、作ろうぜー」
まだピカピカの酒寄研究所、その所長室で、俺は言った。
目の前には我らが所長、酒寄彩葉さんがいる。
ま、法律の問題もあるし、そこはおいおいね?
そんな俺の婚約者兼上司は、俺の発言に怪訝な顔で返事をする。
「……は?」
「いや、いきなりヤチヨの義体作るのもさ、難易度高いかなって」
「うん、続けて?」
「だから犬DOGEの義体作りを通してデータを蓄積してそれを本番に活かしていくことが、結果としてヤチヨの義体の完成への近道なのではないかと」
「ふーん」
事前に考えてきた、俺の最強の理論武装。
しかし、それを聞く彩葉は疑うような半目を崩さない。
くっ、手強い。
しかし俺は俺の野望のためにも、ここで退くわけには……!
「で、本音は?」
「犬DOGE現実でももふもふしたい! ペロペロされたい!」
「…………」
「……はっ、はめられた!」
「私何も言って無いんだけど」
さすが彩葉、俺から本音を引き出すなんて朝飯前ってことか……!
大げさに頭を抱えてみせる俺を見ながら、彩葉は大きくため息をついた。
「圭のその熱意はともかく、犬DOGEも家族だものね」
そういって呆れたように笑う彩葉だが、その顔には確かに温かみに満ちていた。
そこからきゅっと顔を引き締めた彩葉は、俺に言う。
「わかりました、資金とかその辺はこっちでやっておく。ただし、犬DOGEとかぐや、ヤチヨ、FUSHIの許可取ってからね」
「はーい」
よしよしよしよし、最大の難関は突破した。
待ってろ犬DOGE……!
ツクヨミにログインして、かぐや with 犬DOGE、ヤチヨ with FUSHIに集合をかける。
顔を合わせるなり、かぐやが疑問をぶつけてきた。
「どったの急に、犬DOGEも一緒になんて」
「ボクも必要なのか、これ?」
怪訝そうに問いかけてくるFUSHIに、俺は言った。
「実はかくかくしかじかで」
「うんうん、なるほどねー」
「ヤチヨわかってないでしょ」
「おいヤチヨ、ちゃんとしてくれ」
「ワン!」
俺のボケに乗っかった結果総ツッコミを食らうヤチヨを横目に、俺は説明する。
犬DOGEの義体作りたいんですけど、いかがでしょうか……
「いいんじゃない?」
最初に反応したのはかぐやだった。
そんなん当たり前じゃん、みたいな顔をして。
「ヤッチョもさんせー☆」
「良いんじゃねーか、別に。というかボクの許可とか要らないだろ」
続いてヤチヨとFUSHIも賛成してくれた。
「いや、FUSHIは複雑かなって……」
「ボクはウミウシの体があるからな。それに犬っころだって少しでも長くお前らと一緒にいたいだろ」
FUSHIはそっぽを向きながらそんなことを言う。
可愛い奴め。
最後に忘れてはいけない大本命、足元の犬DOGEと目線を合わせて、問いかけてみる。
「犬DOGEはどう?」
「ワンワン!」
「うん、あんまわかんないけど」
「クゥーン……」
問いかけといてなんだけど、犬語わからん。
実は月人ボディなら使いこなせば思念とか読み取れるらしいんだけど……
かぐやは苦手らしいし俺はやり方知らないし、そもそもツクヨミでは使えない。
「犬っころもいいって言ってるぞ」
そこに、FUSHIが助け船を出してくれた。
こいつー、普段憎まれ口ばっか叩いてるくせに……!
「FUSHI〜、お前素直じゃ無いけど可愛いやつだな〜! こんど海綿とか持ってきてやろう」
「いらん! ええい、にぎにぎするな鬱陶しい!」
「照れんなって〜」
「ワン!」
左手で犬DOGEを抱きかかえて右手でFUSHIを優しくにぎにぎ。
犬DOGEは俺に抱きついてくれて、かわいい。
FUSHIは身をよじって抜け出そうとしてるけど、これはただの照れ隠しに違いない。
ツクヨミなので残念ながら触覚はないが、視覚情報だけでも至福……!
「うわー、圭の顔がどろどろだー」
「うふふ、そんな圭もいとかわゆし……!」
「ヤチヨってだいぶ圭のこと好きだよね」
「そりゃもう大好きでしてよ〜?」
「ま、私もだけどね!」
かぐやとヤチヨの会話は聞いてて恥ずかしくなるから忘れることにした。
そこからは楽しかったけど大変だった。
まあ専門的な話は割愛するけど、なめらかに動くための関節作りとか、人間とは違う皮膚の開発とか、犬の声帯作成とか。
まあその過程でかなり知見は集まったので、ヤチヨの義体作りという最終目標にもちゃんと近づいたし有意義ではあったけど。
ちなみに、犬DOGEは元が電子の存在なので味覚とか嗅覚はとりあえず無し。
ご飯とか食べる機能は現状無し、犬DOGE自身に食事の習慣がないから。
触覚は一応既存の技術の転用で「何かが当たっている」「それが温かいか冷たいか」くらいはわかるようにできた。
それでやっと、今日が犬DOGE試作品第一号の起動日である。
電源を入れるのが俺で、隣には彩葉とかぐや。
タブレットの中にヤチヨとFUSHI、それから犬DOGEが待機している。
芦花はモデルのお仕事で残念ながらここにはいない。
「いやー、ここまで長かったですな」
「圭が毛並みにこだわったせいで三ヶ月延びたんだけど?」
「あれは譲れなかったからな」
ゆるーく雑談しながら、最終チェックも済ませた。
さてと。
「犬DOGE、準備はいいか?」
「ワン!」
タブレットに声をかけると、ヤチヨの腕の中で犬DOGEが元気よく鳴いた。
うんうん、今日もかわいさ絶好調だねえ……!
「よし、じゃあ起動シークエンス開始します」
「うひょー! かぐやわくわくしてきた……!」
俺の宣言に無言で頷く彩葉と、対照的に期待で身を震わせるかぐや。
そんな二人を横目で見ながら、パソコンポチポチして犬DOGEの肉体を目覚めさせる。
犬DOGEがツクヨミ内で安全な場所にいるのを改めて確認して、最後に起動ボタンを押す……!
若干のタイムラグがあって、それから犬DOGEの肉体に力が入るのがわかった。
「……ワン?」
犬DOGEが小さく鳴きながら、首を動かす。
ちゃんとなめらかに動いてるな、よしよし……
「ワン!!!」
「わぷっ」
「あっ」
「あああ、そんな急に動かんで……!」
辺りを見回してかぐやを見つけた犬DOGEが、一直線にかぐやの胸元めがけて飛び込んだ。
「動作確認しないと危ないのに!」と慌てる彩葉を余所に、かぐやは嬉しそうに犬DOGEを抱きしめている。
犬DOGEもかぐやのほっぺ舐めてて、良い光景ですねこれは……
え、俺は心配してないのかって?
まあ自信はあったし、最悪手元のコンソールで止められるようになってるし。
二重三重の防護策を用意してこそ、一流の研究員ですよ。
…………かぐや、いいなあ。
うらやましい気持ちを押し隠すように動作チェックメモを取っていると、かぐやに呼ばれた。
「圭、圭も抱っこしてあげて! もふもふだよ!」
「ワン! ワン!」
手招きするかぐやの腕の中で、犬DOGEもこちらに前足を伸ばしている。
かぐや……犬DOGE……!
「ほら、実験メモは私が書いとくから、早く行きなよ」
最後に彩葉に背中を押されて、俺はかぐやと犬DOGEの元に飛び込んだ。
「犬DOGEー! やっとこうしてモフれるなー!」
俺の腕の中には、確かな温かみと重さのある命があった。
指先からふわふわの毛並みの素晴らしい感覚が伝わってくる。
「ワンワン!」
「きゃー! かぐやまでモフられてるー!」
わちゃわちゃ。
俺の視界が犬DOGEの茶色とかぐやの金色で埋まる。
ああ、頑張ってきてよかった……!
俺たちは、実験の成功を祝って、そしてお互いのぬくもりを確かめ合うように犬DOGEをモフった。
ちなみにメモを取り終わった彩葉もおずおずとモフって、目を輝かせていた。
指摘したら照れ隠しに怒られた。
ついでに彩葉をモフったらさらに怒られた。
家でやれ、だそうです。
なるほど、家なら良いんですね?
それからも、犬DOGEは基本ツクヨミにいる。
やっぱ元が電子の存在だからか、ツクヨミの方が落ち着くらしい。
あと動かす電気代もバカにならないからね。
その辺はまだまだ改良中。
でもちょくちょく肉体に入ってくれて、俺と一緒に近所をお散歩したり、かぐやと一緒にボールで遊んだりしてくれる。
まーじで、かわいい。
そのかわいさと俺こだわりのモフモフを生かして、研究に根を詰める彩葉の癒やしとしても活躍してくれている。
それから研究所のマスコット的存在にもなっていて、他の研究員も息抜きに戯れていたり。
犬DOGEの肉体作ってから所内の雰囲気もちょっとやんわりして、思わぬ副次効果だった。
そういえば散歩とか公園で遊んでたりしたときに見られてたのか、「なんかめちゃかわで超賢い犬がいて、そいつは酒寄研の秘密兵器らしい」というなんか7割くらい合ってる噂が近所で流れたりしたんだけど、それはまた別の話。
さすがにこの作品で犬DOGE生誕記念が上がるとは誰も思ってなかったであろう……
犬DOGE、ぬいぐるみキーホルダー即予約するくらいには好きなので、犬DOGEメインの話一回くらいやりたかったんですよね。
リクエスト頂いたものとか後日譚色々とちまちま書き進めてるんで、月が変わるまでには何かしら上げたいなと思ってはいます。
あと是非ね、過去話も含めてここすきやって欲しいです。
感想よりかなりハードル低いと思うし、私も「読者さんこういうの好きなんだ」ってなるの楽しい上にモチベになるので……
PCならダブルクリック、スマホなら横にスワイプでできるはずなんで、ほんと、軽率にやってってくださいな。
よろしくお願いいたします。